SHBG 性ホルモン結合グロブリンと糖尿病リスクの関連性

SHBG 性ホルモン結合グロブリンの機能と役割

SHBGの基本情報
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構造

ホモ二量体構造を持つ糖タンパク質で、肝臓で主に産生される

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主な機能

テストステロンやエストラジオールなどの性ホルモンと結合し、その生物学的利用能を調節する

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臨床的意義

濃度変化が多のう胞性卵巣症候群、糖尿病リスク、メタボリックシンドロームなどと関連

性ホルモン結合グロブリン(Sex Hormone Binding Globulin, SHBG)は、性ステロイドホルモンの評価に用いられる重要な検査項目です。SHBGは主に肝臓で産生される糖タンパク質で、血中に放出されて循環します。また、脳、子宮、精巣、胎盤などの組織でも少量が産生されることが知られています。

SHBGの主な役割は、テストステロンやエストラジオールなどの性ホルモンと結合し、それらの血中濃度を調節することです。性ホルモンは血中では主に血清アルブミン(約54%)に緩く結合し、SHBG(約44%)にも結合しています。残りの約1~2%は結合していない「遊離型」として存在し、これが生物学的に活性を持ち、細胞内に入って受容体を活性化することができます。

SHBGは性ホルモンの働きを調節する重要な因子であり、その血中濃度の変化はさまざまな健康状態と関連しています。例えば、SHBGの濃度低値は多のう胞性卵巣症候群や多毛症と関連することが報告されており、濃度高値は肥満やメタボリックシンドロームなどのリスク低減と関連することが示されています。

SHBG 性ホルモン結合グロブリンのタンパク質構造と特性

SHBGは同一のペプチド鎖2本からなるホモ二量体構造を持っています。この2つの分子は疎水結合によりホモダイマーを形成し、タンパク質のN末端側にあるLGドメイン(ラミニンG様ドメイン)に性ホルモンが結合します。

SHBGには2つのラミニンG様ドメインがあり、これらが疎水性の分子を結合するポケットを形成しています。ステロイドはタンパク質のアミノ末端にあるLGドメインに結合します。このドメインのポケット内にはセリン残基があり、これが異なる種類のステロイドを異なる場所に引き寄せ、向きを変えさせる役割を担っています。

具体的には、アンドロゲンはA環のC3官能基で結合し、エストロゲンはD環のC17水酸基で結合します。この2つの異なる配向により、ポケットへの入り口とトリプトファン84の位置(ヒトの場合)を覆うループが変化します。このようにして、タンパク質全体が自身の表面にどのようなホルモンを搭載しているかを「知らせる」仕組みになっています。

SHBGの前駆体は、産生当初は29個のアミノ酸からなるシグナルペプチドが連結しています。残りのペプチドは373個のアミノ酸で構成されており、2箇所にジスルフィド結合を有しています。また、糖は2箇所のアスパラギンのN-グリコシル化部位(351番目と367番目)と、1箇所のトレオニンのO-グリコシル化部位(7番目)に結合しています。

SHBG 性ホルモン結合グロブリンと性ホルモンの結合親和性

SHBGは様々な性ステロイドホルモンと結合しますが、それぞれのホルモンに対する結合親和性は異なります。各種性ステロイドのSHBGに対する相対的な結合親和性は、以下の順序で高くなります。

ジヒドロテストステロン(DHT)>テストステロン>アンドロステンジオール>エストラジオール>エストロン

特にDHTはテストステロンの約5倍、エストラジオールの約20倍の親和性でSHBGに結合します。これは、DHTが男性型脱毛症(AGA)などに強く関与していることとも関連しています。

一方、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)はSHBGに弱く結合しますが、デヒドロエピアンドロステロン硫酸エステルはSHBGに結合しません。また、アンドロステンジオンもSHBGには結合せず、アルブミンとのみ結合します。エストロン硫酸エステルとエストリオールもSHBGとの結合率は低く、プロゲステロンがSHBGに結合する割合は1%以下とされています。

このような結合親和性の違いは、各ホルモンの生物学的利用能や活性に大きな影響を与えます。SHBGに強く結合するホルモンほど、遊離型の割合が少なくなり、生物学的活性が制限される傾向があります。

SHBG 性ホルモン結合グロブリンと2型糖尿病リスクの関連性

近年の研究により、SHBGの血中濃度と2型糖尿病リスクとの間に重要な関連性があることが明らかになっています。特に注目すべきは、SHBGの血中濃度が低いことが、男女ともに2型糖尿病リスクの強力な予測因子となることです。

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載された研究では、女性の健康調査(Women’s Health Study)の参加者を対象としたコホート内症例対照研究が行われました。この研究では、ホルモン療法を受けていない閉経後女性を対象に、新たに2型糖尿病と診断された患者359例と対照359例について調査しました。

研究者たちは血漿中のSHBG濃度を測定し、SHBGをコードする遺伝子(SHBG遺伝子)の2つの遺伝子多型について遺伝子型を決定し、メンデルランダム化解析を行いました。さらに、医師の健康調査II(Physicians’ Health Study II)に参加した男性の独立したコホートでも再現性を検討しました(新たに2型糖尿病と診断された患者170例、対照170例)。

この研究の結果、SHBG遺伝子の一塩基多型(SNP)rs6259とrs6257について、それぞれ野生型対立遺伝子のホモ接合体を有する場合と比較して、rs6259変異型対立遺伝子を有する場合はSHBG濃度が10%高く(P=0.005)、rs6257変異型対立遺伝子を有する場合は10%低い(P=0.004)ことが明らかになりました。また、これら2つのSNP変異体は、それぞれ関連するSHBG濃度に対応する方向で、2型糖尿病のリスクと相関を示しました。

