脳波計の種類と測定方法による特徴と選び方

脳波計の種類と測定方法

脳波計の基本情報
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脳波とは

脳から生じる電気活動を頭皮上などに置いた電極で記録したもの。EEG(Electroencephalogram)と略されます。

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主な脳波の種類

α波(8-13Hz)、β波(14-30Hz)、γ波(30Hz以上)、δ波(0.5-3Hz)、θ波(4-7Hz)の5種類に分類されます。

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測定の目的

医療診断から脳機能研究、ニューロフィードバックまで幅広い分野で活用されています。

脳波計(EEG)は脳の電気活動を測定する装置であり、医療現場や研究分野で広く活用されています。脳波は脳内のニューロン活動によって生じる微弱な電位変動を捉えたもので、その波形や周波数によって脳の状態を把握することができます。

脳波の測定は1875年から様々なアプローチ方法が考案されてきました。現在では技術の進歩により、より精密で使いやすい脳波計が開発されています。脳波計を選ぶ際には、測定目的や使用環境、必要な精度などを考慮することが重要です。

脳波計の主要な測定方法と装置の種類

現在、脳活動の測定に用いられる主な装置には以下の5種類があります。

  1. 磁気共鳴機能画像法(fMRI):脳の血液量の変化をMRIにて観測する手法
  2. 近赤外線分光法(NIRS):光源と受光センサーを用いて脳の血液量の変化を観測する手法
  3. 侵襲式:体内に端子を埋め込み直接電気信号を取り込む手法
  4. 脳磁計(MEG):超伝導量子干渉計を用いて、脳の電気信号を磁気として捉える手法
  5. 脳波計(EEG):脳から生じる電気活動を頭皮上においた電極から直接測定する手法

これらの測定方法はそれぞれ特徴が異なり、目的に応じて選択されます。以下の表は各測定方法の特徴を比較したものです。

名称 空間分解能 時間分解能 運用の容易性
fMRI 高い 低い 固定設備での実施に限定
NIRS 低い 低い 固定設備での実施に限定
侵襲式 高い 高い 一度設置できれば容易
MEG 中程度 高い 測定環境に制約あり
EEG 低い 高い 自由度が最も高い

侵襲式は空間分解能と時間分解能の両方が高く最も優れていますが、倫理的な問題から現在は医療行為等の限定的な利用に限られています。他の方式はそれぞれ一長一短があり、測定環境の自由度、空間分解能、時間分解能などを考慮して選択します。

近年では、瞑想ブームなどによりビジネスやコンシューマ分野への広がりを見せており、無線で利用可能な運用自由度の高いEEGへの注目が高まっています。

脳波計の電極タイプによる分類と特徴

脳波計(EEG)の電極タイプは大きく分けて「ウェットタイプ」と「ドライタイプ」の2種類に分類されます。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

ウェットタイプの特徴:

  • 導電性ジェルや電解液を使用して頭皮との接触を良くする
  • 前準備時間が約1時間程度必要
  • サポートメンバーの補助が必要
  • 別途ロガーが必要なことが多い
  • 被験者への負荷が高い
  • ジェルの性能により実験時間が制限される
  • 感度が高い

ドライタイプの特徴:

  • 準備時間が約5分程度と短い
  • 被験者のみで操作可能
  • システムがコンパクトで内蔵型が多い
  • 被験者への負荷が低い
  • 長時間の実験が可能
  • 感度は中程度(近年は高感度センサーの開発が進み、ウェットタイプに近づいている)
  • 形状の自由度が高い(ヘッドフォンタイプ、耳かけタイプ、バンドタイプなど)

ドライタイプはウェットタイプに比べて感度が劣るとされていましたが、技術の進歩により高感度センサーが開発され、現在では同程度の性能を謳うメーカーも増えてきました。また、ドライタイプは形状の自由度が高く、全領域をカバーするヘッドフォンタイプ、側頭葉をカバーする耳かけタイプ、前頭葉をカバーするバンドタイプなど、用途に応じて様々な形状が考案されています。

脳波計のセンサー構造による分類と選び方

脳波計(EEG)はセンサー構造によっても分類することができます。主に「パッシブ電極」と「アクティブ電極」の2種類に大別されます。

パッシブ電極:

パッシブ電極を用いた脳波計は、センサーパッド(平面電極)を用いて取り出した微弱な脳波信号がリード線を通って脳波測定器に送られる構造となっています。信号は脳波計本体に送られてから増幅されるため、リード線が外来ノイズを拾いやすいという欠点があります。そのため、電磁シールド内での計測が望ましいとされています。

