抗真菌薬一覧と分類
抗真菌薬の系統別分類と特徴
現在の臨床現場で使用される抗真菌薬は、その化学構造と作用機序により主要な系統に分類されます。
- フルコナゾール:カンジダ症とコクシジオイデス髄膜炎に広く使用
- イトラコナゾール:皮膚真菌症から全身性真菌症まで対応
- ボリコナゾール:侵襲性アスペルギルス症の第一選択薬
- ポサコナゾール:予防投与にも使用される広域スペクトラム薬
- イサブコナゾール:比較的新しい薬剤で副作用プロファイルが良好
キャンディン系抗真菌薬
- ミカファンギン(ファンガード):カンジダ血症に対する標準治療薬
- カスポファンギン:侵襲性アスペルギルス症にも適応
- アニデュラファンギン:肝代謝を受けない特徴的な薬物動態
ポリエン系抗真菌薬
- アムホテリシンB:従来製剤と脂質製剤が存在
- 脂質製剤(アムビゾーム等):腎毒性が軽減された改良型
その他の抗真菌薬
- フルシトシン:カンジダ症に対してアムホテリシンBとの併用療法で使用
- アリルアミン系(テルビナフィン):主に外用薬として皮膚真菌症に使用
抗真菌薬の適応疾患と選択基準
抗真菌薬の選択は、感染部位、原因真菌、患者の重症度、併存疾患により決定されます。
侵襲性カンジダ症
- 第一選択:キャンディン系(ミカファンギン、カスポファンギン)
- 代替薬:フルコナゾール(感受性確認後)
- 重症例:アムホテリシンB脂質製剤
侵襲性アスペルギルス症
- 第一選択:ボリコナゾール
- 代替薬:イサブコナゾール、ポサコナゾール
- サルベージ療法:アムホテリシンB脂質製剤
ムーコル症
- 第一選択:アムホテリシンB脂質製剤
- 代替薬:ポサコナゾール(維持療法)
皮膚真菌症
- 軽症:外用抗真菌薬(テルビナフィン、ミコナゾールなど)
- 重症・広範囲:経口イトラコナゾール、テルビナフィン
抗真菌薬の過剰処方は薬剤耐性真菌感染症増加の一因となるため、適切な診断と薬剤選択が重要です。
抗真菌薬の用法用量と投与経路
各抗真菌薬には特徴的な用法・用量があり、投与経路も薬剤により異なります。
静注用抗真菌薬の用量
薬剤名 | 標準用量 | 負荷投与 | 投与間隔 |
---|---|---|---|
ミカファンギン | 100mg | なし | 1日1回 |
カスポファンギン | 50mg | 70mg(1日目) | 1日1回 |
ボリコナゾール | 200mg経口 | 6mg/kg静注×2回 | 12時間毎 |
フルコナゾール | 400mg | 800mg(初回) | 1日1回 |
アムホテリシンB脂質製剤 | 3-5mg/kg | なし | 1日1回 |
経口薬の特徴
- フルコナゾール:生体利用率ほぼ100%、食事の影響なし
- イトラコナゾール:胃酸存在下で吸収良好、食後投与推奨
- ボリコナゾール:空腹時投与で吸収率向上
- ポサコナゾール:高脂肪食と共に摂取で吸収率改善
外用薬の使用法
- 1日1-2回塗布が標準
- アリルアミン系:殺菌的作用で1日1回投与可能
- イミダゾール系:1日2回投与が一般的
- 治療期間:皮膚症状消失後も2-4週間継続
院内感染防止の観点から、各施設で採用抗真菌薬の一覧化と使用基準の策定が推奨されています。
抗真菌薬の副作用と注意事項
抗真菌薬使用時には、各薬剤特有の副作用と相互作用に注意が必要です。
主要な副作用プロファイル
アムホテリシンB
- 急性輸注反応:発熱、悪寒、血圧低下
- 腎機能障害:可逆性から不可逆性まで
- 電解質異常:低カリウム血症、低マグネシウム血症
- 脂質製剤では副作用頻度が軽減
アゾール系薬剤
- 肝機能障害:定期的なモニタリング必要
- QT延長:心電図異常の既往がある患者では注意
- 薬物相互作用:CYP450阻害による併用薬の血中濃度上昇
- 視覚障害(特にボリコナゾール):一時的な視覚症状
キャンディン系薬剤
- 比較的副作用が少ない薬剤群
- 肝機能異常:軽度の場合が多い
- 輸注反応:発疹、そう痒感
- 急性血管内溶血(ミカファンギン):稀な重篤な副作用
重要な薬物相互作用
- リオシグアトとアゾール系抗真菌薬:併用禁忌から注意に変更
- ワルファリンとアゾール系:INR値の定期的確認
- 免疫抑制薬との併用:血中濃度モニタリング
モニタリング項目
- 肝機能検査:AST、ALT、ビリルビン
- 腎機能検査:クレアチニン、BUN
- 電解質:K、Mg、Na
- 心電図:QT間隔の評価
MSDマニュアルの抗真菌薬解説:各薬剤の詳細な副作用情報と用法・用量
抗真菌薬治療における薬剤耐性対策
近年、抗真菌薬の過剰使用により薬剤耐性真菌の出現が問題となっています。
薬剤耐性の現状
- アゾール耐性カンジダ・アウリス:世界的な拡散が懸念
- フルコナゾール耐性カンジダ・グラブラタ:治療選択肢の制限
- アスペルギルス・フミガータスのアゾール耐性:環境由来の耐性株
適正使用の原則
- 診断確定後の標的治療:培養結果に基づく薬剤選択
- 適切な投与期間:過短期間や過長期間投与の回避
- 予防投与の適応限定:高リスク患者のみに限定
- TDM(治療薬物モニタリング)の活用:特にボリコナゾール
院内感染対策
- 手指衛生の徹底:カンジダ・アウリス対策の基本
- 環境清拭の強化:芽胞形成菌に対する適切な消毒薬使用
- 接触予防策の実施:多剤耐性真菌検出時
抗菌薬適正使用支援(AS: Antimicrobial Stewardship)
- 多職種チームでの治療方針決定
- 培養結果に基づくde-escalation
- 感染症専門医への相談体制構築
- 定期的な薬剤感受性サーベイランス
新規抗真菌薬の開発状況
- レザフンギン:新規キャンディン系薬剤として期待
- 新しい作用機序を持つ薬剤:β-グルカン合成酵素以外の標的
- 併用療法の最適化:シナジー効果を期待した組み合わせ
抗真菌薬の適正使用は、個々の患者の治療成功と将来の薬剤耐性抑制の両面で重要な意義を持ちます。各医療機関での抗真菌薬使用ガイドラインの整備と、継続的な教育・啓発活動が求められています。
治療効果の最大化と副作用の最小化を図るためには、患者の病態、原因真菌、薬剤の特性を総合的に評価した薬剤選択が不可欠です。また、薬剤耐性真菌感染症の増加を防ぐため、診断精度の向上と適正使用の推進が今後ますます重要になると考えられます。