下肢静脈瘤エコー検査で分かる静脈逆流と血栓の状態

下肢静脈瘤エコー検査の目的と方法

下肢静脈瘤エコー検査の基本情報
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検査の目的

下肢静脈の血流状態を評価し、静脈弁の機能不全や血栓の有無を確認する非侵襲的検査

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検査時間

通常15〜30分程度、両足の場合はさらに時間がかかることがある

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実施者

血管外科医や経験豊富な超音波検査技師が行うことが望ましい

下肢静脈瘤エコー検査は、下肢の静脈の状態を詳細に評価するための重要な診断ツールです。この検査は非侵襲的で痛みを伴わず、放射線被曝もないため、安全に繰り返し実施できる検査として広く普及しています。妊婦さんのお腹の赤ちゃんを観察するのと同じ超音波技術を使用しているため、安心して受けることができます。

下肢静脈瘤エコー検査で診断できる静脈の異常

下肢静脈瘤エコー検査では、主に以下のような静脈の異常を診断することができます。

  1. 静脈弁の機能不全:静脈内にある弁が正常に機能しているかを評価します。弁の閉鎖不全があると、血液が足先方向へ逆流してしまいます。
  2. 深部静脈血栓症:ふとももの付け根やひざ裏にある深部静脈内に血栓(血の塊)ができていないかを確認します。血栓があると、肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
  3. 表在静脈の拡張:皮膚の近くを走る表在静脈(大伏在静脈や小伏在静脈など)が拡張していないかを評価します。
  4. 穿通枝の逆流:表在静脈と深部静脈をつなぐ穿通枝に逆流がないかを確認します。

エコー検査では、カラードプラー法を用いることで、血液の流れる方向や速度を色で表示し、視覚的に評価することができます。正常な静脈では血液は心臓方向へ流れますが、静脈瘤では逆方向に流れる逆流が観察されます。

下肢静脈瘤エコー検査の実施手順と体位

下肢静脈瘤のエコー検査は、以下のような手順で行われます。

  1. 検査前の準備
    • 検査する部位が膝より上の場合は、ズボンを脱ぐか下げます
    • 膝より下の場合は、ズボンを上げます
    • 検査時はなるべく空腹状態が望ましいとされています
  2. 検査体位
    • 立位または座位で行います(立位のほうが正確な評価ができますが、ふらつきの危険性があるため、多くの施設では座位で検査を行います)
    • 座位で逆流が分かりにくい場合のみ、立位での検査を追加することもあります
  3. 検査の実施
    • 検査室は暗くして行われることが多いです
    • 検査部位にゼリーを塗り、プローブ(探触子)を当てます
    • 静脈を圧迫しながら超音波をあて、画像に映し出します
    • カラードプラー法を用いて血流の方向や速度を評価します
  4. ミルキング
    • 足の筋肉を圧迫・解放して、人工的に血流の変化を起こします
    • これにより静脈弁の機能を評価します
    • 検査技師がふくらはぎをつかんだり放したりするため、足に痛みがある場合は事前に伝えましょう
  5. 検査後
    • ゼリーをティッシュで拭き取ります

検査時間は通常15〜30分程度ですが、両足を検査する場合はさらに時間がかかることがあります。保険診療であれば、片足でも両足でも費用は変わらないため、両足の検査を受けることをお勧めします。

下肢静脈瘤エコーで見える「ミッキーマウスサイン」とは

下肢静脈瘤のエコー検査で特徴的な所見として「ミッキーマウスサイン」と呼ばれるものがあります。これは大伏在静脈が深部静脈(大腿静脈)へ合流する部分(伏在大腿静脈接合部)の超音波画像が、ミッキーマウスの顔に似ていることからこう呼ばれています。

ミッキーマウスサインの見え方。

  • 正常な場合:大伏在静脈から深部静脈へ血液が流れるため(手前から奥)、カラードプラーでは青く色がつきます。
  • 静脈瘤の場合:大伏在静脈と深部静脈との間の弁が壊れると血液が逆流し、カラードプラーでは赤く色がついて見えます。

この所見は、下肢静脈瘤の原因となる伏在大腿静脈接合部の弁不全を診断する上で重要なポイントとなります。多くの静脈瘤患者では、このソケイ部(太もものつけ根)の静脈に逆流が見られます。

エコー検査では、静脈弁そのものは非常に薄いため必ずしも直接見えるわけではありませんが、カラードプラー法を用いることで血流の方向から弁の機能を評価することができます。

下肢静脈瘤エコー検査の精度と注意点

下肢静脈瘤のエコー検査は非常に有用な検査ですが、いくつかの注意点や限界があります。

  1. 検査者の技術による差
    • エコー検査は検査者の技術や経験によって精度が大きく左右されます
    • 特に静脈の逆流評価には熟練した技術が必要です
    • 経験豊富な医師や技師による検査を受けることが重要です
  2. ミルキング手技の影響
    • 静脈逆流は非常に遅いため、そのままでは超音波で検出しにくいことがあります
    • ミルキング(足の筋肉を圧迫・解放する手技)によって人工的に逆流を発生させて評価します
    • このミルキングの仕方によって逆流の程度が変わってくるため、技術が重要です
    • 特にふくらはぎの筋肉が多い方や浮腫の強い方では、ミルキングが難しいことがあります
  3. 検査体位による差
    • 立位と座位では検査結果が異なることがあります
    • 立位のほうがより正確な評価ができますが、安全性の観点から座位で行われることが多いです
  4. 両足の比較の重要性
    • 静脈瘤は完全に片足のみの方は少なく、両方に逆流があることが多いです
    • 両足を同時に検査し、逆流程度を比較することで、より正確な診断が可能になります

