セフェム系抗生物質一覧と各世代特徴

セフェム系抗生物質一覧

セフェム系抗生物質の概要
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βラクタム系殺菌性抗菌薬

細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用する

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第一世代〜第四世代に分類

開発された順に世代分けされ、各世代で抗菌スペクトラムが異なる

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経口薬と注射薬が存在

軽症から重症まで幅広い感染症に対応可能

セフェム系抗生物質第一世代の特徴と薬剤一覧

第一世代セフェム系抗生物質は、グラム陽性菌に強い活性を示し、グラム陰性菌に対しては限定的な効果を持つ特徴があります。本邦ではMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)の第一選択薬として位置づけられており、皮膚軟部組織感染症尿路感染症の治療に広く使用されています。

注射用第一世代セフェム系薬剤:

  • セファゾリン(CEZ)- 商品名:セファメジンα
  • セファピリン(CEPR)- 商品名:セファトレキシール
  • セファロチン(CET)- 商品名:ケフリン
  • セファロリジン(CER)- 商品名:ケフロジン
  • セフテゾール(CTZ)- 商品名:タイファロゾール

経口用第一世代セフェム系薬剤:

  • セファレキシン(CEX)- 商品名:ケフレックス、ラリキシン
  • セファクロル(CCL)- 商品名:ケフラール
  • セファドロキシル(CDX)- 商品名:セドラール、サマセフ
  • セフラジン(CED)- 商品名:セフロ
  • セフロキサジン(CXD)- 商品名:オラスポア

第一世代の中でも、セファゾリンは注射薬として最も汎用性が高く、セファレキシンは経口薬として外来診療でよく処方される薬剤です。これらの薬剤は腎機能に応じた用量調整が必要であり、腎排泄型のため腎機能低下患者では注意深い投与が求められます。

セフェム系抗生物質第二世代の特徴と薬剤一覧

第二世代セフェム系抗生物質は、第一世代と比較してグラム陰性菌に対する活性が向上し、特に横隔膜下の嫌気性菌にも有効性を示すことが特徴です。腹部手術の術前投与や腹部・骨盤内感染症の治療に重要な役割を果たしています。

注射用第二世代セフェム系薬剤:

  • セフォチアム(CTM)- 商品名:パンスポリン、ハロスポア
  • セフロキシム(CXM)- 商品名:ジナセフ
  • セファマンドール(CMD)- 商品名:ケフドール
  • セフメタゾール(CMZ)- 商品名:セフメタゾン
  • フロモキセフ(FMOX)- 商品名:フルマリン

経口用第二世代セフェム系薬剤:

  • セフォチアム ヘキセチル(CTM-HE)- 商品名:パンスポリンT
  • セフロキシム アキセチル(CXM-AX)- 商品名:オラセフ

第二世代の薬剤の中で注目すべきは、ESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌に対する効果も報告されていることです。特にセフメタゾールやフロモキセフなどのセファマイシン系・オキサセフェム系は、ESBLによる分解を受けにくい構造を持っているため、薬剤耐性菌感染症の治療選択肢として重要な位置を占めています。

セフェム系抗生物質第三世代の特徴と薬剤一覧

第三世代セフェム系抗生物質は、グラム陰性菌に対して強力な活性を示し、特に腸内細菌科細菌に対する効果が顕著です。何より重要な特徴として髄液移行性を獲得しており、細菌性髄膜炎の初期治療において中心的な役割を担っています。

注射用第三世代セフェム系薬剤:

  • セフトリアキソン(CTRX)- 商品名:ロセフィン
  • セフォタキシム(CTX)- 商品名:クラフォラン、セフォタックス
  • セフタジジム(CAZ)- 商品名:モダシン
  • セフォペラゾン(CPZ)- 商品名:セフォペラジン、セフォビッド
  • セフメノキシム(CMX)- 商品名:ベストコール
  • セフォジジム(CDZM)- 商品名:ノイセフ、ケニセフ

経口用第三世代セフェム系薬剤:

  • セフィキシム(CFIX)- 商品名:セフスパン
  • セフジトレン ピボキシル(CDTR-PI)- 商品名:メイアクト
  • セフジニル(CFDN)- 商品名:セフゾン
  • セフテラム ピボキシル(CFTM-PI)- 商品名:トミロン
  • セフカペン ピボキシル(CFPN-PI)- 商品名:フロモックス
  • セフポドキシム プロキセチル(CPDX-PR)- 商品名:バナン

