パーキンソン病治療薬一覧
パーキンソン病治療薬L-DOPA製剤の種類と効果
L-DOPA製剤は、パーキンソン病治療における最も重要な薬物です。脳内でドパミンに変換されることで、減少したドパミンを直接補充する作用があります。
主なL-DOPA製剤には以下があります。
- マドパー:L-DOPAとカルビドパの合剤で、1日最大6錠まで使用可能
- メネシット:最も汎用されているL-DOPA製剤の一つ
- ネオドパストン:徐放性製剤で持続的な効果を期待
- イーシードパール:腸溶性製剤で胃への負担を軽減
- スタレボ:新しい配合比のL-DOPA製剤
L-DOPA製剤の特徴として、高齢のパーキンソン病患者では第一選択薬として使用されます。特に純粋なパーキンソン病ではない「パーキンソン症候群」に対しては、このL-DOPA製剤のみが保険適応となっています。
治療効果を確認するため、症状に応じて段階的に増量していくのが一般的です。専門医でも効果判定のためにマドパーを1日6錠まで増量することがあります。
しかし、経口のL-DOPA治療では血中濃度の変動により安定した臨床効果を得るのが難しいという課題があります。この問題を解決するため、進行期には胃ろうを作成してL-DOPA製剤を持続投与する「LCIG療法」も選択肢となっています。
パーキンソン病ドパミンアゴニストの特徴と使い分け
ドパミンアゴニストは、L-DOPAのようにドパミン自体を補充するのではなく、ドパミン受容体に直接作用して「ドパミンであるかのように」効果を発揮する薬物です。
主なドパミンアゴニストには以下があります。
- レキップCR:徐放性製剤で1日1回の服用で済む
- ハルロピテープ:貼付薬で安定した血中濃度を維持
- ニュープロパッチ:24時間持続型の貼付薬
ドパミンアゴニストの最大の利点は、若年発症のパーキンソン病患者において、L-DOPA製剤で起こりやすい運動合併症(ジスキネジア)のリスクを軽減できることです。そのため、65歳未満の患者では第一選択薬として推奨されています。
また、L-DOPA製剤が副作用などで使用できない場合や増量が困難な患者にも適応されます。貼付薬タイプのドパミンアゴニストは、嚥下困難がある患者や消化器症状がある患者にとって特に有用です。
ただし、ドパミンアゴニストには特有の副作用として、突発的睡眠や病的賭博などの衝動制御障害が報告されているため、使用時には十分な注意が必要です。
パーキンソン病MAO-B阻害薬とCOMT阻害薬の役割
MAO-B阻害薬とCOMT阻害薬は、どちらもドパミンの分解を阻害することで治療効果を発揮する薬物です。
MAO-B阻害薬には以下があります。
- アジレクト:セレギリン製剤で神経保護作用も期待
- エクフィナ:より新しいMAO-B阻害薬
- エフピー:口腔内崩壊錠で服用しやすい
MAO-B阻害薬は、脳内でドパミンを分解する酵素であるモノアミン酸化酵素B(MAO-B)を阻害します。これにより、内因性および外因性のドパミンの分解が抑制され、ドパミンの効果が持続します。
COMT阻害薬には以下があります。
- オンジェンティス:新しいCOMT阻害薬
- コムタン:エンタカポン製剤
COMT阻害薬は、カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)を阻害することで、L-DOPAの末梢での分解を防ぎます。これにより、より多くのL-DOPAが脳に到達し、治療効果が向上します。
これらの阻害薬は単独で使用されることは少なく、主にL-DOPA製剤やドパミンアゴニストと併用して、運動変動の改善や薬効の延長を目的として使用されます。特に進行期のパーキンソン病患者において、wearing-off現象(薬効の切れ)の改善に有効です。
パーキンソン病治療薬の副作用と注意点
パーキンソン病治療薬には様々な副作用があり、適切な管理が重要です。
L-DOPA製剤の主な副作用。
ジスキネジアは、L-DOPA製剤の長期使用により生じる最も問題となる副作用です。特に若年発症の患者では早期に出現しやすいため、65歳未満の患者ではドパミンアゴニストが第一選択とされています。
ドパミンアゴニストの主な副作用。
突発的睡眠は、運転中などに発生すると重大な事故につながる可能性があるため、患者への十分な説明と観察が必要です。
その他の治療薬の副作用。
高齢者では特に抗コリン薬による認知機能への影響に注意が必要です。また、複数の薬剤を併用する場合は、相互作用や副作用の増強にも配慮する必要があります。
定期的な副作用チェックと患者・家族への教育が、安全で効果的な治療継続のために不可欠です。
パーキンソン病新薬ND0612と最新治療法動向
パーキンソン病治療における最新の動向として、注目すべきは田辺三菱製薬が開発中のND0612です。
ND0612の特徴。
- レボドパとカルビドパを液剤化した製剤
- 注入ポンプを用いた24時間持続皮下投与
- 運動症状の日内変動を有する患者が対象
- 2025年第3四半期にFDAの承認判断予定
従来の経口L-DOPA治療では、レボドパの血中濃度変動により安定した効果を得ることが困難でした。ND0612は持続皮下投与により血中濃度を安定させ、運動症状の日内変動を減少させることが期待されています。
その他の最新治療選択肢。
🔸 深部脳刺激療法(DBS)。
脳に電極を植え込み、電気刺激により症状を改善する外科治療です。薬物治療で十分な効果が得られない進行期患者に適応されます。
🔸 LCIG療法。
胃ろうを介してL-DOPA製剤を腸管に持続投与する治療法です。経口投与が困難な患者や運動変動が著しい患者に有効です。
🔸 新規薬物の開発。
ノウリアスト(イストラデフィリン)は、アデノシンA2A受容体拮抗薬として新しい作用機序を持つ薬物です。従来の治療薬とは異なるアプローチでパーキンソン病症状の改善を図ります。
これらの最新治療法は、従来の治療で十分な効果が得られない患者や、副作用により治療継続が困難な患者にとって新たな希望となっています。
パーキンソン病治療は個々の患者の病状、年齢、ライフスタイルに応じた個別化医療が重要であり、専門医との密な連携の下で最適な治療選択を行うことが求められています。
参考:田辺三菱製薬のND0612開発状況について