パッシブ電極はさらに以下の2種類に分けられます。

  1. 導電性ジェルを用いる製品
    • 接触インピーダンスを低下させるために導電性ジェルを使用
    • 密着度が高く、接触インピーダンスを大幅に下げられる(数百KΩから10KΩ以下)
    • 装着後に洗髪が必要という短所がある
    • センサーの小型化が可能(ただし近年の半導体技術の進歩により優位性は低下)
  2. 電解液を用いる製品
    • センサーパッドをスポンジで覆い、電解液を含ませる方式
    • 導電性ジェルより実験準備が容易
    • 実験後は髪が濡れるが、拭き取るだけでよい
    • 比較的安価
    • 導電性ジェルより接触インピーダンスが下がりにくく、ノイズが乗りやすい

アクティブ電極:

アクティブ電極は従来のセンサーパッドにアンプを内蔵し、高い入力インピーダンス(数G~数百GΩ)で脳波信号を受け取り、低い出力インピーダンスで出力する方式です。パッシブ型(100MΩ程度)と比べて遥かに高い入力インピーダンスを持ちます。

アクティブ電極の主な利点。

  • リード線上にノイズが乗っても十分なS/N比を確保できるため、電磁シールドなしでも脳波計測が可能
  • 高い入力インピーダンスにより、接触インピーダンスが多少高くても影響が少ない

アクティブ電極は以下の2種類に分けられます。

  1. 平面電極(ドライタイプ)
    • ウェットタイプの脳波計をアクティブ電極に置き換えた製品
    • 頭髪のインピーダンスが高いため、主におでこ部分(F/Fpエリア)の測定に適している
    • F/Fpエリアの脳活動が顕著に活性化する事象での活用が見込まれる
  2. 剣山型電極
    • 頭髪を避け頭皮と電極を接触させるために、先端に剣山型モジュールを取り付けたもの
    • 髪の毛が挟まることがあるため、回転できる構造のものが多い
    • 頭部のあらゆる場所に設置可能で、幅広い用途に利用できる

脳波計を選ぶ際には、測定目的や部位、使用環境、必要な精度などを考慮し、最適なセンサー構造を選択することが重要です。

脳波計の導出法と電極配置の国際基準

脳波計測において、電極の配置方法と導出法(モンタージュ)は測定結果に大きく影響します。脳波の導出法には主に「基準導出法」と「双極導出法」の2種類があります。

基準導出法(リファレンシャル導出法)

電気的に不活性な部位(耳たぶなど)を基準電極(不関電極)として、それに対する各測定点(関電極)での電位変動を計測・記録する方法です。脳波計のGrid1に探査電極を、Grid2に基準電極をつなぎます。この方法では、基準電極に対する各部位の電位差を測定するため、全体的な脳波の分布を把握しやすいという特徴があります。

双極導出法(バイポーラー導出法)

頭皮上に複数の測定点を設け、隣接する電極間の電位差を測定・記録する方法です。脳波計のGrid1とGrid2の両方に探査電極をつなぎます。この方法では、局所的な脳波の変化を捉えやすく、焦点性の異常を検出するのに適しています。

脳波の電極配置には国際的な標準規格である「10-20法」が広く用いられています。この方法は、頭の前後径(鼻根-後頭結節)と左右径(両耳介前点間)を10%または20%の間隔で区切り、電極を配置するものです。各電極位置には、脳の解剖学的部位に対応した記号が付けられています。

  • F: 前頭部(Frontal)
  • T: 側頭部(Temporal)
  • C: 中心部(Central)
  • P: 頭頂部(Parietal)
  • O: 後頭部(Occipital)
  • Fp: 前頭極(Frontopolar)

また、奇数は左半球、偶数は右半球、z(zero)は正中線上を示します。例えば、F3は左前頭部、F4は右前頭部、Fzは正中前頭部を意味します。

脳波計測では、脳波波形の表示は上向きを陰性(negative up)で表示するのが一般的です。これは歴史的な慣習によるものですが、国際的な標準となっています。

脳波計の臨床応用と新たな研究分野への展開

脳波計は従来、てんかん睡眠障害などの診断に用いられる医療機器として知られてきましたが、近年ではその応用範囲が大きく広がっています。特に注目すべきは、ニューロフィードバックや脳-コンピューターインターフェース(BCI)、感情認識などの新たな研究分野への展開です。

医療分野での応用:

  • てんかんの診断と発作型の分類
  • 睡眠段階の評価と睡眠障害の診断
  • 脳死判定の補助診断
  • 麻酔深度のモニタリング
  • 認知症の早期発見と進行評価

研究・開発分野での応用:

  • ニューロフィードバック:脳波をリアルタイムで視覚化し、自己調整を促す技術
  • 脳-コンピューターインターフェース(BCI):脳波を用いて機器を制御する技術
  • 感情認識:脳波パターンから感情状態を推定する研究
  • 集中力・注意力の測定:学習効率の向上や認知トレーニングへの応用
  • 瞑想効果の客観的評価:アルファ波やシータ波の変化を測定

特に注目すべき最新の研究動向として、熟練者の技能伝承への応用があります。例えば、熟練技術者の作業中の脳波を測定・分析し、その特徴的なパターンを抽出することで、暗黙知を形式知化する試みが進められています。これにより、言語化が難しい技能や判断基準を新人技術者に効率的に伝承することが可能になると期待されています。

また、AIと脳波計を組み合わせた研究も進んでいます。脳波データをディープラーニングで解析することで、従来は捉えられなかった微細なパターンを検出し、より高精度な診断や予測を可能にする研究が行われています。例えば、うつ病統合失調症などの精神疾患の早期発見や、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の検出などに応用されています。

さらに、ウェアラブル脳波計の開発も進んでおり、日常生活の中で継続的に脳波を測定することで、ストレスレベルの変化や集中力の低下を検知し、適切なタイミングで休息を促すシステムなども研究されています。

脳波計技術の進歩は、医療だけでなく、教育、スポーツ、エンターテイメント、マーケティングなど、多様な分野に革新をもたらす可能性を秘めています。今後も技術の発展とともに、その応用範囲はさらに広がっていくことでしょう。

脳波計選択の実践的ガイドと注意点

脳波計を選ぶ際には、用途や目的に応じて適切な機種を選択することが重要です。ここでは、実際に脳波計を選ぶ際の実践的なガイドラインと注意点について解説します。

目的別の脳波計選択ガイド:

  1. 医療診断用
    • 高精度な測定が必要なため、医療用に認証された専門機器を選択
    • 多チャンネル(16〜256チャンネル)のウェットタイプが一般的
    • 国際10-20法に準拠した電極配置が可能なもの
    • ノイズ除去機能が充実したものを選択
  2. 研究用
    • 研究目的に応じたチャンネル数(8〜64チャンネル程度)
    • データ解析ソフトウェアとの互換性を確認
    • サンプリングレート(250Hz以上推奨)に注意
    • 外部機器との同期機能があると便利
  3. ニューロフィードバック用
    • リアルタイム処理が可能なもの
    • 使いやすいフィードバックインターフェースがあるもの
    • 比較的少ないチャンネル数(1〜8チャンネル)でも可
    • ドライ電極タイプが便利
  4. コンシューマ・教育用
    • 装着が簡単なドライ電極タイプ
    • ワイヤレス接続が可能なもの
    • バッテリー駆動時間に注意
    • スマートフォンやタブレットと連携可能なもの

脳波計選択時の注意点:

  1. 信号品質とノイズ対策
    • 電極の材質と接触品質を確認(銀/塩化銀電極が一般的)
    • アクティブシールドやノイズフィルタの性能をチェック
    • インピーダンスチェック機能があると便利
  2. データ処理と解析
    • サンプリングレート(Hz)が目的に適しているか
    • A/D変換のビット数(16ビット以上推奨)
    • 付属ソフトウェアの機能と使いやすさ
    • データエクスポート形式の互換性
  3. 実用性と運用コスト
    • 初期コストだけでなく、消耗品(ジェルや電極)の費用も考慮
    • バッテリー駆動時間と充電方法
    • 装着の簡便さと準備時間
    • 洗浄・メンテナンスの容易さ
  4. メーカーサポートと信頼性
    • 技術サポートの充実度
    • ユーザーコミュニティの存在
    • ファームウェアアップデートの頻度
    • 故障時の修理対応

実際の選択にあたっては、可能であればデモ機を試用するか、同様の目的で使用している研究者や医療機関の意見を参考にすることをお勧めします。また、将来的な拡張性も考慮し、追加電極やオプション機能の有無も確認しておくとよいでしょう。

脳波計は高価な機器であるため、十分な情報収集と比較検討を行った上で、最適な機種を選択することが重要です。特に研究用途では、測定データの信頼性が研究結果を左右するため、品質と精度を優先して選ぶことをお勧めします。

脳波の応用は日々進化しており、機器の選択肢も増えています。目的に合った脳波計を選ぶことで、より効果的な測定と分析が可能になるでしょう。

脳波計技術に関する最新情報は、日本臨床神経生理学会などの専門学会や、各メーカーの技術情報を参照することをお勧めします。

日本臨床神経生理学会 – 脳波に関する最新の研究や臨床応用についての情報