ロキサデュスタットの作用機序と腎性貧血治療の特徴

ロキサデュスタットと腎性貧血治療

ロキサデュスタットの基本情報
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HIF-PH阻害薬

低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素を阻害し、内因性エリスロポエチン産生を促進

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日本での承認

2019年9月に透析施行中の腎性貧血に対して承認、2020年11月に保存期CKDへ適応拡大

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投与方法

週3回の経口投与、透析患者では透析日に合わせた服用が可能

ロキサデュスタットの作用機序とHIF経路の活性化

ロキサデュスタット(エベレンゾ®錠)は、経口投与可能な低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬です。HIF-PHを選択的に阻害することにより、転写因子HIFのサブユニットであるHIF-αの分解を抑制し、蓄積を促進します。その結果、HIF経路が活性化され、生体が低酸素状態に曝露された際と同様の赤血球造血反応が引き起こされます。

具体的な作用メカニズムとしては、以下の経路が活性化されます。

  1. 内因性エリスロポエチン(EPO)産生の増加
  2. 鉄の吸収・利用能の亢進
  3. トランスフェリンの取り込み促進
  4. 赤血球前駆細胞の分化・成熟促進

これらの作用が相乗的に働くことで、効率的に赤血球産生を促進し、腎性貧血の改善に寄与します。従来のESA(赤血球造血刺激因子)製剤が外因性のエリスロポエチンを補充するのに対し、ロキサデュスタットは体内での内因性EPO産生を促すという点で作用機序が根本的に異なります。

また、ロキサデュスタットは鉄代謝にも好影響を与え、ヘプシジンの抑制を通じて鉄の利用効率を高めることも特徴です。これにより、鉄欠乏状態でも効率的に赤血球産生を促進できる可能性があります。

ロキサデュスタットの用法・用量と透析患者への投与方法

ロキサデュスタットの用法・用量は、患者の状態やESA製剤の使用歴によって異なります。基本的な投与方法は以下の通りです。

【ESA製剤未使用の場合】

  • 開始用量:1回50mg
  • 投与頻度:週3回経口投与
  • 最高用量:1回3.0mg/kgを超えないこと

【ESA製剤から切り替える場合】

  • 開始用量:1回70mgまたは100mg
  • 投与頻度:週3回経口投与
  • 最高用量:1回3.0mg/kgを超えないこと

ESA製剤からの切り替え時の開始用量は、以前のESA製剤の投与量によって決定されます。

エリスロポエチン製剤(IU/週) ダルベポエチンアルファ(μg/週) エポエチンベータペゴル(μg/4週) ロキサデュスタット(mg/回)
4500未満 20未満 100以下 70
4500以上 20以上 100超 100

透析患者に対するロキサデュスタットの大きな利点は、週3回の透析日に合わせて服用できることです。これにより服薬コンプライアンスの向上が期待できます。透析患者は多くの薬剤を服用していることが多いため、透析日に合わせた服用スケジュールは服薬管理を簡便にします。

投与量の調整は、ヘモグロビン(Hb)値の変化に応じて行います。目標Hb値は10.0~12.0g/dLとされており、Hb値が急激に上昇する場合や12.5g/dLを超える場合は減量または休薬が必要です。

ロキサデュスタットと他のHIF-PH阻害薬の比較と特徴

現在、日本では複数のHIF-PH阻害薬が承認されており、それぞれに特徴があります。ロキサデュスタットを含む主なHIF-PH阻害薬の比較は以下の通りです。

  1. ロキサデュスタット(エベレンゾ®)
    • 用法:週3回
    • 規格:20mg/50mg/100mg(3種類)
    • 食事の影響:なし
    • 透析性:透析されない
    • 特徴:透析日のみの服用が可能で服薬忘れを防止しやすい
  2. ダプロデュスタット(ダーブロック®)
    • 用法:1日1回
    • 規格:1mg/2mg/4mg/6mg(4種類)
    • 食事の影響:なし
    • 透析性:ほとんど透析されない
    • 特徴:1日1回投与で服用が簡便
  3. バダデュスタット(バフセオ®)
    • 用法:1日1回
    • 規格:150mg/300mg(2種類)
    • 食事の影響:あり
    • 透析性:透析されない
    • 特徴:食後投与が必要
  4. エナロデュスタット(エナロイ®)
    • 用法:1日1回
    • 規格:2mg/4mg/6mg(3種類)
    • 食事の影響:なし
    • 透析性:透析されない
    • 特徴:食事の影響を受けずに服用可能
  5. モリデュスタット(マスーレッド®)
    • 用法:1日1回
    • 規格:5mg/12.5mg/25mg/50mg/75mg(5種類)
    • 食事の影響:あり
    • 透析性:ほとんど透析されない
    • 特徴:食後投与が必要、酸化マグネシウム製剤との併用時は注意が必要

