中枢性鎮咳薬の一覧と特徴や効果の比較

中枢性鎮咳薬の一覧と特徴

中枢性鎮咳薬の基本情報
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作用機序

延髄の咳中枢に直接作用して咳反射を抑制します

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大きな分類

麻薬性鎮咳薬と非麻薬性鎮咳薬の2種類があります

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使用上の注意

依存性や副作用のリスクを考慮した適切な選択が必要です

中枢性鎮咳薬は、延髄にある咳中枢に直接作用して咳反射を抑制する薬剤です。咳は体内の異物を排出するための防御反応ですが、長期化すると体力の消耗や睡眠障害などを引き起こすことがあります。そのような場合に、中枢性鎮咳薬が処方されることがあります。

中枢性鎮咳薬は大きく「麻薬性鎮咳薬」と「非麻薬性鎮咳薬」の2種類に分類されます。それぞれ特徴や副作用が異なるため、患者の症状や状態に合わせた適切な選択が求められます。

本記事では、中枢性鎮咳薬の種類や特徴、効果的な使い分けについて詳しく解説します。医療従事者の方々が日常診療で活用できる情報を提供します。

中枢性鎮咳薬の麻薬性成分一覧と特徴

麻薬性鎮咳薬は、強力な鎮咳効果を持つ薬剤です。主な成分としては以下のものがあります。

  1. コデインリン酸塩
    • 用量:5mg/20mg(錠剤)、1%/10%(散剤)
    • 特徴:強力な鎮咳効果を持ち、延髄の咳中枢を直接抑制
    • 作用時間:4〜6時間程度
    • 副作用:便秘、眠気、呼吸抑制など
  2. ジヒドロコデインリン酸塩
    • 特徴:コデインの約2倍の力価を持ち、少ない用量で効果を発揮
    • 剤形:主に散剤として存在
    • 副作用:コデインと同様に便秘、眠気などが見られる

麻薬性鎮咳薬の特徴として、モルヒネと化学構造が類似しており、強力な鎮咳効果がある一方で、長期使用や大量摂取により依存性を引き起こす可能性があります。また、気管支喘息の発作中には使用できないという制限があります。

さらに、2019年7月以降、12歳未満の小児に対するコデイン・ジヒドロコデイン含有医薬品の使用は禁忌となっています。これは、特定の遺伝子多型を持つ小児では、通常量でも重篤な呼吸抑制を起こす危険性があるためです。

中枢性鎮咳薬の非麻薬性成分一覧と効果比較

非麻薬性鎮咳薬は、麻薬性鎮咳薬と比較すると副作用が少なく、依存性のリスクも低いとされています。主な成分と特徴は以下の通りです。

  1. デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(メジコン®)
    • 特徴:コデインと同等の鎮咳効果があり、乾いた咳に効果的
    • 代謝:主にCYP2D6で代謝されるため、遺伝子多型により効果に差が出る可能性あり
    • 相互作用:CYP2D6阻害薬(キニジンアミオダロン等)との併用に注意
  2. チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン®)
    • 特徴:鎮咳作用に加えて去痰作用も持つ
    • 副作用:尿が赤くなることがある(代謝物の排泄による)
    • 適応:痰を伴う咳に適している
  3. ジメモルファンリン酸塩(アストミン®)
    • 特徴:便秘の副作用が少ない
    • 効果:コデインと同等の鎮咳効果を持つ
    • 適応:便秘傾向のある患者に適している
  4. ノスカピン
    • 特徴:アヘンアルカロイドだが依存性は低い
    • 副作用:眠気、頭痛、食欲不振など
    • 適応:乾性咳嗽に効果的
  5. クロペラスチン塩酸塩(フスタゾール®)
    • 特徴:気管支筋弛緩作用と抗ヒスタミン作用を併せ持つ
    • 効果:コデインと同等の鎮咳効果
    • 適応:アレルギー性の咳に適している

これらの非麻薬性鎮咳薬は、それぞれ特徴が異なるため、患者の症状や状態に合わせて選択することが重要です。例えば、痰を伴う咳にはチペピジンが、便秘傾向のある患者にはジメモルファンが適しています。

中枢性鎮咳薬の作用機序と末梢性鎮咳薬との違い

中枢性鎮咳薬と末梢性鎮咳薬は、作用する部位や機序が異なります。それぞれの特徴を理解することで、より適切な薬剤選択が可能になります。

中枢性鎮咳薬の作用機序

  • 延髄にある咳中枢に直接作用して咳反射を抑制
  • 乾性咳嗽(痰を伴わない咳)に効果的
  • 原因疾患によらず理論的には効果を発揮するが、実際には無効例も少なくない

末梢性鎮咳薬の作用機序

  • 気道や肺などの末梢受容体に作用して咳を抑制
  • 湿性咳嗽(痰を伴う咳)に効果的
  • 主な薬剤には気管支拡張薬、去痰薬、漢方薬などがある

末梢性鎮咳薬の代表的な薬剤としては、以下のものがあります。

  1. 気管支拡張薬
    • メチルエフェドリン
    • テオフィリン
    • β2刺激薬など
  2. 去痰薬
    • カルボシステイン
    • ブロムヘキシン
    • アンブロキソール
    • グアイフェネシンなど
  3. 漢方薬
    • 麦門冬湯:痰の切れにくい咳や気管支炎に使用
    • 桔梗湯:咳と喉の痛みに効果的
    • 柴朴湯:喘息や気管支炎の治療に使用
    • 半夏厚朴湯:気分の塞ぎや喉のつかえ感を伴う咳に効果的

中枢性鎮咳薬と末梢性鎮咳薬の大きな違いは、中枢性鎮咳薬が咳そのものを抑制するのに対し、末梢性鎮咳薬は咳の原因となる刺激を軽減することで間接的に咳を抑える点にあります。

中枢性鎮咳薬の副作用と使用上の注意点

中枢性鎮咳薬を使用する際には、様々な副作用や注意点を理解しておくことが重要です。特に麻薬性鎮咳薬は副作用のリスクが高いため、慎重な使用が求められます。

麻薬性鎮咳薬の主な副作用

  • 便秘
  • 眠気・鎮静作用
  • 呼吸抑制
  • 依存性(長期使用時)
  • 悪心・嘔吐

非麻薬性鎮咳薬の主な副作用

  • 眠気(麻薬性よりは軽度)
  • 頭痛
  • 食欲不振
  • 消化器症状

使用上の注意点

  1. 12歳未満の小児への使用制限

    麻薬性鎮咳薬(コデイン、ジヒドロコデイン)は12歳未満の小児には禁忌です。これは、特定の遺伝子多型(CYP2D6の超高速代謝者)を持つ小児では、通常量でも重篤な呼吸抑制を起こす危険性があるためです。

  2. 高齢者への使用

    高齢者では副作用が強く現れることがあるため、低用量から開始し、慎重に投与量を調整する必要があります。特に呼吸機能が低下している患者では、呼吸抑制のリスクに注意が必要です。

  3. 薬物相互作用
    • デキストロメトルファンはCYP2D6で代謝されるため、CYP2D6阻害薬(キニジン、アミオダロン、テルビナフィンなど)との併用に注意
    • デキストロメトルファンはセロトニン再取り込み阻害作用を持つため、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)やMAO阻害剤との併用でセロトニン症候群のリスクがある
    • NMDA受容体拮抗作用を持つため、メマンチンなどとの併用に注意
  4. 長期使用の問題

    中枢性鎮咳薬の長期使用は、依存性(特に麻薬性)や耐性の形成につながる可能性があります。また、咳の原因となる疾患の診断や治療が遅れる恐れもあるため、原則として短期間の使用にとどめるべきです。

  5. 特定の病態での注意
    • 気管支喘息発作中は麻薬性鎮咳薬を使用しない(気道分泌を妨げる作用があるため)
    • 糖尿病患者ではチペピジンの使用に注意(耐糖能に軽度の変化をきたすことがある)
    • 肝・腎機能障害のある患者では、代謝・排泄が遅延し、副作用が強く現れる可能性がある

日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)による小児へのコデイン含有医薬品使用制限に関する情報

中枢性鎮咳薬の臨床的使い分けと最新ガイドライン

中枢性鎮咳薬を臨床で使用する際には、患者の症状や状態に合わせた適切な薬剤選択が重要です。また、最新のガイドラインでは中枢性鎮咳薬の使用に関する推奨事項が示されています。

臨床的な使い分けのポイント

  1. 咳の性状による選択
    • 乾性咳嗽(痰を伴わない咳):デキストロメトルファン、ノスカピンなどの非麻薬性鎮咳薬
    • 湿性咳嗽(痰を伴う咳):チペピジン(去痰作用も持つ)、または末梢性鎮咳薬との併用
  2. 患者背景による選択
    • 便秘傾向のある患者:ジメモルファン(便秘の副作用が少ない)
    • 高齢者:非麻薬性鎮咳薬を低用量から
    • 12歳未満の小児:麻薬性鎮咳薬は使用しない
  3. 併存疾患による選択
    • アレルギー性の咳:クロペラスチン(抗ヒスタミン作用も持つ)
    • 気管支喘息:麻薬性鎮咳薬は発作中は使用しない
  4. 薬物相互作用を考慮した選択
    • SSRI服用中:デキストロメトルファンは避ける
    • CYP2D6阻害薬服用中:デキストロメトルファン以外を選択

最新ガイドラインの推奨事項

日本呼吸器学会のガイドラインでは、中枢性鎮咳薬の使用について以下のような推奨がなされています。

  • 「中枢性の鎮咳薬の使用はできる限り控えること」
  • 「初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は、明らかな上気道炎〜感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例にとどめることが望ましい」

これらの推奨の背景には、以下のような理由があります。

  1. 異物や病原体を排出するための「必要な咳」を抑制してしまう可能性
  2. 便秘や眠気などの副作用が少なくないこと
  3. 理論的には原因疾患によらず奏効するはずだが、実際には無効例が少なくないこと
  4. 原因疾患の診断や治療が遅れる可能性があること

したがって、中枢性鎮咳薬を使用する際には、その必要性を十分に検討し、可能な限り短期間の使用にとどめることが推奨されています。また、咳の原因となる基礎疾患の治療を優先することが重要です。

日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン」の詳細情報

中枢性鎮咳薬の処方薬と市販薬の違いと選択基準

中枢性鎮咳薬には処方薬と市販薬があり、それぞれ含有成分や効果、使用上の制限などに違いがあります。医療従事者として、これらの違いを理解しておくことは重要です。

処方薬の中枢性鎮咳薬

  1. 麻薬性中枢性鎮咳薬
    • コデインリン酸塩錠/散
    • ジヒドロコデインリン酸塩散
    • フスコデ配合錠(ジヒドロコデイン・ジプロフィリン・dl-メチルエフェドリン・グアヤコールスルホン酸カリウム配合)
  2. 非麻薬性中枢性鎮咳薬
    • メジコン錠/散(デキストロメトルファン)
    • アスベリン錠/散/シロップ(チペピジン)
    • アストミン錠/散(ジメモルファン)
    • フスタゾール錠/散(クロペラスチン)
    • レスプレン錠/散(エプラジノン)

市販薬の中枢性鎮咳薬

市販薬では、主に非麻薬性の中枢性鎮咳薬が使用されています。代表的な成分と製品例は以下の通りです。

  1. デキストロメトルファン含有製品
    • メジコンせき止め錠Pro
    • ブロン錠/液
    • パブロンせき止め
  2. ノスカピン含有製品
    • エスエスブロン錠
    • コンタック咳止め
  3. ジメモルファン含有製品
    • アネトン咳止め錠

処方薬と市販薬の主な違い

  1. 有効成分の種類と量
    • 処方薬:麻薬性鎮咳薬を含む幅広い選択肢があり、単剤製剤が多い
    • 市販薬:非麻薬性鎮咳薬のみで、複合成分製剤が多い
  2. 効果の強さ
    • 処方薬:単剤で十分な効果が期待できる用量設定
    • 市販薬:安全性を考慮した比較的低用量設定
  3. 使用上の制限
    • 処方薬:医師の判断による適切な処方
    • 市販薬:添付文書の指示に従った自己判断での使用
  4. 副作用モニタリング
    • 処方薬:医師・薬剤師による副作用モニタリングが可能
    • 市販薬:自己判断での使用のため、副作用の早期発見が困難な場合がある

選択基準と注意点

  1. 症状の重症度による選択
    • 軽度の咳:市販薬で対応可能
    • 中等度〜重度の咳:医療機関を受診し、処方薬を検討
  2. 咳の持続期間による選択
    • 短期間(1週間以内)の咳:市販薬で対応可能
    • 長期間(2週間以上)持続する咳:医療機関を受診し、原因検索が必要
  3. 市販薬使用時の注意点
    • 用法・用量を守る
    • 2週間以上症状が続く場合は医療機関を受診
    • 他の薬剤との相互作用に注意
    • 妊婦・授乳婦・小児・高齢者は使用前に医師・薬剤師に相談
  4. 処方薬使用時の注意点
    • 医師の指示通りに服用
    • 副作用が現れた場合は速やかに医師に相談