局所麻酔薬の種類と特徴や効果の違い

局所麻酔薬の種類と特徴

局所麻酔薬の基本情報
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構造による分類

局所麻酔薬は中間鎖の構造によってエステル型とアミド型の2種類に大別されます

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作用機序

神経膜のナトリウムチャネルに作用し、神経インパルスの伝達を可逆的に遮断します

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効果の違い

薬剤によって効果発現時間や持続時間、副作用のリスクが異なります

局所麻酔薬は手術や歯科治療など様々な医療現場で使用される重要な薬剤です。痛みを一時的に遮断することで、患者さんの負担を軽減し、医療処置をスムーズに行うことができます。本記事では、局所麻酔薬の種類と特徴について詳しく解説します。

局所麻酔薬の基本構造と分類

局所麻酔薬の基本構造は、芳香環(ベンゼン環)、中間鎖、3級アミンの3つの部分から構成されています。この中間鎖の結合様式によって、大きく2つのタイプに分類されます。

  1. エステル型局所麻酔薬:中間鎖にエステル結合を持つタイプ
  2. アミド型局所麻酔薬:中間鎖にアミド結合を持つタイプ

この構造の違いは、薬剤の安定性や代謝経路、アレルギー反応の発生頻度などに大きく影響します。

エステル型局所麻酔薬は血中の偽コリンエステラーゼという酵素によって分解されるため、体内での代謝が比較的速いという特徴があります。一方、アミド型局所麻酔薬は主に肝臓で代謝されるため、肝機能が低下している患者さんでは注意が必要です。

局所麻酔薬の名称には「-caine(カイン)」という接尾語が付くことが多いですが、これはかつて局所麻酔薬として使用されていたコカイン(cocaine)に由来しています。

局所麻酔薬のエステル型製剤の特徴

エステル型局所麻酔薬には、プロカイン(ノボカイン)、テトラカイン、コカイン、ベンゾカインなどがあります。現在の日本ではアミド型に比べて使用頻度は低くなっていますが、それぞれに特徴があります。

エステル型局所麻酔薬の主な特徴:

  • 血中の偽コリンエステラーゼによって分解される
  • 代謝が比較的速い(短時間作用性)
  • アレルギー反応の発生率がアミド型より高い
  • 脳脊髄液中の偽コリンエステラーゼの活性は血中の1/20〜1/100程度であるため、脊髄くも膜下麻酔に適している薬剤もある

プロカインは最も古いエステル型局所麻酔薬の一つで、かつては広く使用されていましたが、現在では他の薬剤に置き換えられつつあります。テトラカインは高力価の局所麻酔薬で、表面麻酔や脊髄くも膜下麻酔に使用されることがあります。

エステル型局所麻酔薬の分解産物の一つであるパラアミノ安息香酸(PABA)がアレルギー反応を引き起こすことがあるため、アレルギー体質の患者さんには注意が必要です。

局所麻酔薬のアミド型製剤と臨床での使用

アミド型局所麻酔薬は現在の医療現場で最も広く使用されている局所麻酔薬です。主な薬剤としては、リドカイン(キシロカイン)、メピバカイン(スキャンドネスト)、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン(ヌペルカイン)、プリロカイン(シタネスト)などがあります。

アミド型局所麻酔薬の主な特徴:

  • 主に肝臓で代謝される
  • 薬物の安定性に優れている
  • エステル型に比べてアレルギー反応の可能性が低い
  • 作用時間が比較的長い

臨床での使用例を見てみましょう。

リドカイン(キシロカイン):最も広く使用されているアミド型局所麻酔薬で、効果発現が速く、中等度の持続時間を持ちます。歯科治療や小手術など幅広い場面で使用されています。アドレナリンを添加することで、作用時間の延長と局所の血流減少による出血抑制効果が得られます。

メピバカイン(スキャンドネスト):血管収縮薬を含まない製剤として使用されることが多く、心疾患や高血圧の患者さんに適しています。作用時間は比較的短めで、約30分程度です。

ブピバカイン:長時間作用型の局所麻酔薬で、硬膜外麻酔や神経ブロックなどに使用されます。作用時間は2〜4時間と長いですが、心毒性のリスクがあります。

ジブカイン(ヌペルカイン):アミド型で最も古い局所麻酔薬の一つで、効力・毒性ともに非常に強いという特徴があります。その強力な作用から、主に脊髄麻酔に使用されています。

プリロカイン(シタネスト):肝臓での代謝が他の局所麻酔薬より速いという特徴があり、肝機能障害や心不全の患者さんに適しています。フェリプレシンという血管収縮薬と組み合わせて使用されることが多いです。

局所麻酔薬の力価と作用時間による分類

局所麻酔薬は力価(効力)によっても分類されます。力価は薬剤の脂溶性と関連しており、脂溶性が高いほど力価も高くなる傾向があります。

力価による分類:

力価 代表的な局所麻酔薬
低力価 プロカイン
中力価 リドカイン、メピバカイン、プリロカイン
高力価 ブピバカイン、テトラカイン、エチドカイン

力価が高いほど少ない量で効果が得られますが、一般的に毒性も高くなる傾向があります。そのため、使用する状況や目的に応じて適切な薬剤を選択することが重要です。

作用時間による分類も臨床的に重要です。

作用時間による分類:

