中心静脈用カテーテルの種類と感染リスク予防

中心静脈用カテーテルの種類と選択ポイント

中心静脈カテーテルの基本情報
💉

目的と用途

中心静脈注射や中心静脈圧測定のために中心静脈内に留置して使用するカテーテル

🔄

主な分類

短期留置用と長期留置用、挿入部位による分類、ルーメン数による分類など

⚠️

選択のポイント

治療目的、留置期間、感染リスク、患者の状態に応じた適切な種類の選択が重要

中心静脈用カテーテルのルーメン数による分類と特徴

中心静脈用カテーテルは、内腔(ルーメン)の数によって大きく分類されます。ルーメン数は投与される薬剤の数や種類に応じて選択する必要があります。

  1. シングルルーメン
    • 内腔が1つのカテーテル
    • 標準価格:1,790円(2024年度診療報酬改定)
    • メリット:感染リスクが最も低い
    • 用途:単一の薬剤投与や中心静脈圧測定
  2. ダブルルーメン
    • 内腔が2つのカテーテル
    • 用途:2種類の薬剤を同時に投与する場合
    • 特徴:内腔の断面積は均一ではなく、太いルートをメインルートとして使用
  3. トリプルルーメン
    • 内腔が3つのカテーテル
    • 用途:3種類以上の薬剤を同時投与する場合
    • 特徴:複数の薬剤を混合せずに投与可能
  4. マルチルーメン(クワッドルーメンを含む)
    • 内腔が複数(4つ以上も含む)のカテーテル
    • 標準価格:7,210円(2024年度診療報酬改定)
    • 用途:多剤同時投与、緊急時の大量輸液
    • 注意点:ルーメン数が多いほど感染リスクが高まる

カテーテルのルーメン数は必要最小限にすることが推奨されています。内腔の数が少なければ少ないほど感染の危険性が低くなるため、患者の状態や治療計画に応じて適切なルーメン数のカテーテルを選択することが重要です。また、ダブルルーメンやトリプルルーメンを使用する場合は、太いルートをメインルートとして使用し、粘度の高い薬剤や脂肪乳剤などはこの太いルートから投与することでスムーズな輸液が可能になります。

中心静脈用カテーテルの挿入部位による種類と選択基準

中心静脈カテーテルの挿入部位の選択は、感染リスクや機械的合併症のリスクを考慮して決定する必要があります。主な挿入部位とその特徴は以下の通りです。

1. 内頸静脈

  • 位置:首の側面
  • メリット:解剖学的に確認しやすい、超音波ガイド下での穿刺が容易
  • デメリット:鎖骨下静脈と比較して細菌定着・感染率がやや高い
  • 適応:透析導入が長期にわたる場合は内頸静脈が推奨される

2. 鎖骨下静脈

  • 位置:鎖骨の下
  • メリット:感染予防の観点からは第一選択とされることが多い
  • デメリット:気胸などの機械的合併症のリスクがある
  • 適応:長期留置が必要な場合、感染リスク低減が優先される場合

3. 大腿静脈

  • 位置:鼠径部
  • メリット:穿刺が比較的容易
  • デメリット:血流感染のリスクが最も高い(皮膚刺入部が陰部に近く、清潔性維持が困難)
  • 適応:緊急時や他の部位が使用できない場合の一時的使用

4. 末梢静脈(PICC: 末梢挿入型中心静脈カテーテル)

  • 位置:上腕の静脈から挿入
  • メリット:重篤な機械的合併症のリスクが少なく安全性が高い
  • 価格:シングルルーメン1,700円、マルチルーメン7,320円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:長期の抗生物質投与、化学療法など

「血管内カテーテル関連感染防止CDCガイドライン2011」では、成人の場合、中心静脈アクセスには大腿静脈の使用を避けることが推奨されています。これは大腿静脈が内頸静脈や鎖骨下静脈と比較して血流感染の割合が高いためです。大腿部挿入と鎖骨下挿入に関する無作為化比較研究では、大腿部への挿入で全身感染の頻度が有意に高かった(19.8% vs. 4.5%;p<0.001)という報告もあります。

