目次
女性医師が少ない理由と現状
女性医師の割合と増加傾向の現状
日本の医療現場における女性医師の割合は、着実に増加傾向にあります。厚生労働省の「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2018年12月31日時点での全医師数32万7,210人のうち、女性医師は7万1,758人で、全体の21.9%を占めています。
この数字は、2016年の調査時点の21.1%から0.8ポイント上昇しており、女性医師の増加が継続していることがわかります。しかし、国際的な観点から見ると、日本の女性医師の割合は依然として低い水準にあります。OECD加盟国における女性医師の割合の平均が49%であるのに対し、日本は22%と大きく下回っています。
興味深いのは、年齢別の医師数分布です。男性医師は50~59歳が最多であるのに対し、女性医師は30~39歳がピークとなっています。この年齢層で女性医師全体の約3分の1を占めており、若い世代で女性医師の増加が顕著であることがわかります。
女性医師の診療科選択の特徴と偏り
女性医師の診療科選択には、明確な特徴と偏りが見られます。特に、以下の診療科で女性医師の割合が高くなっています:
• 皮膚科:54.8%
• 産婦人科:37.7%
• 小児科:35.1%
• 眼科:38.8%
一方で、次の診療科では女性医師の割合が低くなっています:
• 整形外科:5.2%
• 外科:6.2%
• 循環器内科:12.1%
この偏りの背景には、ワークライフバランスの取りやすさや、患者との関係性、専門性の違いなど、様々な要因が考えられます。例えば、皮膚科や眼科は比較的規則的な勤務形態が可能で、緊急対応が少ないことが女性医師に選ばれる理由の一つと考えられています。
一方で、外科や整形外科などの診療科は、長時間労働や不規則な勤務形態が多く、女性医師にとってはワークライフバランスの維持が難しい傾向にあります。
女性医師の出産・育児による離職の実態
女性医師のキャリアにおいて、出産・育児は大きな転換点となっています。日本医師会の調査によると、女性医師の8割以上が出産・育児を理由に休職や離職を経験しています。
具体的には、女性医師の就業率は医学部卒業後、年数が経つにつれて減少傾向をたどり、卒業後11年(概ね36歳)で76.0%まで低下します。その後、育児が落ち着く時期に合わせて就業率が回復する「M字カーブ」を描くことが特徴的です。
この現象は、日本の医療現場における女性医師支援の不足を示唆しています。出産・育児期間中の働き方の柔軟性や、復職支援プログラムの充実が求められています。
女性医師の常勤復職の難しさと課題
出産・育児を経験した女性医師が常勤職に復帰することは、依然として難しい状況にあります。厚生労働省の調査によると、病院における女性医師の雇用状況は以下のようになっています:
• 正規雇用:71.4%
• 短時間正規雇用:4.4%
• 非常勤:24.2%
これに対し、男性医師の場合は:
• 正規雇用:79.6%
• 短時間正規雇用:2.1%
• 非常勤:18.3%
となっており、女性医師の方が非常勤や短時間勤務の割合が高くなっています。
常勤復職を難しくしている主な要因には以下のようなものがあります:
- 医療技術の進歩についていけない不安
- 当直や緊急呼び出しへの対応の難しさ
- 保育施設の不足や開所時間の制限
- 職場の理解不足や支援体制の欠如
これらの課題に対応するため、多くの医療機関で女性医師支援プログラムの導入が進められています。例えば、短時間勤務制度の導入、院内保育所の設置、復職支援研修の実施などが行われています。
女性医師のキャリア形成を阻む要因分析
女性医師のキャリア形成を阻む要因は多岐にわたります。主な要因として以下のものが挙げられます:
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長時間労働文化:
医療現場では依然として長時間労働が常態化しており、特に外科系の診療科では顕著です。これは、育児や家事との両立を目指す女性医師にとって大きな障壁となっています。 -
メンターの不足:
女性医師のロールモデルやメンターが少ないことも、キャリア形成の障害となっています。先輩女性医師からのアドバイスや経験談は、若手女性医師のキャリアプランニングに大きな影響を与えます。 -
unconscious bias(無意識の偏見):
医療界にも根強く残る性別役割分担意識や、女性医師に対する無意識の偏見が、昇進や重要な職務の割り当てに影響を与えている可能性があります。 -
研究活動の機会減少:
出産・育児期間中は、論文執筆や学会参加などの研究活動が制限されがちです。これが、キャリアアップや専門医資格の取得に影響を与えることがあります。 -
地域による支援体制の差:
都市部と地方では、女性医師支援の取り組みに差があります。地方では、代替医師の確保が難しいことなどから、育児休暇の取得や短時間勤務の導入が進んでいない地域もあります。
これらの要因に対処するためには、医療機関だけでなく、医療界全体での意識改革と制度改革が必要です。例えば、男性医師の育児参加を促進する取り組みや、テレワークの導入、柔軟な勤務体系の整備などが考えられます。
以上のように、女性医師を取り巻く環境には多くの課題が存在します。しかし、これらの課題に対する認識が高まり、様々な支援策が講じられつつあることも事実です。今後、医療界全体で女性医師の活躍を支援する取り組みがさらに進むことで、より多様で柔軟な医療現場の実現が期待されます。