心臓カテーテル検査の保険点数と請求方法

心臓カテーテル検査の保険点数と請求方法

心臓カテーテル検査の保険請求ポイント
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基本点数

右心カテーテル:3,600点、左心カテーテル:4,000点が基本点数として設定されています

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加算の種類

年齢加算、手技加算、検査加算など多様な加算制度があり適切な算定が重要です

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算定上の注意点

同時実施検査の包括範囲や事前検査の算定可否など、請求時の注意点を把握しましょう

心臓カテーテル検査は循環器疾患の診断や治療方針の決定に欠かせない重要な検査です。この検査の保険診療における取り扱いを正確に理解することは、医療機関の適切な診療報酬請求に不可欠です。本記事では、心臓カテーテル検査の保険点数体系や請求時の注意点について詳しく解説します。

心臓カテーテル検査の基本点数と算定区分

心臓カテーテル検査は、診療報酬点数表の「D206 心臓カテーテル法による諸検査(一連の検査について)」に分類されています。基本点数は以下のように設定されています。

  • 「1 右心カテーテル」:3,600点
  • 「2 左心カテーテル」:4,000点

これらの点数は、カテーテルの種類や挿入回数によらず「一連」として算定されます。つまり、同一日に複数回カテーテルを挿入しても、基本点数は1回分のみの算定となります。

また、心臓カテーテル検査に含まれる費用として、以下の項目は別途算定できません。

  • 諸監視
  • 血液ガス分析
  • 心拍出量測定
  • 脈圧測定
  • 肺血流量測定
  • 透視
  • 造影剤注入手技
  • 造影剤使用撮影
  • エックス線診断の費用

これらは全て所定点数に含まれているため、注意が必要です。ただし、エックス線撮影に用いられたフィルムの費用については、「E400 フィルム」の所定点数により別途算定することが可能です。

心臓カテーテル検査における各種加算の仕組み

心臓カテーテル検査では、患者の年齢や実施する検査内容によって様々な加算が設定されています。これらの加算を適切に算定することで、医療機関の収益に大きく影響します。

年齢による加算

  • 新生児加算:右心カテーテルの場合10,800点、左心カテーテルの場合12,000点
  • 3歳未満の乳幼児加算(新生児を除く):右心カテーテルの場合3,600点、左心カテーテルの場合4,000点

検査手技による加算

  • 卵円孔・欠損孔加算:800点
  • ブロッケンブロー加算(経中隔左心カテーテル検査):2,000点
  • 伝導機能検査加算:400点
  • ヒス束心電図加算:400点
  • 診断ペーシング加算:400点
  • 期外刺激法加算:800点
  • 冠攣縮誘発薬物負荷試験加算:800点
  • 冠動脈造影加算:1,400点

その他の検査加算

  • 血管内超音波検査加算:400点
  • 血管内光断層撮影加算:400点
  • 冠動脈血流予備能測定検査加算:600点
  • 血管内視鏡検査加算:400点
  • 心腔内超音波検査加算:400点

これらの加算は、右心カテーテルと左心カテーテルを同時に行った場合でも、1回のみの算定に限られます。また、血管内超音波検査、血管内光断層撮影、冠動脈血流予備能測定検査、血管内視鏡検査のうち、2つ以上の検査を同一月内に行った場合には、主たる検査の点数のみを算定します。

心臓カテーテル検査前の検査算定に関する注意点

心臓カテーテル検査を実施する前には、患者の全身状態を確認するための検査が必要です。しかし、すべての事前検査が保険請求の対象となるわけではありません。支払基金の審査基準によると、心臓カテーテル検査前の一般検査として以下の検査は原則として算定が認められています。

  • D005「5」末梢血液一般検査
  • D208 心電図検査「1」四肢単極誘導及び胸部誘導を含む最低12誘導

一方、以下の検査は原則として算定が認められていません。

  • D006「4」フィブリノゲン半定量、フィブリノゲン定量
  • D007「36」血液ガス分析

これは、心臓カテーテル検査の目的及び手技内容から、その実施の可否の判断に用いる検査としての医学的必要性が低いと判断されているためです。心臓カテーテル検査は、血管損傷による出血・血栓症、不整脈等のリスクを伴う場合があり、実施に当たっては事前に患者の全身状態をチェックする必要がありますが、末梢血液一般検査と心電図検査が基本的なチェック項目として認められています。

