中空糸型透析器の主要メーカー商品の特徴とポリスルホン膜の性能

中空糸型透析器の主要メーカー商品と特徴

中空糸型透析器の主要メーカー
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東レ

トレライトNVシリーズ、フィルトライザーHDFなど独自の膜表面改質技術を持つ

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ニプロ

マキシフラックスシリーズ、PES-ecoタイプなど環境に配慮した製品展開

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フレゼニウス

FXシリーズ、独自のピナクル構造による均一な透析液流れを実現

中空糸型透析器の基本構造と主要メーカーの概要

中空糸型透析器は、腎不全患者の血液透析治療に使用される医療機器で、約1万本の中空糸膜が円筒状のケースに内蔵された構造を持っています。この中空糸膜を介して患者の血液から老廃物や余分な水分を除去する仕組みになっています。

現在の透析治療の主流は、内径約200μmの中空糸膜を用いた中空糸型透析器です。この中空糸膜は、血液側と透析液側の間に位置し、拡散と濾過の原理によって血液中の尿毒素物質を除去します。

日本国内の主要な中空糸型透析器メーカーとしては、東レ、ニプロ、フレゼニウス メディカル ケア ジャパンなどが挙げられます。これらのメーカーは、それぞれ独自の技術や特徴を持った製品を展開しており、透析治療の質の向上に貢献しています。

透析治療は大きく分けて血液透析(HD)と血液透析濾過(HDF)の2つの療法があり、HDには血液透析器(ダイアライザー)、HDFには血液透析濾過器(ヘモダイアフィルター)が使用されます。近年は、より大分子量物質の除去に優れたHDF療法が増加傾向にあり、2019年末の日本透析医学会統計調査によると、HDFは透析市場の42%を占めるまでになっています。

中空糸型透析器における東レの特徴的な商品と膜表面改質技術

東レは、中空糸型透析器の分野で独自の膜表面改質技術を開発し、高い生体適合性と透析性能を両立させた製品を提供しています。

東レの代表的な製品である「トレライトNV」は、《吸着水》に着目した膜表面改質技術を採用しています。この技術は、ポリマーと相互作用する水(吸着水)の運動性に着目した独自の仮説に基づいており、計算化学も活用してポリマー設計を進めた結果、血小板の付着を大幅に抑制できる新規抗血栓性ポリマー(NVポリマー)を開発しました。

このNVポリマー技術により、中空糸膜へナノメートル厚みで平滑に表面改質することが可能となり、血液流れの改善や血液成分の付着抑制、膜の目詰まり防止などの効果が得られています。これにより、透析治療の効率向上や患者のQOL(Quality of Life)向上に貢献しています。

また、東レは2021年12月に国内初となるPMMA(ポリメチルメタクリレート)製の中空糸膜を用いた血液透析濾過器「フィルトライザーHDF」の販売を開始しました。PMMAは眼内レンズにも利用される素材で、優れた生体適合性を有しています。日本国内で使用されるヘモダイアフィルターの中空糸膜は、その8割以上がポリスルホン製であるため、PMMA製の製品は多様化するニーズに応える選択肢として注目されています。

さらに、2019年7月には抗血栓性の向上により膜の目詰まりを防ぎ、長時間使用できる持続緩徐式血液濾過器「ヘモフィールSNV」の販売も開始しており、救急・集中治療領域への技術展開も積極的に行っています。

中空糸型透析器のニプロ製品における中空糸膜の特性と環境配慮設計

ニプロは、透水性に優れるポリエーテルスルホンを中空糸膜材質に採用した製品を展開しており、治療効率の向上を実現しています。

ニプロの代表的な製品である「PES-ecoタイプ」は、植込み型カテーテルアクセスにも使用される化学的安定性や抗血栓性を有するポリエーテルスルホンを中空糸膜に採用しています。この製品は、機能区分Ⅰa型・Ⅱa型・Ⅱb型において計9種類の品番をラインアップし、0.9㎡~2.5㎡までの膜面積を取り揃えています。

また、ニプロの「マキシフラックスMFX-SW eco」シリーズは、中空糸膜内径を従来製品の200μmから215μmに拡大することにより、血液側流路の圧力損失を低減したヘモダイアフィルタです。この製品は、高濾過用途に適した非対称構造の中空糸膜を採用しており、血液を濾過する際に目詰まりしにくい構造となっています。

さらに、ニプロ製品の特徴として、環境に配慮した設計が挙げられます。「PES-ecoタイプ」や「マキシフラックスMFX-SW eco」シリーズは、膜材質・ハウジング材質ともにビスフェノールA(BPA)を使用していないBPAフリー製品です。また、環境ホルモンに配慮したポリプロピレン製ケースと、輸送時のCO2削減につながるコンパクト包装を採用した、エコタイプの製品仕様となっています。

このように、ニプロは治療効率の向上と環境配慮を両立させた製品開発を行っており、患者のQOL向上と持続可能な医療への貢献を目指しています。

中空糸型透析器のフレゼニウス社製品におけるピナクル構造と血流動態改善技術

フレゼニウス メディカル ケア ジャパン株式会社の中空糸型透析器「FXシリーズ」は、独自の構造設計により血流動態の改善と透析効率の向上を実現しています。

FXシリーズの特徴的な技術の一つが「ピナクル構造」です。この構造により、中空糸束の周囲を回って、スリット部分から透析液が全体的に均一かつ強力に中空糸束の中心部に流れる仕組みを実現しています。通常、透析液は膜の周囲を回ってしまう偏流(チャネリング)が見られますが、ピナクル構造はこれを防止し、効率的な透析を可能にしています。

