アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)一覧と作用機序
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)に作用する降圧薬の一種です。血管平滑筋や副腎皮質に存在するアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)を選択的に阻害することで、アンジオテンシンIIの作用を抑制し、血管収縮の抑制やアルドステロン分泌の抑制などにより降圧効果を発揮します。
日本では2023年7月時点で、7種類のARBが臨床で使用されています。それぞれの薬剤には特徴があり、患者の状態に応じて選択されています。ARBは比較的副作用が少なく、24時間にわたる安定した降圧効果を示すことから、高血圧治療の第一選択薬として広く使用されています。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の7種類の特徴と比較
日本で使用可能な7種類のARBについて、その特徴と違いを詳しく解説します。
- アジルサルタン(アジルバ®)
- 用量:10mg/20mg/40mg
- 特徴:最大用量での降圧効果が他のARBより高いとされています
- 適応:高血圧症
- 半減期:約11時間と比較的長く、安定した降圧効果が期待できます
- オルメサルタン(オルメテック®)
- 用量:5mg/10mg/20mg/40mg(OD錠)
- 特徴:承認用量での降圧効果が高く、CYP2C19の寄与率が低い
- 適応:高血圧症
- 吸収性に優れており、食事の影響を受けにくい特徴があります
- テルミサルタン(ミカルディス®)
- 用量:20mg/40mg/80mg
- 特徴:100%胆汁排泄、CYP2C19の寄与率が低い、半減期が約24時間と最も長い
- 適応:高血圧症
- PPARγ活性化作用も有し、代謝改善効果も期待されています
- イルベサルタン(アバプロ®、イルベタン®)
- 用量:50mg/100mg/200mg
- 特徴:1日1回投与で安定した降圧効果
- 適応:高血圧症
- 脂溶性が高く、組織移行性に優れています
- カンデサルタン(ブロプレス®)
- 用量:2mg/4mg/8mg/12mg
- 特徴:小児(1歳以上)適応あり
- 適応:高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全(軽症~中等症)
- 心不全治療にも適応があり、心保護作用が期待できます
- バルサルタン(ディオバン®)
- 用量:20mg/40mg/80mg/160mg
- 特徴:豊富な用量設定で細かい調整が可能
- 適応:高血圧症
- 大規模臨床試験のエビデンスが豊富です
- ロサルタン(ニューロタン®)
これらのARBは、降圧効果や薬物動態、副作用プロファイルなどに若干の違いがありますが、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」などの国内ガイドラインでは、明確な使い分けについては明記されていません。患者の合併症や状態、薬物相互作用などを考慮して選択されることが多いです。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の作用機序と腎保護効果
ARBの作用機序を詳しく理解することで、その臨床効果や副作用をより深く把握することができます。
レニン-アンジオテンシン系において、レニンの活性化によってアンジオテンシンIIが産生されると、アンジオテンシンIIは主に2つの部位で作用します。
- 血管平滑筋に存在するAT1受容体:これに結合することで血管収縮作用を示します
- 副腎皮質に存在するAT1受容体:これに結合することでアルドステロン分泌促進作用を示します
また、アンジオテンシンIIは血管内皮細胞からのエンドセリンの放出と産生を高め、エンドセリンは血管平滑筋などのET_A受容体/ET_B受容体に結合してさらに血管を収縮させる作用があります。
ARBはこれらの作用を阻害することで降圧効果を発揮します。特に腎臓においては重要な作用を持ちます。
- アンジオテンシンIIは腎臓において主として輸出細動脈を収縮させ、糸球体内圧を上昇させるとともに、メサンギウム細胞の増殖やTGFβを介して糸球体硬化を進展させます
- ARBは輸出細動脈を拡張させることで糸球体内圧を減少させ、腎保護作用を示します
- この作用により、糖尿病性腎症や慢性腎臓病の進行を抑制する効果が期待できます
