アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)一覧と種類の効果的な使い分け

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)一覧と特徴

ARBの基本情報
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7種類の選択肢

日本では2023年7月時点で7種類のARBが使用可能で、それぞれ特徴が異なります

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主な効能・効果

高血圧症の治療が主な目的ですが、一部は腎症や心不全にも適応があります

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薬価差に注目

先発品と後発品では大きな薬価差があり、同じ効果でもコスト面で選択肢があります

アンジオテンシンII受容体拮抗薬ARB)は血圧治療の第一選択薬として広く使用されています。日本では2023年7月時点で7種類のARBが承認・販売されており、それぞれ特徴が異なります。この記事では、各ARBの特性や使い分け、配合剤などについて詳しく解説します。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の7種類と基本情報

日本で使用可能なARBは以下の7種類です。発売順に紹介します。

  1. ロサルタン(商品名:ニューロタン)
    • 発売時期:最も早く発売されたARB
    • 先発品薬価:81.4円/50mg/日
    • 後発品薬価:18.7~26.1円/50mg/日
    • 特徴:糖尿病性腎症に適応あり
  2. カンデサルタン(商品名:ブロプレス)
    • 先発品薬価:76.4円/8mg/日
    • 後発品薬価:14.7~39.7円/8mg/日
    • 特徴:小児(1歳以上)適応あり、腎実質性高血圧症、慢性心不全(軽症~中等症)にも適応
  3. バルサルタン(商品名:ディオバン)
    • 先発品薬価:45.6円/80mg/日
    • 後発品薬価:18.2~22.8円/80mg/日
    • 特徴:AT1受容体に選択性が高い、半減期が短く分2投与推奨
  4. オルメサルタン(商品名:オルメテック)
    • 先発品薬価:58.8円/20mg/日
    • 後発品薬価:13.1~29.6円/20mg/日
    • 特徴:承認用量での降圧効果が高い、CYP2C19の寄与率が低い
  5. テルミサルタン(商品名:ミカルディス)
    • 先発品薬価:75.8円/40mg/日
    • 後発品薬価:11.1~23.7円/40mg/日
    • 特徴:100%胆汁排泄、CYP2C19の寄与率が低い、承認用量での降圧効果が高い
  6. イルベサルタン(商品名:アバプロ、イルベタン)
    • 先発品薬価:73.0~76.0円/100mg/日
    • 後発品薬価:16.0~26.9円/100mg/日
  7. アジルサルタン(商品名:アジルバ
    • 先発品薬価:140.2円/20mg/日
    • 後発品:なし(2023年4月時点)
    • 特徴:日本での最大用量40mgにおいて、他のARBより降圧効果が高い

これらのARBは基本的な作用機序は同じですが、薬物動態や適応症、降圧効果などに違いがあります。日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では、ARB間の使い分けについて明確な記載はありませんが、各薬剤の特性を理解して選択することが重要です。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の効能・効果と推奨薬

ARBの主な効能・効果は高血圧症の治療ですが、一部のARBには特定の疾患に対する適応があります。八尾市地域フォーミュラリによる推奨薬は以下の通りです。

高血圧症に対する第一推奨薬

  • オルメサルタン(オルメテック®)
    • 承認用量での降圧効果が高い
    • CYP2C19の寄与率が低い
  • テルミサルタン(ミカルディス®)
    • 承認用量での降圧効果が高い
    • CYP2C19の寄与率が低い
    • 100%胆汁排泄(肝機能障害がある患者には注意が必要)

    高血圧症に対する第二推奨薬

    • カンデサルタン(ブロプレス®)
      • 小児(1歳以上)適応あり
      • 腎実質性高血圧症、慢性心不全(軽症~中等症)適応あり
    • アジルサルタン(アジルバ®)
      • 日本での最大用量40mgにおいて、他のARBより降圧効果が高い
      • 後発品なし(2023年時点)

