肺結節の診断と経過観察
肺結節とすりガラス状結節の違い
肺結節とは、肺に現れる丸みを帯びた白い影のことで、直径3cm未満の孤立性病変を指します。これに対して、すりガラス状結節は「もともと肺に備わっている正常な気管支や血管を覆い隠さない、CT画像における軽度の濃度上昇を伴う領域」と定義されます。
すりガラス状結節の特徴は、CT画像上で淡く白っぽいもやもやとした影として現れることです。この影の内部には血管がすりガラス状結節に影響されずに走行していることが多く見られます。一般的に、淡いすりガラス状結節は胸部単純X線写真では発見することが困難で、CT検査で初めて発見されることがほとんどです。
肺結節は内部の性状により、以下の3つに分類されます。
- 均一なすりガラス型結節(全体が薄いもやもやした影)
- 部分充実型結節(薄いもやもやした影の内部に一部濃い部分がある)
- 充実型結節(全体が濃い影)
この分類は治療方針や経過観察の期間を決める重要な要素となります。
肺結節の原因疾患と発見率
肺結節が見つかった場合、様々な疾患の可能性があります。主な原因疾患には以下のようなものがあります。
- 悪性疾患
- 原発性肺がん(腺癌、小細胞癌など)
- 転移性肺腫瘍(他臓器からのがん転移)
- 良性疾患
- 肺結核
- 肺真菌症(カビによる感染症)
- 肺非結核性抗酸菌症
- 良性腫瘍(過誤腫、線維腫など)
- 限局性の肺炎
- 炎症後の瘢痕組織
初回スクリーニングCTで発見された肺結節のうち、実際に肺がんと診断されるのは約3.7~5.5%程度とされています。しかし、日本では年間約8万人が肺がんを発症し、約7万人が亡くなっているという現状から、肺結節が見つかった場合は適切な検査と経過観察が必要です。
肺結節の中でも、すりガラス状結節の場合、経過観察中に消失するものは炎症性変化(例えば風邪による一時的な変化)であったと考えられ、問題ありません。一方、経過観察中に消失しないすりガラス状結節は腫瘍性病変の可能性が高いと考えられます。
肺結節の診断方法と検査の流れ
肺結節が発見された場合の診断の流れは以下のようになります。
- 初期評価
- 詳細なCT検査(できれば薄いスライス厚で)
- 結節の大きさ、形状、内部性状の評価
- 喫煙歴や既往歴などのリスク因子の確認
- 鑑別診断のための検査
特に小さな結節の場合、細胞採取が技術的に困難なことがあります。このような場合、一定期間経過観察を行い、大きさの変化を見ることで診断の手がかりを得ることがあります。
検診で6mm以上の肺結節が見つかった場合、精密検査が必要となります。精密医療機関では、まず3ヶ月後にthin slice(できれば1mm)のCTで再検査を行い、結節の性状や大きさに応じて以下のような経過観察を行います。
- 充実型結節(6-10mm):喫煙者は3,6,12,18,24ヶ月後、非喫煙者は3,12,24ヶ月後
- 部分充実型結節(充実部分が5mm未満):3,12,24ヶ月後
- すりガラス型結節(15mm未満):3,12,24ヶ月後
経過観察中に結節の最大径が2mm以上増大した場合や、すりガラス型から部分充実型へ変化した場合は、悪性の可能性が高まるため、確定診断のための検査が必要となります。
肺結節の治療方針と経過観察の基準
肺結節の治療方針は、結節の性状、大きさ、患者の年齢や全身状態などを考慮して決定されます。日本CT検診学会の「低線量CTによる肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方 第5版」に基づく治療方針の基準は以下の通りです。
切除(手術)の適応となる場合:
- 10mm以上の充実型結節
- 15mm以上のすりガラス型結節または部分充実型結節
- 15mm未満でも充実部分が5mmを超える部分充実型結節
経過観察となる場合:
- 10mm未満の充実型結節
- 15mm未満で充実部分が5mm以下の部分充実型結節
- 15mm未満のすりガラス型結節
