変形性股関節症の症状と治療法および最新リハビリ技術

変形性股関節症の原因と治療法

変形性股関節症の基本情報
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発症メカニズム

関節軟骨の摩耗と変性により、骨と骨が直接こすれ合うことで痛みや機能障害が生じる疾患です。

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患者数

日本では40歳以上の約10%が罹患しており、特に女性に多く見られます。

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主な症状

股関節の痛み、可動域制限、歩行障害などが特徴的で、進行すると日常生活に支障をきたします。

変形性股関節症は、股関節を構成する大腿骨頭と寛骨臼の間の軟骨が徐々に摩耗・変性していく疾患です。この軟骨の変性により、本来はクッションの役割を果たしていた部分が失われ、骨と骨が直接こすれ合うことで痛みや機能障害が生じます。日本国内では40歳以上の人口の約10%が罹患していると言われており、特に女性に多く見られる疾患です。

変形性股関節症の原因は大きく分けて一次性と二次性に分類されます。一次性は加齢に伴う自然な軟骨の摩耗によるもので、二次性は先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、大腿骨頭壊死症などの基礎疾患が原因となって発症するものです。日本人の場合、特に臼蓋形成不全に起因する二次性の変形性股関節症が多いという特徴があります。

股関節は体重を支える重要な関節であるため、変形性股関節症になると日常生活に大きな影響を及ぼします。初期症状としては、長時間の歩行や立ち仕事の後に股関節部に痛みを感じる程度ですが、進行すると安静時にも痛みが生じるようになり、歩行障害や日常動作の制限につながります。

変形性股関節症の症状と進行度合い

変形性股関節症の症状は、その進行度合いによって異なります。初期段階では、長時間の歩行や立ち仕事の後に股関節部に軽い痛みや違和感を感じる程度です。この段階では休息を取ることで症状が改善することが多いです。

中期になると、歩き始めの痛み(スターティングペイン)や階段の昇り降りの際の痛みが顕著になります。特に内旋動作(足を内側に回す動き)で痛みが強くなることが特徴的です。また、股関節の可動域が徐々に制限されるため、靴下や靴を履く際に困難を感じるようになります。

末期になると、安静時にも痛みが生じるようになり、夜間痛で睡眠が妨げられることもあります。歩行時には跛行(はこう:足を引きずるような歩き方)が見られ、歩行距離も著しく制限されます。また、股関節の変形が進むことで脚長差が生じ、骨盤の傾きや脊柱の側弯につながることもあります。

変形性股関節症の進行度合いは、レントゲン検査によって評価されることが多く、一般的にはKellgren-Lawrence分類が用いられます。この分類では、Grade 0(正常)からGrade 4(重度の変形)までの5段階で評価されます。

  • Grade 0:正常
  • Grade 1:軽微な骨棘形成
  • Grade 2:明らかな骨棘形成、関節裂隙の軽度狭小化
  • Grade 3:中等度の関節裂隙狭小化、骨硬化、骨嚢胞形成
  • Grade 4:高度の関節裂隙狭小化、大きな骨棘形成、著明な骨硬化

症状の進行速度には個人差があり、生活習慣や体重管理、適切な運動療法の実施などによって進行を遅らせることが可能です。早期発見・早期治療が重要であり、股関節に違和感や痛みを感じた場合は、整形外科を受診することをお勧めします。

変形性股関節症の診断方法とリハビリテーション

変形性股関節症の診断は、主に問診、身体診察、画像検査によって行われます。問診では、痛みの部位や性質、日常生活での困難な動作などを詳しく聴取します。身体診察では、股関節の可動域制限や疼痛誘発テスト(Patrick test、Thomas testなど)を実施し、症状の評価を行います。

画像検査としては、まず単純X線検査(レントゲン)が基本となります。レントゲンでは、関節裂隙の狭小化、骨棘形成、骨硬化、骨嚢胞形成などの特徴的な所見を確認します。より詳細な評価が必要な場合には、MRI検査やCT検査が追加されることもあります。MRIでは軟骨の状態や滑膜炎の有無、周囲軟部組織の評価が可能であり、CTでは骨の形態をより詳細に評価することができます。

診断が確定したら、症状の程度や患者さんの年齢、活動性などを考慮して治療方針が決定されます。変形性股関節症のリハビリテーションは、保存療法の中心的役割を担っています。

