利胆薬の種類と作用機序
利胆薬の分類と代表的な薬剤一覧
利胆薬は、その化学構造や作用機序によっていくつかのグループに分類されます。ここでは、臨床で使用される主要な利胆薬を分類ごとに一覧で紹介します。
- 胆汁酸製剤
- ウルソデオキシコール酸(UDCA):最も広く使用される利胆薬
- デヒドロコール酸:注射剤として使用
- ケノデオキシコール酸:主に胆石溶解に使用
- 合成利胆薬
- トレピブトン:胆汁・膵液の分泌促進作用
- ヒメクロモン:胆道平滑筋弛緩作用も併せ持つ
- 植物性利胆薬
- オウゴン(黄芩):漢方薬に含まれる成分
- ダイオウ(大黄):伝統的な利胆作用を持つ生薬
- その他の利胆作用を持つ薬剤
- グルクロノラクトン:肝機能改善作用
- チオプロニン:抗酸化作用も併せ持つ
これらの薬剤は単独または併用で使用され、患者の症状や疾患の重症度に応じて選択されます。特に、ウルソデオキシコール酸は安全性が高く、多くの胆道系疾患の第一選択薬として位置づけられています。
利胆薬の効能と適応疾患
利胆薬は様々な胆道系および肝疾患の治療に用いられますが、それぞれの薬剤によって適応疾患や効能が異なります。ここでは、主要な利胆薬の効能と適応疾患について詳しく解説します。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)の効能・効果
- 胆道系疾患および胆汁うっ滞を伴う肝疾患における利胆
- 慢性肝疾患における肝機能の改善
- 小腸切除後遺症、炎症性小腸疾患における消化不良の改善
- 外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解
- 原発性胆汁性肝硬変における肝機能の改善
- C型慢性肝疾患における肝機能の改善
ウルソデオキシコール酸は、肝細胞に対する保護作用や抗炎症作用も持ち合わせており、特に原発性胆汁性肝硬変(PBC)の治療においては第一選択薬として確立されています。1980年代後半から使用され始め、PBC患者の予後を大きく改善させました。
デヒドロコール酸の効能・効果
- 胆道系疾患の治療
- 肝機能検査(BSP試験の前処置)
- 急性肝炎・慢性肝炎の補助療法
デヒドロコール酸は強力な速効性の胆汁分泌促進薬で、注射剤として使用されます。胆汁量は増加しますが、胆汁中の固形分の増加は伴わないため、低比重の胆汁分泌が起こるという特徴があります。
トレピブトン(スパカール)の効能・効果
- 胆石症・胆のう炎・胆管炎・胆道ジスキネジー・胆のう切除後症候群に伴う鎮痙・利胆
- 慢性膵炎に伴う疼痛や胃腸症状の改善
トレピブトンは胆汁・膵液の分泌を促進するだけでなく、消化管の平滑筋(オッジ括約筋など)の弛緩を促進し、胆のう・胆管の内圧を低下させる作用も持っています。
ケノデオキシコール酸(チノカプセル)の効能・効果
- コレステロール系胆石の溶解
- 胆汁組成の改善
ケノデオキシコール酸はコレステロール系胆石を溶かす作用や、胆汁組成を改善してコレステロールが結晶化するのを防ぐ作用があります。
利胆薬の副作用と禁忌
利胆薬は比較的安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用や禁忌事項があります。医療従事者は、これらを十分に理解した上で処方する必要があります。
ウルソデオキシコール酸の副作用
- 消化器症状:下痢(1〜5%未満)、悪心、食欲不振、便秘、胸やけ、胃不快感、腹痛、腹部膨満(0.1〜1%未満)、嘔吐(0.1%未満)
- 過敏症:そう痒、発疹(0.1〜1%未満)、蕁麻疹(0.1%未満)、紅斑(多形滲出性紅斑等)(頻度不明)
- 肝臓関連:AST上昇、ALT上昇、ALP上昇(0.1〜1%未満)、ビリルビン上昇、γ-GTP上昇(0.1%未満)
- その他:全身倦怠感、めまい(0.1〜1%未満)、白血球数減少(0.1%未満)
