エクリズマブ 一覧と薬効分類
エクリズマブの商品一覧と特徴
エクリズマブ(遺伝子組換え)は、補体C5に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体であり、現在日本で流通している主な商品名は「ソリリス点滴静注300mg」(アレクシオンファーマ)です。この薬剤は2010年に日本で初めて承認された終末補体阻害薬で、1バイアル(30mL)中にエクリズマブ300mgを含有しています。
海外では以下の商品名でも流通しています。
- SOLIRIS(Alexion Pharmaceuticals):米国をはじめ世界51カ国以上で承認
- BKEMV(Amgen):バイオシミラー製品
- EPYSQLI(Samsung Bioepis):バイオシミラー製品
ソリリス点滴静注300mgの薬価は615,752円/瓶(2025年3月時点)と高額であり、特定の希少疾患に対する治療薬として位置づけられています。添加物として塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸一水素ナトリウム七水和物、ポリソルベート80などが含まれています。
製造過程では、マウス骨髄腫由来細胞を用いており、培地成分としてウシの血清由来成分(アルブミン)およびウシの胎仔由来成分(血清)が使用されています。これは生物学的製剤の特性として理解しておくべき点です。
エクリズマブの適応症と疾患一覧
エクリズマブは複数の希少疾患に対して適応が認められています。現在日本で承認されている適応症は以下の通りです。
- 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)における溶血抑制
- 2010年4月に日本で初めて承認された適応症
- 赤血球膜上の補体制御因子の欠損による溶血を抑制
- 非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)における血栓性微小血管障害の抑制
- 2013年9月に日本で承認
- 補体制御異常による血小板減少、溶血性貧血、急性腎障害の三徴を特徴とする疾患
- 全身型重症筋無力症(gMG)
- アセチルコリン受容体に対する自己抗体による神経筋接合部の機能障害を改善
- 免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な患者に使用
- 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の再発予防
- 抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性の患者に限定
- 2019年11月に日本で追加承認
これらの疾患はいずれも補体系の異常活性化が病態に関与しており、エクリズマブによる補体C5の阻害が治療効果をもたらします。特にNMOSDについては、「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017」(日本神経学会)を参考に診断された患者に使用することが推奨されています。
エクリズマブの用法用量と投与スケジュール
エクリズマブの用法・用量は適応症や患者の年齢・体重によって異なります。適切な治療効果を得るためには、疾患ごとに設定された投与スケジュールを厳守することが重要です。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の場合:
- 導入期:エクリズマブ600mgを週1回、計4回点滴静注
- 維持期:初回投与4週間後から900mgを2週に1回点滴静注
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の場合:
年齢・体重に応じた投与量が設定されています。
- 18歳以上または40kg以上。
- 導入期:900mgを週1回、計4回
- 維持期:初回投与4週間後から1200mgを2週に1回
- 30kg以上40kg未満。
- 導入期:600mgを週1回、計2回
- 維持期:初回投与2週間後から900mgを2週に1回
- 20kg以上30kg未満。
- 導入期:600mgを週1回、計2回
- 維持期:初回投与2週間後から600mgを2週に1回
投与方法はいずれも点滴静注で、通常35分以上かけて投与します。投与速度の急激な変化は有害事象のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
エクリズマブの血中濃度を適切に維持することが治療効果の持続に重要であり、投与間隔を守ることが強く推奨されています。特に維持期の投与が遅れると、補体活性の回復によるブレイクスルー溶血のリスクが高まります。
エクリズマブの安全性と副作用一覧
エクリズマブは高い有効性を示す一方で、特有の副作用プロファイルを持ちます。医療従事者はこれらのリスクを理解し、適切な管理を行うことが求められます。
主な副作用と発現頻度:
- 髄膜炎菌感染症
- 最も重大な副作用の一つ
- 補体系の阻害により感染リスクが上昇
- 投与前のワクチン接種が必須(接種後少なくとも2週間経過後に投与開始)
- その他の感染症リスク
- インフルエンザ菌
- 肺炎球菌
- その他の莢膜形成細菌による感染症
- 注入に伴う反応
- 頭痛
- 悪心・嘔吐
- 発熱
- 倦怠感
- 免疫原性
- 抗薬物抗体の産生(頻度は低い)
エクリズマブ投与中の患者は、発熱や頭痛などの感染症状が現れた場合、速やかに医療機関を受診するよう指導する必要があります。特に髄膜炎菌感染症は急速に進行し、致命的となる可能性があるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
