利尿剤一覧と分類
利尿剤ループ系の特徴と代表薬
ループ利尿薬は、ヘンレループの太い上行脚にあるNa-K-2Cl輸送系(NKCC2)を阻害することで強力な利尿作用を発揮します。この分類に属する代表的な薬剤は以下の通りです。
・錠剤:10mg、20mg、40mg
・注射液:20mg、100mg
・適応:高血圧症、心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫
・薬価:ラシックス錠20mg 10.1円/錠、後発品は6.3円/錠
トラセミド(ルプラック)
・錠剤:4mg、8mg
・フロセミドの10~30倍の利尿効果を有する
・薬価:ルプラック錠4mg 14.4円/錠、後発品は6.1円/錠
ブメタニド(ルネトロン)
・錠剤・注射液
・適応:心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫、癌性腹水
アゾセミド(ダイアート)
・錠剤:30mg、60mg
・長時間作用型でコンプライアンス良好
・薬価:ダイアート錠30mg 10.7円/錠、後発品は10.4円/錠
ループ利尿薬の作用機序として、腎臓での塩分と水分の再吸収を阻害し、短時間で大量の尿を産生します。即効性があり、内服後30分~1時間で効果が現れ、持続時間は6~8時間程度です。
うっ血性心不全では利尿効果を発する閾値が増加し、最大効果も低下するため、通常フロセミドでは静注で20mg/回から開始し、80mg/回まで必要に応じて増量します。それ以上の高用量が必要な場合は持続点滴が推奨されます。
利尿剤チアジド系の作用機序と使い分け
チアジド系および類似利尿薬は、遠位尿細管におけるNaCl共輸送(NCC)を阻害して利尿効果を発現します。食塩感受性高血圧症に良好な適応を示し、浮腫性疾患に対してはループ利尿薬との併用で使用されることが多いです。
チアジド系利尿薬
・トリクロルメチアジド(フルイトラン):1mg、2mg錠
・ヒドロクロロチアジド:12.5mg、25mg錠
・薬価:フルイトラン錠2mg 10.1円/錠、後発品は6.4円/錠
チアジド系類似利尿薬
・インダパミド(ナトリックス):本態性高血圧症に特化
・メフルシド(バイカロン):25mg錠
・クロルタリドン(ハイグロトン):長時間作用型
・トリパミド(ノルモナール)
・メチクラン(アレステン)
これらの薬剤は経口摂取による吸収が良好で、蛋白と結合して運搬され、近位尿細管から排泄されます。半減期はGFRの低下および高齢で延長し、利尿効果は減弱することが知られています。
チアジド系利尿薬は理論的にはGFRを低下させるため、通常CKDステージG3以降では投与しません。ただし、難治性の浮腫でループ利尿薬の効果が減じている場合、チアジド系の併用が有効な場合があります。
高血圧治療においては、食塩感受性高血圧に特に有効で、長期使用による心血管イベント抑制効果が証明されています。副作用として低カリウム血症、高尿酸血症、耐糖能異常に注意が必要です。
利尿剤カリウム保持性の副作用と注意点
カリウム保持性利尿薬は、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとNaチャネル遮断薬に分類され、いずれも遠位部ネフロンに作用します。ループ利尿薬やチアジド系と異なり、K+排泄および酸排泄を促進せず、Ca2+、Mg2+排泄も増加させません。
スピロノラクトン(アルダクトンA)
・錠剤・細粒:25mg、50mg
・肝硬変による腹水治療の第1選択薬
・左室収縮能不全による心不全にも神経内分泌学的改善効果
・適応:高血圧症、心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫、原発性アルドステロン症
トリアムテレン(トリテレン、ジウテレン)
・カプセル・錠剤・顆粒
・Naチャネル遮断による作用機序
・スピロノラクトンとの併用効果
カンレノ酸カリウム(ソルダクトン)
・注射薬
・経口カリウム保持性利尿薬の服用が困難な場合の適応
副作用として最も重要なのは高カリウム血症です。腎機能の低下により高K血症を起こしやすくなるため、定期的な採血による監視が必要です。その他の副作用として以下が報告されています。
・電解質異常:高カリウム血症、低ナトリウム血症
