血液製剤一覧と基本分類
現代の輸血医療において、血液製剤は患者さんの生命を支える重要な治療手段です。献血者から提供された貴重な血液は、患者さんの症状に応じて最適化された輸血用血液製剤として医療現場に供給されています。
輸血用血液製剤は大きく分けて「赤血球製剤」「血漿製剤」「血小板製剤」「全血製剤」の4つのカテゴリーに分類されます。現在の医療では、患者さんが特に必要とする成分だけを輸血する「成分輸血」が主流となっており、全供給数のほぼ100%を成分製剤が占めています。これにより、患者さんの循環器系への負担を軽減し、より安全で効率的な輸血療法が実現されています。
血液製剤一覧における赤血球製剤の特徴
赤血球製剤は血液から血漿、白血球、血小板の大部分を取り除いた製剤で、主に酸素運搬能力の補充を目的としています。慢性貧血、外科手術前・中・後の輸血時に広く使用され、輸血医療の中核を担っています。
主要な赤血球製剤の種類:
- 赤血球液-LR「日赤」(RBC-LR):基本的な赤血球製剤
- 照射赤血球液-LR「日赤」(Ir-RBC-LR):GVHD予防のため放射線照射済み
- 洗浄赤血球液-LR「日赤」(WRC-LR):血漿成分を洗浄除去
- 解凍赤血球液-LR「日赤」(FTRC-LR):冷凍保存後の解凍製剤
- 合成血液-LR「日赤」(BET-LR):赤血球に血漿を混和した製剤
これらの製剤は200mLまたは400mLの血液に由来する赤血球量を基準とし、患者さんの病態や免疫状態に応じて選択されます。特に照射製剤は、輸血によるGVHD(移植片対宿主病)を予防するため、15Gy以上50Gy以下の放射線が照射されており、免疫不全患者や血縁者からの輸血時に必須となります。
洗浄赤血球液は、血漿タンパクによるアレルギー反応のリスクが高い患者さんや、反復輸血により抗体を保有する患者さんに使用されます。解凍赤血球液は希少血液型の長期保存を可能にし、緊急時の血液確保に重要な役割を果たしています。
血液製剤一覧での血小板製剤の役割
血小板製剤は止血機能を担う重要な成分製剤で、血小板減少症や血小板機能異常による出血傾向の治療に不可欠です。製剤の有効期間は製造後48時間(ただし採血後4日間を超えない)と短く、適切な在庫管理と迅速な使用が求められます。
血小板製剤の詳細分類:
- 濃厚血小板-LR「日赤」(PC-LR):1~20単位の多様な規格
- 照射濃厚血小板-LR「日赤」(Ir-PC-LR):GVHD予防処理済み
- 照射洗浄血小板-LR「日赤」(Ir-WPC-LR):血漿成分除去済み
- 濃厚血小板HLA-LR「日赤」(PC-HLA-LR):HLA適合製剤
血小板製剤の価格は単位数に応じて設定されており、1単位(約20mL)の照射濃厚血小板-LRで8,060円、20単位(約250mL)では163,471円となっています。この価格設定は製剤の希少性と製造コストを反映したものです。
HLA適合血小板製剤は、HLA抗体による血小板輸血不応状態の患者さんに使用される特殊な製剤です。患者のHLA型に適合する献血者からの採血が必要で、事前の血液センターとの調整が不可欠です。製造には供血者のリンパ球と患者血清との交差試験適合性の確認が必要で、通常の血小板製剤より高価格(10単位で98,193円)に設定されています。
血小板製剤の特殊処理:
照射洗浄血小板(Ir-WPC-LR)は、血液成分採血により採取した血小板を血小板保存液で洗浄し、血漿の大部分を除去した後に同液に浮遊させた製剤です。この処理により、血漿タンパクによる副作用リスクを最小限に抑えながら、GVHD予防効果も併せ持つ高機能製剤となっています。
血液製剤一覧に含まれる血漿製剤の用途
血漿製剤である新鮮凍結血漿-LR「日赤」(FFP-LR)は、凝固因子を豊富に含む液体成分で、凝固異常の治療や大量出血時の補充療法に重要な役割を果たします。血漿は血液の約55%を占め、水分91%と固形成分9%(主にタンパク質)から構成されています。
血漿製剤の規格と特徴:
- FFP-LR120:血液200mL相当に由来する血漿量(約120mL)
- FFP-LR240:血液400mL相当に由来する血漿量(約240mL)- 18,322円
- FFP-LR480:大容量規格(480mL)- 24,210円
新鮮凍結血漿の「新鮮」という表現は、採血後速やかに分離・凍結処理されることで、熱に不安定な凝固因子(第V因子、第VIII因子など)の活性を最大限保持していることを意味します。これらの凝固因子は血液凝固カスケードにおいて重要な役割を担い、適切な止血機能の維持に不可欠です。
血漿製剤は以下の臨床場面で使用されます。
- 先天性凝固因子欠乏症の補充療法
- 後天性凝固異常(肝疾患、DICなど)の治療
