フィブリノゲン製剤の一覧と薬価・適応症

フィブリノゲン製剤の一覧と基本情報

フィブリノゲン製剤の現状
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承認製剤

国内で現在承認されているのは1製剤のみ

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薬価情報

最新の薬価基準による価格設定

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臨床応用

大量出血時の使用が注目されている

現在承認されているフィブリノゲン製剤の詳細

日本国内において、現在製造・販売が承認されているフィブリノゲン製剤は、一般社団法人日本血液製剤機構が製造する「フィブリノゲンHT静注用1g「JB」」のみです。この製剤は血漿分画製剤(血液凝固剤)に分類され、薬効分類番号6343、ATCコードB02BB01が付与されています。

フィブリノゲンHT静注用1g「JB」の基本情報は以下の通りです。

  • 製造販売業者:一般社団法人日本血液製剤機構
  • 薬効分類名:血漿分画製剤(血液凝固剤)
  • YJコード:6343411X1058
  • 規制区分:特定生物由来製品、処方箋医薬品
  • 有効成分:乾燥人フィブリノゲン(KEGG DRUG:D08792)

この製剤は、献血で得られた原料血漿から製造された国産の血漿分画製剤として位置づけられており、国内の血液製剤安全性確保の観点から重要な役割を果たしています。

過去の経緯を振り返ると、フィブリノゲン製剤は1964年に株式会社日本ブラッド・バンクによって「フィブリノーゲン-BBank」として初回承認を取得し、その後承継を経て現在の製剤に至っています。これまでにフィブリノゲン製剤が製造された総数量は約120万本(g)で、納入医療機関数は約7,000施設に上ります。

フィブリノゲン製剤の薬価と保険適用

2025年現在、フィブリノゲンHT静注用1g「JB」の薬価は72,367円/瓶となっています。この薬価は血液凝固因子製剤の中でも比較的高価な部類に属し、適切な使用が求められます。

血液凝固因子製剤の薬価比較(参考値)。

  • フィブリノゲンHT静注用1g「JB」:72,367円/瓶
  • クロスエイトMC静注用250単位:34,938円/瓶
  • アドベイト静注用キット250:15,180円/キット
  • ノボエイト静注用250:12,040円/瓶

フィブリノゲン製剤は特定生物由来製品として厳格な管理が必要で、使用に際しては十分なインフォームドコンセントと記録保管が義務付けられています。保険適用については、承認された効能・効果の範囲内での使用が前提となり、適応外使用には注意が必要です。

薬価の設定根拠には、原料血漿の確保コスト、製造工程における安全性確保のための処理費用、品質管理費用などが含まれており、血漿分画製剤特有の高コスト構造が反映されています。

フィブリノゲン製剤の効能・効果と適応症

フィブリノゲン製剤の主要な効能・効果は低フィブリノゲン血症の治療です。フィブリノゲンは血液凝固因子の一つで、出血時にトロンビンの作用によってフィブリンに変換され、血管損傷部で止血機能を発揮します。

正常な血漿中フィブリノゲン濃度は200~400mg/100mlですが、この濃度が100mg/100ml以下に低下した状態が低フィブリノゲン血症として定義されます。主な原因疾患には以下があります。

先天性疾患

  • 無フィブリノゲン血症
  • 低フィブリノゲン血症
  • 異常フィブリノゲン血症

後天性疾患

  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  • 線維素溶解亢進状態
  • 重篤な肝疾患
  • 大量出血時の希釈性凝固障害

近年特に注目されているのは、大量出血時における止血目的での使用です。心臓血管外科手術、産科大量出血、外傷などの場面で、フィブリノゲン製剤投与により輸血量減少や出血量減少効果が報告されています。

ただし、後天的な大量出血に対するフィブリノゲン製剤の保険適用は現在認められておらず、適応拡大に向けた臨床研究が継続されています。

フィブリノゲン製剤の安全性と副作用

フィブリノゲン製剤の安全性については、過去の感染症事例を踏まえた厳格な安全対策が講じられています。現在使用されている製剤には、ウイルス不活化処理として以下の処理が施されています。

ウイルス不活化処理方法

  • SD処理:有機溶媒(Solvent)と界面活性剤(Detergent)により脂質エンベロープを有するウイルス(HIV、HBV、HCV等)を不活化
  • β-プロピオラクトン処理:化学処理剤によりウイルス遺伝子に作用し、増殖性を失わせる処理

主な副作用として報告されているのは以下の通りです。

過敏症反応

  • 悪寒
  • 発熱
  • その他のアレルギー反応

重大な副作用としては、血栓形成のリスクがあるため、投与速度や投与量の管理が重要です。特に心疾患や血栓症の既往がある患者では慎重な観察が必要です。

使用に際しては、患者への十分な説明と同意取得、投与記録の保管、副作用モニタリングが必須となります。また、特定生物由来製品として、感染症定期報告や副作用報告の義務があります。

フィブリノゲン製剤の大量出血時使用における新たな展開

近年、フィブリノゲン製剤の臨床応用において最も注目されているのは、大量出血時の止血目的での使用です。従来の適応症である先天性低フィブリノゲン血症に加え、後天的な大量出血場面での有効性が多数報告されています。

臨床研究のエビデンス

システマティック・レビューによると、無作為化比較対照試験14報告(患者数1,119名)中、心臓血管外科手術10報告(712名)、その他手術4報告(407名)において、フィブリノゲン製剤の優位性または有効性が認められています。

具体的な効果として以下が報告されています。

  • 輸血量の減少
  • 出血量の減少
  • 低フィブリノゲン血症の改善
  • 手術時間の短縮

適用領域の拡大

現在、以下の分野でフィブリノゲン製剤の使用が検討されています。

🏥 心臓血管外科

人工心肺使用による希釈性凝固障害の改善、術後出血の抑制

👶 産科領域

産科大量出血時の止血管理、妊娠高血圧症候群に伴う凝固異常

🚑 外傷診療

多発外傷による凝固障害、damage control surgeryでの止血

今後の課題と展望

大量出血時使用の保険適用拡大に向けて、以下の課題があります。

  • 適応基準の明確化(フィブリノゲン値、出血量等)
  • 投与タイミングの標準化
  • 費用対効果の検証
  • 長期的な安全性データの蓄積

また、クリオプレシピテートとの使い分けや、新規フィブリノゲン製剤の開発動向も注目されています。Point-of-care testing(POCT)による迅速なフィブリノゲン測定技術の普及により、より適切なタイミングでの投与が可能になることが期待されています。

フィブリノゲン製剤は、血液凝固異常の治療において重要な位置を占める製剤として、今後さらなる臨床応用の拡大が見込まれています。医療従事者は最新のエビデンスと安全性情報を把握し、適切な使用を心がけることが重要です。

日本血液製剤機構のフィブリノゲン製剤情報