リハビリテーションの主な目的は以下の通りです。

  1. 疼痛の軽減
  2. 関節可動域の維持・改善
  3. 筋力強化
  4. 歩行能力の維持・改善
  5. 日常生活動作(ADL)の改善

具体的なリハビリテーションプログラムとしては、以下のようなものがあります。

  • ストレッチング:股関節周囲の筋肉(特に腸腰筋、大腿四頭筋、ハムストリングス)のストレッチングを行い、柔軟性を維持します。
  • 筋力トレーニング:特に中殿筋や大殿筋などの股関節外転筋・伸展筋の強化を図ります。これにより股関節の安定性が向上し、痛みの軽減につながります。
  • 有酸素運動:水中歩行や水泳、自転車エルゴメーターなど、関節への負担が少ない運動を取り入れます。
  • 歩行訓練:正しい歩行パターンを習得し、関節への負担を軽減します。
  • 日常生活動作指導:日常生活での動作方法の工夫や、必要に応じて福祉用具(杖や靴の中敷きなど)の使用方法を指導します。

リハビリテーションは、理学療法士による専門的な指導のもとで行われることが望ましいですが、自宅でも継続できる簡単なエクササイズを指導されることが多いです。継続的な取り組みが重要であり、症状の改善には通常数週間から数ヶ月を要します。

変形性股関節症の保存的治療と薬物療法

変形性股関節症の治療は、症状の程度や患者さんの年齢、活動性などを考慮して、保存的治療から手術療法まで幅広い選択肢があります。初期から中期の症状に対しては、まず保存的治療が試みられます。

保存的治療の基本は以下の通りです。

  1. 生活指導:過度の負荷を避け、適切な休息を取ることが重要です。体重管理も重要な要素であり、肥満の方は減量によって関節への負担を軽減することができます。また、正座や長時間の立ち仕事など、股関節に負担のかかる姿勢や動作を避けるよう指導されます。
  2. 理学療法:前述のリハビリテーションプログラムに基づいた運動療法が実施されます。特に股関節周囲筋の強化と柔軟性の維持が重要です。
  3. 装具療法:必要に応じて杖や歩行器の使用が推奨されます。特に片側の股関節に症状がある場合は、反対側に杖を持つことで患側の負担を軽減できます。また、靴の中敷き(インソール)を使用して、脚長差を補正することもあります。
  4. 物理療法:温熱療法(ホットパックなど)や寒冷療法(アイシングなど)、超音波療法、低周波療法などが症状に応じて適用されます。これらは一時的な疼痛緩和に効果があります。

薬物療法も保存的治療の重要な一部です。

  1. 非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs):炎症を抑え、痛みを軽減する効果があります。内服薬だけでなく、貼付剤や塗布剤も利用されます。ただし、胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要です。
  2. アセトアミノフェン:NSAIDsよりも副作用が少なく、軽度から中等度の痛みに対して使用されます。
  3. トラマドール:中等度から重度の痛みに対して使用される鎮痛薬です。依存性があるため、使用には注意が必要です。
  4. ステロイド注射:症状が強い場合や急性増悪時には、関節内へのステロイド注射が行われることがあります。即効性がありますが、効果は一時的であり、頻回の注射は軟骨の変性を促進する可能性があるため、年に数回程度に制限されます。
  5. ヒアルロン酸注射:関節内にヒアルロン酸を注入することで、関節液の粘弾性を高め、クッション効果を改善します。通常、週1回の注射を3〜5回程度行います。効果は個人差がありますが、3〜6ヶ月程度持続することが多いです。
  6. サプリメント:グルコサミンやコンドロイチン硫酸などのサプリメントが補助的に使用されることがありますが、その効果については議論があります。

これらの保存的治療と薬物療法を組み合わせることで、多くの患者さんの症状改善が期待できます。ただし、保存的治療で十分な効果が得られない場合や、日常生活に著しい支障をきたす場合には、手術療法が検討されます。

変形性股関節症の手術療法と最新治療技術

保存的治療で十分な効果が得られない場合や、日常生活に著しい支障をきたす重度の変形性股関節症に対しては、手術療法が検討されます。手術の適応は、痛みの程度、関節の変形の程度、患者さんの年齢や活動性、全身状態などを総合的に判断して決定されます。

主な手術療法には以下のようなものがあります。

  1. 人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)

    最も一般的に行われている手術で、変形した大腿骨頭と寛骨臼を人工関節に置き換えます。現在の人工関節は高い耐久性を持ち、適切に使用すれば15〜20年以上の使用が期待できます。手術後は痛みが大幅に軽減され、関節の可動域も改善します。

手術アプローチには前方アプローチ、前側方アプローチ、後方アプローチなどがあり、それぞれに利点と欠点があります。近年では、筋肉や軟部組織へのダメージを最小限に抑える低侵襲手術(MIS)も普及しています。

  1. 人工骨頭置換術(Bipolar Hip Arthroplasty)

    大腿骨頭のみを人工物に置き換える手術で、主に大腿骨頸部骨折の治療として行われますが、高齢者の変形性股関節症に対しても適応されることがあります。THAに比べて手術侵襲が少ないという利点がありますが、寛骨臼側の軟骨が残っている必要があります。

  2. 骨切り術(Osteotomy)

