ラクオリア創薬が展開する創薬研究開発と収益計画

ラクオリア創薬の研究開発と収益戦略

ラクオリア創薬の主要ポイント
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創薬研究基盤

神経疾患・がん領域を柱に、モダリティ拡張に注力。ファイザー中央研究所の経験とノウハウをベースにした創薬研究開発を展開。

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上市済み医薬品

ヒト用医薬品「テゴプラザン」とペット用医薬品3品目が医療現場で使用中。グローバルで48カ国に展開、15カ国で販売中。

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収益計画

2025年から3ヶ年で3期連続営業黒字、事業収益累計111億円を目標。ロイヤルティ収入が好調に推移し、収益基盤を強化中。

ラクオリア創薬株式会社は、創薬ベンチャーとして日本の医薬品開発において重要な役割を担っています。同社はファイザー株式会社中央研究所の経験とノウハウをベースに、独自の創薬研究開発を進めるとともに、アカデミアなどの研究パートナーとの連携も活用して事業を展開しています。2025年からの3ヶ年計画では、収益の安定化と研究開発の加速を両立させる戦略を打ち出しており、医療従事者にとっても注目すべき企業といえるでしょう。

ラクオリア創薬の上市済み医薬品ポートフォリオ

ラクオリア創薬を起源とする上市済み医薬品は、現在ヒト用とペット用を合わせて4品目が医療現場で使用されています。これらの製品は同社の研究開発力を示す重要な成果物です。

ヒト用医薬品としては、HK inno.N Corporation(韓国)に導出した胃食道逆流症(GERD)治療薬「テゴプラザン(一般名)」が挙げられます。この薬剤は2019年より韓国で販売が開始され、現在ではグローバルに展開されています。2025年4月時点で48カ国に進出し、そのうち15カ国ですでに販売が行われています。特にアジア地域での展開が進んでおり、今後も販売国の拡大が期待されています。

ペット用医薬品としては、以下の3品目が上市されています。

  • 「GALLIPRANT」(有効成分:グラピプラント)
  • 「ENTYCE」(有効成分:カプロモレリン)
  • 「ELURA」(有効成分:カプロモレリン)

これらのペット用医薬品は、動物医療の分野でも同社の技術が活用されていることを示しています。特に近年のペット医療の高度化に伴い、質の高い動物用医薬品の需要が高まっている中で、同社の製品は重要な選択肢となっています。

上市済み医薬品からのロイヤルティ収入は、同社の安定した収益基盤となっており、2025年以降の事業計画においても重要な収入源として位置づけられています。

ラクオリア創薬の研究開発パイプラインと創薬戦略

ラクオリア創薬の研究開発パイプラインは、同社の将来性を示す重要な指標です。現在、複数の有望な化合物が開発段階にあり、特に注目されているのが以下のプロジェクトです。

まず、グレリン受容体作動薬(化合物コード:RQ-00433412)の開発が優先度の高い課題として位置づけられています。当初は2025年に自社で臨床試験を開始する予定でしたが、戦略を変更し、手元資金を使うのではなく提携を目指す方向に転換しました。これにより、リスク分散と開発の加速化を図る狙いがあります。

また、IRAK-M分解誘導薬については、前臨床試験が進行中です。この化合物は新たな作用機序を持つ薬剤として期待されており、今後の開発進捗が注目されています。

同社の創薬戦略の特徴は、「アンドラッガブル」と呼ばれる従来の技術では薬剤化が困難だった標的に対して、新たな技術によって「ドラッガブル」な状態に転換することを目指している点です。この取り組みは、未充足の医療ニーズ(アンメット・ニーズ)に応える画期的な新薬の創出につながる可能性があります。

研究開発の方向性としては、以下の3つの柱が示されています。

  1. 創薬研究基盤の強化:神経疾患、がんの領域を柱に、特にモダリティの拡張に投資
  2. 開発パイプラインの拡充・最適化:自社あるいは共同研究で新たな開発候補品の創出に注力
  3. 事業収益の拡大・早期化:ファイメクス社をグループに加えたことで、新規モダリティ、プラットフォームで研究早期からのマネタイズが可能に

これらの取り組みにより、同社はパイプラインとプラットフォームのハイブリッド型のビジネスモデルを構築し、創薬ベンチャーとしての成長を加速させることを目指しています。

ラクオリア創薬の収益計画と財務戦略

ラクオリア創薬は2025年12月期からの3ヶ年における収益計画を明確に打ち出しています。この計画では、3期連続の営業黒字達成と、事業収益の累計額として111億円を目標としています。これは同社の経営基盤強化と持続的成長のための重要な指標となります。

収益の柱となるのは、上市済み医薬品からのロイヤルティ収入です。特に「テゴプラザン」のグローバル展開による収入が好調に推移しており、今後も販売国の拡大に伴う収益増加が期待されています。2025年2月の決算説明会では、ロイヤルティ収入が好調に推移していることが報告されており、その他の収益も大幅に増加していることが明らかにされました。

また、収益計画はラクオリア創薬単体と子会社のファイメクス/テムリックの事業収益に分けて示されており、それぞれが2024年の実績を上回る収益目標を設定しています。これは事業の多角化による収益基盤の強化を意味しています。

財務戦略としては、研究開発投資と収益のバランスを重視しています。具体的には、以下のような方針が示されています。

  • 創薬研究基盤の強化のための投資(神経疾患、がん領域を柱に)
  • 開発パイプラインの拡充・最適化のための投資
  • 新規モダリティの探索活動およびAI創薬関連投資