これらの中でロキサデュスタットの特徴は、週3回投与という点です。透析患者にとっては透析日に合わせた服用が可能となり、服薬コンプライアンスの向上が期待できます。また、食事の影響を受けないため、食事のタイミングを気にせずに服用できる点も利点です。

一方、1日1回投与のHIF-PH阻害薬は服用回数が少なく簡便ですが、毎日の服用が必要となります。患者の生活スタイルや服薬管理能力に応じて、最適な薬剤を選択することが重要です。

ロキサデュスタットの副作用と安全性プロファイル

ロキサデュスタットの主な副作用としては、以下のようなものが報告されています。

1%以上の頻度で報告される副作用

  • 嘔吐
  • 下痢
  • 便秘

0.5~1%未満の頻度で報告される副作用

  • 悪心
  • 腹部不快感

その他の副作用

特に注意すべき副作用として、心血管系イベントのリスクがあります。腎性貧血患者は心血管疾患のリスクが高い集団であるため、ヘモグロビン値の急激な上昇は避けるべきです。ロキサデュスタットの臨床試験では、心血管系イベントの発生率について従来のESA製剤と比較検討されていますが、長期的な安全性については今後も注視していく必要があります。

また、薬物相互作用にも注意が必要です。特に以下の薬剤との併用には注意が必要です。

  1. リン結合性ポリマー(セベラマー塩酸塩、ビキサロマーなど)
    • 併用時は前後1時間以上間隔をあけて服用する必要がある
  2. 多価陽イオンを含有する経口薬剤(カルシウム、鉄、マグネシウム、アルミニウム等を含む製剤)
    • 併用時は前後1時間以上間隔をあけて服用する必要がある
  3. HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン系薬剤)
    • 筋障害を増強するおそれがあるため、患者の状態を慎重に観察する必要がある
  4. プロベネシド
    • ロキサデュスタットの作用が増強するおそれがあるため、減量を考慮する

これらの相互作用は、ロキサデュスタットのOATP1B1/BCRP阻害作用やUGT/OAT阻害薬との相互作用によるものです。多剤併用が多い腎性貧血患者では、これらの相互作用に十分注意する必要があります。

ロキサデュスタットの臨床的位置づけと今後の展望

ロキサデュスタットは、2019年に日本で初めて承認されたHIF-PH阻害薬として、腎性貧血治療に新たな選択肢をもたらしました。従来のESA製剤による治療と比較した際の臨床的位置づけとしては、以下のような点が挙げられます。

ロキサデュスタットの利点

  1. 経口投与が可能(従来のESA製剤は注射剤)
  2. 週3回の投与で済む(透析日に合わせた服用が可能)
  3. 内因性EPO産生を促進するため、生理的なEPO変動に近い
  4. 鉄代謝にも好影響を与える可能性がある

今後の課題と展望

  1. 長期的な安全性プロファイルの確立
  2. 心血管系イベントリスクの詳細な評価
  3. 他のHIF-PH阻害薬との使い分けの明確化
  4. 保存期CKD患者における腎機能低下抑制効果の検証

特に興味深い点として、HIF経路の活性化は単に赤血球造血を促進するだけでなく、腎保護効果や抗炎症作用など多面的な効果を持つ可能性が基礎研究で示唆されています。今後の臨床研究により、ロキサデュスタットが腎性貧血治療を超えた多面的な効果を持つ可能性について検証されることが期待されます。

また、現在は週3回投与が必要なロキサデュスタットですが、製剤技術の進歩により徐放性製剤の開発が進めば、投与回数の減少も期待できます。患者のQOL向上のためにも、より服用が簡便な製剤開発が望まれます。

腎性貧血治療におけるパラダイムシフトをもたらしたHIF-PH阻害薬の中で、ロキサデュスタットは先駆的な存在として、今後も臨床的エビデンスの蓄積とともに、その位置づけがさらに明確になっていくでしょう。

日本腎臓学会による「CKD診療ガイド2018」の改訂版では、HIF-PH阻害薬の位置づけについても言及されることが予想され、エビデンスに基づいた使用指針が示されることが期待されます。

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