高カロリー輸液種類と特徴|医療従事者必見ガイド

高カロリー輸液種類

高カロリー輸液の主要分類
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組成による分類

基本液、アミノ酸配合、ビタミン・微量元素配合など5つのタイプ

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キット製剤

エルネオパNF、フルカリック、ワンパルなど混注不要の一体型製剤

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病態別特殊製剤

腎不全用キドパレン、小児用リハビックスなど患者状態に応じた専用製剤

高カロリー輸液基本組成による分類

高カロリー輸液の種類は、含有する栄養成分によって5つの主要カテゴリーに分類されます。この分類システムを理解することで、患者の病態に応じた適切な製剤選択が可能になります。

1. 電解質+糖質タイプ

ハイカリック1号、2号、3号が代表的な製剤です。これらは高カロリー輸液の基本となる電解質と糖質のみを含有し、通常は高濃度アミノ酸製剤を混注して使用します。ハイカリックはナトリウムとクロールを含まない特徴があり、電解質管理が重要な患者に適しています。

2. アミノ酸輸液タイプ

病態に合わせたアミノ酸補給を主目的とする製剤で、糖質や電解質も含まれています。肝不全患者には分岐鎖アミノ酸を多く含むアミノレバンが使用され、腎不全患者には必須アミノ酸の比率を高めた製剤が選択されます。

3. 高カロリー輸液+ビタミンタイプ

フルカリック、ネオパレンシリーズが該当し、電解質、糖質、アミノ酸に加えて13種類のビタミンが配合されています。3室に分かれた輸液バッグ構造により、ビタミンの安定性を保ちながら総合的な栄養管理が可能です。

4. 総合栄養タイプ(微量元素配合)

エルネオパNF、ワンパルシリーズは、ビタミンに加えて5種類の微量元素(鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素)を含有します。長期栄養管理において微量元素欠乏症のリスクを軽減できる最も包括的な製剤です。

5. 脂肪配合タイプ

ミキシッド輸液は糖質、アミノ酸、脂質、電解質を一体化した製剤です。脂肪を含有することで、ブドウ糖単独による高血糖リスクを軽減し、必須脂肪酸の補給も同時に行えます。

高カロリー輸液キット製剤の種類と特徴

キット製剤は混注作業の手間を削減し、微生物汚染や異物混入のリスクを最小化する画期的な輸液システムです。現在市販されている主要なキット製剤の特徴を詳しく解説します。

エルネオパNFシリーズ

4室構造のバッグにより、13種類のビタミンと5種類の微量元素を含有する最も包括的なキット製剤です。1号は耐糖能が不明または低下している場合の開始液として、2号は通常の必要カロリー量患者の維持液として使用されます。浸透圧比は4~6で、中心静脈からの投与が必須です。

フルカリックシリーズ

3室構造で総合ビタミンを含有し、微量元素として亜鉛のみを配合した製剤です。1号(903mL、1354.5mL)は840kcal、2号(1003mL、1504.5mL)は最大1640kcalの高エネルギー供給が可能です。非蛋白熱量/窒素比(NPC/N)は154で、標準的な栄養管理に適しています。

ワンパルシリーズ

2019年に発売された比較的新しいキット製剤で、エルネオパNFと同様に微量元素を含有しています。容量は800mL、1200mLの2規格があり、浸透圧比4.8~6.7で中心静脈専用です。

ピーエヌツインシリーズ

糖・電解質・アミノ酸のみを含有するシンプルな3成分キット製剤です。ビタミンや微量元素は含まれていないため、必要に応じて別途追加する必要があります。1号(1000mL)、2号(1100mL)、3号(1200mL)の3規格があります。

ミキシッドシリーズ

脂肪を含有する唯一のキット製剤で、L型(900mL、1260kcal)とH型(900mL、1584kcal)があります。脂肪含有により浸透圧比は4~5と比較的低く、必須脂肪酸の補給とエネルギー密度の向上を同時に実現します。

これらのキット製剤は、従来の院内混注に比べて作業時間を大幅に短縮し、無菌性の維持も容易になっています。

高カロリー輸液病態別特殊製剤の選択

患者の病態に応じた専用製剤の選択は、治療効果の最大化と合併症の予防において極めて重要です。各病態に特化した製剤の特徴と使い分けを詳細に解説します。

腎不全用製剤:キドパレン輸液

2024年12月に発売された最新の腎不全専用高カロリー輸液です。必須アミノ酸/非必須アミノ酸比が3.4と極めて高く、分岐鎖アミノ酸含有率45.8%、NPC/N比300という特徴的な組成を持ちます。従来の腎不全用アミノ酸製剤との組み合わせに比べて、より生理的なアミノ酸代謝を実現します。

慢性腎臓病患者では蛋白質制限が必要ですが、高カロリー輸液投与時は異化抑制のため適切な窒素供給が重要です。キドパレンは1050mL中に1500kcalを含有し、腎機能に配慮しながら十分なエネルギー供給を可能にします。

肝障害患者への配慮

肝胆膵手術患者では、黄疸による栄養不良状態が多く認められます。このような患者には分岐鎖アミノ酸を多く含むアミノレバンとの組み合わせが推奨されます。肝切除後は必須アミノ酸のみでなく、総合アミノ酸を併用することで尿中遊離アミノ酸の排出を抑制できることが報告されています。