作用時間 代表的な局所麻酔薬
短時間作用型(〜1時間) プロカイン、クロロプロカイン
中時間作用型(1〜3時間) リドカイン、メピバカイン、プリロカイン
長時間作用型(3時間以上) ブピバカイン、テトラカイン、エチドカイン

作用時間は血管収縮薬(アドレナリンなど)の添加によって延長されることがあります。例えば、リドカインの単独使用では約1時間程度の作用時間ですが、アドレナリンを添加することで2〜3時間に延長されます。

局所麻酔薬の歯科領域での使い分け

歯科治療では局所麻酔薬が日常的に使用されており、適切な薬剤の選択が重要です。日本の歯科領域で主に使用されている局所麻酔薬は以下の4種類です。

  1. キシロカイン(リドカイン塩酸塩+アドレナリン):最も一般的に使用される局所麻酔薬で、効果発現が速く、効果持続時間も適度です。アドレナリンの添加により、局所の血管収縮効果があり、出血を抑制します。1.8mlのカートリッジが一般的です。
  2. オーラ注(リドカイン塩酸塩+アドレナリン):キシロカインと同じ有効成分ですが、容量が1.0mlと少なく、アドレナリン濃度がやや高いという特徴があります。小児や少量で済む症例、出血を確実に止めたい場合に使用されます。
  3. シタネスト(塩酸プリロカイン+フェリプレシン):アドレナリンの代わりにフェリプレシンという血管収縮薬を使用しています。アドレナリンで不整脈が出やすくなる患者さんに適しています。
  4. スキャンドネスト(メピバカイン塩酸塩):血管収縮薬を含まない「ピュア」な局所麻酔薬です。血圧上昇や動悸が問題となる患者さん(高血圧、心疾患、甲状腺機能亢進症など)に適しています。また、防腐剤であるメチルパラベンも含まれていないため、アレルギー体質の患者さんにも使用できます。ただし、作用時間が約30分と短いため、長時間の治療や出血を伴う治療には不向きです。

歯科医師は患者さんの全身状態や治療内容に応じて、これらの局所麻酔薬を適切に選択します。例えば、心疾患のある患者さんにはスキャンドネストを、長時間の治療が必要な場合にはキシロカインを選択するといった使い分けが行われています。

局所麻酔薬の作用機序と安全性への配慮

局所麻酔薬の作用機序を理解することは、安全な使用のために重要です。局所麻酔薬は神経膜のナトリウムチャネルに作用し、神経インパルスの伝達を可逆的に遮断します。

具体的な作用機序は以下の通りです。

  1. 局所麻酔薬は脂溶性の塩基型(B)の形で神経膜を通過します
  2. 細胞内で水素イオンと結合して陽イオン型(BH+)となります
  3. 陽イオン型がナトリウムチャネルの内側から結合してチャネルをブロックします
  4. ナトリウムイオンの流入が阻害され、神経インパルスの伝達が遮断されます

この作用機序から、局所麻酔薬の効果は薬剤のpKa(解離定数)や脂溶性、タンパク結合率などの物理化学的特性に影響されます。例えば、pKaが生理的pHに近いほど、非イオン型(塩基型)の割合が増え、神経膜への浸透が速くなるため、作用発現が早くなります。

局所麻酔薬の安全性に関しては、以下の点に注意が必要です。

副作用と発生頻度:

  • アナフィラキシー:0.004%(極めて稀)
  • 局所麻酔中毒:0.01〜0.2%

局所麻酔中毒は、血中濃度が上昇することで中枢神経系や心血管系に影響を及ぼす状態です。初期症状として、口唇のしびれ、めまい、耳鳴り、金属味などが現れ、重症化すると痙攣や意識障害、不整脈、血圧低下などを引き起こす可能性があります。

安全に使用するためには、以下の点に配慮することが重要です。

  • 適切な薬剤の選択(患者の全身状態を考慮)
  • 適切な投与量と投与速度
  • 血管内誤注入の防止(吸引テストの実施)
  • アレルギー歴の確認
  • 緊急時の対応準備

特に、高齢者や肝機能障害のある患者、妊婦、小児などでは、薬物の代謝や排泄に影響があるため、投与量の調整や慎重な経過観察が必要です。

局所麻酔薬は適切に使用すれば非常に安全な薬剤ですが、その特性と適応を理解し、患者さん一人ひとりの状態に合わせた使用が求められます。医療従事者は常に最新の知識を更新し、安全かつ効果的な局所麻酔を提供することが重要です。

日本臨床麻酔学会誌に掲載された局所麻酔薬の詳細な解説

以上、局所麻酔薬の種類と特徴について解説しました。局所麻酔薬は医療現場で欠かせない薬剤であり、その適切な選択と使用は患者さんの安全と快適な治療のために重要です。それぞれの薬剤の特性を理解し、状況に応じた最適な選択ができるよう、知識を深めていきましょう。