・消化器症状:食欲不振、悪心、嘔吐
・内分泌系:女性化乳房(スピロノラクトンで特に注意)
・皮膚症状:発疹、蕁麻疹
肝硬変による浮腫・腹水では、AASLDガイドラインで軽症例にはスピロノラクトン25-50mg/日から開始し、重症例ではフロセミド40mg+スピロノラクトン100mgから最高フロセミド160mgとスピロノラクトン400mgの併用を推奨しています。
利尿剤浸透圧性の適応と投与方法
浸透圧利尿薬は、血中で代謝を受けずに糸球体から完全に濾過され、尿細管での再吸収を受けないために浸透圧利尿を起こします。主に急性期の脳圧降下や眼圧降下に使用される特殊な利尿薬です。
D-マンニトール(マンニットールS)
・注射薬のみ
・適応:脳圧降下・脳容積縮小、眼内圧降下、急性腎不全の予防・治療
・投与方法:通常0.5-2g/kgを静脈内投与
濃グリセリン・果糖(グリセオール)
・注射薬
・適応:頭蓋内圧亢進、脳外科手術時の脳容積縮小、眼内圧下降
イソソルビド(イソバイド)
・内用液
・適応:脳腫瘍時の脳圧降下、緑内障の眼圧降下、メニエール病
浸透圧利尿薬の作用機序として、マンニトールはヘンレ上行脚に到るまでの水透過性のあるネフロンを通過することで濃縮され、Na+再吸収を促進します。その結果、管腔内Na+濃度は減少し、遠位部ネフロンでNa+のバックフローを生じてNa+利尿とともにK+分泌も促進されます。
副作用として注意すべき点。
・循環器系:胸部圧迫感、血圧変動
・中枢神経系:めまい、頭痛
・消化器系:悪心、口渇
・電解質異常:低ナトリウム血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシス
・重篤な副作用:大量投与により急性腎障害
内服タイプのイソソルビドでは、下痢、嘔気、嘔吐、食欲不振、頭痛、不眠などの副作用に加え、ショック、アナフィラキシーの重篤な副作用も報告されています。
利尿剤の強さランキングと選択基準
利尿薬の選択には、患者の病態、腎機能、併存疾患を考慮した総合的な判断が必要です。強さの観点から分類すると以下のようになります。
第1位:ループ利尿薬
・最強の利尿作用
・トラセミド(ルプラック):フロセミドの10-30倍の効果
・フロセミド(ラシックス):標準的なループ利尿薬
・即効性:内服後30分-1時間で効果発現
第2位:チアジド系類似利尿薬
・中等度の利尿作用
・インダパミド:高血圧に特化した効果
・クロルタリドン:長時間作用型
第3位:チアジド系利尿薬
・軽度から中等度の利尿作用
・トリクロルメチアジド:汎用性が高い
・ヒドロクロロチアジド:配合薬での使用が多い
第4位:カリウム保持性利尿薬
・軽度の利尿作用
・単独使用よりも他剤との併用で効果発揮
・スピロノラクトン:肝硬変の第1選択
選択基準として以下の要因を考慮します。
🏥 病態別選択基準
・急性心不全:ループ利尿薬(フロセミド、トラセミド)
・慢性心不全:ループ利尿薬+カリウム保持性利尿薬
・高血圧:チアジド系・類似利尿薬
・肝硬変:スピロノラクトン+ループ利尿薬
・ネフローゼ症候群:ループ利尿薬(高用量)
⚕️ 腎機能別選択基準
・CKD G1-2:全ての利尿薬が使用可能
・CKD G3a-3b:チアジド系の効果減弱、ループ利尿薬が中心
・CKD G4-5:ループ利尿薬のみ、高用量が必要
💡 コスト効率性
後発品の使用により大幅なコスト削減が可能です。例えば、ラシックス錠20mgは10.1円/錠に対し、後発品は6.3円/錠と約40%の削減効果があります。
⚠️ 安全性プロファイル
・ループ利尿薬:電解質異常、腎機能悪化
・カリウム保持性:高カリウム血症
・浸透圧性:急性腎障害(大量投与時)
適切な利尿薬選択には、これらの要因を総合的に評価し、患者個別の治療目標に応じた薬剤選択と用量調整が重要です。また、定期的なモニタリングにより副作用の早期発見と対応を行うことで、安全で効果的な治療が実現できます。
参考リンク。
利尿薬の詳細な作用機序と臨床応用について
https://www.kotobuki-pharm.co.jp/guide/guide07
利尿薬の薬価情報と後発医薬品の比較
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG01690