いずれの部位においても、穿刺時の合併症のリスクを軽減するためにエコー(超音波)ガイドを使用することが有用です。挿入部位の選択は、感染予防の観点だけでなく、穿刺に伴う機械的合併症も考慮して総合的に判断する必要があります。

中心静脈用カテーテルの特殊機能による種類と適応

中心静脈用カテーテルには、特殊な機能を持つ種類も存在し、患者の状態や治療目的に応じて選択されます。

1. 抗血栓性型カテーテル

  • 特徴:カテーテル表面にウロキナーゼやヘパリンが固定化・コーティングされている
  • 価格:2,290円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:血栓形成リスクの高い患者、長期留置が必要な患者
  • 効果:カテーテル関連血栓症の予防

2. 抗菌型カテーテル

  • 特徴:カテーテル由来血流感染症のリスクを低減させる加工が施されている
  • 価格:9,730円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:感染リスクの高い患者、免疫不全患者
  • 条件:マルチルーメンであること

3. 極細型カテーテル

  • 特徴:カテーテルの外径が24G(0.65mm)以下
  • 価格:7,490円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:新生児や小児、血管が細い患者
  • メリット:血管損傷のリスク低減

4. カフ付きカテーテル

  • 特徴:長期留置を目的に皮下固定用のカフを有する
  • 価格:20,000円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:長期の中心静脈栄養が必要な患者
  • メリット:カテーテルの固定性向上、感染経路の遮断

5. 酸素飽和度測定機能付きカテーテル

  • 特徴:酸素飽和度測定用のファイバを有する
  • 価格:35,100円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:集中治療を要する重症患者
  • 機能:連続的な中心静脈血酸素飽和度モニタリング

6. 逆流防止機能付きカテーテル(PICC特殊型)

  • 特徴:カテーテル自体に薬液の注入および血液の吸引が可能な逆流防止機能を有する
  • 価格:シングルルーメン13,400円、マルチルーメン20,900円(2024年度診療報酬改定)
  • 適応:長期の間欠的投与が必要な患者
  • メリット:カテーテル非使用時に内腔への血液逆流を防止

これらの特殊機能付きカテーテルは一般的に標準型よりも高価ですが、特定の臨床状況では合併症の予防や患者の快適性向上に貢献します。患者の状態、治療計画、感染リスク、コスト効果などを総合的に評価して、最適なカテーテルを選択することが重要です。

中心静脈用カテーテルの長期留置型と短期留置型の違い

中心静脈カテーテルは留置期間によって短期留置用と長期留置用に大別され、それぞれ構造や使用目的が異なります。

短期留置用カテーテル

  • 留置期間:通常2〜4週間程度
  • 構造:比較的シンプルで、皮膚から体外に出ている
  • 種類:非カフ型カテーテル
  • 挿入部位:内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈など
  • 用途:急性期治療、短期間の中心静脈栄養、薬剤投与
  • 管理:定期的な刺入部の消毒と固定の確認が必要
  • 先端位置:上大静脈内(日本透析医学会推奨)

長期留置用カテーテル

  1. 完全皮下埋め込み式カテーテル(CVポート)
    • 構造:カテーテルとポート部分が完全に皮下に埋め込まれている
    • 特徴:体外に出ている部分がなく、日常生活への影響が少ない
    • 用途:長期の化学療法、間欠的な薬剤投与
    • メリット:感染リスクが低い、入浴などの制限が少ない
    • デメリット:使用時には専用の針(ヒューバー針)で穿刺が必要
  2. 体外式長期留置用カテーテル
    • 種類:Hickman catheter、Broviac catheterなど
    • 構造:カフ付きで皮下トンネルを通して留置
    • 特徴:カテーテルの一部が体外に出ている
    • 用途:長期の中心静脈栄養、頻回の採血が必要な場合
    • 先端位置:上大静脈‒右心房接合部(日本透析医学会推奨)
  3. 上腕ポート
    • 特徴:上腕に埋め込むタイプのポート
    • メリット:胸部ポートに比べて挿入時の合併症リスクが低い
    • 適応:胸部へのポート留置が困難な患者、乳がん患者など

