輸液の種類と特徴を解説する臨床ガイド

輸液の種類と使い分け

輸液製剤の基本分類
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電解質輸液

水分や電解質を補給する目的で使用。等張性と低張性に分類される。

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栄養輸液

エネルギーやアミノ酸などの栄養素を補給。PPN(末梢静脈栄養)とTPN(中心静脈栄養)がある。

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その他の輸液

血漿増量剤や浸透圧利尿剤など、特殊な目的で使用される輸液製剤。

輸液療法は現代医療において欠かせない治療法の一つです。患者さんの状態や治療目的に応じて適切な輸液製剤を選択することが重要です。本記事では、輸液製剤の種類と特徴、そして臨床での使い分けについて詳しく解説します。

輸液の基本的な目的と適応

輸液療法は、主に以下の目的で実施されます。

  1. 水分・電解質の補給:脱水状態の改善や、経口摂取ができない患者さんの水分・電解質バランスの維持
  2. 栄養補給:経口摂取が困難な患者さんへのエネルギーやタンパク質などの栄養素の提供
  3. 循環血液量の維持・回復:出血やショック状態での循環動態の安定化
  4. 薬剤投与のルート:各種薬剤の静脈内投与

臨床現場では、患者さんの病態(脱水の種類、栄養状態、循環動態など)を正確に評価し、適切な輸液製剤を選択することが求められます。不適切な輸液選択は、電解質異常や体液過剰、栄養不良などの合併症を引き起こす可能性があります。

輸液製剤の大分類と特徴

輸液製剤は大きく分けて以下の3種類に分類されます。

1. 電解質輸液

水分や電解質を補給する目的で使用される輸液です。浸透圧の違いにより、さらに以下のように分類されます。

  • 等張性電解質輸液(細胞外液補充液)

    血漿とナトリウム濃度がほぼ等しく、投与された輸液は細胞内には移動せず、細胞外液量を増加させます。出血やショックなどによる循環血液量減少時に使用されます。

  • 低張性電解質輸液(維持液)

    ナトリウム濃度が血漿より低く、ブドウ糖を含むことが特徴です。ブドウ糖は代謝されると水になるため、結果的に体液より浸透圧の低い液を投与したことになり、細胞内液を含む体全体に水分を補給できます。

2. 栄養輸液

エネルギーやアミノ酸などの栄養素を補給する目的で使用される輸液です。

  • 末梢静脈栄養(PPN: Peripheral Parenteral Nutrition)

    末梢静脈から投与する栄養輸液。浸透圧の制約があるため、高濃度の栄養素は投与できません。

  • 中心静脈栄養(TPN: Total Parenteral Nutrition)

    中心静脈から投与する高カロリー輸液。高濃度のブドウ糖やアミノ酸を含み、長期的な栄養管理が必要な場合に使用されます。

3. その他の輸液製剤

  • 血漿増量剤:分子量の大きいアルブミンなどを含む輸液で、血管内に水分を引き込む効果があります。出血性ショックなどの循環血液量減少時に使用されます。
  • 浸透圧利尿剤:尿細管内の浸透圧を上昇させて利尿作用をもたらす輸液です。

輸液の種類と電解質組成の詳細

等張性電解質輸液(細胞外液補充液)

  1. 生理食塩液(0.9% NaCl)
    • 特徴:等張電解質輸液の基本であり、浸透圧が細胞外液とほぼ等しい
    • 組成:Na⁺ 154mEq/L、Cl⁻ 154mEq/L
    • 適応:軽度の脱水、電解質補給の初期輸液
    • 注意点:大量投与で高ナトリウム血症や代謝性アシドーシスを起こす可能性あり
  2. リンゲル液
    • 特徴:生理食塩水よりも細胞外液に近い電解質組成
    • 組成:Na⁺、K⁺、Ca²⁺、Cl⁻を含む
    • 適応:熱傷や出血性ショックなど
  3. 乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液
    • 特徴:代謝性アシドーシスを防ぐために、生理食塩水に乳酸や酢酸を添加
    • 組成:リンゲル液に乳酸または酢酸を添加
    • 適応:血液のpHを保つ目的での投与
    • 製品例:ラクテック注、ポタコールR輸液(乳酸)、ソルアセトD、ヴィーンD(酢酸)
  4. 重炭酸リンゲル液
    • 特徴:等張性電解質輸液の中で最も細胞外液に近い電解質組成
    • 組成:マグネシウムが添加されており、細胞外液のマグネシウム補給が可能
    • 適応:救急や手術などの重篤な患者、代謝性アシドーシスの予防
    • 製品例:ビカネイト輸液

低張性電解質輸液(維持液)

  1. 1号液(開始液)
    • 特徴:生理食塩水の割合が最も多い輸液、カリウムを含まない
    • 適応:救命救急など病態がはっきりしていない患者、高カリウム血症を伴う脱水
    • 製品例:ソリタ‐T1号輸液、ソルデム1輸液
  2. 2号液(脱水補給液)
    • 特徴:ナトリウムイオン、クロールイオン、カリウムイオン、乳酸などを含む
    • 適応:水分と電解質を補給するための脱水補給液
    • 製品例:ソリタ‐T2号輸液、ソルデム2輸液
  3. 3号液(維持液)
    • 特徴:1日に必要とされる水分・電解質が補給できるよう調整された輸液
    • 適応:経口摂取が難しい患者の維持輸液
    • 製品例:ソリタ‐T3号輸液、ソルデム3A輸液、フルクトラクト注、フィジオ35輸液
  4. 4号液(術後回復液)
    • 特徴:5%ブドウ糖液の割合が最も多く、電解質濃度が低い、カリウムを含まない
    • 適応:腎機能が低下している患者、乳幼児の術後
    • 製品例:ソリタ‐T4号輸液、ソルデム6輸液