ただし、ARBによる輸出細動脈の拡張は、糸球体内圧の低下によりろ過機能の低下にもつながる可能性があり、急性腎障害を引き起こす一因となることもあります(いわゆるトリプルワーミー:NSAIDs、利尿薬、RAS阻害薬の併用による腎機能低下)。
腎機能低下による血圧上昇を抑制するため、ARBには腎保護作用があり、特に蛋白尿を伴う糖尿病性腎症患者においては、ロサルタンが適応を持っています。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と配合剤の種類と選択基準
高血圧治療において、複数の作用機序を持つ薬剤の併用は効果的な治療戦略です。ARBを含む配合剤は、服薬錠数の減少によるアドヒアランス向上や、相乗的な降圧効果が期待できます。
ARBとカルシウム拮抗薬の配合剤
商品名 | ジェネリック名 | 成分・含有量 |
---|---|---|
ザクラスLD | ジルムロLD | アジルサルタン20mg + アムロジピン2.5mg |
ザクラスHD | ジルムロHD | アジルサルタン20mg + アムロジピン5mg |
レザルタスLD | – | オルメサルタン10mg + アゼルニジピン8mg |
レザルタスHD | – | オルメサルタン20mg + アゼルニジピン16mg |
ミカムロAP | テラムロAP | テルミサルタン40mg + アムロジピン5mg |
ミカムロBP | テラムロBP | テルミサルタン80mg + アムロジピン5mg |
アイミクスLD | イルアミクスLD | イルベサルタン100mg + アムロジピン5mg |
アイミクスHD | イルアミクスHD | イルベサルタン100mg + アムロジピン10mg |
ユニシアLD | カムシアLD | カンデサルタン8mg + アムロジピン2.5mg |
ユニシアHD | カムシアHD | カンデサルタン8mg + アムロジピン5mg |
エックスフォージ | アムバロ | バルサルタン80mg + アムロジピン5mg |
アテディオ | – | バルサルタン80mg + シルニジピン10mg |
ARBと利尿薬の配合剤
商品名 | ジェネリック名 | 成分・含有量 |
---|---|---|
ミコンビAP | テルチアAP | テルミサルタン40mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg |
ミコンビBP | テルチアBP | テルミサルタン80mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg |
イルトラLD | – | イルベサルタン100mg + トリクロルメチアジド1mg |
イルトラHD | – | イルベサルタン200mg + トリクロルメチアジド2mg |
エカードLD | カデチアLD | カンデサルタン4mg + ヒドロクロロチアジド6.25mg |
エカードHD | カデチアHD | カンデサルタン8mg + ヒドロクロロチアジド6.25mg |
コディオMD | バルヒディオMD | バルサルタン80mg + ヒドロクロロチアジド6.25mg |
コディオEX | バルヒディオEX | バルサルタン80mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg |
プレミネントLD | ロサルヒドLD | ロサルタン50mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg |
プレミネントHD | ロサルヒドHD | ロサルタン100mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg |
3剤配合剤
商品名 | 成分・含有量 |
---|---|
ミカトリオ | テルミサルタン80mg + アムロジピン5mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg |
配合剤の選択基準としては以下の点が重要です。
- 患者の血圧コントロール状態:単剤で効果不十分な場合に配合剤への切り替えを検討
- 合併症の有無:糖尿病や腎疾患、心疾患などの合併症に応じた選択
- 副作用プロファイル:個々の患者に合わせた副作用の少ない組み合わせ
- 服薬アドヒアランス:錠数減少によるアドヒアランス向上が期待できる患者