エコー検査の精度については、深部静脈血栓症の診断において、特異度は96.0%(95%信頼区間:95.2%-96.8%)と報告されており、非常に高い精度を持つことが示されています。

下肢静脈瘤エコー検査と空気容積脈波検査の違い

下肢静脈瘤の診断には、エコー検査以外にも空気容積脈波(APG: Air Plethysmography)という検査方法があります。両者には以下のような違いがあります。

検査項目 下肢静脈瘤エコー検査 空気容積脈波検査
検査内容 超音波を用いて静脈の形態や血流を直接観察 足に巻いたビニール袋の圧変化から静脈量の変化を間接的に測定
検査時間 15〜30分程度 約20分
得られる情報 静脈の形態、逆流の部位と範囲、血栓の有無 静脈容量、逆流量、駆出率などの数値データ
長所 静脈の形態や逆流の部位を直接観察できる 静脈瘤の重症度を数値化できる
短所 検査者の技術による差が大きい 膝から下の病変の評価が不十分
現在の位置づけ 下肢静脈瘤診断の中心的検査 補助的な検査(重要度は低下傾向)

現在の下肢静脈瘤診断においては、エコー検査が中心的な役割を果たしており、空気容積脈波検査は補助的な位置づけとなっています。治療法の変遷とともに空気容積脈波検査の重要度は低下傾向にありますが、深部静脈の逆流評価や治療前後の比較には有用な場合もあります。

エコー検査では静脈の形態や逆流の部位を直接観察できるのに対し、空気容積脈波検査では静脈容量(VV)、静脈逆流量(VFI)、駆出率(EF)などの数値データが得られます。特にVFIが2ml/s以上(女性では1.5ml/s以上)の場合は静脈逆流があると判断され、7ml/s以上では静脈潰瘍の発生リスクが高くなるとされています。

最近の臨床現場では、エコー検査の技術向上により、空気容積脈波検査を行わずにエコー検査のみで診断・治療方針を決定することも増えています。海外のクリニックでは空気容積脈波検査を使用しているところはほとんど見られないという報告もあります。

下肢静脈瘤エコー検査後の治療選択と経過観察

下肢静脈瘤のエコー検査結果に基づいて、適切な治療方法が選択されます。また、治療後の経過観察にもエコー検査は重要な役割を果たします。

  1. 治療方法の選択
    • エコー検査で明らかになった逆流の部位や範囲に基づいて、最適な治療法が選択されます
    • 大伏在静脈の逆流がある場合は、血管内焼灼術(レーザーやラジオ波)が選択されることが多いです
    • 小伏在静脈や穿通枝の逆流には、それぞれ適した治療法があります
    • 血栓が見つかった場合は、抗凝固療法などの適切な治療が行われます
  2. 治療効果の予測
    • 空気容積脈波検査のデータ(VFIとEF)から、治療効果の予測が可能です
    • VFIが5ml/sec以上でEFが40%以上の場合、手術による治療効果が最も良好とされています
    • VFIが低くEFも低い場合は、運動療法が有効な場合があります
  3. 治療後の経過観察
    • 治療後の静脈の状態を評価するために、定期的なエコー検査が行われます
    • 再発の早期発見や、新たな逆流の評価に役立ちます
    • 治療効果の客観的な評価が可能です
  4. 日常生活の指導
    • エコー検査の結果に基づいて、適切な日常生活の指導が行われます
    • 弾性ストッキングの着用や、足の挙上、適度な運動などが推奨されることがあります
    • 症状が軽度の場合は、保存的治療が選択されることもあります

エコー検査は治療前の診断だけでなく、治療後の経過観察にも重要な役割を果たします。治療後の改善具合や経過観察にも使えるので、治療がうまくいっているかどうかの判定に有用です。また、症状と検査所見を併せて評価することで、より適切な治療方針を立てることができます。

下肢静脈瘤は完全に治癒することは少なく、再発することもあるため、定期的なエコー検査による経過観察が重要です。特に症状の変化があった場合は、早めに再検査を受けることをお勧めします。

静脈瘤の治療においては、エコー検査で明らかになった逆流の部位や範囲に基づいて、最適な治療法が選択されます。治療法には保存的治療(弾性ストッキングの着用など)と侵襲的治療(手術や血管内治療)がありますが、どの治療法を選択するかは、エコー検査の結果と患者さんの症状や希望を総合的に判断して決定されます。

以上のように、下肢静脈瘤のエコー検査は診断から治療、そして経過観察まで、一貫して重要な役割を果たしています。検査を受ける際は、経験豊富な医師や技師による検査を受けることが、正確な診断と適切な治療につながります。

日本超音波医学会、日本脈管学会、日本静脈学会の3学会共同で作成された「超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法」では、エコー検査の重要性と標準的な検査方法が示されています。これにより、検査の質の向上と標準化が進められています。

日本超音波医学会による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法の詳細はこちら

最新の技術として、Veinviewerという赤外線を用いた静脈可視化装置も開発されています。これは赤外領域の光源と赤外カメラを使用し、画像をコンピューター処理することで静脈を可視化する技術です。放射線は使用しないため体への負担がなく、静脈瘤だけでなく、静脈が小さくて点滴に困っている方や子供の採血にも応用が期待されています。現時点では十分な画質が得られていませんが、今後の発展が期待される技