輸液の種類と栄養補給の実際

栄養輸液は、経口摂取が困難な患者さんの栄養状態を維持・改善するために重要です。栄養輸液には以下のような種類があります。

アミノ酸輸液

  • 特徴:病態に合わせたアミノ酸の補給を目的とする輸液で、糖質や電解質も含まれる
  • 製品例:ネオアミユー輸液(エイワイファーマー)、プロテアミン12注射液(テルモ)
  • 適応:タンパク質合成の促進、創傷治癒の促進、免疫機能の維持など

高カロリー輸液(TPN)

  • 特徴:電解質と糖質を基本とし、アミノ酸やビタミンなどの栄養素が添加された高栄養の輸液
  • 投与経路:中心静脈(高浸透圧のため)
  • 適応:長期的な栄養管理が必要な場合(消化管機能不全、重度の栄養不良など)
  • 注意点:カテーテル関連感染症、高血糖、電解質異常などの合併症に注意が必要

脂肪乳剤

  • 特徴:必須脂肪酸の補給を目的とする輸液
  • 適応:ブドウ糖のみでのエネルギー補給による高血糖やインスリン分泌異常のリスク軽減
  • 投与方法:単独または他の栄養輸液との併用

栄養輸液を行う際は、患者さんの栄養状態、代謝能力、基礎疾患などを考慮して適切な製剤を選択することが重要です。また、定期的な血液検査によるモニタリングも欠かせません。

輸液の種類と脱水タイプ別の選択ポイント

脱水は、水分とナトリウムのどちらが多く失われたかによって、水分欠乏型脱水(高張性脱水)とNa欠乏型脱水(等張性脱水、低張性脱水)に大別されます。臨床的には水分とナトリウムの両方が欠乏した混合性脱水が多く見られます。

水分欠乏型脱水(高張性脱水)

  • 特徴:血漿浸透圧の上昇、口渇、尿量減少、精神・意識状態の変化(興奮状態から昏睡)
  • 原因:発熱、多尿、経口摂取不足など
  • 輸液選択:3号液などの維持液類や5%ブドウ糖液
  • 投与のポイント:ゆっくりと補正し、血清Na値を急激に低下させないよう注意

Na欠乏型脱水(等張性・低張性脱水)

  • 特徴:循環血液量の減少による血圧低下、頭痛、めまい、吐き気、立ちくらみなどの循環器症状
  • 原因:嘔吐、下痢、過度の発汗など
  • 輸液選択:生理食塩液や乳酸(酢酸・重炭酸)リンゲル液などの細胞外液補充液
  • 投与のポイント:循環動態の安定化を優先し、必要に応じて電解質補正を行う

混合性脱水

  • 特徴:水分とナトリウムの両方が欠乏した状態
  • 原因:ケガや手術による出血、嘔吐・下痢の持続など
  • 輸液選択:病態に応じて等張性電解質輸液と低張性電解質輸液を組み合わせる
  • 投与のポイント:循環動態と電解質バランスの両方をモニタリングしながら調整

脱水の程度や種類を正確に評価するためには、身体所見(皮膚ツルゴール、粘膜湿潤度、血圧、脈拍など)と血液検査(電解質、BUN、Cr、浸透圧など)の両方を考慮することが重要です。

輸液の種類と特殊状況での選択基準

特定の病態や患者グループでは、通常とは異なる輸液選択が必要になることがあります。以下に、いくつかの特殊状況における輸液選択のポイントを解説します。

腎機能障害患者

  • 輸液選択のポイント。
    • カリウム含有量の少ない製剤を選択(1号液や4号液など)
    • 水分過剰にならないよう投与量を調整
    • 電解質バランスを頻回にチェック
  • 注意すべき合併症:高カリウム血症、体液過剰、代謝性アシドーシスなど

肝機能障害患者

  • 輸液選択のポイント。
    • アミノ酸代謝異常を考慮した栄養輸液の選択
    • 分岐鎖アミノ酸(BCAA)を多く含む特殊アミノ酸製剤の検討
    • 低アルブミン血症に対する対応
  • 注意すべき合併症:肝性脳症、腹水増加、電解質異常など

心不全患者

  • 輸液選択のポイント。
    • 過剰な水分負荷を避ける
    • 電解質(特にナトリウム)制限を考慮
    • 必要に応じて利尿剤との併用
  • 注意すべき合併症:肺水腫、末梢浮腫、電解質異常など

小児患者

  • 輸液選択のポイント。
    • 体重に応じた水分・電解質必要量の計算
    • 4号液など小児用に調整された輸液の使用
    • 低血糖予防のためのブドウ糖含有輸液の選択
  • 注意すべき合併症:電解質異常、低血糖、体液過剰など

高齢患者

  • 輸液選択のポイント。
    • 腎機能低下を考慮した輸液量・速度の調整
    • 心機能を考慮した水分負荷の管理
    • 基礎疾患(糖尿病、高血圧など)を考慮した電解質管理
  • 注意すべき合併症:過剰輸液による心不全悪化、電解質異常など

特殊状況では、患者の基礎疾患、臓器機能、年齢などを総合的に評価し、個別化した輸液療法を行うことが重要です。また、定期的な臨床評価と検査モニタリングによる輸液計画の見直しも欠かせません。

輸液療法は医療の基本であると同時に、適切な実施には深い知識と経験が求められます。本記事が臨床現場での輸液選択の一助となれば幸いです。

日本静脈経腸栄養学会の静脈経腸栄養ガイドライン – 最新の栄養輸液に関する推奨と根拠が詳しく解説されています
日本臨床麻酔学会誌 – 周術期輸液療法の最新知見について詳細な解説があります