      特定の疾患に対する適応があるARB

      • 腎実質性高血圧症:カンデサルタン
      • 糖尿病性腎症:ロサルタン
      • 慢性心不全(軽症~中等症):カンデサルタン、バルサルタン

      ARBの選択にあたっては、患者の年齢、合併症、腎機能、肝機能、薬物相互作用などを考慮する必要があります。特に高齢者や腎機能障害のある患者では、用量調整が必要な場合があります。

      アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)配合剤の種類と選択基準

      ARBは単剤でも使用されますが、より効果的な降圧を目的として他の降圧薬と組み合わせた配合剤も多数あります。主な配合パターンは以下の3種類です。

      1. ARB + カルシウム拮抗薬Ca拮抗薬)の配合剤

      • アジルサルタン + アムロジピン
        • ザクラスLD(アジルサルタン20mg + アムロジピン2.5mg)
        • ザクラスHD(アジルサルタン20mg + アムロジピン5mg)
        • ジルムロLD(後発品)
        • ジルムロHD(後発品)
      • カンデサルタン + アムロジピン
        • ユニシアLD(カンデサルタン8mg + アムロジピン2.5mg)
        • ユニシアHD(カンデサルタン8mg + アムロジピン5mg)
        • カムシアLD(後発品)
        • カムシアHD(後発品)
      • テルミサルタン + アムロジピン
        • ミカムロAP(テルミサルタン40mg + アムロジピン2.5mg)
        • ミカムロBP(テルミサルタン80mg + アムロジピン5mg)
        • テラムロAP(後発品)
        • テラムロBP(後発品)
      • バルサルタン + アムロジピン
        • エックスフォージ(バルサルタン80mg + アムロジピン5mg)
        • アムバロ(後発品)
      • オルメサルタン + アゼルニジピン
        • レザルタスLD(オルメサルタン10mg + アゼルニジピン8mg)
        • レザルタスHD(オルメサルタン20mg + アゼルニジピン16mg)

        2. ARB + 利尿薬の配合剤

        • ロサルタン + ヒドロクロロチアジド
          • プレミネントLD(ロサルタン50mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg)
          • プレミネントHD(ロサルタン100mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg)
          • ロサルヒドLD(後発品)
          • ロサルヒドHD(後発品)
        • カンデサルタン + ヒドロクロロチアジド
          • エカードLD(カンデサルタン4mg + ヒドロクロロチアジド6.25mg)
          • エカードHD(カンデサルタン8mg + ヒドロクロロチアジド6.25mg)
          • カデチアLD(後発品)
          • カデチアHD(後発品)
        • バルサルタン + ヒドロクロロチアジド
          • コディオMD(バルサルタン80mg + ヒドロクロロチアジド6.25mg)
          • コディオEX(バルサルタン80mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg)
          • バルヒディオMD(後発品)
          • バルヒディオEX(後発品)
        • テルミサルタン + ヒドロクロロチアジド
          • ミコンビAP(テルミサルタン40mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg)
          • ミコンビBP(テルミサルタン80mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg)
          • テルチアAP(後発品)
          • テルチアBP(後発品)

          3. 3剤配合剤

          • テルミサルタン + アムロジピン + ヒドロクロロチアジド
            • ミカトリオ(テルミサルタン80mg + アムロジピン5mg + ヒドロクロロチアジド12.5mg)

            配合剤の選択基準としては、以下のポイントが重要です。

            • 患者の血圧値と目標血圧
            • 合併症の有無(糖尿病、腎疾患、心疾患など)
            • 副作用のリスク(浮腫、電解質異常など)
            • 服薬アドヒアランスの向上(配合剤は服薬錠数を減らせる)
            • 薬剤費(後発品の有無)

            配合剤は服薬錠数を減らし、アドヒアランスを向上させるメリットがありますが、個々の成分の用量調整が難しいというデメリットもあります。患者の状態に合わせた適切な選択が必要です。

            アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と薬物相互作用の注意点

            ARBを安全に使用するためには、他の薬剤との相互作用について理解しておくことが重要です。主な薬物相互作用は以下の通りです。

            1. 併用禁忌薬

            • アリスキレン(商品名:ラジレス):糖尿病患者または中等度以上の腎機能障害のある患者(eGFR 60 mL/min/1.73m²未満)では併用禁忌
              • 理由:レニン-アンジオテンシン系の過度の抑制により、低血圧、高カリウム血症、腎機能障害のリスクが増加