これらの投資を進めながらも、パイプラインの導出契約を年1件、ファイメクスのプラットフォーム事業からの契約を年1件獲得することで、収益の安定化を図る計画です。

ラクオリア創薬のAI創薬と新規モダリティへの取り組み

ラクオリア創薬は、従来の低分子創薬のノウハウと基盤を活かしつつ、新規モダリティへの拡張を積極的に進めています。特に注目されるのが、AI(人工知能)を活用した創薬研究への取り組みです。

同社は2022年5月、ソシウム株式会社との共同研究を開始し、特定の化合物の難病・希少疾患への適応可能性を、独自の疾患データベースとAI創薬プラットフォームを用いて探索しています。AIおよびインフォマティクスの活用は、研究開発のスピードと成功確率の向上に大きく寄与すると期待されており、同社はこの取り組みをさらに加速させる方針です。

また、2022年12月には株式会社Veritas In Silicoと、mRNA標的低分子医薬品の創出に関する共同創薬研究契約を締結しました。2023年12月には、この共同研究の進展に伴うマイルストン達成が発表されており、着実に成果を上げていることがうかがえます。

Veritas In Silicoとの共同研究の詳細と進捗状況についての情報

さらに、イオンチャネルに対する構造生物学的アプローチも進めており、多角的な創薬研究を展開しています。これらの取り組みは、従来の創薬手法では対応が難しかった疾患領域や標的に対する新たなアプローチとして期待されています。

同社は、このような新規モダリティとAI創薬への投資を通じて、研究開発の効率化と成功確率の向上を図り、創薬ベンチャーとしての競争力を高めることを目指しています。特に、「アンドラッガブル」と呼ばれる従来は創薬標的になり得なかった分子に対する新たなアプローチは、未充足の医療ニーズに応える可能性を秘めています。

ラクオリア創薬の経営体制変革と株主との関係性

ラクオリア創薬の近年の動向を理解する上で、2021年に起きた経営体制の大きな変革は重要な転換点でした。2021年3月25日に開催された株主総会では、日本のコーポレートガバナンス史上でも前例のない出来事が起こりました。

同社の株式を10%超保有する個人投資家で弁護士の柿沼佑一氏による株主提案が、株主の圧倒的多数による賛成ですべて承認され、会社側提案が否決されるという結果になりました。この結果、社長を含めた経営陣の刷新が行われ、新たな取締役として渡邉修造氏(当時取締役副社長)、土屋裕弘氏(社外取締役)、武内博文氏(新任)の3名が選ばれました。また、監査等委員の社外取締役も株主提案どおりの顔ぶれとなり、柿沼氏と公認会計士の石井幸佑氏、中外製薬で研究開発業務などを歴任した宇津恵氏の3名が就任しました。

この経営体制の変革は、その後の同社の事業戦略にも大きな影響を与えたと考えられます。現在の代表取締役である須藤正樹氏は2022年から取締役を務め、2025年1月から代表取締役に就任しています。須藤氏は大学で有機合成化学を学んだ後、帝人社およびファイザー社で医薬品の研究開発に携わり、2008年にラクオリア創薬の創業に参加した経歴を持ちます。

この経営体制の変革と新たなリーダーシップのもと、同社は2025年からの3ヶ年計画を策定し、収益の安定化と研究開発の加速を両立させる戦略を打ち出しています。特に、「1人でも多くの患者さんに一刻でも早く新たな治療薬を届ける」という理念のもと、事業運営に取り組んでいる点は、医療従事者にとっても共感できる部分でしょう。

この経営体制の変革は、株主と経営陣の関係性における新たなモデルケースとして注目されており、創薬ベンチャーのガバナンスのあり方についても一石を投じるものとなりました。

ラクオリア創薬の今後の展望と医療への貢献可能性

ラクオリア創薬の今後の展望として、2025年からの3ヶ年目標に示されている通り、収益面では3期連続の営業黒字と事業収益の累計額として111億円を目指しています。研究開発においては、引き続き2個の開発候補化合物の創出を目標としつつ、さらなる上積みを図る方針です。

特に注目すべき点は、同社が目指す「アンメット・ニーズに応える画期的な新薬」の創出です。従来医薬品の創出が困難とされてきた疾患関連遺伝子を、創薬バリューチェーンの強化によって開拓するという戦略は、医療の未来に大きな可能性をもたらします。

具体的な開発パイプラインとしては、グレリン受容体作動薬とIRAK-M分解誘導薬の臨床前導出を目指しており、導出先での臨床開発が円滑に進むよう準備を進めています。また、「テゴプラザン」の日本導出も2025年の必達目標として掲げられています。

医療への貢献可能性としては、以下の点が挙げられます。

  1. 未充足の医療ニーズへの対応:従来治療法のない、または十分な効果が得られない疾患に対する新たな治療選択肢の提供
  2. 新規モダリティの開発:従来の低分子医薬品にとどまらない、新たな創薬アプローチによる革新的医薬品の創出
  3. AI創薬による効率化:AIを活用した創薬研究により、開発期間の短縮と成功確率の向上が期待され、より多くの医薬品が医療現場に届く可能性
  4. グローバルな医療アクセスの向上:「テゴプラザン」のように、世界各国で使用される医薬品の開発により、グローバルな医療アクセスの向上に貢献

医療従事者にとって、ラクオリア創薬の動向を注視することは、将来的に使用可能となる新たな治療選択肢の情報を得る上で重要です。特に、同社が注力している神経疾患やがん領域では、アンメット・ニーズが多く存在しており、新たな治療薬の開発が強く期待されています。

同社の「1人でも多くの患者さんに一刻でも早く新たな治療薬を届ける」という理念は、医療従事者の目標とも合致するものであり、今後の研究開発の成果が実際の医療現場でどのように活かされていくか、継続的な注目が必要でしょう。