超音波診断装置の種類と特徴で選ぶプローブ

超音波診断装置の種類と特徴

超音波診断装置の基本情報
🔍

非侵襲的検査

放射線被ばくなく、リアルタイムで体内の状態を観察できる安全な検査方法

🏥

幅広い診療科で活用

産婦人科、循環器科、整形外科など様々な診療科で日常的に使用される診断ツール

⚙️

適切な機器選択の重要性

検査部位や目的に応じたプローブと装置の選択が診断精度を左右する

超音波診断装置は現代医療において欠かせない診断ツールとなっています。放射線被ばくのリスクがなく、リアルタイムで体内の状態を観察できるという特性から、様々な診療科で広く活用されています。本記事では、医療従事者の皆様に向けて、超音波診断装置の種類や特徴、プローブの選び方などについて詳しく解説します。

超音波診断装置のプローブ形状による分類

超音波診断装置の性能を左右する重要な要素の一つがプローブ(探触子)です。プローブは超音波を送受信する部分であり、その形状によって大きく分類されます。主なプローブの形状には以下のようなものがあります。

  1. リニア型プローブ
    • 特徴:接地表面付近の視野幅を確保でき、浅部の観察に適しています
    • 周波数帯域:2.5MHz~15MHzと幅広く、高周波のものが多い
    • 主な用途:乳腺、甲状腺、血管、筋骨格系などの表在組織の観察
    • 素子数:64ch~256chと様々なバリエーションがある
  2. コンベックス型プローブ
    • 特徴:ある程度の接地面で深部での広角の観察が可能
    • 周波数帯域:2.5MHz~7.5MHz程度
    • 主な用途:腹部(肝臓・腎臓・膵臓・胆嚢など)、産科・婦人科(体表)
    • 曲率:R10~R80と様々なものがあり、視野角は約100度まで実現可能
  3. セクタ型プローブ
    • 特徴:接地面が極めて小さく、肋骨間などの狭いスペースからの観察に適している
    • 周波数帯域:2MHz~7.5MHz
    • 主な用途:心臓などの循環器系の検査
    • 素子数:32ch~128ch

これらの基本的な形状に加えて、特殊な用途向けのプローブも存在します。例えば、経膣プローブや経直腸プローブは、それぞれ婦人科領域や前立腺の検査に特化したコンベックス型のプローブです。また、3Dプローブは立体的な画像を得るための特殊なプローブで、産科領域などで活用されています。

プローブの選択は検査対象となる臓器や組織の深さ、必要な解像度によって決まります。例えば、整形外科領域では多くの病変が皮下3cm以内に存在するため、12MHz以上の高周波リニアプローブが適しています。

超音波診断装置の走査方式と画像モード

超音波診断装置の走査方式には、電子走査方式と機械走査方式があります。現在の主流は電子走査方式で、これはさらにリニアスキャン、コンベックススキャン、セクタスキャンなどに分類されます。

画像モードについては、以下のような種類があります。

  1. Bモード(輝度モード)
    • 最も基本的な画像表示モードで、組織の断層像を白黒の輝度で表示
    • 組織の形態学的な観察に適している
  2. Mモード(動作モード)
    • 時間軸に沿って組織の動きを記録するモード
    • 心臓の弁の動きなど、時間的変化の観察に適している
  3. カラードプラモード
    • 血流の方向や速度を色で表示するモード
    • 赤色は探触子に向かう血流、青色は探触子から遠ざかる血流を示す
  4. パワードプラモード
    • 血流の強さ(パワー)を色の濃淡で表示するモード
    • 微細な血流の検出に優れている
  5. スペクトラルドプラモード(PWドプラ、CWドプラ)
    • 特定の部位の血流速度を波形で表示するモード
    • 血流の定量的評価が可能

最新の超音波診断装置では、これらの基本モードに加えて、組織の硬さを評価するエラストグラフィや、造影剤を用いた造影超音波など、さらに高度な機能が搭載されています。例えば、コニカミノルタの「SONIMAGE HS2」では、ストレインエラストグラフィがオプションとして提供されており、組織の硬さの違いを視覚化することができます。

超音波診断装置の臨床応用と専門分野別の選び方

超音波診断装置は様々な診療科で活用されていますが、専門分野によって求められる機能や性能が異なります。ここでは、主な診療科ごとの超音波診断装置の選び方について解説します。

産婦人科領域

産婦人科領域では、妊娠初期から後期までの胎児の観察や、子宮・卵巣などの婦人科疾患の診断に超音波検査が欠かせません。この分野では、以下のような特徴を持つ装置が適しています。

  • コンベックスプローブ:腹部からの胎児観察に
  • 経膣プローブ:初期胎児や子宮・卵巣の詳細観察に
  • 3D/4Dプローブ:胎児の立体的観察に

GE HealthcareのVoluson Expert 22やVoluson Signature 20などは、産婦人科専用に開発された高性能な超音波診断装置で、高解像度の画像と専用の解析ソフトウェアを備えています。

循環器領域

心臓の構造や機能、血流の評価に用いられる循環器領域では、以下のような特徴が重要です。

  • セクタプローブ:肋骨間からの心臓観察に
  • 高フレームレート:心臓の素早い動きを捉えるために必要
  • ドプラ機能:血流評価に不可欠

整形外科領域

整形外科領域では、筋肉、腱、靭帯、関節などの評価に超音波検査が活用されています。コニカミノルタのSNiBLE2のような整形外科向けの超音波診断装置は、以下のような特徴を持っています。

  • 高周波リニアプローブ:表在組織の高解像度観察に
  • 携帯性:診察台の横で簡単に使用できるコンパクトな設計
  • 専用ソフトウェア:筋骨格系の評価に特化した機能