              2. 併用注意薬

              • カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)
                • 高カリウム血症のリスクが増加
              • 非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs
                • ARBの降圧効果が減弱する可能性
                • 腎機能障害のリスクが増加
              • リチウム
                • 血中リチウム濃度が上昇し、リチウム中毒のリスクが増加
              • 降圧作用を有する他の薬剤(β遮断薬、Ca拮抗薬など)
                • 相加的な降圧効果により過度の血圧低下が生じる可能性

                3. 代謝に関連する相互作用

                • テルミサルタンはP糖蛋白(P-gp)の基質であり、P-gpの阻害薬(シクロスポリン、キニジンなど)との併用で血中濃度が上昇する可能性
                • ロサルタンはCYP2C9で代謝されるため、CYP2C9阻害薬(フルコナゾールなど)との併用で血中濃度が上昇する可能性
                • オルメサルタンとテルミサルタンはCYP2C19の寄与率が低いため、CYP2C19の遺伝子多型の影響を受けにくい

                薬物相互作用のリスクを最小限にするためには、患者の服用薬をすべて把握し、必要に応じて用量調整や代替薬への変更を検討することが重要です。特に高齢者や多剤併用患者では、相互作用のリスクが高まるため注意が必要です。

                アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と新規治療アプローチの展望

                ARBは高血圧治療の基本薬として確立されていますが、近年では新たな治療アプローチも登場しています。ここでは、ARBに関連する新しい治療法や今後の展望について解説します。

                1. ARNIの登場

                アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、ARBとネプリライシン阻害薬を組み合わせた新しいタイプの薬剤です。日本では「エンレスト」(サクビトリルバルサルタン)が承認されています。

                • エンレスト100mg:バルサルタン51mg + サクビトリル49mg
                • エンレスト200mg:バルサルタン103mg + サクビトリル97mg

                サクビトリルはナトリウム利尿ペプチドの分解に関わるネプリライシンを阻害し、利尿作用を促進します。高血圧での開始用量は1日1回200mg(状態により1回100mg)で、1日1回400mgまで増量可能です。

                エンレスト200mgに含まれるバルサルタンは103mgで、単剤のバルサルタン80mgより多いように見えますが、バイオアベイラビリティの違いにより実際の効果は同等とされています。

                2. ARBの個別化医療

                薬物代謝酵素の遺伝子多型に基づく個別化医療も進んでいます。例えば。

                • CYP2C9の遺伝子多型がロサルタンの代謝に影響
                • CYP2C19の寄与率が低いオルメサルタンやテルミサルタンは、遺伝子多型の影響を受けにくい

                今後は遺伝子検査に基づいて、個々の患者に最適なARBを選択する「プレシジョン・メディシン」が発展する可能性があります。

                3. デジタルヘルスとの融合

                服薬アドヒアランスの向上を目的としたデジタルヘルス技術との融合も進んでいます。

                • スマートピルボックス:服薬時間を通知し、服薬状況を記録
                • 服薬管理アプリ:血圧値と服薬状況を連動させて管理
                • 遠隔モニタリング:医療機関と連携した血圧管理システム

                これらの技術により、ARBを含む降圧薬の効果を最大化し、治療成績の向上が期待されています。

                4. 新規ARBの開発

                現在の7種類に加え、さらに効果的で副作用の少ないARBの開発も進められています。特に以下の特性を持つARBが研究されています。

                • 組織選択性の向上:心臓や腎臓などの特定組織での効果を高めた薬剤
                • 多機能性ARB:抗酸化作用や抗炎症作用など、降圧以外の作用も併せ持つ薬剤
                • 超長時間作用型:服薬頻度をさらに減らせる薬剤

                ARBは今後も高血圧治療の中心的役割を担いながら、より効果的で患者に優しい治療を実現するために進化を続けるでしょう。

                日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」- ARBに関する詳細な推奨と使用法が記載されています
                エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の添付文書 – ARNIの詳細な情報が記載されています