CPA医療における心肺蘇生法と救急対応の最新知見

CPA医療における救急対応と蘇生技術

CPA医療の基本要素
🚨

迅速な初期対応

心肺停止発生から3分以内の胸骨圧迫開始が生存率を大きく左右

除細動の重要性

心室細動に対する早期電気ショックが社会復帰の鍵

🏥

院内システム

RRSによる予防的介入で院内CPA発生率を削減

CPA医療の基本概念と定義

心肺機能停止(CPA:Cardiopulmonary Arrest)は、心臓の機能が完全に停止した状態を指し、医療現場では心停止とも呼ばれています。この状態は、血液循環が停止することで全身の臓器への酸素供給が断たれ、迅速な対応がなければ不可逆的な脳損傷や死に至る緊急事態です。

CPAの発生機序は主に以下の4つのパターンに分類されます。

  • 心室細動(VF) – 心室が無秩序に震える状態
  • 心室頻拍(VT) – 心室が異常に速く収縮する状態
  • 心静止(Asystole) – 心電図上で平坦な波形を示す状態
  • 無脈性電気活動(PEA) – 心電図上は波形があるが脈拍が触知できない状態

医療従事者にとって重要なのは、これらの病態を迅速に判別し、適切な蘇生処置を開始することです。特に心室細動や心室頻拍の場合、除細動器による電気ショックが効果的であり、早期の介入が患者の予後を大きく左右します。

日本の救急医療体制では、救急救命士が医師の指示のもとで静脈確保、除細動、気道確保の「3点セット」と呼ばれる特定行為を実施できるようになっており、これによりCPA患者の救命率向上が期待されています。

CPA医療における救急救命士の役割と特定行為

1991年に救急救命士法が公布され、翌年から本格的な活動が開始された救急救命士制度は、日本のCPA医療において重要な役割を担っています。救急救命士は医師の指示のもとで、従来は医師のみが行えた医療行為を病院前救護の現場で実施することが可能です。

救急救命士が実施できる特定行為は以下の通りです。

基本的特定行為

  • 静脈路確保 – 末梢静脈への点滴ルート確保
  • 除細動 – 自動体外式除細動器(AED)による電気ショック
  • 気道確保 – ラリンゲルマスク、食道閉鎖式チューブ、コンビチューブの使用

拡大特定行為(追加講習修了者のみ)

  • 薬剤投与 – エピネフリン(アドレナリン)の静脈内投与
  • 気管挿管 – 気管内チューブによる確実な気道確保
  • 心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保と輸液

これらの特定行為により、病院到着前の「空白の時間」における医療の質が大幅に向上しました。特に除細動については、心室細動発生から1分経過するごとに救命率が7-10%低下するため、救急救命士による早期除細動の意義は極めて大きいものがあります。

しかし、救急救命士の配置状況は地域によって格差があり、東京都では各消防署に1名以上の配置が完了している一方、他の地域では未だ不十分な状況が続いています。この地域格差の解消が、全国的なCPA医療の質向上における重要な課題となっています。

CPA医療におけるROSC後の予後予測と搬送判断

自発循環回復(ROSC:Return of Spontaneous Circulation)を達成したCPA患者の予後予測は、医療従事者にとって極めて重要な判断材料となります。特に地域の二次救急病院では、ROSC後の患者を高次医療機関に搬送するかどうかの判断が求められることが多く、適切な基準の設定が必要です。

ROSC後の予後予測には以下の3つの主要な基準が用いられています。

神経学的予後予測指標

  • Glasgow Coma Scale(GCS) – 意識レベルの評価
  • 瞳孔反応 – 対光反射の有無と瞳孔径の変化
  • 角膜反射 – 角膜への刺激に対する反射の確認

循環動態指標

  • 血圧の安定性昇圧剤の必要性と血圧維持状況
  • 心拍数とリズム不整脈の有無と重症度
  • 末梢循環 – 皮膚温、色調、毛細血管再充満時間

代謝・呼吸指標

  • 動脈血ガス分析 – pH、酸素化、二酸化炭素分圧
  • 乳酸値 – 組織灌流の指標
  • 体温管理 – 目標体温管理療法の適応

これらの指標を総合的に評価することで、患者の予後をある程度予測することが可能です。しかし、個別性が高い問題であるため、画一的な基準の適用には限界があり、各施設での症例検討と経験の蓄積が重要となります。

非専門医が救急外来を担当する病院では、明確な搬送基準を設けることで、適切な医療資源の配分と患者予後の改善が期待できます。また、家庭医の視点からは、地域でのCPA予防に向けた取り組みも重要な課題として認識されています。

CPA医療における院内急変対応システム(RRS)の導入

院内急変対応システム(RRS:Rapid Response System)は、病院内でのCPA発生を予防し、発生した場合の対応を迅速化するための包括的なシステムです。従来の緊急通報システム(Code Blue、Dr.Hurry、Dr.Whiteなど)に加えて、CPA発生前の段階での介入を可能にする予防的アプローチが特徴です。

