非ホジキンリンパ腫 症状と治療方法の特徴と進行度

非ホジキンリンパ腫 症状と治療方法

非ホジキンリンパ腫の基本情報
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発症率

日本でみられるリンパ腫の約90%以上を占める

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悪性度分類

低悪性度(年単位で進行)、中悪性度(月単位で進行)、高悪性度(週単位で進行)

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主な治療法

化学療法、放射線療法、免疫療法、造血幹細胞移植など

非ホジキンリンパ腫の特徴と分類について

ホジキンリンパ腫は、リンパ球と呼ばれる白血球の一種ががん化することで発症するリンパ系の悪性腫瘍です。日本においては、リンパ腫全体の約90%以上を占めており、ホジキンリンパ腫以外のすべてのリンパ腫がこのカテゴリーに含まれます。

非ホジキンリンパ腫は、病気の進行速度や症状の激しさ(悪性度)によって、主に以下の3つに分類されます。

  1. 低悪性度リンパ腫:年単位でゆっくりと進行するタイプ
    • 代表例:濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫など
    • 特徴:進行が遅く、無症状で経過することも多い
  2. 中悪性度リンパ腫:月単位で進行するタイプ
    • 特徴:低悪性度と高悪性度の中間的な性質を持つ
  3. 高悪性度リンパ腫:週単位で急速に進行するタイプ
    • 代表例:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫など
    • 特徴:進行が早く、早急な治療が必要

また、がん化した細胞の種類によっても、B細胞性、T細胞性、NK細胞性に分類されます。日本人の場合、B細胞性リンパ腫が最も多く見られます。

非ホジキンリンパ腫の発症原因は完全には解明されていませんが、加齢、放射線への曝露、慢性炎症、特定のウイルス感染(エプスタイン・バールウイルスなど)、免疫系の異常などが関連していると考えられています。

非ホジキンリンパ腫の初期症状とリンパ節腫脹の特徴

非ホジキンリンパ腫の最も一般的な初期症状は、痛みを伴わないリンパ節の腫れです。特に首、わきの下、足の付け根(鼠径部)などのリンパ節が腫れることが多いです。非ホジキンリンパ腫では、腋の下や足の付け根のリンパ節が腫れやすいという特徴があります。

リンパ節の腫れ以外にも、以下のような症状が現れることがあります。

  • B症状と呼ばれる全身症状
    • 原因不明の発熱(38℃以上)
    • 6ヶ月間で体重の10%以上の減少
    • 寝汗(夜間の発汗)
  • その他の症状
    • 持続的な疲労感
    • 皮膚のかゆみ
    • 食欲不振
    • 持続的な咳や呼吸困難(胸部リンパ節が腫れた場合)

    腫れたリンパ節が周囲の臓器を圧迫すると、その部位に応じた症状が現れます。

    • 胸部リンパ節の腫れ:咳、呼吸困難、顔面・首・腕の腫れ
    • 腹部リンパ節の腫れ:食欲不振、便秘、腹痛、足のむくみ
    • 脊髄近くのリンパ節の腫れ:麻痺などの神経症状

    これらの症状は他の疾患でも見られるため、症状だけで非ホジキンリンパ腫と診断することはできません。しかし、痛みを伴わないリンパ節の腫れが2週間以上続く場合や、B症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

    非ホジキンリンパ腫の診断方法と病期分類

    非ホジキンリンパ腫の正確な診断には、複数の検査が必要です。診断の流れと主な検査方法について解説します。

    1. 問診と身体検査

    医師は症状の出現時期や全身症状(発熱、体重減少、盗汗など)の有無を確認し、腫れているリンパ節の触診を行います。

    2. 確定診断のための検査

    • リンパ節生検:最も重要な検査で、腫れているリンパ節を摘出または一部を採取して顕微鏡で観察します。
    • 免疫組織化学検査:CD20、CD79a、CD3などの細胞表面マーカーを調べ、リンパ腫の種類を特定します。
    • 遺伝子検査:特定の染色体異常や遺伝子変異を調べます。