- 大量輸血症候群における凝固因子の補充
- 血漿交換療法における置換液
血漿製剤の適正使用には、患者の凝固機能検査(PT、APTT、フィブリノーゲンなど)の評価が重要です。単純な循環血液量の補充目的での使用は避け、具体的な凝固異常の存在が確認された場合に限定すべきとされています。
血液製剤一覧の照射・洗浄処理の意義
血液製剤における照射・洗浄処理は、輸血の安全性向上において革新的な技術として位置づけられています。これらの処理技術は、従来の輸血療法で課題となっていた免疫学的副作用の軽減に大きく貢献しています。
照射処理の詳細メカニズム:
照射処理(Irradiation)は15Gy以上50Gy以下のγ線またはX線を血液製剤に照射し、リンパ球のDNAを損傷させることでGVHD(移植片対宿主病)を予防します。この処理により、輸血されたリンパ球が患者体内で増殖・活性化することを防ぎ、致命的なGVHD発症リスクを完全に排除できます。
照射が必要な患者群。
- 先天性免疫不全症患者
- 造血器悪性腫瘍患者
- 固形癌に対する化学療法・放射線療法中の患者
- 臓器移植患者
- 血縁者からの輸血を受ける患者
洗浄処理の技術的特徴:
洗浄処理(Washing)は血液製剤から血漿成分を物理的に除去する技術で、血漿タンパクによるアレルギー反応や抗体反応のリスクを大幅に軽減します。特にIgA欠損症患者への輸血時や、反復輸血により血漿タンパク抗体を獲得した患者に対して必須の処理となります。
洗浄血小板-LR(WPC-LR)の製造工程では、血小板保存液を用いた特殊な洗浄プロセスにより、血漿の大部分を除去しながら血小板機能を維持します。この技術により、血漿タンパクによる副作用リスクを最小限に抑制しつつ、血小板の止血機能は完全に保持されます。
複合処理製剤の意義:
照射洗浄血小板(Ir-WPC-LR)や照射洗浄赤血球液(Ir-WRC-LR)などの複合処理製剤は、照射と洗浄の両方の利点を併せ持つ高機能製剤です。免疫不全状態かつ血漿タンパク抗体を保有する患者や、重篤なアレルギー歴を有する患者に対して、最高レベルの安全性を提供します。
血液製剤一覧にないHLA適合製剤の管理法
HLA適合製剤の管理は、一般的な血液製剤とは根本的に異なる専門的なアプローチが必要です。これらの製剤は通常の血液製剤一覧には詳細な管理方法が記載されておらず、医療機関独自の管理システムが求められます。
HLA適合製剤の特殊性:
HLA適合血小板製剤(PC-HLA-LR、Ir-PC-HLA-LR)は、患者固有のHLA型に合致した献血者からの採血が必要で、製造には以下の複雑なプロセスが必要です。
- 患者のHLA型精密検査(クラスⅠ、クラスⅡ)
- 適合献血者の選定と登録
- 供血者リンパ球と患者血清の交差適合試験
- 緊急時対応のための複数適合者の確保
独自の在庫管理システム:
HLA適合製剤の効果的な管理には、従来の製剤管理とは異なる専門システムが必要です。
- 患者データベース管理
- HLA型情報の詳細記録
- 輸血歴と抗体獲得状況の追跡
- 適合献血者情報との連携
- 献血者管理システム
- HLA型登録献血者の継続的な確保
- 採血スケジュールの最適化
- 緊急時対応プロトコルの整備
- 製剤発注・配送システム
- 予定手術に合わせた事前発注
- 血液センターとの密接な連携
- 緊急時の迅速配送体制
コスト管理と効率化戦略:
HLA適合製剤は通常の血小板製剤より約20%高価格で、10単位で98,193円、15単位で147,103円、20単位で195,822円となっています。この高コストを考慮した管理戦略として。
- 患者の血小板輸血不応状態の詳細評価
- 非免疫学的原因の除外と治療
- 適合製剤の必要性の厳格な判定
- 代替治療法との比較検討
緊急時対応プロトコル:
HLA適合製剤が必要な患者の緊急事態に備え、以下のプロトコルが重要です。
- 24時間体制での血液センター連絡システム
- 近隣医療機関との製剤融通システム
- 患者搬送による製剤確保可能施設への転院プロトコル
- 代替治療法(血小板輸血以外)の準備
これらの管理システムにより、HLA適合製剤を必要とする患者に対し、迅速かつ安全な輸血療法の提供が可能となります。医療機関では、通常の血液製剤管理に加えて、このような特殊製剤の管理体制整備が求められており、輸血医療の質向上に直結する重要な課題となっています。
日本赤十字社の輸血用血液製剤に関する詳細情報
https://www.jrc.or.jp/donation/blood/list/
血液製剤の適正使用に関する厚生労働省ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/2i/dl/index-m.pdf