カリウム製剤の種類と成分別特徴及び使い分けポイント

カリウム製剤の基本知識と使い分け

カリウム製剤の重要ポイント
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主要な種類

塩化カリウム、アスパラギン酸カリウム、グルコン酸カリウムの3つが主流

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mEq換算

mg数ではなくmEq数での比較が重要、生体内利用率も考慮が必要

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病態別使い分け

アルカローシス時は塩化カリウム、アシドーシス時は有機カリウムが適切

カリウム製剤の主要な種類と成分別特徴

カリウム製剤は大きく分けて無機カリウムと有機カリウムに分類されます。現在臨床現場で使用される主要な経口カリウム製剤は以下の3種類です。

無機カリウム:塩化カリウム

  • 塩化カリウム散(フソー、ヤマゼン、日医工など):13.4mEq/g
  • ケーサプライ錠600mg(徐放剤):8mEq/錠
  • K.C.L.エリキシル:含有量は製剤により異なる

有機カリウム①:グルコン酸カリウム

  • グルコンサンK細粒:2.9mEq/g
  • グルコンサンK錠585mg:2.5mEq/錠
  • グルコンサンK錠1170mg:5mEq/錠

有機カリウム②:L-アスパラギン酸カリウム

  • アスパラカリウム散50%:2.9mEq/g
  • アスパラカリウム錠300mg:1.8mEq/錠

各製剤の特徴として、塩化カリウムは胃腸障害が比較的多いものの、確実なカリウム補給が可能です。一方、有機カリウムは胃腸障害が少なく、特にアスパラギン酸カリウムは細胞内移行性に優れているという特徴があります。

2020年にスローケー錠(塩化カリウム徐放剤)が販売中止となったことで、多くの医療機関でカリウム製剤の見直しが必要となりました。現在はケーサプライ錠が主要な塩化カリウム徐放剤として使用されています。

カリウム製剤のmEq換算と用量設定のポイント

カリウム製剤の換算では、mg数ではなくmEq数での比較が必須です。これは各カリウム塩でカリウム含有量が異なるためです。

各カリウム塩の換算係数

  • 塩化カリウム:0.0134mEq/mg
  • L-アスパラギン酸カリウム:0.006mEq/mg
  • グルコン酸カリウム:0.004mEq/mg

例えば、塩化カリウム1000mgは13.4mEqに相当しますが、L-アスパラギン酸カリウム1000mgは6mEqにしかなりません。

一日必要量と常用量

健康成人の一日カリウム必要量は20-40mEqとされています。各製剤の常用量は以下の通りです。

  • 塩化カリウム散:1日2-10g(26.8-134mEq)
  • ケーサプライ錠:1日2400mg(32mEq)
  • グルコンサンK:1日30-40mEq
  • アスパラカリウム:1日5.4-16.2mEq(最大54mEq)

注目すべきは、アスパラギン酸カリウムの常用量が他製剤より少ないことです。これは細胞内移行性が高いため、より少ない投与量で効果が期待できるためです。

カリウム製剤の適応症と病態別使い分け

カリウム製剤の選択は、単に低カリウム血症を補正するだけでなく、基礎疾患や酸塩基平衡の状態を考慮する必要があります。

塩化カリウムの適応

  • 低クロール性アルカローシス
  • 利尿剤使用時
  • 副腎皮質ホルモン投与時
  • 重症嘔吐による電解質異常
  • 低カリウム血症型周期性四肢麻痺

塩化カリウムはクロライドイオンも同時に補給できるため、クロール欠乏を伴う病態に適しています。

有機カリウム(グルコン酸・アスパラギン酸)の適応

有機カリウムは体内で重炭酸イオンに変換されるため、アシドーシス傾向の患者に適しています。また、胃腸障害が少ないことも利点です。

病態別の使い分け原則

細胞外液の重炭酸イオン(HCO3-)が過剰なアルカローシス時は、HCO3-に変換されない無機カリウム(塩化カリウム)を選択します。逆に、細胞外液のHCO3-が不足するアシドーシス時は、HCO3-に変換される有機カリウムが理論上適切とされています。

カリウム製剤の切り替え時の注意点と常用量対比

カリウム製剤の切り替えにおいて、単純にmEq数を合わせるだけでは不十分です。各製剤の生体内利用率や組織移行性が異なるためです。

常用量対比の概念

常用量対比とは、各製剤の1日用量上限を治療効果として同等とする考え方です。これにより、より実用的な換算が可能になります。

切り替え例:ケーサプライ錠→アスパラカリウム錠

  • ケーサプライ錠の常用量上限:32mEq/日
  • アスパラカリウム錠の常用量上限:16.2mEq/日
  • 比率:約2:1

つまり、ケーサプライ錠1日16mEqからアスパラカリウム錠への切り替えでは、約8mEq(錠剤4-5錠)が常用量対比での同等量となります。

アスパラギン酸カリウムの特殊性

アスパラギン酸カリウムは細胞内移行が塩化カリウムより優れており、ウサギの赤血球を用いた実験では、赤血球内へのカリウム移行量が塩化カリウムより多いことが確認されています。また、イヌでの体内保有率も塩化カリウムの約30%に対し、約70%と高い値を示しています。

切り替え時の注意事項

  • 必ず血清カリウム値のモニタリングを実施
  • 常用量対比は目安に過ぎず、個別調整が必要
  • 適応症の違いも確認が必要
  • 胃腸障害の発現状況も考慮

カリウム製剤の投与経路と剤形選択の考え方

カリウム製剤の効果的な使用には、患者の状態に応じた適切な投与経路と剤形の選択が重要です。

経口投与の利点と注意点

経口カリウム製剤は外来治療の基本となりますが、胃腸障害のリスクがあります。特に塩化カリウム散は刺激性が強く、十分な水分とともに服用する必要があります。

  • 散剤:用量調整が容易だが、味や刺激の問題
  • 錠剤:服薬コンプライアンスが良好
  • 徐放錠:胃腸障害軽減効果があるが、製剤選択肢が限定的
  • 液剤:嚥下困難患者に適しているが、味の問題

注射剤の適応と注意点

重篤な低カリウム血症や経口摂取困難な場合は注射剤を選択します。

  • KCL補正液:1mEq/mL、10mEq、20mEqキットなど
  • アスパラギン酸カリウム注:10mEq製剤が主流
  • 急速投与は心停止リスクがあるため、通常10mEq/時間以下で投与

高齢者・腎機能低下患者での考慮点

  • 腎機能に応じた用量調整が必要
  • 血清カリウム値の頻回モニタリング
  • ACE阻害薬ARBとの併用注意
  • 便秘薬や下剤の影響も考慮

服薬指導のポイント

患者への適切な服薬指導も重要です。

  • 十分な水分とともに服用する重要性
  • 食後服用による胃腸障害軽減効果
  • 自己判断での中断の危険性
  • 副作用症状(悪心、嘔吐、腹痛)の説明

カリウム製剤の薬価情報も医療経済の観点から重要で、塩化カリウム散は比較的安価(0.78-1.37円/g)ですが、徐放錠や有機カリウム製剤は高価格帯(6-7円/錠・g)となっています。

これらの知識を総合的に活用することで、患者個々の病態に最適なカリウム製剤の選択と適切な投与が可能となります。定期的な血清カリウム値モニタリングと併せて、安全で効果的なカリウム補給療法を実践していくことが重要です。