メンデルランダム化解析では、SHBG血中濃度が1標準偏差増加するごとの2型糖尿病の予測オッズ比は、女性で0.28(95%信頼区間 0.13~0.58)、男性で0.29(95%信頼区間 0.15~0.58)となりました。これらの結果から、SHBGが2型糖尿病リスクに直接関与している可能性が強く示唆されています。

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SHBG 性ホルモン結合グロブリンと慢性腎臓病の性差による影響

SHBGは慢性腎臓病CKD)のリスクとも関連していることが最近の研究で明らかになっています。特に興味深いのは、この関連性に性差があることです。

英国バイオバンクのデータを用いた研究では、SHBGとCKDおよび腎機能の性特異的関連を単変量および多変量メンデル無作為化解析で検討しました。単変量解析では白人男性約18万人(CKD患者6016例)および白人女性約21万人(CKD患者5958例)を対象に、SHBG値を予測する一塩基多型をプロファイリングし、CKDおよび腎機能に対するSHBGの効果を評価しました。

この研究の結果、遺伝的に予測した高SHBG値は、男性ではCKDリスク低下との関連が見られました(1標準偏差当たりオッズ比0.78、95%信頼区間 0.65-0.93)。しかし、女性では同様の有益性は見られませんでした。さらに、男性におけるSHBGの効果は、テストステロン値で調整した多変量解析でも認められました(オッズ比0.61、95%信頼区間 0.45-0.82)。

これらの結果は、SHBGが男性特異的にCKDリスクを低減する可能性を示唆しています。この性差の背景には、男女間のホルモン環境の違いや、SHBGの機能に影響を与える他の性特異的因子が関与している可能性があります。

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SHBG 性ホルモン結合グロブリンの測定と臨床応用の最新動向

SHBGの測定は、性ホルモンバランスの評価や様々な疾患のリスク予測において重要な役割を果たしています。現在、SHBGの測定には主に免疫測定法が用いられており、診断薬メーカーからは様々な測定キットが提供されています。

最新の測定技術としては、高感度かつ特異性の高いモノクローナル抗体を用いたELISA法や、質量分析法を組み合わせた手法が開発されています。例えば、Yashraj Biotechnology社では、リコンビナントヒトSHBGタンパク質を免疫原として作製したマウス由来モノクローナル抗体が開発されています。これらの抗体は高い特異性を持ち、他のがん抗原やヒト正常血清に対する交差反応性は1%未満とされています。

SHBGの臨床応用としては、従来から知られている多のう胞性卵巣症候群や性ホルモン関連疾患の診断に加え、最近では以下のような新たな応用が研究されています。

  1. 糖尿病リスク評価:前述のように、SHBGの低値は2型糖尿病の発症リスク増加と関連しています。SHBGの測定は、糖尿病の早期リスク評価や予防医療に役立つ可能性があります。
  2. 心血管疾患リスク評価:SHBGの低値はメタボリックシンドロームや心血管疾患リスクとも関連することが報告されています。
  3. 前立腺がんリスク評価:SHBGはテストステロンやDHTの生物学的利用能に影響を与えるため、前立腺がんのリスク評価にも応用される可能性があります。
  4. 男性型脱毛症(AGA)の評価:SHBGはDHTの生物学的利用能に影響を与えるため、AGAの進行予測や治療効果の評価に役立つ可能性があります。
  5. 腎機能障害リスク評価:特に男性において、SHBGの高値はCKDリスク低下と関連することが示されています。

これらの臨床応用は、個別化医療の観点からも注目されています。特に、SHBG遺伝子の多型解析と組み合わせることで、より精密な疾患リスク評価が可能になると期待されています。

SHBG 性ホルモン結合グロブリンとライフスタイル因子の相互作用

SHBGの血中濃度は遺伝的要因だけでなく、様々な環境因子やライフスタイル因子によっても影響を受けることが知られています。これらの因子とSHBGの相互作用を理解することは、健康管理や疾患予防において重要です。

まず、食事とSHBGの関係については、低炭水化物・高タンパク質食がSHBG濃度を上昇させる可能性があることが報告されています。特に、食物繊維の摂取量が多い食事パターンはSHBG濃度の上昇と関連しています。一方、高脂肪食や高糖質食はSHBG濃度を低下させる傾向があります。

運動もSHBG濃度に影響を与える重要な因子です。定期的な有酸素運動はSHBG濃度を上昇させることが複数の研究で示されています。特に、中等度から高強度の運動を週に150分以上行うことで、SHBGの上昇効果が顕著になるとされています。

体重管理もSHBG濃度に大きく影響します。肥満、特に内臓脂肪の蓄積はSHBG濃度の低下と強く関連しています。体重減少によってSHBG濃度が上昇することも報告されており、これは2型糖尿病リスクの低減にも寄与する可能性があります。

ストレスや睡眠不足もSHBG濃度に影響を与えます。慢性的なストレスや不規則な睡眠パターンは、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を増加させ、SHBGの産生を抑制する可能性があります。

アルコール摂取とSHBGの関係については、適度なアルコール摂取(特に赤ワイン)がSHBG濃度を上昇させる可能性があるという報告がある一方で、過度のアルコール摂取は肝機能障害を引き起こし、SHBGの産生を低下させる可能性があります。

喫煙はSHBG濃度を低下させることが知られており、禁煙によってSHBG濃度が上昇することも報告され