バルプロ酸ナトリウム徐放錠a sr違いと調剤注意点

バルプロ酸ナトリウム徐放錠a sr違い

バルプロ酸ナトリウム徐放錠の基本知識
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徐放錠A vs SR錠

メーカー違いの同効薬で基本的な効果は同等だが、製剤設計に微細な違いがある

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一般名処方の注意

区別が困難なため疑義照会が必要になるケースが多発している

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名称変更履歴

トーワのB錠からA錠への変更など製薬会社による名称変更がある

バルプロ酸ナトリウム徐放錠Aと徐放錠SRの基本的な違い

バルプロ酸ナトリウム徐放錠AとSR錠は、どちらも同じバルプロ酸ナトリウムを有効成分とする徐放製剤ですが、製造メーカーと製剤設計に違いがあります。

主な製品と製造メーカー:

  • バルプロ酸ナトリウム徐放錠A「トーワ」:東和薬品
  • バルプロ酸ナトリウムSR錠「アメル」:共和薬品工業

両製剤とも「徐放(じょほう)」機能を持ち、薬物の放出を制御することで1日の投与回数を減らし、血中濃度の変動を抑える設計となっています。SR錠の「SR」は「Sustained Release(持続放出)」を意味し、A錠との基本的な効果に大きな違いはありません。

興味深いことに、東和薬品では以前「バルプロ酸Na徐放B錠」という名称で販売していましたが、現在は「徐放錠A」に名称変更されています。この変更により、調剤現場では混乱が生じることがあるため注意が必要です。

薬価比較:

  • バルプロ酸ナトリウム徐放錠A100mg「トーワ」:10.4円
  • バルプロ酸ナトリウムSR錠100mg「アメル」:10.4円

両製剤とも同一薬価で設定されており、経済性の面では差がありません。

バルプロ酸ナトリウム徐放錠の一般名処方時における調剤注意点

一般名処方において、バルプロ酸ナトリウム徐放錠は調剤時に特に注意が必要な薬剤の一つです。日本薬局方では徐放錠AとBの区別が明確に定められていますが、厚生労働省の一般名処方マスタでは単純に「バルプロ酸Na徐放錠」と記載されているため、調剤現場での判断が困難になることがあります。

一般名処方での区別方法:

一般名処方 対応製剤 用法 先発品
バルプロ酸Na徐放錠100mg 徐放錠A 1日1~2回 デパケンR錠100mg
バルプロ酸Na徐放錠200mg 徐放錠A または 徐放錠B 1日1~2回 または 1日1回 デパケンR錠200mg または セレニカR錠200mg

特に200mg規格では、デパケンR錠200mg(1日1~2回投与)とセレニカR錠200mg(1日1回投与)のどちらを指しているか判断が困難です。このような場合は、患者の服薬歴や用法から推測するか、必要に応じて処方医に疑義照会を行うことが重要です。

疑義照会が必要なケース:

  • 用法が明確でない場合
  • 患者の過去の処方歴と異なる製剤が推定される場合
  • 一般名処方に番号表記(1)(2)がない場合

調剤現場では、バルプロ酸ナトリウムの処方を受け付けた際は、他の薬剤師とも情報を共有し、安全性を最優先に調剤を行うことが推奨されています。

バルプロ酸ナトリウム徐放錠の製剤特性と放出メカニズム

バルプロ酸ナトリウム徐放錠の製剤設計は、薬物の放出速度を精密にコントロールすることで、治療効果の最適化と副作用の軽減を図っています。

デパケンR錠の徐放メカニズム:

デパケンR錠はマトリックスタイプの徐放錠として設計されており、以下の二重構造を持っています。

  • 錠剤中心部のマトリックス構造
  • マトリックス外側の徐放性被膜

外側の糖衣は消化管内で短時間で消失しますが、バルプロ酸ナトリウムが水に不溶のマトリックスから徐々に放出される仕組みになっています。

製剤の物理的特性:

  • 形状:糖衣錠
  • 分割:割線のある製剤は分割可能
  • 粉砕:徐放機能が失われるため粉砕不可

徐放製剤を粉砕や分割すると、急激な血中濃度上昇により重篤な副作用が発現する可能性があるため、製剤の取り扱いには十分な注意が必要です。

生物学的同等性について:

バルプロ酸ナトリウム徐放錠A100mg「トーワ」とSR錠100mg「アメル」は、それぞれ200mg製剤を標準として生物学的同等性が確認されています。これにより、同じ規格であれば治療効果に大きな差がないことが保証されています。

バルプロ酸ナトリウム徐放錠の適応症と用法用量の相違点

バルプロ酸ナトリウム徐放錠AとSR錠は、基本的に同じ適応症を持ちますが、製剤による用法用量の設定に微細な違いがある場合があります。

共通の適応症:

  • 各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作・混合発作)
  • てんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)
  • 躁病および躁うつ病の躁状態
  • 頭痛発作の発症抑制

用法用量(各種てんかん・躁状態治療):

通常1日量として400~1,200mgを1日1~2回に分けて経口投与します。年齢・症状に応じて適宜増減しますが、この範囲内で調整することが一般的です。

用法用量(片頭痛予防):

通常1日量として400~800mgを1日1~2回に分けて経口投与し、1日量として1,000mgを超えないよう注意が必要です。

血中濃度モニタリング:

バルプロ酸の有効血中濃度は50~100μg/mLとされており、定期的な血中濃度測定による用量調整が推奨されています。特に肝機能への影響を考慮し、定期的な検査が必要です。

双極性障害での特殊な使用法:

双極性障害においては、躁状態のみに適応がありますが、臨床では維持療法としても使用されることがあります。ラピッドサイクラー(急速に躁うつが交代する病態)にも有効性が報告されており、炭酸リチウムと並んで気分安定化薬として重要な位置を占めています。

バルプロ酸ナトリウム徐放錠調剤時の安全管理と患者指導のポイント

バルプロ酸ナトリウム徐放錠の調剤と患者指導には、徐放製剤特有の注意点があります。

調剤時の安全確認事項:

  • 製剤名の確認(A錠、SR錠、B錠等の区別)
  • 用法用量の妥当性確認
  • 過去の処方歴との整合性確認
  • 一包化の可否判断

一包化について:

多くのバルプロ酸ナトリウム徐放錠は一包化可能ですが、製剤によって対応が異なります。

  • バルプロ酸ナトリウム徐放錠A「トーワ」:一包化可能
  • バルプロ酸ナトリウムSR錠「アメル」:一包化可能
  • セレニカR錠:一包化不可

患者への重要な指導内容:

  • 徐放錠は噛み砕かず、そのまま服用すること
  • 割線のない製剤は分割しないこと
  • 服用時間を一定に保つこと
  • 副作用症状(特に肝機能関連)の観察

副作用モニタリングのポイント:

バルプロ酸ナトリウムで特に注意すべき副作用として高アンモニア血症があります。症状として以下が挙げられます。

  • 吐き気・嘔吐
  • 意識障害・傾眠傾向
  • 異常行動・けいれん

便秘により腸内細菌が産生するアンモニアが増加し、体内のアンモニア量が増えることがあるため、便秘の管理も重要な指導事項です。

定期検査の重要性:

肝機能障害、血小板減少、白血球減少等の重篤な副作用の早期発見のため、定期的な血液検査の受診を患者に指導することが必要です。また、血中濃度測定により治療効果と安全性の両面から薬物治療を最適化できます。