- 重大な副作用:間質性肺炎(頻度不明)
ウルソデオキシコール酸の禁忌
- 完全胆道閉塞のある患者
- 劇症肝炎の患者
デヒドロコール酸の副作用
デヒドロコール酸の禁忌
- 完全胆道閉塞のある患者
- 急性期の肝・胆道疾患のある患者
- 重篤な肝障害のある患者
- 気管支喘息、アレルギー性疾患のある患者
利胆薬を使用する際は、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うことが重要です。特に、完全胆道閉塞のある患者に利胆薬を投与すると、利胆作用により症状が増悪するおそれがあるため注意が必要です。
利胆薬の相互作用と併用注意
利胆薬は他の薬剤と併用する際に、相互作用を示すことがあります。特にウルソデオキシコール酸は、いくつかの薬剤との相互作用が報告されています。医療従事者は、これらの相互作用を理解し、適切な投与計画を立てる必要があります。
ウルソデオキシコール酸の主な相互作用
- コレスチラミン、コレスチミドとの相互作用
- 作用:本剤の作用を減弱するおそれがある
- 機序:本剤と結合し、本剤の吸収を遅滞あるいは減少させる
- 対処法:可能な限り間隔をあけて投与する
- 制酸剤(水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム等)との相互作用
- 作用:本剤の作用を減弱するおそれがある
- 機序:アルミニウムを含有する制酸剤は、本剤を吸着し、本剤の吸収を阻害する
- 対処法:投与間隔を空ける
- 脂質低下剤(クロフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート等)との相互作用
- 作用:コレステロール胆石溶解の目的で使用する場合、本剤の作用を減弱するおそれがある
- 機序:これらの薬剤は胆汁中へのコレステロール分泌を促進するため、コレステロール胆石形成が促進される可能性がある
- 対処法:併用を避けるか、慎重に経過観察を行う
これらの相互作用は、ウルソデオキシコール酸の吸収や効果に影響を与える可能性があるため、併用する場合は投与間隔を調整するなどの対策が必要です。また、患者の症状や検査値を定期的にモニタリングし、治療効果や副作用の発現に注意することが重要です。
利胆薬の臨床的有効性と最新研究
利胆薬、特にウルソデオキシコール酸(UDCA)は、様々な肝胆道系疾患の治療において重要な役割を果たしています。ここでは、利胆薬の臨床的有効性と最新の研究動向について解説します。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対するUDCAの有効性
原発性胆汁性胆管炎(旧称:原発性胆汁性肝硬変)は、UDCAが最も効果を発揮する疾患の一つです。1987年にPouponらがLancet誌に発表した論文を皮切りに、多くのランダム化比較試験やメタアナリシスが行われてきました。
UDCAの標準投与量(13-15 mg/kg/日)で治療を開始し、生化学的反応(通常は治療開始後6-12ヶ月で評価)に基づいて治療効果を判定します。UDCAに対する反応が不十分な場合は、オベチコール酸やベザフィブラートなどの二次治療の追加が検討されます。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2023年)
C型慢性肝疾患に対するUDCAの効果
UDCAはC型慢性肝疾患患者の肝機能を改善することが示されています。特に、インターフェロン治療との併用により、肝機能の改善や肝線維化の進行抑制が期待できます。ただし、UDCAの単独投与ではウイルス排除効果はなく、抗ウイルス療法との併用が基本となります。
胆石症に対する利胆薬の効果