経皮的冠動脈形成術との関連と算定上の留意点

心臓カテーテル検査は、経皮的冠動脈形成術(PCI)などの治療的カテーテル手技の前段階として実施されることが多くあります。この場合の算定には特に注意が必要です。

経皮的冠動脈形成術(K546)は以下のように区分されています。

  1. 急性心筋梗塞に対するもの:36,000点
  2. 不安定狭心症に対するもの:22,000点
  3. その他のもの:19,300点

経皮的冠動脈形成術を算定する際には、「D206」に掲げる心臓カテーテル法における75%以上の狭窄病変が存在する症例に対して当該手術を行った場合に算定できます。それ以外の症例に対して算定する場合は、診療報酬明細書の摘要欄にその理由及び医学的根拠を詳細に記載する必要があります。

また、経皮的冠動脈形成術を実施した場合、手術に伴う画像診断及び検査の費用は算定できません。つまり、同日に実施した心臓カテーテル検査(D206)は別途算定できないことになります。

さらに、同一医療機関において、同一患者の同一標的病変に対して経皮的冠動脈形成術などの冠動脈インターベンション治療を行う場合の合計回数は、5年間に2回以下を標準としています。これを超える回数の手術を実施する場合は、過去の実施時期や今回実施する医学的根拠などを診療報酬明細書の摘要欄に詳細に記載する必要があります。

心臓カテーテル検査における循環動態解析装置の活用と算定

近年、心臓カテーテル検査の技術は進化し続けており、循環動態解析装置を用いた冠動脈血流予備能測定検査が注目されています。この検査は、冠動脈の狭窄が心筋虚血を引き起こしているかどうかを機能的に評価するもので、不必要な冠動脈インターベンションを減らすことができます。

循環動態解析装置を用いて冠動脈血流予備能測定検査を実施した場合は、「冠動脈血流予備能測定検査加算(循環動態解析装置)」として、7,200点を所定点数に加算することができます。ただし、この加算を算定する場合は、関連学会の定める指針に沿って検査を行う必要があります。

また、この加算と「E200-2」血流予備量比コンピューター断層撮影は併せて算定できません。さらに、循環動態解析装置を用いる冠動脈血流予備能測定検査を実施した場合、通常の冠動脈血流予備能測定検査に係る特定保険医療材料は算定できないという制限があります。

循環動態解析装置の導入には高額な初期投資が必要ですが、適切な症例に対して使用することで、患者の予後改善と医療経済的なメリットの両方を達成できる可能性があります。特に、中等度狭窄(50-70%)の評価において、その有用性が高いとされています。

心臓カテーテル検査の請求における監査対応と記録の重要性

心臓カテーテル検査は高額な診療報酬が設定されているため、保険請求の監査対象となりやすい項目です。適切な請求を行うためには、以下のポイントに注意することが重要です。

診療録への記載事項

  • 検査の医学的必要性
  • 実施した具体的な検査内容
  • 使用したカテーテルの種類
  • 実施した加算項目の詳細
  • 検査結果の解釈と今後の治療方針

特に、加算項目を算定する場合は、その医学的根拠を明確に記録しておくことが重要です。例えば、冠攣縮誘発薬物負荷試験加算を算定する場合は、冠攣縮の疑いがある臨床所見や、負荷試験の実施方法、結果の解釈などを詳細に記録しておく必要があります。

診療報酬明細書(レセプト)への記載

  • 算定した加算項目の明記
  • 医学的に必要と判断した理由(特に通常の適応基準を超える場合)
  • 複数回実施した場合の理由

また、心臓カテーテル検査と関連する治療(経皮的冠動脈形成術など)を同日に実施した場合の算定ルールを正確に理解し、適切に請求することが重要です。不適切な請求は、査定や返戻の対象となるだけでなく、指導や監査の対象となる可能性もあります。

定期的な院内勉強会や、診療報酬改定時の情報収集を積極的に行い、最新の算定ルールを常に把握しておくことも重要です。特に、循環器内科や心臓血管外科などの診療科では、心臓カテーテル検査の算定ルールに関する知識を医師と医事課スタッフが共有することで、適切な診療録記載と請求が可能になります。

厚生労働省:令和2年度診療報酬改定の概要(医科)

心臓カテーテル検査における小児加算と特殊検査の算定

小児患者に対する心臓カテーテル検査は、技術的難易度が高く、より慎重な対応が求められます。そのため、診療報酬上でも手厚い加算が設定されています。

新生児に対して心臓カテーテル検査を行った場合、右心カテーテルでは10,800点、左心カテーテルでは12,000点の加算が認められています。また、3歳未満の乳幼児(新生児を除く)に対しては、右心カテーテルで3,600点、左心カテーテルで4,000点の加算が認められています。

これらの加算は、小児の心臓カテーテル検査における技術的難易度の高さや、より多くの医療スタッフが必要となることを考慮したものです。小児の心臓カテーテル検査では、体格が小さいため使用するカテーテルも細く、操作が難しくなります。また、鎮静や全身麻酔が必要となることが多く、麻酔科医や小児科医との連携も重要です。

さらに、先天性心疾患の診断や治療方針の決定には、特殊な検査手技が必要となることがあります。例えば、心房中隔欠損症や心室中隔欠損症の評価では、シャント率の計算が重要となります。このような特殊検査を実施した場合、適切な加算を算定することが可能です。

小児の心臓カテーテル検査を実施する医療機関では、これらの加算を適切に算定するための知識と体制を整えることが重要です。特に、先天性心疾患を専門とする医療機関では、小児加算の算定漏れがないよう注意が必要です。

日本小児科学会:小児の心臓カテーテル検査に関するガイドライン

心臓カテーテル検査後の経過観察と関連検査の算定

心臓カテーテル検査後の経過観察は、合併症の早期発見と対応のために重要です。検査後の経過観察に関連する検査や処置についても、適切な算定知識が必要となります。

心臓カテーテル検査後には、以下のような経過観察項目が一般的です。

  • バイタルサインの確認(血圧、脈拍、呼吸数など)
  • 穿刺部位の観察(出血、血腫、疼痛など)
  • 末梢循環の確認(穿刺肢の脈拍、色調、温度など)
  • 心電図モニタリング(不整脈の監視)
  • 尿量の確認(造影剤による腎機能障害の早期発見)

これらの経過観察に関連する検査や処置については、以下のような算定上の注意点があります。

  1. 検査後の心電図モニタリング

    心臓カテーテル検査後24時間以内の心電図モニタリングは、通常の経過観察の範囲内とみなされ、別途「D210 ホルター型心電図検査」などとして算定することはできません。ただし、明らかな不整脈イベントが発生し、その評価のために実施した場合は、医学的必要性を明記した上で算定可能な場合があります。

  2. 穿刺部位の圧迫止血

    心臓カテーテル検査後の穿刺部位の圧迫止血は、検査の一連の行為として所定点数に含まれており、別途「J043 気管内洗浄」などの処置料は算定できません。

  3. 検査後の血液検査

    造影剤による腎機能障害のリスク評価のための血液検査(血清クレアチニンなど)は、医学的必要性がある場合に算定可能です。特に、腎機能障害のリスクが高い患者(高齢者、糖尿病患者、既存の腎機能障害がある患者など)では重要な検査となります。

  4. 検査後の画像検査

    穿刺部位の合併症(仮性動脈瘤、動静脈瘻など)が疑われる場合の超音波検査は、医学的必要性を明記した上で算定可能です。

心臓カテーテル検査後の経過観察は、患者安全の観点から非常に重要ですが、保険請求の観点からは、通常の経過観察の範囲内とみなされる項目と、別途算定可能な項目を適切に区別することが重要です。特に、合併症が疑われる場合の追加検査については、その医学的必要性を診療録に明確に記載しておくことが査定対策として重要となります。

心臓カテーテル検査は高度な医療技術であり、その保険請求も複雑です。適切な算定知識を持ち、正確な診療録記載と請求を行うことで、医療機関の適正な収益確保と患者への適切な医療提供の両立が可能となります。