基礎的医薬品一覧と制度概要
基礎的医薬品制度の基本要件と対象品目
基礎的医薬品制度は平成28年度薬価制度改革から導入された重要な概念です。この制度は、長期間にわたり薬価収載されており、臨床上の必要性が高い医薬品について安定供給を確保するために薬価を維持することを目的としています。
基礎的医薬品として認定されるための具体的な要件は以下の通りです。
- 薬価収載25年以上かつ成分・銘柄の乖離率が平均以下
- 一般的なガイドラインに記載され、広く医療機関で使用されている
- 過去の不採算品再算定品目、病原生物に対する医薬品、医療用麻薬、生薬、軟膏基材、歯科用局所麻酔剤
これらすべての要件に該当することが必要とされています。制度導入当初の平成28年度は134成分が対象でしたが、その後徐々に増加し、令和3年度薬価基準改定においては306成分が対象となっています。
令和7年度(2025年度)の最新の基礎的医薬品対象品一覧には、フェノバルビタール、各種生薬(ボレイ、マオウ、モクツウ、モッコウ、ヨクイニン、リュウコツ、レンギョウなど)、病原生物に対する医薬品(ダラシンカプセル、ホスミシンドライシロップ、ファロム錠など)が含まれています。
基礎的医薬品一覧の最新更新情報と主要対象品目
令和6年薬価改定では、基礎的医薬品対象品目に数百種類の医薬品が新たに追加されました。特に注目すべき主要な追加品目には以下があります。
- サワシリン(アモキシシリン)カプセル – 感染症治療の基本薬
- ファロム錠/DS – 経口抗菌薬として重要
- カロナール細粒 – 解熱鎮痛薬の代表格
- クラリスロマイシン錠/DS – マクロライド系抗菌薬
- アンテベート軟膏/クリーム – ステロイド外用薬
- フロモックス錠/細粒 – セフェム系抗菌薬
- オキシコドン徐放錠/カプセル – 医療用麻薬
- フェンタニルテープ – 癌性疼痛管理薬
これらの医薬品が基礎的医薬品対象品目になることで、医療現場で長年使用されてきた重要な薬剤の安定供給が確保されることになります。
厚生労働省では、基礎的医薬品対象品一覧を定期的に更新しており、最新の情報は厚生労働省のサイトで確認することができます。令和7年度(2025年)の対象品一覧も既に公開されており、薬剤師や医療従事者は定期的にチェックすることが重要です。
基礎的医薬品の変更調剤ルールと実務上の注意点
基礎的医薬品の変更調剤については、複雑なルールが設定されており、薬剤師は十分に理解しておく必要があります。
変更調剤の基本ルール:
- 基礎的医薬品のうち、指定される以前に後発医薬品であった品目については変更調剤が可能
- 指定される以前に先発医薬品に分類されていたものは疑義照会なしに変更することはできない
- 基礎的医薬品A(元先発品)から基礎的医薬品B(元後発品)への変更は可能
- 基礎的医薬品B(元後発品)から基礎的医薬品A(元先発品)への変更調剤はできない
一般名で処方されていた場合は、AもしくはBどちらで調剤しても構いません。
実務上の重要なポイント:
厚生労働省は「後発医薬品と同様に変更調剤が認められる基礎的医薬品等の一覧」(基礎的リスト)を公開しており、この基礎的リストには基礎的医薬品対象品目だけでなく、基礎的外れ医薬品も掲載されています。基礎的リストに掲載されている基礎的外れ医薬品も従来と同様変更調剤が可能であることが明示されています。
変更調剤が可能な主要な基礎的医薬品には、アモキシシリンカプセル、カロナール細粒、クラリスロマイシン錠/DS、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏/クリーム、セフカペンピボキシル錠/細粒、オキシコドン徐放錠/カプセル、エリスロマイシン錠、フェンタニルテープなどがあります。
基礎的医薬品と後発医薬品調剤体制加算の計算方法
基礎的医薬品は後発医薬品調剤体制加算に関わる後発品置換率の計算から除外されるという重要な特徴があります。これは薬局経営において非常に重要な要素です。
計算上の取り扱い:
- 基礎的医薬品は先発品でも後発品でもない医薬品となる
- 後発医薬品調剤体制加算の分母・分子から除外される
- 元先発品から元後発品の基礎的医薬品に変更しても後発品置換率は上がらない
この仕組みにより、基礎的医薬品の使用が後発医薬品調剤体制加算の取得に悪影響を与えることはありません。薬局としては、基礎的医薬品を適切に使用しながら、他の医薬品での後発品使用促進に注力することができます。
薬価基準収載医薬品コードとYJコードの違い:
薬価基準収載医薬品コードは厚生労働省が管理する12桁の英数字コードで、薬価ごとに設定されています。一方、YJコードは基本的には同一ですが、統一名収載品の場合のみ異なり、個々の銘柄ごとにコードが設定されます。
統一名収載の場合、薬価基準収載医薬品コードでは左から10〜11桁目が「01」で固定されますが、YJコードでは銘柄ごとに異なる番号が割り当てられます。
基礎的医薬品制度が薬局経営と医療提供体制に与える戦略的影響
基礎的医薬品制度は単なる薬価維持制度を超えて、薬局経営と医療提供体制全体に戦略的な影響を与えています。
在庫管理への影響:
基礎的医薬品に指定されることで、これまで後発医薬品として扱われていた医薬品の分類が変更されます。薬局では、基礎的医薬品に指定された元後発品について、先発品との関係性を改めて整理し、在庫戦略を見直す必要があります。
特に、基礎的医薬品に指定された元後発品と、まだ後発品として残っている同成分の他銘柄との競合関係を分析することが重要です。価格競争の観点から、基礎的医薬品は薬価が維持される一方、通常の後発品は引き続き薬価削減の対象となるため、長期的な収益性の観点から在庫構成を最適化する必要があります。
医療機関との連携強化:
基礎的医薬品制度により、臨床上重要で安定供給が必要な医薬品が明確になることで、医療機関との連携においても新たな価値提案が可能になります。薬局は基礎的医薬品の安定供給体制を整備することで、医療機関からの信頼獲得につなげることができます。
また、基礎的医薬品の適切な在庫管理と供給体制を構築することで、地域医療における薬局の役割をより明確に示すことができ、かかりつけ薬局としての機能強化にもつながります。
将来的な制度変更への対応:
基礎的医薬品制度は比較的新しい制度であり、今後も対象品目の見直しや制度の詳細な運用ルールの変更が予想されます。薬局経営者は定期的な情報収集と制度理解の更新を行い、変化に迅速に対応できる体制を整備することが競争優位性の確保につながります。
薬価改定の度に基礎的医薬品対象品一覧が更新されるため、システム管理や業務フローの見直しも継続的に行う必要があります。これらの対応を通じて、薬局の運営効率向上と収益安定化を図ることができます。
基礎的医薬品制度の詳細については、厚生労働省の公式サイトで最新情報を確認することをお勧めします。