抗けいれん薬一覧
抗けいれん薬の主要な種類と商品名
抗けいれん薬は数多くの種類があり、それぞれ異なる特徴と適応を持っています。以下に主要な薬剤を分類別に整理します。
ナトリウムチャネル抑制薬
- フェニトイン(PHT):アレビアチン、ヒダントール
- カルバマゼピン(CBZ):テグレトール、カルバマゼピン後発品
- ラモトリギン(LTG):ラミクタール
- ラコサミド(LCM):ビムパット
カルシウムチャネル抑制薬
- エトスクシミド(ESM):エピレオプチマル、ザロンチン
- ガバペンチン(GBP):ガバペン
GABA系薬剤
- バルプロ酸ナトリウム(VPA):デパケン、デパケンR、セレニカR
- クロナゼパム(CZP):リボトリール、ランドセン
- クロバザム(CLB):マイスタン
- ジアゼパム(DZP):ホリゾン、セルシン、ダイアップ
バルビタール系
- フェノバルビタール(PB):フェノバール、ワコビタール
- プリミドン(PRM):プリミドン
新規抗てんかん薬
- レベチラセタム(LEV):イーケプラ
- ペランパネル(PER):フィコンパ
- ゾニサミド(ZNS):エクセグラン、トレリーフ
これらの薬剤は、それぞれ異なる薬理作用を持ち、患者の病態に応じて選択されます。後発医薬品も多数存在し、薬価の観点からも選択肢が豊富です。
抗けいれん薬の作用機序による分類
抗けいれん薬の作用機序は大きく3つのカテゴリーに分類されます。この分類を理解することは、薬剤選択や併用療法の検討において重要です。
1. 興奮系の働きを抑制する機序
神経細胞の興奮は、Na+やCa2+が細胞膜を通過して細胞内に入ることで起こります。これらのイオンチャネルを阻害することで、過剰な興奮を抑制します。
- ナトリウムチャネル抑制
- フェニトイン:電位依存性ナトリウムチャネルを阻害し、神経膜を安定化
- カルバマゼピン:高頻度発火時のナトリウムチャネルを選択的に阻害
- ラモトリギン:電位依存性ナトリウムチャネルとカルシウムチャネルを阻害
- カルシウムチャネル抑制
- エトスクシミド:T型カルシウムチャネルを特異的に阻害
- ガバペンチン:α2δサブユニットに結合し、カルシウム流入を調節
2. 抑制系の働きを強化する機序
脳内の主要な抑制性神経伝達物質であるGABAの働きを強化することで、てんかん発作を抑制します。
- GABA受容体の活性化
- バルプロ酸:GABA合成酵素の活性化とGABA分解酵素の阻害
- ベンゾジアゼピン系:GABA-A受容体のアロステリック調節
- GABA代謝の調節
- ビガバトリン:GABA分解酵素(GABA-T)の不可逆的阻害
- チアガビン:GABAの再取り込み阻害
3. 新しい作用機序
従来の機序とは異なるユニークな作用で抗てんかん効果を発揮します。
- レベチラセタム:シナプス小胞蛋白SV2Aに結合し、シナプス伝達を調節
- ペランパネル:AMPA受容体の非競合的阻害
- ラコサミド:ナトリウムチャネルの緩徐な不活性化を促進
抗けいれん薬の副作用と注意点
抗けいれん薬の副作用は薬剤によって大きく異なり、適切な薬剤選択と継続的なモニタリングが必要です。
共通する副作用
- 中枢神経系:傾眠、めまい、頭痛、認知機能低下
- 消化器系:悪心、嘔吐、食欲不振
- 皮膚:発疹、Stevens-Johnson症候群(重篤な場合)
薬剤別の特徴的副作用
カルバマゼピン
- 血液系:白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血
- 内分泌系:抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
- 皮膚:重篤な皮膚障害(HLA-B*1502との関連)
バルプロ酸
- 肝機能:肝機能障害、稀に劇症肝炎
- 血液系:血小板減少、出血傾向
- 代謝系:体重増加、脱毛、月経異常
フェニトイン
- 歯肉肥厚、多毛症
- 骨代謝:ビタミンD代謝異常、骨密度低下
- 認知機能:慢性中毒による認知機能低下
ゾニサミド
- 体重減少、食欲低下
- 腎結石、乏汗症
- 精神症状:抑うつ、精神病様症状
新規抗てんかん薬の副作用プロファイル
- ラモトリギン:初期の皮疹に注意が必要だが、それ以外は比較的副作用が少ない
- レベチラセタム:身体的副作用は少ないが、易刺激性や抑うつなどの精神症状
- ガバペンチン:比較的副作用がマイルドで、薬物相互作用が少ない
副作用のモニタリングには、定期的な血液検査、肝機能検査、腎機能検査が必要です。特に治療開始初期は注意深い観察が重要です。
抗けいれん薬の薬剤選択の考え方
抗けいれん薬の選択は、てんかん症候群の分類、発作型、患者の年齢、併存疾患、薬物相互作用などを総合的に考慮して決定します。