安全対策として、エクリズマブ投与患者には安全性カードが配布され、常時携帯することが推奨されています。このカードには、緊急時の連絡先や髄膜炎菌感染症のリスクに関する情報が記載されています。
エクリズマブとラブリズマブの比較一覧
エクリズマブ(ソリリス®)の後続薬として、同じく補体C5阻害薬であるラブリズマブ(ユルトミリス®)が開発されました。両薬剤の比較は臨床現場での薬剤選択において重要な情報となります。
構造と作用機序の比較:
- ラブリズマブはエクリズマブの誘導体で、エクリズマブ骨格に8個のアミノ酸変異を導入
- エクリズマブの重鎖可変領域に4個のアミノ酸置換を含む(27番のTyrと57番のSerをHisに置換)
- これらの変異により、pH依存的な抗体-抗原解離特性が付与され、リサイクリング能が向上
投与スケジュールの比較:
薬剤名 導入期 維持期 投与間隔 エクリズマブ(ソリリス®) 600mg×4回(週1回) 900mg 2週に1回 ラブリズマブ(ユルトミリス®) 体重に応じた用量 体重に応じた用量 8週に1回 ラブリズマブの最大の特徴は投与間隔の延長です。エクリズマブが2週間ごとの投与が必要であるのに対し、ラブリズマブは8週間ごとの投与で効果が持続します。これにより患者の通院負担が軽減され、QOL向上に寄与します。
薬力学的特性としては、ラブリズマブはエクリズマブと比較して。
- より急速かつ持続的に終末補体活性を阻害
- 血管内溶血のリスクを長期間抑制
- エクリズマブで見られるブレイクスルー溶血のリスクを低減
安全性プロファイルは両剤で類似していますが、投与間隔の違いにより患者のアドヒアランス向上が期待されています。2019年に発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認されたラブリズマブは、エクリズマブからの切り替えも検討される選択肢となっています。
エクリズマブの適応外使用と研究中の疾患
エクリズマブは承認適応症以外にも、補体系の異常活性化が関与する様々な疾患に対して研究や臨床使用が報告されています。これらの適応外使用は、特定の状況下で治療選択肢として検討される場合があります。
研究報告のある疾患:
- 寒冷凝集素症
- 症例報告では持続的な溶血抑制効果
- 輸血必要性の減少と自覚症状の改善
- QOL向上が報告されている
- 劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)
- 多臓器での同時血栓形成を特徴とする重篤な疾患
- 補体活性阻害による急性血栓形成の防止
- 血小板数回復と抗リン脂質抗体量制御の可能性
- 腸管出血性大腸菌性溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)
- 志賀毒素による補体活性化が病態に関与
- 一部の重症例での使用報告
- 急性体液性拒絶反応(AHR)/急性抗体関連拒絶反応(AMR)
- 臓器移植後の拒絶反応に対する使用
- 補体依存性細胞傷害の抑制
- 膜性増殖性糸球体腎炎
- 補体制御異常が関与する腎疾患
- 一部の症例での有効性報告
これらの適応外使用については、小規模な研究や症例報告が中心であり、大規模な臨床試験によるエビデンスは限られています。そのため、使用にあたっては慎重な判断と十分なインフォームドコンセントが必要です。
また、エクリズマブは高額な薬剤であるため、費用対効果の観点からも適応外使用の妥当性を慎重に評価する必要があります。現在も様々な補体関連疾患に対する臨床試験が進行中であり、今後適応拡大の可能性も考えられます。
エクリズマブの医療経済学的側面と薬価一覧
エクリズマブ(ソリリス®)は希少疾患治療薬として極めて高額な薬価が設定されており、医療経済学的な観点からの検討も重要です。
薬価情報(2025年3月時点):
- ソリリス点滴静注300mg:615,752円/瓶
この高額な薬価設定は、以下の要因によるものと考えられます。
- 対象となる希少疾患の患者数が少ない
- 研究開発費の回収
- 製造工程の複雑さ(バイオ医薬品)
- 代替治療法の不足
年間治療費は患者の体重や適応症によって異なりますが、PNHの成人患者の場合、維持期の投与(900mg、2週に1回)で計算すると、年間約1,600万円に達します。aHUSや他の適応症ではさらに高額になる可能性があります。
日本では希少疾患に対する医療費助成制度が整備されており、エクリズマブの対象疾患は以下の制度の対象となっています。
- 指定難病医療費助成制度
- PNH、aHUS、重症筋無力症、NMOSDはいずれも指定難病
- 自己負担上限額が設定され、それを超える医療費は公費負担
- 高額療養費制度
- 月ごとの医療費自己負担額に上限を設定
- 所得に応じた自己負担限度額が適用
これらの制度により患者の経済的負担は軽減されますが、医療保険財政への影響は無視できません。そのため、適正使用の推進や、より費用対効果の高い治療法の開発が求められています。
エクリズマブの後続薬であるラブリズマブ(ユルトミリス®)は投与間隔が延長されているため、年間投与回数の減少による医療資源の効率化が期待されています。しかし、薬価自体は同様に高額であるため、根本的な医療経済学的課題の解決には至っていません。
今後、バイオシミラーの開発や新たな補体阻害薬の登場により、競争が促進され薬価の適正化が進む可能性もあります。医療従事者は治療効果と経済的側面の両方を考慮した治療選択が求められています。