コレステロール系胆石に対しては、UDCAやケノデオキシコール酸が溶解効果を示します。ただし、効果が現れるまでに6ヶ月以上の長期投与が必要で、治療中止後の再発率も高いという課題があります。適応は、直径15mm以下の浮遊性コレステロール胆石で、石灰化を認めないものに限られます。
最新の研究動向
近年、UDCAの新たな作用機序や適応疾患に関する研究が進んでいます。例えば、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対するUDCAの効果が検討されています。また、UDCAの抗炎症作用や抗アポトーシス作用に着目した研究も行われています。
さらに、UDCAの誘導体や新規利胆薬の開発も進んでおり、より効果的で副作用の少ない治療薬の登場が期待されています。例えば、24-ノルウルソデオキシコール酸(norUDCA)は、従来のUDCAよりも強力な胆汁酸依存性胆汁流を誘導し、原発性硬化性胆管炎(PSC)などの治療薬として期待されています。
利胆薬の臨床的有効性を最大化するためには、適切な薬剤選択、用量設定、治療期間の決定が重要です。また、定期的な肝機能検査や画像検査によるモニタリングを行い、治療効果や副作用の発現に注意することが必要です。
動物用利胆薬と人間用利胆薬の比較
利胆薬は人間の医療だけでなく、獣医療の分野でも広く使用されています。ここでは、動物用利胆薬と人間用利胆薬の違いや共通点について解説します。
動物用利胆薬の特徴
動物用のウルソデオキシコール酸製剤(ウルソ®-10%など)は、主に牛のケトーシスや肝機能減退症の治療に使用されます。有効成分は人間用と同じウルソデオキシコール酸ですが、動物の体格や代謝に合わせた製剤設計がなされています。
動物用ウルソデオキシコール酸の主な作用は以下の通りです。
- 利胆作用:肝細胞に直接作用して胆汁成分を豊富に含んだ胆汁の分泌を促進する催胆作用と、肝内細胆管から総胆管へと胆汁を押し流す排胆作用を併せ持ちます。ウルソデオキシコール酸は胆汁酸の中で最も強く利胆作用を示します。
- 肝血流量増加作用:肝臓が障害されると肝臓の血液量は減少しますが、ウルソデオキシコール酸は肝臓の血液量を増加させ、肝臓の障害を修復改善します。また、肝臓への血流が増加することにより、肝細胞への酵素や栄養の供給が高まるため、肝臓の代謝機能を高めます。
- 置換作用:投薬により胆汁酸中に界面活性作用が弱いウルソデオキシコール酸の割合が多くなります。他の胆汁酸に比べ界面活性作用が弱いウルソデオキシコール酸が多くなることにより、結果的に肝細胞を保護し、障害を受けた肝細胞の修復を助けます。
人間用利胆薬との比較
人間用と動物用の利胆薬は、基本的な有効成分や作用機序は同じですが、以下のような違いがあります。
- 剤形と投与方法:動物用は主に飼料添加剤や経口投与用の顆粒・粉末剤が多く、大量投与が可能な製剤設計がなされています。一方、人間用は錠剤やカプセル剤が主流です。
- 用量設定:動物の体重や代謝に合わせた用量設定がなされており、一般的に人間用よりも高用量で使用されることが多いです。
- 適応疾患:動物用はケトーシスや肝機能減退症など、家畜特有の代謝性疾患に対する適応があります。人間用は原発性胆汁性肝硬変やC型慢性肝疾患など、より広範な肝胆道系疾患に適応があります。
- 薬事規制:動物用医薬品と人間用医薬品では、承認プロセスや規制が異なります。動物用医薬品は農林水産省の管轄となります。
動物用利胆薬の使用においても、適切な診断と用量設定が重要です。特に、食用動物に使用する場合は、休薬期間を遵守する必要があります。また、人間用医薬品を動物に転用することは、安全性や有効性の観点から避けるべきです。
獣医療における利胆薬の使用は、人間の医療と同様に、肝胆道系疾患の治療において重要な役割を果たしています。今後も、動物種ごとの特性を考慮した製剤開発や臨床研究が進むことが期待されます。