小児用製剤:リハビックス

小児の栄養必要量は成人と大きく異なるため、専用製剤の使用が重要です。リハビックスK1号、K2号は小児の成長発育に配慮した電解質とアミノ酸組成を持ち、浸透圧比4~5で安全に使用できます。

微量元素欠乏症対策

長期栄養管理では微量元素欠乏症のリスクが知られています。セレン欠乏症に対しては院内製剤でセレン注射液を作成し高カロリー輸液に混注する方法や、亜鉛欠乏症にはポラプレジンクの併用が有効とされています。エルネオパNFやワンパルなどの微量元素配合製剤の使用により、これらの欠乏症を予防できます。

高カロリー輸液投与経路による種類の違い

高カロリー輸液の投与経路は浸透圧によって決定され、製剤選択の重要な判断基準となります。投与経路による分類と各製剤の特性を理解することで、安全で効果的な栄養管理が実現できます。

中心静脈栄養(TPN)製剤

浸透圧比4以上の高濃度製剤で、中心静脈からの投与が必須です。エルネオパNF(浸透圧比4~6)、フルカリック(浸透圧比4~6)、ハイカリック(浸透圧比4~8)などが該当します。中心静脈は太く血流が豊富なため、高浸透圧の輸液も血液により速やかに希釈され、血管障害のリスクが最小化されます。

末梢静脈栄養(PPN)製剤

浸透圧比3以下に調整された製剤で、末梢静脈からの投与が可能です。ビーフリード、エネフリードなどがこのカテゴリーに属し、短期間の栄養管理に使用されます。ブドウ糖濃度は7.5%に制限されるため、NPC/N比は64と低く、十分なカロリー供給には限界があります。

PICC(末梢挿入中心静脈カテーテル)の活用

近年、末梢から中心静脈にカテーテルを挿入するPICCが注目されています。従来の中心静脈穿刺に比べて合併症が少なく、簡便な操作で中心静脈アクセスを確保できるため、高カロリー輸液の投与経路として使用頻度が増加しています。

浸透圧と血管障害の関係

高濃度ブドウ糖液(50%、70%)の浸透圧比は12~15と極めて高く、末梢静脈への投与は血管障害を引き起こします。このため、厚生労働省からも高カロリー輸液の投与経路に関する注意が発出されており、適切な投与経路の選択が強調されています。

脂肪乳剤の併用効果

末梢静脈栄養では脂肪乳剤の同時投与により、NPC/Nの向上と浸透圧の低下による血栓性静脈炎の予防効果が期待できます。脂肪は単位容積あたりのエネルギー密度が高く、ブドウ糖に比べてCO2産生量も少ないという利点があります。

高カロリー輸液選択における臨床的注意点

高カロリー輸液の適切な選択には、患者の病態、栄養状態、合併症リスクを総合的に評価する必要があります。臨床現場での実践的な選択指針と注意すべきポイントを解説します。

開始時期と投与量の調整

重症患者では経腸栄養が優先されますが、消化管が使用できない場合や栄養投与量が不足する場合に静脈栄養を開始します。初期目標投与エネルギー値に明確なエビデンスはありませんが、簡易推算式(25 kcal/kg/日をベース)から算出し、漸増法で投与計画を立てる方法が一般的です。

高度な栄養リスクを有する症例(入院前栄養障害、高度侵襲)では早期開始と積極的な栄養療法が重要とされています。侵襲が強い場合は蛋白質量を1.2~1.5 g/kg/日に増量し、カロリーも1.2~1.5倍に調整します。

耐糖能に応じた製剤選択

耐糖能が不明または低下している場合は、低濃度糖質製剤から開始する必要があります。エルネオパNF1号(糖濃度12%)は開始液として適しており、耐糖能の改善を確認後にエルネオパNF2号(糖濃度17.5%)への変更を検討します。

高濃度ブドウ糖の投与では血糖管理が重要で、必要に応じてインスリンの併用を行います。ただし、肝胆膵手術患者の検討では、インスリンを必要とした例は少なく、高濃度ブドウ糖をベースとした高カロリー輸液も十分に実施可能とされています。

水分管理と腎機能の考慮

高カロリー輸液投与時は患者の尿量が1日500mL又は1時間当たり20mL以上あることが望ましいとされています。腎機能低下患者では水分制限が必要な場合があり、高濃度ブドウ糖液をベースとした処方が選択されることが多くなります。

NPC/N比の最適化

腎不全患者ではNPC/N比200以上が適正とされていますが、一般的な高カロリー輸液キット製剤のNPC/N比は150前後に設定されています。腎機能低下患者では高濃度ブドウ糖液ベースの処方やキドパレン(NPC/N比300)の使用が推奨されます。

合併症予防と安全管理

ジギタリス製剤使用患者では、カルシウムがジギタリスの作用を増強するため注意が必要です。大量・急速投与は脳浮腫、肺水腫、アシドーシス、水中毒のリスクがあるため、適切な投与速度の維持が重要です。

ビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスやウェルニッケ脳症の予防のため、ビタミンB1製剤の併用は必須です。キット製剤を使用する場合でも、病態に応じて追加のビタミン補給を検討する必要があります。

これらの臨床的注意点を踏まえ、患者個々の状態に応じた最適な高カロリー輸液の選択と管理を行うことで、安全で効果的な栄養療法が実現できます。

日本静脈経腸栄養学会による静脈栄養の動向と問題点に関する詳細な解説
厚生労働省による高カロリー輸液の投与経路に関する安全性指針