長期留置用カテーテルは、短期留置用に比べて構造が複雑で、挿入には特殊な技術が必要ですが、長期間の使用に適しています。特に完全皮下埋め込み式のCVポートは、外観上の問題が少なく、感染リスクも低いため、長期の化学療法などを受ける患者に適しています。

一方、短期留置用カテーテルは挿入が比較的容易で、緊急時にも使用できますが、長期間の留置には適していません。留置期間が長くなるほど感染リスクが高まるため、必要がなくなった時点で速やかに抜去することが推奨されています。

中心静脈用カテーテルの感染リスクと予防策の独自視点

中心静脈カテーテル関連血流感染(CRBSI: Catheter-Related Bloodstream Infection)は重大な合併症の一つであり、適切な予防策が不可欠です。ここでは、最新の研究知見に基づいた感染リスク低減のための独自の視点を提供します。

感染リスクに影響する要因とその対策

  1. カテーテルの種類と感染率の関係
    • シングルルーメンとマルチルーメンの比較。

      マルチルーメンカテーテルはシングルルーメンに比べて感染率が約2〜3倍高い

    • 対策:必要最小限のルーメン数を選択し、不要なルーメンは使用しない
  2. 挿入部位別の感染リスク階層
    • 感染リスク:大腿静脈 > 内頸静脈 > 鎖骨下静脈 > PICC
    • 大腿静脈カテーテルの感染率は鎖骨下静脈の約4倍という報告もある
    • 対策:可能な限り感染リスクの低い部位を選択する
  3. PICCとCVCの感染リスク比較の新たな視点
    • 従来の見解:PICCはCVCより感染リスクが低い
    • 最新の研究知見:入院患者ではPICCとCVCの血流感染発生率に有意差がない場合もある
    • 重要な考慮点:患者の状態、入院環境、管理方法によって感染リスクは変動する
  4. カテーテル先端位置と感染リスク
    • 日本と海外のガイドラインの違い。
      • 日本透析医学会:非カフ型は上大静脈内、カフ型は上大静脈‒右心房接合部を推奨
      • 海外の一部学会:非カフ型は上大静脈‒右心房接合部、カフ型は右房内を推奨
    • 独自視点:先端位置の適切な評価には、X線検査が必須であり、体表ランドマーク法や心電図法だけでは不十分
  5. コスト効果分析に基づく感染予防の経済的メリット
    • PICCとCVCの比較データ(553人の患者群)。
      • CRBSI発生数:PICC 59件 vs CVC 98件
      • 推定削減効果:抗菌薬約1600万円、入院日数約820日
    • 独自視点:適切なカテーテル選択は医療経済的にも大きなメリットがある

実践的な感染予防策

  1. 挿入前の対策
    • 挿入前にシャワー浴または清拭を行い、目に見える汚染を除去
    • 除毛が必要な場合は、カミソリ剃毛を避け、医療用クリッパーを使用
    • 挿入部位の皮膚消毒には0.5%を超える濃度のクロルヘキシジンを含むアルコール製剤を使用
  2. 挿入時の対策
    • 最大バリアプレコーション(滅菌手袋、滅菌ガウン、マスク、帽子、大きな滅菌ドレープ)の徹底
    • 超音波ガイド下穿刺の活用
    • 挿入手技の標準化と教育の徹底
  3. 留置中の管理
    • 定期的なドレッシング交換(透明ドレッシングは7日ごと、ガーゼドレッシングは2日ごと)
    • 毎日のカテーテル刺入部の観察と評価
    • 不要になったカテーテルの速やかな抜去
  4. 組織的アプローチ
    • カテーテル挿入と管理のバンドル(複合的介入策)の導入
    • 定期的な医療スタッフの教育と評価
    • 感染サーベイランスの実施と結果のフィードバック

中心静脈カテーテル関連感染は、適切なカテーテルの選択と厳格な感染予防策の実施により、大幅に減少させることが可能です。特に、必要最小限のルーメン数の選択、適切な挿入部位の選定、そして標準化された挿入・管理手順の徹底が重要です。また、最新の研究知見に基づいた予防策の更新と、医療チーム全体での取り組みが感染率低減の鍵となります。

末梢挿入型中心静脈カテーテルと従来の中心静脈カテーテルの比較研究(J-Stage)