簡潔にまとめると、薄いもやもやした陰影(すりガラス型)は大きさが大きいものを除いては経過観察となることが多く、白さの濃い部分(充実型)が多い陰影は切除を考慮することが多いという傾向があります。
また、陰影が肺がんであった場合、すりガラス型は比較的予後が良好なことが多いのに対し、充実型は予後が不良であったり、ある程度進行していることが多いとされています。
均一なすりガラス型結節について、直径10mm以下で女性患者の場合、5年後に2mm以上増大する可能性は約10%、5年後に部分充実型結節へ進行する可能性は約6%とされています。このような統計データも治療方針の決定に役立てられています。
肺結節と自覚症状の関連性と早期発見の重要性
肺結節、特に小さなものや早期段階のものは、多くの場合自覚症状を伴いません。これが肺がんの早期発見を難しくしている要因の一つです。肺がんは末梢型と中枢型に分けられ、それぞれ症状の出方が異なります。
末梢型肺がんは初期症状がほとんどなく、進行してから肺炎や胸痛などの症状が現れることが多いです。一方、中枢型肺がんは早期から咳や血痰などの症状が現れやすいという特徴があります。
肺結節が見つかった場合、症状がなくても放置せず、医師の指示に従って適切な検査や経過観察を受けることが重要です。特に以下のような症状がある場合は、早急に医療機関を受診することをお勧めします。
- 2週間以上続く咳
- 血痰
- 原因不明の胸痛
- 呼吸困難
- 38℃以上の発熱が数日続く
- 原因不明の体重減少
肺がんの早期発見・早期治療は予後を大きく改善します。特に低線量CTによる肺がん検診は、従来のレントゲン検査よりも小さな結節を発見できるため、肺がんの早期発見に有効とされています。喫煙歴のある方や肺がんの家族歴がある方は、定期的な検診を受けることをお勧めします。
また、肺結節が見つかった場合でも、必ずしもがんではないことを理解し、過度な不安を抱えずに適切な医療機関で診断を受けることが大切です。医師の指示に従い、定期的な経過観察を確実に受けることで、万が一悪性であった場合でも早期に対応することができます。
肺結節の予防と生活習慣の改善ポイント
肺結節そのものを予防することは難しいですが、肺がんなどの悪性疾患のリスクを下げるための生活習慣の改善は可能です。特に以下のポイントに注意することが重要です。
- 禁煙
喫煙は肺がんの最大のリスク因子です。喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんになるリスクが約10倍高いとされています。禁煙することで、時間の経過とともにリスクは低下していきます。
- 受動喫煙の回避
他人のタバコの煙を吸い込む受動喫煙も肺がんのリスクを高めます。家庭や職場での禁煙環境の整備が重要です。
- バランスの良い食事
野菜や果物を豊富に含む食事は、抗酸化物質を多く摂取できるため、肺がんのリスク低減に役立つ可能性があります。特に緑黄色野菜や柑橘類の摂取が推奨されています。
- 適度な運動
定期的な運動は免疫機能を高め、全身の健康維持に役立ちます。週に150分程度の中等度の有酸素運動が推奨されています。
- 職業的曝露の回避
アスベスト、ラドン、ヒ素、クロム、ニッケルなどの物質への職業的曝露は肺がんのリスクを高めます。適切な防護措置を講じることが重要です。
- 大気汚染の回避
大気汚染が深刻な地域での長時間の屋外活動は避け、必要に応じてマスクを着用するなどの対策を取りましょう。
- 定期的な健康診断
特に喫煙歴のある方や肺がんの家族歴がある方は、定期的な肺がん検診を受けることが早期発見につながります。50歳以上の喫煙者には低線量CTによる検診が推奨されています。
これらの生活習慣の改善は、肺がんだけでなく、他の多くの疾患の予防にも効果的です。特に喫煙は肺がんの最大のリスク因子であるため、禁煙することが最も効果的な予防策となります。
また、肺結節が見つかった場合は、医師の指示に従い、適切な間隔での経過観察を確実に受けることが重要です。経過観察を怠ると、万が一悪性であった場合に早期発見・早期治療の機会を逃してしまう可能性があります。