セフトリアキソンは第三世代の代表的薬剤として、PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)の第一選択薬でもあります。1日1〜2回投与で効果を発揮し、細菌性髄膜炎では2g 12時間毎投与が標準的です。また、唯一の肝代謝型セフェム系薬剤であるため、腎機能低下患者でも用量調整が不要という利点があります。

セフェム系抗生物質第四世代の特徴と薬剤一覧

第四世代セフェム系抗生物質は、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に強い活性を示し、緑膿菌を含む多剤耐性菌に対しても効果を発揮する広域スペクトラム抗菌薬です。院内感染症の原因菌として問題となるSPACE菌群(Serratia、Pseudomonas、Acinetobacter、Citrobacter、Enterobacter)に対する治療選択肢として重要な位置づけにあります。

注射用第四世代セフェム系薬剤:

  • セフェピム(CFPM)- 商品名:マキシピーム
  • セフォゾプラン(CZOP)- 商品名:ファーストシン
  • セフピロム(CPR)- 商品名:硫酸セフピロム「マイラン」

第四世代セフェム系は経口薬が存在せず、すべて注射薬として使用されます。これらの薬剤は重症感染症や院内感染症の治療において、カルバペネム系抗菌薬の使用を避けたい場合の重要な選択肢となっています。特にセフェピムは緑膿菌に対する活性が高く、好中球減少症患者の発熱性好中球減少症の経験的治療にも使用されます。

薬価的な観点では、第四世代セフェム系は第三世代と比較して高額であるため、適応を慎重に検討する必要があります。また、広域スペクトラムゆえに正常細菌叢への影響も大きく、Clostridioides difficile関連下痢症(CDAD)のリスクも考慮した使用が求められます。

セフェム系抗生物質の副作用と臨床使用上の注意点

セフェム系抗生物質の使用において、医療従事者が特に注意すべき副作用と臨床上の重要なポイントについて解説します。これらの知識は適切な薬剤選択と患者安全の確保に直結します。

ピボキシル基による低カルニチン血症:

セフジトレン ピボキシル、セフテラム ピボキシル、セフカペン ピボキシルなど、ピボキシル基を有する第三世代経口セフェム系薬剤では、重篤な低カルニチン血症が報告されています。ピバリン酸がカルニチン抱合を受けて尿中排泄されるため、カルニチン欠乏状態となり、脂肪酸β酸化障害による低血糖、痙攣、脳症を引き起こす可能性があります。特に血中カルニチンレベルの低い乳幼児では注意が必要です。

ビタミンK欠乏による出血傾向:

NMTT(N-メチルチオテトラゾール)基を有するセフェム系薬剤(セフォペラゾン、セフメタゾール、セフメノキシムなど)では、ビタミンK依存性凝固因子の合成阻害により出血傾向が出現することがあります。術後患者や栄養状態不良患者では特に注意が必要で、定期的なPT-INR測定とビタミンK補充を検討する必要があります。

第三世代経口セフェム系の適正使用:

第三世代経口セフェム系薬剤は、注射薬と比較してbioavailabilityが低く、実際の臨床効果は限定的です。日本では頻繁に処方されている現状がありますが、基本的に外来での使用場面は少ないとされており、適応を慎重に判断する必要があります。軽症感染症では第一世代セフェム系の使用を優先し、重症例では注射薬への変更を検討することが重要です。

薬剤耐性菌の誘導リスク:

広域スペクトラムを有する第三世代・第四世代セフェム系の不適切な使用は、AmpC β-ラクタマーゼ誘導型耐性菌の出現を促進する可能性があります。特にEnterobacter属、Citrobacter属、Serratia属などでは、第三世代セフェム系使用中に耐性化が生じることがあるため、感受性検査結果を確認しながら慎重な使用が求められます。

セフェム系抗生物質の臨床使用においては、これらの副作用や注意点を十分に理解し、患者の状態に応じた適切な薬剤選択と継続的なモニタリングを行うことが、安全で効果的な感染症治療の実現につながります。