発作型による薬剤選択
部分発作(焦点性発作)
- 第一選択:カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム
- 第二選択:フェニトイン、ゾニサミド、ガバペンチン
- 新規選択肢:ラコサミド、ペランパネル
全般発作
- 強直間代発作:バルプロ酸、ラモトリギン、レベチラセタム
- 欠神発作:エトスクシミド、バルプロ酸、ラモトリギン
- ミオクロニー発作:バルプロ酸、レベチラセタム、クロナゼパム
薬剤選択の段階的アプローチ
- 単剤療法の原則
- 第一選択薬から開始し、効果と副作用を評価
- 初期量から徐々に増量し、最適化を図る
- 最大耐用量まで増量しても効果不十分な場合は薬剤変更を検討
- 多剤併用療法
- 単剤療法で効果不十分な場合に検討
- 作用機序の異なる薬剤の組み合わせを選択
- 薬物相互作用に注意が必要
- 特殊な考慮事項
- 妊婦:催奇形性の低い薬剤選択(ラモトリギン、レベチラセタム)
- 高齢者:代謝機能低下を考慮した用量調整
- 小児:発達段階に応じた薬剤選択
薬剤変更の判断基準
- 効果不十分:発作頻度の十分な減少が得られない場合
- 副作用:忍容性の問題で継続困難な場合
- 薬物相互作用:他の薬剤との併用で問題が生じる場合
薬剤変更時は、急激な中止を避け、新薬との重複期間を設けながら徐々に移行することが重要です。
抗けいれん薬治療における服薬管理と血中濃度モニタリング
抗けいれん薬治療の成功には、適切な服薬管理と血中濃度モニタリングが不可欠です。
服薬管理の重要性
てんかん治療において、規則正しい服薬は発作コントロールの基盤となります。不規則な服薬は血中濃度の変動を引き起こし、発作の増加や副作用の出現につながります。
服薬指導のポイント
- 毎日決められた時間に服薬することの重要性
- 食後服用の意義:胃壁保護、吸収の安定化、飲み忘れ防止
- 飲み忘れ時の対処法:気づいた時点で服薬、次回分との間隔調整
血中濃度モニタリング(TDM)
治療域が狭い薬剤では、血中濃度測定による薬物療法の最適化が重要です。
TDMが特に重要な薬剤
- フェニトイン:非線形薬物動態、治療域が狭い
- カルバマゼピン:自己誘導による血中濃度変動
- バルプロ酸:蛋白結合率が高く、相互作用が多い
TDMの実施タイミング
- 定常状態到達後(通常5半減期後)
- 発作コントロール不良時
- 副作用出現時
- 薬剤変更時
- 併用薬追加時
血中濃度の解釈
治療域内であっても発作が続く場合は、遊離型濃度の測定や薬力学的要因の検討が必要です。逆に治療域以下でも発作がコントロールされている場合は、安易な増量は避けるべきです。
抗けいれん薬以外の治療選択肢と統合的アプローチ
薬物療法で十分な効果が得られない場合、他の治療選択肢を検討する必要があります。
食事療法
ケトン食療法は、薬剤抵抗性てんかんに対する有効な治療選択肢です。
ケトン食療法の適応
- 特に有効な疾患:GLUT1欠損症、PDHC欠損症、Dravet症候群
- 有効性が報告されている疾患:West症候群、Lennox-Gastaut症候群
ケトン食療法の実施
- 入院管理下での導入が必要
- ケトン比を段階的に上昇(1:1→2:1→3:1→4:1)
- 血中ケトン体の定期的測定
- 低血糖、食欲不振などの副作用管理
修正アトキンズ食
- 糖質制限のみの比較的導入しやすい食事療法
- ケトン食療法よりも制約が少ない
- 外来での管理が可能
外科治療
適応の検討
- 薬剤抵抗性てんかん
- 焦点性てんかんで切除可能な病変
- 機能的半球切除術の適応
術前評価
- 発作焦点の同定
- 機能的脳マッピング
- 心理社会的評価
その他の治療選択肢
迷走神経刺激療法(VNS)
- 薬剤抵抗性てんかんに対する補助療法
- 発作頻度の減少効果
- 認知機能改善の可能性
応答性神経刺激療法(RNS)
- 発作時の異常脳波を検出し、電気刺激で発作を抑制
- 薬剤抵抗性部分てんかんが適応
深部脳刺激療法(DBS)
- 視床前核への慢性刺激
- 薬剤抵抗性部分てんかんへの応用
これらの治療選択肢は、患者の病態、年齢、社会的背景を総合的に考慮して決定する必要があります。多職種連携による包括的なアプローチが、最適な治療成果をもたらします。
National Institute for Health and Care Excellence(NICE)のガイドラインでは、薬物療法、食事療法、外科治療の適応を体系的に整理しています。
日本てんかん学会の治療ガイドラインも参考になります。
抗けいれん薬治療は、単なる薬剤選択にとどまらず、患者の生活の質向上を目指した包括的なアプローチが重要です。定期的な評価と治療計画の見直しにより、最適な治療成果を目指すことが求められます。