    3. 病期(ステージ)を決定するための検査

    • 血液検査:白血球数、赤血球数、血小板数、LDH値、可溶性IL-2R値などを調べます。
    • 画像検査
      • CT検査:頸部、胸部、腹部、骨盤の病変を確認
      • PET-CT検査:全身のリンパ腫の広がりを評価
      • MRI検査:必要に応じて脳や脊髄の病変を確認
    • 骨髄検査:骨髄にリンパ腫細胞が浸潤しているかを調べます。
    • 髄液検査:中枢神経系への浸潤が疑われる場合に実施します。
    • 内視鏡検査:消化管に病変がある場合に行います。

    病期(ステージ)分類

    非ホジキンリンパ腫の病期は、アン・アーバー分類に基づいてⅠ期からⅣ期に分類されます。

    • Ⅰ期:1つのリンパ節領域または1つの臓器に限局
    • Ⅱ期:横隔膜の同じ側にある2つ以上のリンパ節領域に病変がある
    • Ⅲ期:横隔膜の両側にリンパ節病変がある
    • Ⅳ期:リンパ節以外の臓器(骨髄、肝臓、肺など)に広範囲に広がっている

    さらに、B症状(発熱、体重減少、盗汗)がある場合は「B」、ない場合は「A」を付けて表記します(例:ⅡB期)。

    病期と悪性度の組み合わせにより、治療方針が決定されます。早期発見・早期治療が予後改善につながるため、症状がある場合は速やかに専門医を受診することが重要です。

    非ホジキンリンパ腫の悪性度別治療アプローチ

    非ホジキンリンパ腫の治療は、悪性度(進行の速さ)と病期(広がり)によって大きく異なります。ここでは悪性度別の治療アプローチについて詳しく解説します。

    1. 低悪性度リンパ腫の治療

    低悪性度リンパ腫は進行が遅いため、状況によっては直ちに治療を開始せず、定期的な検査で経過観察する「watch and wait(経過観察)」という選択肢もあります。

    • 限局期(Ⅰ期、一部のⅡ期)
      • 放射線療法が標準治療
      • 病変が近接している場合は放射線療法単独
      • 病変が離れている場合は個別に判断
    • 進行期(Ⅲ期、Ⅳ期、一部のⅡ期)
      • 経過観察
      • 化学療法(リツキシマブ+化学療法薬の併用など)
      • 圧迫症状がある部位への局所放射線療法
    • 特殊なケース
      • 胃MALTリンパ腫でピロリ菌陽性の場合は、ピロリ菌除菌療法が第一選択
      • ピロリ菌陰性の場合は放射線療法

      2. 中悪性度リンパ腫の治療

      • 限局期
        • 化学療法(R-CHOP療法など)
        • 化学療法と放射線療法の併用
      • 進行期
        • 化学療法(R-CHOP療法が標準的)

        3. 高悪性度リンパ腫の治療

        高悪性度リンパ腫は進行が早いため、診断後速やかに治療を開始する必要があります。

        • 限局期・進行期ともに
          • 強力な化学療法(R-CHOP療法、DA-EPOCH-R療法など)
          • 特殊なタイプ(バーキットリンパ腫など)には、より強力な化学療法レジメン

          主な治療法の詳細

          1. 化学療法
            • R-CHOP療法:リツキシマブ(抗CD20抗体)+ CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)
            • R-Bendamustine療法:リツキシマブ + ベンダムスチン
            • DA-EPOCH-R療法:用量調整EPOCH + リツキシマブ
          2. 免疫療法
            • モノクローナル抗体療法(リツキシマブ、オビヌツズマブなど)
            • CAR-T細胞療法(再発・難治例に対して)
          3. 放射線療法
            • 限局期の治療や、化学療法後の残存病変に対して実施
          4. 造血幹細胞移植
            • 自家移植:再発高リスク例や救援療法後の強化療法として
            • 同種移植:再発・難治例に対して実施

