トリヘキシフェニジル先発薬の基本情報
トリヘキシフェニジル先発薬アーテンの特徴と薬価
アーテンは1953年からファイザー社により販売されている、トリヘキシフェニジル塩酸塩の代表的な先発薬です。現在の薬価はアーテン錠2mgが9.1円/錠、アーテン散1%が12.1円/gとなっており、パーキンソン症候群治療薬として長年にわたり医療現場で使用されています。
アーテンの開発は1949年に米国のサイナミド社で行われ、日本への導入から70年以上の歴史を持つ信頼性の高い医薬品です。剤型は錠剤2mg錠と細粒1%の2種類が用意されており、患者の状態や年齢に応じて選択できる利便性があります。
特に注目すべきは、アーテンが持つ独特の化学構造です。抗めまい薬のジフェニドール(セファドール)と類似した構造を持っており、この構造的特徴が抗コリン作用の基礎となっています。この化学的特性により、中枢神経系のムスカリン性アセチルコリン受容体を選択的に阻害し、過剰となったコリン作動性神経の働きを効果的に抑制します。
セドリーナ錠の効果と販売会社の変遷
セドリーナ錠は第一三共株式会社から販売されていましたが、2021年9月からアルフレッサファーマ社に販売が移行した興味深い経緯を持つ先発薬です。現在の薬価はセドリーナ錠2mgが9.1円/錠となっており、アーテンと同価格で設定されています。
セドリーナの剤型は錠剤2mg錠のみとなっており、アーテンのような散剤は用意されていません。これは製薬会社の戦略的な判断によるもので、錠剤に特化することで品質管理と安定供給を重視した結果と考えられます。
販売会社の変遷は、医薬品業界の再編成と効率化を反映しており、アルフレッサファーマ社への移行により、より専門的な販売体制が構築されています。この変更により、医療機関や薬局への安定供給体制が強化され、患者への継続的な治療提供が確保されています。
セドリーナの効果はアーテンと同等であり、特発性パーキンソニズム、その他のパーキンソニズム、向精神薬投与によるパーキンソニズム・ジスキネジア・アカシジアに対して有効性を示しています。
トリヘキシフェニジル先発薬とジェネリックの価格差
トリヘキシフェニジル塩酸塩のジェネリック医薬品は多数存在し、先発薬との価格差が明確に現れています。先発薬のアーテン錠2mgとセドリーナ錠2mgが9.1円/錠である一方、ジェネリック医薬品は9.0円/錠となっており、わずか0.1円の差となっています。
主要なジェネリック医薬品には以下があります。
- トリヘキシフェニジル塩酸塩錠2mg「アメル」(共和薬品工業):9円/錠
- トリヘキシフェニジル塩酸塩錠2mg「タカタ」(高田製薬):9円/錠
- トリヘキシフェニジル塩酸塩錠2mg「ニプロ」(ニプロ):9円/錠
- パーキネス錠2(東和薬品):9円/錠
興味深いことに、散剤では価格差がより顕著に現れています。アーテン散1%が12.1円/gである一方、トリヘキシフェニジル塩酸塩散1%「CH」は14.7円/gとなっており、ジェネリックの方が高価格となっています。これは散剤の製造コストや市場競争の影響によるものと考えられます。
この価格設定は、医療費削減の観点から重要な意味を持ちます。1錠あたりの価格差は小さいものの、長期治療が必要なパーキンソン症候群患者にとっては累積的な負担軽減効果があります。
パーキンソン症候群治療における先発薬の位置づけ
トリヘキシフェニジル先発薬は、パーキンソン症候群治療において重要な役割を担っています。特発性パーキンソニズム、脳炎後パーキンソニズム、動脈硬化性パーキンソニズムに対する効果が認められており、第一選択薬として位置づけられています。
用法・用量は症状により異なり、特発性パーキンソニズムでは第1日目1mg、第2日目2mg、以後1日につき2mgずつ増量し、1日量6~10mgを維持量として3~4回に分けて内服します。向精神薬投与によるパーキンソニズム・ジスキネジア・アカシジアでは、1日量2~10mgを3~4回に分けて内服します。
薬物動態の特徴として、トリヘキシフェニジル4mgを1回内服した際の血中濃度は約1.3時間後に最高濃度に達し、二相性に半減します。第一相は5.3時間で組織内分布に対応し、第二相は約32.7時間で血中からの排泄に対応しており、長時間作用型の特性を示しています。
保険承認は得られていないものの、ジストニアへの有効性も認められており、緊張型頭痛の原因となる頸部ジストニアの治療にも使用されています。これは先発薬の臨床経験の蓄積により明らかになった適応外使用の例であり、医療現場での実績が治療選択肢を広げています。
トリヘキシフェニジル先発薬の副作用と注意点
トリヘキシフェニジル先発薬の副作用プロファイルは、医薬品再評価資料において詳細に報告されています。対象症例数392例中80例(20.4%)に副作用発現が認められ、主な副作用は以下の通りです。
重大な副作用として、悪性症候群、精神錯乱、幻覚、せん妄、閉塞隅角緑内障が報告されており、特に注意が必要です。これらの副作用は抗コリン作用に起因するものが多く、投与前の十分な検討と投与中の継続的な観察が重要です。
禁忌となる患者として、閉塞隅角緑内障患者、重症筋無力症患者、本剤成分に対する過敏症既往歴のある患者が挙げられています。特に閉塞隅角緑内障では抗コリン作用により眼圧が上昇し症状悪化の危険性があるため、投与中は定期的な隅角検査と眼圧検査が推奨されています。
高齢者においては、せん妄、不安等の精神症状および抗コリン作用による口渇、排尿困難、便秘等が現れやすいため、より慎重な投与が必要です。また、眠気や注意力・集中力・反射機能の低下が起こることがあるため、自動車運転等の危険を伴う機械操作には従事させないよう注意が必要です。
薬物代謝の観点では、内服したトリヘキシフェニジルは水酸化代謝物として代謝され、約56%が尿中に排泄されるため、腎機能障害患者や肝機能障害患者では副作用が強く現れる可能性があります。
厚生労働省医薬品安全性情報
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン