眼内レンズの種類と特徴や寿命の解説

眼内レンズの種類と特徴

眼内レンズの基本情報
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眼内レンズとは

白内障手術で濁った水晶体の代わりに挿入する人工レンズです。直径6〜7ミリ程度の小さなレンズです。

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主な種類

単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの2種類に大別され、それぞれに特徴があります。

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費用の違い

単焦点レンズは保険適用、多焦点レンズは選定療養として自己負担が発生します。

白内障は年齢とともに誰にでも起こりうる疾患であり、進行すると手術が必要になります。白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、代わりに眼内レンズを挿入します。この眼内レンズには様々な種類があり、選択するレンズによって術後の見え方や生活の質が大きく変わってきます。

眼内レンズは大きく分けて「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、患者さんの目の状態やライフスタイルに合わせて選択することが重要です。

眼内レンズの選択は一度決めると簡単に交換することができないため、手術前に十分な検査と相談を行い、自分に最適なレンズを選ぶことが大切です。医療従事者としては、患者さんの希望や生活スタイルを理解した上で、最適なレンズを提案することが求められます。

眼内レンズの単焦点タイプの特徴とメリット

単焦点眼内レンズは、1カ所にのみピントが合うレンズです。レンズ部分はなめらかな曲線になっており、光を1点に集中させる構造になっています。単焦点レンズには「近く」「中間」「遠く」の3種類があり、どの距離にピントを合わせるかを選ぶことができます。

単焦点眼内レンズの最大のメリットは、像がシャープではっきり見えることです。収差(ズレ)が少なく、コントラスト感度が高いため、鮮明な視界を得ることができます。また、ほとんどの単焦点眼内レンズには健康保険が適用されるため、経済的な負担が少ないという大きなメリットもあります。

単焦点レンズのデメリットは、焦点の合う範囲が狭いことです。例えば、遠くに焦点を合わせたレンズを挿入した場合、近くを見るためには老眼鏡が必要になります。逆に、近くに焦点を合わせたレンズを挿入した場合は、遠くを見るためにメガネが必要になります。

単焦点レンズの選び方としては、日常生活でどの距離を見ることが多いかによって決めるとよいでしょう。例えば、車の運転やスポーツをする機会が多い方は遠くに焦点を合わせたレンズ、デスクワークや読書が多い方は近くに焦点を合わせたレンズが適しています。

眼内レンズの多焦点タイプの種類と特性

多焦点眼内レンズは、複数の距離にピントが合うように設計されたレンズです。レンズ表面が波状になっており、光が当たることで複数の焦点を作り出します。多焦点レンズには主に「2焦点レンズ」「3焦点レンズ」「焦点深度拡張型(EDOF)レンズ」などの種類があります。

2焦点レンズは「遠く」と「近く」の2点にピントが合いますが、中間距離が見えにくくなる場合があります。3焦点レンズは「遠く」「中間」「近く」の3点にピントが合うため、より広い範囲を見ることができます。焦点深度拡張型(EDOF)レンズは、焦点が伸びるように設計されており、遠くから中間距離までをカバーしますが、近くの細かい字は見えにくいことがあります。

最新の多焦点レンズとしては、「Clareon PanOptix(クラレオン パンオプティクス)」や「TECNIS Synergy(テクニス シナジー)」、「TECNIS Symfony(テクニス シンフォニー)」などがあります。また、2025年現在では「インテンシティ(Intensity)」という5焦点レンズも登場しており、遠方から近方まで5カ所に焦点が合い、光のロスが少ないという特徴があります。

多焦点レンズのメリットは、メガネの依存度が減ることです。人によってはメガネなしで生活できるようになります。一方、デメリットとしては、見え方の質が単焦点レンズに比べて低下することや、夜間に光の輪(ハロー)や光のぎらつき(グレア)が見える場合があること、費用が高額になることなどが挙げられます。

眼内レンズの乱視矯正機能と選択ポイント

眼内レンズには、乱視を矯正する機能を持ったものもあります。これらは「トーリック眼内レンズ」と呼ばれ、単焦点レンズにも多焦点レンズにも存在します。つまり、単焦点眼内レンズ(乱視矯正なし)、単焦点眼内レンズ(乱視矯正あり)、多焦点眼内レンズ(乱視矯正なし)、多焦点眼内レンズ(乱視矯正あり)の4種類があるということになります。

乱視がある方にとって、トーリック眼内レンズを選択することで、より鮮明な視界を得ることができます。一般的に、角膜乱視は約2.5Dまで矯正可能とされています。乱視矯正機能付きの多焦点レンズとしては、「AcrySof IQ PanOptix Trifocal トーリック」などが挙げられます。

眼内レンズを選択する際のポイントとしては、以下の点が重要です。

  1. 目の状態:緑内障や網膜の病気がある方は、多焦点レンズが適さない場合があります。
  2. 生活スタイル:車の運転頻度、読書やパソコン作業の時間など、日常生活での視距離を考慮します。
  3. メガネの使用意向:メガネをなるべく使いたくない方は多焦点レンズが適しています。
  4. 費用:多焦点レンズは保険適用外のため、費用負担が大きくなります。
  5. 将来の生活変化:年齢を重ねるにつれて生活環境が変わることも考慮する必要があります。

眼内レンズの寿命と長期的な視力への影響

眼内レンズは基本的に半永久的に使用できるものであり、通常は一度挿入すると交換する必要はありません。現在使用されている眼内レンズの素材は、長期間にわたって透明性を維持するように設計されています。

例えば、「Clareon PanOptix」は「Clareon®」という素材を使用しており、長期間にわたり高い透明性を実現しています。また、独自のエッジデザインによって、より快適な見え方を追求しています。

ただし、眼内レンズを挿入した後も、加齢に伴う他の眼疾患(緑内障、加齢黄斑変性など)が発症する可能性はあります。そのため、定期的な眼科検診を受けることが重要です。

また、眼内レンズ挿入後に後発白内障(後嚢混濁)が発生することがあります。これは、水晶体の後ろの膜(後嚢)が白く濁る現象で、レーザー治療で改善することができます。

眼内レンズの選択と将来の生活変化への対応

眼内レンズを選択する際には、現在の生活スタイルだけでなく、将来の生活変化も考慮することが重要です。例えば、70歳で手術を受けた場合、その後20年、30年と生きていく中で、生活環境や身体状況が大きく変わる可能性があります。

高齢になると、介護施設に入所する可能性もあります。そのような環境では、食事の時やテレビを見る時に眼鏡なしで見えることが便利です。介護施設では認知症の方同士で眼鏡の取り合いになることもあるため、眼鏡依存度が低いことが望ましい場合もあります。

また、将来的に寝たきりになる可能性も考慮し、どの距離を見ることが多くなるかを予測して眼内レンズを選ぶことも一つの方法です。例えば、将来的に近距離での活動が中心になると予想される場合は、近くに焦点を合わせた単焦点レンズや、近距離視力が良好な多焦点レンズを選択することも検討できます。

眼内レンズの選択は、医師とよく相談しながら、現在と将来の生活を見据えて決めることが大切です。特に医療従事者は、患者さんの年齢や生活環境、将来の変化も考慮した上で、適切なアドバイスを提供することが求められます。

眼内レンズの最新技術と2025年の動向

2025年現在、眼内レンズ技術は急速に進化しています。従来の2焦点、3焦点レンズに加え、5焦点レンズなど、より多くの焦点を持つレンズが開発されています。

特に注目すべきは「インテンシティ(Intensity)」という5焦点レンズです。このレンズは遠方から近方まで5カ所に焦点が合い、独自の構造により光のロスが6.5%と驚異的に少なくなっています。これは選定療養対象の国内承認レンズの約半分程度であり、コントラストも良好です。乱視矯正レンズも設定されているため、乱視のある方にも使用可能です。

また、ハロー・グレアが出にくい多焦点眼内レンズの開発も進んでいます。従来の多焦点レンズでは、特に夜間に光の輪(ハロー)や光のぎらつき(グレア)が見える場合がありましたが、新しいレンズではこれらの症状が軽減されています。

さらに、眼内レンズの素材も進化しており、より長期間透明性を維持できる素材や、目の中での安定性が高い素材が開発されています。例えば、「Clareon®」という素材は長期間にわたり高い透明性を実現しています。

2025年の眼内レンズ市場では、より個人のライフスタイルや目の状態に合わせたカスタマイズが可能になっています。医療従事者は、これらの最新技術を理解し、患者さんに最適なレンズを提案することが求められています。

また、国内承認レンズと国内未承認レンズの違いも理解しておく必要があります。国内承認レンズは厚生労働省が認可しており、選定療養として使用できますが、国内未承認レンズは使用できない場合があります。現在、厚生労働省が認可している多焦点レンズには、2焦点レンズのActivefocus、焦点深度拡張型レンズのSymfony、3焦点レンズのPanoptixなどがあります。

眼内レンズ技術は今後も進化し続けると予想され、より自然な見え方や、より広い範囲を見ることができるレンズが開発されることが期待されています。医療従事者は、これらの最新情報を常にアップデートし、患者さんに最適なレンズを提案できるようにすることが重要です。