    主に若年者で、関節の一部にのみ変形がある場合に適応されます。大腿骨や骨盤を切り、関節の適合性を改善する手術です。自分の関節を温存できるという利点がありますが、技術的に難しく、適応が限られます。

  3. 関節鏡手術

    初期から中期の変形性股関節症に対して、関節鏡を用いた低侵襲手術が行われることがあります。関節唇損傷の修復や遊離体の除去、骨棘の切除などが可能です。ただし、進行した関節症には適応がありません。

最新の治療技術としては、以下のようなものが注目されています。

  1. ナビゲーションシステムやロボット支援手術

    コンピュータ支援ナビゲーションシステムやロボット支援手術システム(MAKOなど)を用いることで、より精密な手術が可能になっています。これにより、人工関節の設置位置の精度が向上し、術後の機能改善や耐久性の向上が期待されています。

  2. 3Dプリンティング技術

    患者さん個々の骨格に合わせたカスタムメイドのインプラントや手術ガイドの作製が可能になっています。特に複雑な変形を伴う症例では有用です。

  3. 再生医療

    軟骨再生や幹細胞治療など、再生医療の技術も徐々に発展しています。自己の軟骨細胞を培養して移植する自家培養軟骨移植術や、間葉系幹細胞を用いた治療法が研究されていますが、現時点では広く臨床応用されるには至っていません。

手術後のリハビリテーションも重要です。人工股関節全置換術後は、通常、術後早期から離床・歩行訓練が開始されます。初期には脱臼予防のための姿勢制限(深い屈曲や内旋の制限など)が必要ですが、徐々に日常生活動作の訓練へと進みます。多くの場合、術後3〜6ヶ月程度で日常生活への復帰が可能となります。

変形性股関節症と骨補填材を用いた再生医療の可能性

変形性股関節症の治療において、近年注目されているのが再生医療の応用です。特に骨補填材を用いた治療法は、軟骨や骨の再生を促進し、関節機能の回復を目指す新たなアプローチとして期待されています。

骨補填材とは、骨欠損部を埋めるために使用される生体材料で、自家骨、同種骨、異種骨、合成材料などがあります。変形性股関節症の治療においては、特にβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)やハイドロキシアパタイト(HA)などのセラミック系材料が注目されています。これらの材料は生体親和性が高く、骨伝導性(骨の形成を誘導する性質)を持っています。

最新の研究では、これらの骨補填材にBMP-2(骨形成タンパク質-2)などの成長因子を組み合わせることで、骨形成を促進する効果が報告されています。例えば、ある研究ではBMP-2を含浸させた機能勾配型ハイドロキシアパタイト(fg-HAp)を用いた骨誘導実験が行われ、BMP-2の濃度によって骨形成の程度が異なることが示されています。

また、骨補填材の表面をアルゴンプラズマで活性化することで、新生骨の侵入を促進する効果も報告されています。ウサギの上顎洞底挙上術のモデルを用いた組織形態計測学的研究では、β-TCP/HAグラフトをアルゴンプラズマで活性化することで、骨形成が促進されることが示されています。

さらに、低濃度フッ化物の徐放による創傷治癒の分子メカニズムに関する研究も進められています。低濃度フッ化物の徐放は、Runx2やオステオカルシンの発現を増加させることで石灰化を促進することが報告されています。これらの知見は、変形性股関節症の治療における骨・軟骨再生の新たな可能性を示しています。

一方、再生医療の分野では、自家細胞を用いた治療法も研究されています。例えば、CD34陽性細胞や骨髄単核球を用いた再生医療は、難治性骨折や脳梗塞後遺症、脊髄損傷などの治療に応用されつつあります。これらの技術は、変形性股関節症の治療にも応用できる可能性があります。

また、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)やHGF(肝細胞増殖因子)などのペプチドを主薬とする製剤も開発されており、これらは幹細胞療法の次の再生医療として期待されています。特に、bFGFを主薬とする製剤は、重症下肢虚血における下肢血管再生を促進する効果が報告されており、関節周囲の血流改善にも応用できる可能性があります。

これらの再生医療技術は、現在のところ主に研究段階や臨床試験段階にあり、広く臨床応用されるにはさらなる検証が必要です。しかし、従来の治療法では限界があった変形性股関節症の治療に新たな選択肢を提供する可能性があり、今後の発展が期待されています。

日本整形外科学会による変形性股関節症の詳細情報

変形性股関節症の治療においては、個々の患者さんの状態に合わせた適切な治療法の選択が重要です。保存的治療から手術療法、そして再生医療まで、様々な選択肢を理解し、医師と相談しながら最適な治療計画を立てることが、QOL(生活の質)の向上につながります。また、予防的な観点からも、適切な体重管理や運動習慣の維持、過度な負荷を避けるなどの生活習慣の改善が重要です。