浸透圧利尿薬の一覧
浸透圧利尿薬の作用機序
浸透圧利尿薬は、他の利尿薬とは全く異なるメカニズムで利尿効果を発揮します。通常、血漿は腎臓の糸球体でろ過されて原尿となり、原尿は尿細管を通過する過程でナトリウムイオン(Na⁺)と水の再吸収により濃縮されます。
尿細管では、Na⁺の再吸収に伴い水が受動的に尿細管管腔側から血管側へ移動し、管腔内の浸透圧は一定に保たれています。しかし、浸透圧利尿薬は糸球体でろ過されて原尿中に排出されるものの、腎尿細管では再吸収されない特徴があります。
この性質により、浸透圧利尿薬は管腔内に留まり続け、浸透圧の上昇を引き起こします。結果として、水とNa⁺の再吸収が抑制され、尿量が増加するのです。
💡 ポイント
- 糸球体でろ過されるが尿細管で再吸収されない
- 管腔内浸透圧の上昇により水の再吸収を阻害
- 電解質バランスへの影響が比較的少ない
浸透圧利尿薬の主な商品名と薬価
浸透圧利尿薬は、主に3つの有効成分に分類され、それぞれ異なる商品名で販売されています。
D-マンニトール系
- マンニットT注15% 500mL:561円
- 20%マンニトール注射液「YD」 300mL:444円
- マンニットールS注(その他の濃度・容量も多数あり)
イソソルビド系
- イソバイドシロップ70%:2.9円
- イソソルビド内用液70%分包30mL「CEO」:103.9円
- イソソルビド内服ゼリー70%分包20g「日医工」:76.8円
- イソバイドシロップ70%分包30mL:83.8円
グリセリン系
- グリセオール注
薬価に関して注目すべき点は、イソソルビド製剤の価格差です。シロップタイプの基本形態は非常に安価(2.9円)である一方、分包製剤や内服ゼリー製剤は60~100円台となっており、剤形や包装形態により大きな差があります。
📊 薬価比較のポイント
- 同成分でも剤形により価格差が大きい
- 患者の服薬コンプライアンスと経済性のバランスを考慮
- 急性期使用では注射製剤が中心
浸透圧利尿薬の適応症と使い分け
浸透圧利尿薬は、その特殊な作用機序から限定的ながら重要な適応症を有しています。
D-マンニトール
- 脳圧降下・脳容積の縮小
- 眼内圧降下
- 術中・術後・外傷後の急性腎不全の予防および治療
- 薬物中毒時の浸透圧利尿
イソソルビド
- 脳腫瘍時の脳圧降下
- 頭部外傷に起因する脳圧亢進時の脳圧降下
- 腎・尿管結石時の利尿
- 緑内障の眼圧降下
- メニエール病
グリセリン(濃グリセリン・果糖)
- 頭蓋内圧亢進・頭蓋内浮腫の治療
- 脳外科手術後の後療法
- 脳外科手術時の脳容積縮小
- 眼科手術時の眼容積縮小
- 脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血などの急性期管理
🎯 臨床での使い分け
- 急性期脳浮腫:D-マンニトールまたはグリセリン
- 慢性緑内障:イソソルビド内服
- 腎不全予防:D-マンニトール
- 結石の排出促進:イソソルビド
浸透圧利尿薬の副作用と注意点
浸透圧利尿薬は、その作用機序上、特有の副作用と注意点があります。
主な副作用
- 急激な脱水による循環血液量減少
- 電解質異常(特にナトリウム濃度の変動)
- 腎機能への負荷
- 溶血(特に高濃度投与時)
- 血管痛(注射製剤)
禁忌・慎重投与
- 重篤な腎機能障害患者
- 重篤な心機能障害患者
- 脱水症状のある患者
- 頭蓋内出血の疑いがある患者(マンニトール)
投与時の監視項目
- 尿量・水分バランス
- 電解質(Na⁺、K⁺、Cl⁻)
- 腎機能(BUN、クレアチニン)
- 循環動態(血圧、心拍数)
- 神経学的症状(意識レベル、瞳孔所見)
⚠️ 重要な注意点
- 投与量・投与速度の厳密な管理が必要
- 水分バランスの綿密なモニタリングが不可欠
- 反跳現象(リバウンド効果)に注意
浸透圧利尿薬の投与経路と実践的な使用法
浸透圧利尿薬の効果的な使用には、投与経路の選択と実践的な管理技術が重要です。
注射製剤の投与管理
D-マンニトールとグリセリンは主に静脈内投与で使用されます。投与速度は病態により調整が必要で、急性期脳浮腫では比較的速い投与(0.25-1.0g/kg、15-30分で投与)が推奨される一方、腎不全予防では緩徐な投与が基本となります。
投与時の血管選択も重要なポイントです。高濃度の浸透圧利尿薬は血管痛や血管炎を引き起こしやすいため、可能な限り太い静脈(中心静脈または前腕の太い静脈)を選択し、投与後は十分な生理食塩水でのフラッシュが必要です。
内服製剤の服薬指導
イソソルビド製剤は内服で使用されますが、特有の甘味があり、患者によっては服薬困難な場合があります。分包製剤や内服ゼリー製剤の選択により、服薬コンプライアンスの向上が期待できます。
特に緑内障患者では長期服用が必要となるため、患者の嗜好や生活パターンに合わせた剤形選択が重要です。また、食事のタイミングを考慮した投与スケジュールの調整により、副作用の軽減と効果の最適化が可能です。
モニタリングの実践
浸透圧利尿薬使用時のモニタリングでは、単純な尿量測定だけでなく、尿比重や尿浸透圧の測定が有用です。効果的な浸透圧利尿が得られている場合、尿比重は1.010以下、尿浸透圧は血漿浸透圧以下となることが多く、これらの指標により薬効の評価が可能です。
🔍 実践的なポイント
- 投与前後の体重測定による水分バランス評価
- 尿性状(色調、比重)の継続的観察
- 神経学的所見の定期的評価(脳浮腫治療時)
- 眼圧測定の実施(緑内障治療時)
特殊な使用場面での注意
手術室での使用では、麻酔科医との連携が不可欠です。特に脳神経外科手術では、手術野の展開に影響するため、投与タイミングや用量について外科医との事前協議が重要となります。
ICUでの使用では、他の利尿薬との併用による相乗効果や相互作用に注意が必要です。ループ利尿薬との併用により過度の脱水を招く可能性があるため、投与量の調整と綿密な監視が求められます。
また、小児や高齢者では、成人と比較して水分・電解質バランスの変動が大きいため、より頻繁なモニタリングと慎重な用量調整が必要です。特に高齢者では、腎機能の生理的低下により薬物の排泄が遅延する可能性があり、初回投与量の減量や投与間隔の延長を検討することが重要です。
日本薬学会による浸透圧利尿薬の詳細な解説
https://www.pharm.or.jp/words/word00923.html
医療現場での浸透圧利尿薬の適切な使用は、患者の病態改善に直結する重要な治療手段です。各薬剤の特性を理解し、適応症に応じた使い分けを行うことで、より安全で効果的な治療が実現できるでしょう。