利尿薬との配合剤は、ARBの降圧効果を増強する一方で、利尿薬によるNa排泄低下により代償的にレニン-アンジオテンシン系が亢進するため、相乗効果が期待できます。ただし、過度の血圧低下や電解質異常に注意が必要です。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とACE阻害薬の比較と使い分け
ARBとACE阻害薬は、ともにレニン-アンジオテンシン系を抑制する降圧薬ですが、作用機序や副作用プロファイルに違いがあります。
作用機序の違い
- ARB:アンジオテンシンII受容体(AT1)に直接結合して阻害
- ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素を阻害し、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を抑制
効果の違い
- 心筋梗塞抑制効果:エビデンスの量の関係から、ACE阻害薬のほうがARBに比べて優位性があるとされています
- 降圧効果:両者に大きな差はないとされていますが、個人差があります
- 腎保護効果:両者とも腎保護効果を持ちますが、特に蛋白尿減少効果はARBで確立されています
副作用の違い
- 空咳:ACE阻害薬の特徴的な副作用で、ブラジキニンの蓄積によるもの。ARBではほとんど見られません
- 血管浮腫:ACE阻害薬でより頻度が高く、重篤化することがあります
- 高カリウム血症:両者ともに起こりうる副作用です
- 妊婦への影響:両者とも妊娠中は禁忌です(胎児毒性のリスク)
使い分けのポイント
- 咳が出やすい患者:ARBを選択
- 心筋梗塞後や心不全患者:ACE阻害薬が第一選択となることが多い
- 糖尿病性腎症患者:ARB(特にロサルタン)が適応を持つ
- 高尿酸血症合併患者:尿酸排泄促進作用を持つロサルタンが有用
両薬剤とも、効果の発現には時間がかかり、有効性の評価は投与開始から4~8週後に行われることが一般的です。ACE阻害薬の降圧作用にはブラジキニンによるNO遊離も関与しており、これがARBとの作用機序の違いとなっています。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の臨床使用上の注意点と最新知見
ARBを安全かつ効果的に使用するためには、いくつかの重要な注意点と最新の知見を理解しておく必要があります。
使用上の注意点
- 腎機能障害患者への投与
- 輸出細動脈を拡張させることによる急性腎障害のリスク
- 特に脱水状態、高齢者、腎動脈狭窄患者では注意が必要
- NSAIDs、利尿薬との併用(トリプルワーミー)に注意
- 高カリウム血症
- 副腎のAT1受容体を抑制することで、アルドステロンによるNa-K交換機構を抑制
- カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトンなど)との併用に注意
- 定期的な血清カリウム値のモニタリングが必要
- 妊婦・授乳婦への投与
- 妊娠中の使用は禁忌(胎児の腎機能障害、頭蓋形成不全などのリスク)
- 妊娠可能な女性への投与時は避妊指導が必要
- 授乳中の安全性は確立していないため、授乳を中止するか投与を中止する
- 効果判定のタイミング
- 即効性ではなく、効果判定は4~8週後に行う
- 効果不十分な場合は増量または他剤の追加を検討
最新の知見と研究動向
- COVID-19との関連
- 当初、ACE2(SARS-CoV-2の侵入受容体)との関連からARBの使用に懸念があった
- その後の研究で、ARB継続の安全性が確認され、むしろ重症化リスク低減の可能性も示唆
- 認知症予防効果
- 中枢移行性の高いARB(特にテルミサルタン)によるアルツハイマー病予防効果の研究
- 脳内のレニン-アンジオテンシン系の抑制による神経保護作用の可能性
- 新規ARBの開発
- より選択性の高いAT1受容体拮抗作用を持つ新規ARBの開発
- 複数の作用機序を併せ持つ薬剤の研究(例:ARB+ネプリライシン阻害作用)
- 個別化医療への応用
- 遺伝子多型に基づくARB選択の研究
- 薬物動態学的特性に基づく最適なARB選択のアルゴリズム開発
ARBの臨床使用においては、患者の年齢、腎機能、合併症、併用薬などを総合的に評価し、個々の患者に最適な薬剤を選択することが重要です。また、定期的な血圧測定、腎機能検査、電解質検査を行い、効果と安全性を継続的にモニタリングすることが推奨されます。
高血圧治療ガイドライン2019(日本高血圧学会)- ARBの位置づけと推奨グレードについての詳細情報
日本循環器学会による降圧薬の使い分けに関する最新のエビデンス