          治療選択は、リンパ腫の種類、病期、患者の年齢や全身状態、合併症などを総合的に判断して決定されます。また、治療の進歩は著しく、新たな分子標的薬や免疫療法の開発が進んでいるため、最新の治療情報を得ることも重要です。

          非ホジキンリンパ腫の最新治療法と分子標的薬の進展

          非ホジキンリンパ腫の治療は近年大きく進歩しており、従来の化学療法や放射線療法に加えて、様々な新規治療法が開発されています。ここでは、最新の治療アプローチと分子標的薬の進展について解説します。

          1. 分子標的薬の発展

          分子標的薬は、がん細胞に特異的に発現している分子を標的とする薬剤で、正常細胞への影響を最小限に抑えながら効果を発揮します。

          • BTK阻害剤
            • イブルチニブ、アカラブルチニブなど
            • B細胞受容体シグナル伝達を阻害し、B細胞リンパ腫の増殖を抑制
            • マントル細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫に有効
          • BCL-2阻害剤
            • ベネトクラクス
            • アポトーシス(細胞死)を誘導する
            • 濾胞性リンパ腫や慢性リンパ性白血病に効果
          • PI3K阻害剤
            • イデラリシブ、コパンリシブなど
            • B細胞の増殖シグナルを阻害
            • 再発・難治性の濾胞性リンパ腫などに使用
          • EZH1/2阻害剤
            • バレメトスタット
            • 日本で開発された新規薬剤で、再発・難治性非ホジキンリンパ腫に対する臨床試験で良好な結果を示している

            2. 免疫チェックポイント阻害剤

            • PD-1/PD-L1阻害剤
              • ニボルマブペムブロリズマブなど
              • 免疫細胞の活性を高め、がん細胞を攻撃する
              • 特に古典的ホジキンリンパ腫で高い効果を示すが、一部の非ホジキンリンパ腫にも有効

              3. 抗体薬物複合体(ADC)

              • ポラツズマブ ベドチン
                • 抗CD79b抗体に細胞毒性物質を結合させた薬剤
                • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して承認
              • ロンツキシマブ テシリン
                • 抗CD19抗体に細胞毒性物質を結合
                • 再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に使用

                4. CAR-T細胞療法

                CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞を採取し、がん細胞を認識する受容体(CAR)を導入して体内に戻す治療法です。

                • チサゲンレクルユーセル(キムリア)
                  • 抗CD19 CAR-T細胞療法
                  • 再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して高い奏効率
                • アキシカブタゲン シロルユーセル(イエスカルタ)
                  • 別のタイプの抗CD19 CAR-T細胞療法
                  • 複数回再発した大細胞型B細胞リンパ腫に対して承認

                  5. バイスペシフィック抗体

                  • モスネツズマブ
                    • CD20とCD3の両方に結合し、T細胞をB細胞リンパ腫に誘導する
                    • 再発・難治性の濾胞性リンパ腫に対して有望な結果

                    6. 臨床試験中の新規治療法

                    • エピジェネティック調節剤
                      • ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤など
                      • 遺伝子発現を調節することでがん細胞の増殖を抑制
                    • 免疫療法の組み合わせ
                      • 複数の免疫チェックポイント阻害剤の併用
                      • 免疫療法と従来の化学療法の組み合わせ

                      最新の研究によると、バレメトスタットなどの新規EZH1/2阻害剤は、再発または難治性非ホジキンリンパ腫患者に対する臨床試験で許容できる安全性プロファイルと良好な臨床効果を示しています。

                      バレメトスタット単剤療法の臨床試験結果についての詳細はこちら(Lancet Oncology)