また、フレゼニウス社の製品は「サイドブラッドポート」と呼ばれる血流動態改善のための血液側ポート部の螺旋構造を採用しています。横方向の血液導入ポートにより、均一な血流経路を実現し、ヘッダー領域の低速停滞ゾーンを回避して血液滞留部を減少させるとともに、中空糸に流れ込む血液の分散性を高めています。

FXシリーズの中空糸膜は、ポリスルホン素材を使用し、内径185μm、膜厚35μmの仕様となっています。アルブミン漏出量を抑えつつβ2-MG除去性能が高いタイプとして設計されており、有効膜面積は1.0㎡から2.2㎡までのラインナップを揃えています。

さらに、フレゼニウス社の製品は小型化と軽量化も実現しています。低比重のポリプロピレンを採用することで、輸送・保管・廃棄における経済性への貢献も考慮した製品設計となっています。

中空糸型透析器の膜素材による性能比較とポリスルホン膜の優位性

中空糸型透析器の性能を大きく左右する要素の一つが膜素材です。現在、主に使用されている膜素材には、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などがあります。

ポリスルホン膜は、日本国内で使用されるヘモダイアフィルターの中空糸膜の8割以上を占める主流の素材です。高機能樹脂に広く使われている耐熱性ポリマーを基本素材として作られており、尿素等の小分子量物質からβ2-ミクログロブリンなどの大分子量物質までの尿毒素物質の除去性能が高いという特徴があります。

一方、ポリエーテルスルホン膜は、化学的安定性や抗血栓性に優れており、植込み型カテーテルアクセスにも使用される素材です。透水性に優れるという特性があり、高濾過用途に適しています。

PMMA膜は、東レが世界で初めて開発した合成高分子製の中空糸膜で、眼内レンズにも利用される優れた生体適合性を有しています。2021年に国内初のPMMA製ヘモダイアフィルターが発売されるまでは、主にダイアライザーに使用されていました。

これらの膜素材の中でも、ポリスルホン膜が広く普及している理由は、その優れた物質除去性能と生体適合性のバランスにあります。しかし、生体適合性をさらに向上させるために、各メーカーは独自の技術開発を行っています。

例えば、東レは親水性のポリビニルピロリドン(PVP)をブレンドする従来の方法に代わり、NVポリマーによる膜表面改質技術を開発しました。この技術により、血小板付着を大幅に抑制し、膜の目詰まりを減少させることに成功しています。

また、ニプロのポリエーテルスルホン膜は、非対称構造を採用することで血液を濾過する際の目詰まりを防止し、高い濾過性能を維持しています。

このように、各メーカーは基本的な膜素材の特性を活かしつつ、独自の技術で性能向上を図っており、治療目的や患者の状態に応じた最適な透析器の選択が可能となっています。

中空糸型透析器の将来展望と技術革新による透析治療の進化

中空糸型透析器の技術は日々進化しており、今後もさらなる革新が期待されています。現在の技術開発のトレンドと将来展望について考察します。

まず、生体適合性のさらなる向上が重要な課題となっています。東レのNVポリマー技術のように、ポリマーと相互作用する水の運動性に着目した抗血栓性ポリマーの開発は、透析治療の質を高める重要な技術です。この技術は透析器だけでなく、カテーテルや血液検査チップなど、広範な医療機器への応用が期待されています。

また、環境に配慮した製品設計も今後さらに重要性を増すでしょう。ニプロのBPAフリー製品やエコタイプの包装のように、環境負荷を低減しながら医療の質を維持・向上させる取り組みが広がっていくと考えられます。

さらに、個別化医療の観点から、患者の状態や治療目的に合わせた最適な透析器の選択が可能となるよう、多様な特性を持つ製品の開発が進むでしょう。東レのPMMA製ヘモダイアフィルターのように、主流のポリスルホン製以外の素材を用いた製品の開発は、多様化するニーズに応える重要な選択肢となります。

技術面では、中空糸内径の最適化や膜構造の改良により、さらに効率的な透析治療が可能になると考えられます。ニプロの中空糸内径を215μmに拡大した製品のように、血液側流路の圧力損失を低減する技術は、患者の負担軽減につながります。

また、AIやIoT技術の活用により、透析治療のモニタリングや最適化が進むことも予想されます。透析器の性能データをリアルタイムで収集・分析することで、個々の患者に最適な治療条件を提供する「スマート透析」の実現も将来的には可能になるでしょう。

長期的には、ウェアラブルな小型透析装置の開発や、再生医療との融合による新たな腎代替療法の開発も期待されます。中空糸型透析器の技術は、これらの革新的な治療法の基盤となる重要な技術として、今後も発展し続けるでしょう。

透析治療は患者のQOL向上に直結する重要な医療技術であり、中空糸型透析器の技術革新は、腎不全患者の生活の質を高め、より良い医療の実現に貢献していくことが期待されます。