RRSの構成要素

RRSは以下の4つの要素から構成されています。

  • Afferent Limb(求心性要素) – 患者の状態悪化を検知するシステム
  • Efferent Limb(遠心性要素) – 急変対応チームの編成と対応
  • Process Improvement(プロセス改善) – システムの継続的改善
  • Administrative Structure(管理構造) – 組織的な支援体制

急変対応チームの種類

  • Medical Emergency Team(MET) – 医師を中心とした診療チーム
  • Rapid Response Team(RRT)看護師等を中心とした対応チーム

RRS起動基準の例

生理学的基準。

  • 収縮期血圧 < 90mmHg または > 200mmHg
  • 心拍数 < 40回/分 または > 130回/分
  • 呼吸数 < 8回/分 または > 28回/分
  • 酸素飽和度 < 90%(酸素投与下)
  • 意識レベルの急激な低下

RRSの導入により、院内CPA発生率の削減と患者予後の改善が報告されており、特に一般病棟での重症化予防効果が注目されています。しかし、日本での導入はまだ限定的であり、客観的な起動基準の設定と医療スタッフの教育が普及の鍵となっています。

CPA医療における多数傷病者対応と特殊状況での判断

自然災害や事故による多数傷病者発生時のCPA対応は、通常の救急医療とは異なる特殊な判断が求められます。特に雷撃症による多数傷病者では、従来のトリアージ原則とは逆の「Reverse Triage」が推奨されています。

通常のトリアージ vs Reverse Triage

通常のトリアージでは、CPA患者は「黒タグ(死亡・救命困難)」に分類され、治療の優先度は最も低くなります。しかし、雷撃症の場合は以下の理由でCPA患者を優先的に治療します。

  • 可逆性の高さ – 雷撃による心停止は一時的な現象の場合が多い
  • 神経学的予後の良好さ – 適切な蘇生により完全回復が期待できる
  • 時間的制約 – 3分以内の胸骨圧迫開始で劇的な改善が見込める

実際の対応状況

メディカルラリーでの調査結果によると、8チーム中3チームのみが3分以内に胸骨圧迫を開始し、心拍再開を達成しました。残りのチームは従来のSTART式トリアージを実施し、CPA患者を黒タグとして放置する結果となりました。

この結果は、Reverse Triageの概念が医療従事者に十分浸透していないことを示しており、継続的な教育と訓練の必要性を浮き彫りにしています。

多数傷病者対応における課題

  • 知識の普及 – Reverse Triageの概念認知度向上
  • 判断基準の明確化 – 雷撃症以外の状況での適用基準
  • チーム連携 – 限られた医療資源での効率的な役割分担
  • 継続的訓練 – 定期的なシミュレーション訓練の実施

これらの課題解決により、災害時のCPA医療の質向上が期待されます。

CPA医療における看護師の行動分析と業務最適化

CPA患者への対応において、看護師の役割は極めて重要であり、その行動パターンの分析は医療の質向上に直結します。ビデオ映像を活用した行動分析により、看護師の業務内容と時間配分の実態が明らかになっています。

看護師の主要業務分類

CPA対応時の看護師業務は以下のカテゴリーに分類されます。

A:診療補助・患者対応業務

  • バイタルサイン測定と継続的モニタリング
  • 薬剤準備から投与までの一連の管理
  • ME機器操作と電動式心肺人工蘇生器の管理
  • 各種検査(レントゲン、CT、MRI、12誘導心電図)の調整

B:看護記録業務

  • 経時記録の作成とメモ取り
  • 電子カルテへの入力と情報管理

C:家族に対する心のケアおよび準備

  • 家族対応とインフォームドコンセント調整
  • 面会準備と環境整備
  • 死亡確認時の家族ケア

経験年数による業務パターンの違い

研究結果によると、ベテラン看護師とビギナー看護師では業務の時間配分に有意な差が見られました。

  • 0-10分間 – 両群とも診療補助業務が中心
  • 10-20分間 – ビギナー群で看護記録業務の時間が有意に長い(p=0.03)
  • 20-30分間 – ベテラン群で家族対応業務の時間が有意に長い(p=0.01)

この結果は、経験の浅い看護師が記録業務に多くの時間を要する一方、経験豊富な看護師は家族ケアにより多くの時間を割いていることを示しています。

業務最適化への提言

  • 記録業務の効率化 – 電子カルテシステムの改善とテンプレート活用
  • 役割分担の明確化 – 経験年数に応じた適切な業務配分
  • 継続教育の充実 – ビギナー看護師への実践的指導体制強化
  • 家族ケアの標準化 – 家族対応プロトコルの整備

これらの改善により、CPA医療における看護の質向上と効率化が期待されます。

慶應義塾大学病院のCPA診療ガイドライン

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000013/

日本救急医学会のCPA症例検討論文

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/12/6/12_553/_article/-char/ja

雷撃症による多数傷病者トリアージの最新研究

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/15/1/15_24/_article/-char/ja/