                      非ホジキンリンパ腫の治療は個別化が進んでおり、患者さんの病型、遺伝子変異、全身状態などを考慮して最適な治療法が選択されるようになっています。新規治療法の開発は日進月歩であり、以前は予後不良とされていたタイプのリンパ腫でも治療成績が向上しています。

                      非ホジキンリンパ腫患者の生活の質を高める支持療法と心理的サポート

                      非ホジキンリンパ腫の治療は、がん細胞を標的とする治療だけでなく、患者さんの生活の質(QOL)を維持・向上させるための支持療法や心理的サポートも重要です。ここでは、治療中や治療後の患者さんの生活をサポートする方法について解説します。

                      1. 治療に伴う副作用への対策

                      • 骨髄抑制対策
                        • G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の予防的投与
                        • 感染予防のための抗生物質や抗真菌薬の使用
                        • 貧血に対する赤血球輸血や鉄剤投与
                        • 血小板減少に対する血小板輸血
                      • 悪心・嘔吐対策
                        • 最新の制吐剤(5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬など)の使用
                        • 食事の工夫(少量頻回摂取、冷たい食べ物の選択など)
                      • 口内炎対策
                        • 口腔ケア指導
                        • 痛みに対する局所麻酔薬含有の含嗽剤
                      • 末梢神経障害対策
                        • 症状に応じた薬物療法(プレガバリン、デュロキセチンなど)
                        • リハビリテーション

                        2. 栄養サポート

                        • 栄養士による個別指導
                          • 治療中の食欲不振に対する食事の工夫
                          • 免疫力を高める栄養バランスの指導
                        • 経口栄養補助食品の活用
                          • 高カロリー、高タンパク質の栄養補助食品
                          • 嚥下困難な場合の対応
                        • 必要に応じた輸液療法
                          • 経口摂取が困難な場合の栄養サポート

                          3. 運動療法

                          • 個別化された運動プログラム
                            • 体力維持・向上のための適切な運動
                            • 疲労軽減のための活動と休息のバランス
                          • リハビリテーション
                            • 筋力低下や関節拘縮の予防
                            • 日常生活動作(ADL)の維持・改善

                            4. 心理的サポート

                            • 専門家によるカウンセリング
                              • 臨床心理士や精神腫瘍医によるサポート
                              • 不安やうつ症状への対応
                            • 患者会・サポートグループへの参加
                              • 同じ経験を持つ患者同士の交流
                              • 情報共有と精神的支え
                            • 家族へのサポート
                              • 家族向けの教育プログラム
                              • 介護負担の軽減策

                              5. 社会的サポート

                              • 医療費助成制度の活用
                                • 高額療養費制度
                                • 特定疾患医療費助成制度
                                • 障害年金など
                              • 就労支援
                                • 治療と仕事の両立支援
                                • 職場への復帰プログラム
                              • 医療ソーシャルワーカーによる相談
                                • 社会資源の紹介
                                • 経済的問題への対応

                                6. 緩和ケア

                                緩和ケアは、病気の早期段階から治療と並行して提供されるべきサポートです。

                                • 症状マネジメント
                                  • 痛みや倦怠感などの症状コントロール
                                  • 睡眠障害への対応
                                • スピリチュアルケア
                                  • 人生の意味や価値に関する問いへの対応
                                  • 宗教的ニーズへの配慮
                                • アドバンス・ケア・プランニング
                                  • 将来の治療や療養に関する希望の共有
                                  • 意思決定支援

                                  非ホジキンリンパ腫の治療は長期にわたることも多く、治療中だけでなく治療後のフォローアップも重要です。治療後の晩期合併症(二次がんや心血管疾患など)のモニタリングや、社会復帰に向けたサポートも含めた包括的なケアが求められます。

                                  患者さん一人ひとりのニーズに合わせた支持療法と心理的サポートを提供することで、治療の継続性を高め、生活の質を維持しながら最適な治療成果を得ることが可能になります。

                                  国立がん研究センター 支持療法の詳細についてはこちら