SNiBLE2は、整形外科外来診療における画像診断の第一選択として、従来の単純X線写真から超音波画像へと移行する流れを促進しています。装置の電源を入れ、プローブに専用ゼリーを塗って体表にあてるだけで、簡単かつ瞬時に画像を描出できる特徴があります。

腹部領域

肝臓、腎臓、膵臓、胆嚢などの腹部臓器の評価には、以下のような特徴を持つ装置が適しています。

  • コンベックスプローブ:深部臓器の観察に
  • ハーモニックイメージング:深部での画質向上に
  • カラードプラ機能:血流評価に

超音波診断装置の最新技術とイメージング機能

超音波診断装置の技術は日々進化しており、より高精細な画像や新たな診断情報を提供する機能が開発されています。ここでは、最新の超音波診断装置に搭載されている先進的な技術について紹介します。

Differential THI(ディファレンシャル・ティッシュ・ハーモニック・イメージング)

2つの周波数を合成して送信することで、広帯域のハーモニック成分を画像化する技術です。これにより、浅部から深部まで感度の良い画像を描出することができます。キヤノンメドテックサプライの「Aplio flex V」などに搭載されています。

Wide View(ワイドビュー)

表示視野角を広げて観察可能にする技術で、例えばコンベックスプローブ使用時には約100度の視野角で観察することができます。広い範囲を一度に観察できるため、大きな臓器や構造物の全体像を把握しやすくなります。

Precision Imaging(プレシジョン・イメージング)

近接する超音波ライン信号を高速処理し、実質組織を均一かつ構造の境界を強調することで組織の視認性を高める技術です。これにより、微細な組織構造の違いを識別しやすくなります。

Advanced Dynamic Flow(アドバンスト・ダイナミック・フロー)

通常のカラードプラと比べて繊細で高フレームレートに血流などの情報を表示することが可能な技術です。微細な血流の変化も捉えることができるため、血管疾患の診断などに役立ちます。

超広帯域高周波プローブと画像エンジン

コニカミノルタの「SONIMAGE HS2」や「SNiBLE2」に搭載されている技術で、独自開発の超広帯域高周波プローブと画像エンジンを組み合わせ、帯域内に入ってくる多くの差音/和音/高調波を送受信することに成功しています。この技術により、高い解像度と深部到達性を両立した画像を得ることができます。

これらの最新技術は、診断の精度向上だけでなく、検査のワークフロー改善にも貢献しています。例えば、GE HealthcareのVoluson Expertシリーズには、AIを活用した自動測定機能や画像最適化機能が搭載されており、検査時間の短縮と再現性の向上を実現しています。

超音波診断装置の選定基準と医療現場での活用事例

超音波診断装置を選定する際には、診療科や検査内容に応じた適切な機種選びが重要です。ここでは、装置選定の基準と実際の医療現場での活用事例について解説します。

選定基準

  1. 検査対象と目的
    • 対象となる臓器や組織の深さ
    • 必要な解像度と画質
    • 特殊な機能(エラストグラフィ、造影超音波など)の必要性
  2. 使用環境
    • 設置スペース(診察室、ベッドサイドなど)
    • 移動の必要性(ポータブルタイプか据置型か)
    • 電源環境
  3. 操作性と学習コスト
    • ユーザーインターフェースの直感性
    • 操作パネルのレイアウト
    • トレーニングの必要性と提供体制
  4. コストパフォーマンス
    • 初期導入コスト
    • ランニングコスト(メンテナンス、消耗品など)
    • アップグレードの可能性

医療現場での活用事例

整形外科外来での活用

整形外科領域では、超音波検査が「聴診器感覚」で手軽に扱える診断ツールとして注目されています。SNiBLE2のような整形外科向け超音波診断装置は、診察と同時に画像診断を行うことができるため、患者の待ち時間短縮や医療費削減に貢献しています。

具体的な活用例として、肩関節周囲炎の診断があります。患者の痛みのある部位を直接観察しながら、腱板の状態や滑液包の炎症を評価することで、より的確な診断と治療方針の決定が可能になります。

救急医療での活用

救急医療の現場では、迅速な診断が求められます。ポータブルタイプの超音波診断装置は、ベッドサイドで即座に検査を行うことができるため、腹部外傷の評価や心タンポナーデの診断など、緊急性の高い状況で活躍しています。

在宅医療での活用

高齢化社会の進展に伴い、在宅医療の重要性が高まっています。小型・軽量の超音波診断装置は、訪問診療の際に持ち運びが容易で、患者の自宅でも質の高い画像診断を提供することができます。例えば、寝たきり患者の褥瘡評価や、在宅での心不全管理などに活用されています。

動物医療での活用

人間だけでなく、動物医療の分野でも超音波診断装置は重要なツールとなっています。キヤノンメドテックサプライの「Aplio flex V」のような動物病院向け超音波診断装置は、小動物から大型動物まで様々な種の診断に対応しています。特に、非侵襲的に内部状態を確認できる点は、動物医療においても大きなメリットとなっています。

超音波診断装置の選定と活用においては、各医療機関の診療内容や患者層、スタッフの習熟度などを総合的に考慮することが重要です。また、定期的なトレーニングや最新技術の習得も、装置の性能を最大限に引き出すために欠かせません。

超音波診断装置は、その非侵襲性と即時性から、今後もさらに多くの医療分野で活用が広がっていくことが予想されます。医療従事者の皆様には、それぞれの診療環境に最適な装置を選び、患者さんにより良い医療を提供するためのツールとして活用していただければと思います。

日本超音波医学会による超音波診断装置の安全性と有効性に関する情報
日本超音波医学会による超音波診断の教育・研修に関する情報