胆道シンチグラフィと99mTc-PMTによる胆囊機能評価

胆道シンチグラフィの基礎と臨床応用

胆道シンチグラフィの基本情報
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検査の目的

胆囊機能や胆道の通過性を非侵襲的に評価する核医学検査

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使用薬剤

主に99mTc-PMT(N-ピリドキシル-5-メチルトリプトファン)を使用

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検査時間

基本的に60分、必要に応じて24時間まで追跡可能

胆道シンチグラフィの検査原理と99mTc-PMTの特性

胆道シンチグラフィは、放射性医薬品を用いて胆道系の機能を視覚化する核医学検査です。日本では主に99mTc-PMT(N-ピリドキシル-5-メチルトリプトファン)が使用されています。この検査の最大の特徴は、形態だけでなく機能的な情報が得られる点にあります。

99mTc-PMTは静脈内に投与されると、肝細胞に取り込まれ、その後胆汁中に排泄されます。この過程をガンマカメラで経時的に撮影することで、肝臓から胆道系への排泄動態を評価できます。正常な場合、投与後3〜5分で肝臓に集積し、10〜20分で胆囊・総胆管に到達、30分程度で腸管への排泄が確認できます。

検査の実施には、少なくとも4〜6時間の絶食が前処置として必要です。これは胆囊の充満を適切に評価するためです。検査中は、静注後5分、10分、20分、30分、45分、60分と経時的に撮影を行います。60分の時点で胆囊が十分に描出されていれば、胆囊収縮剤(脂肪食やCCK:コレシストキニン)を投与して胆囊の収縮能も評価します。

胆道シンチグラフィの大きな利点は、放射線被曝が比較的少なく、アレルギー反応のリスクも低いことです。また、CTやMRIなどの形態学的検査と異なり、機能的な情報が得られるため、形態的に異常がなくても機能障害を検出できる点が臨床的に重要です。

日本核医学会による核医学診療ガイドラインでの胆道シンチグラフィの位置づけについて詳しく解説されています

胆道シンチグラフィにおける画像診断のポイントと正常パターン

胆道シンチグラフィの画像診断において、正常パターンを理解することは異常所見を見逃さないために重要です。正常な胆道シンチグラフィでは、以下のような時間経過と集積パターンが観察されます。

  1. 肝臓への集積期(0〜5分)
    • 99mTc-PMT投与後、速やかに肝臓に集積
    • 心臓や大血管にも一過性に集積が見られる
  2. 胆道系への移行期(5〜20分)
    • 肝内胆管から肝外胆管へ徐々に移行
    • 総胆管が明瞭に描出される(約20分)
  3. 胆囊充満期(20〜60分)
    • 胆囊への集積が明瞭になる
    • 正常では60分以内に胆囊が十分描出される
  4. 腸管排泄期(30分〜)
    • 十二指腸から小腸への排泄が始まる
    • 60分後には腸管内に明瞭な集積が見られる

画像診断のポイントとしては、以下の点に注目することが重要です。

  • 肝臓の集積均一性:肝臓全体に均一に集積するか
  • 胆道系の描出時間:肝内胆管、総胆管、胆囊の描出時間は適切か
  • 胆囊の充満度:胆囊は十分に描出されているか
  • 腸管への排泄:十二指腸、小腸への排泄は適切なタイミングで見られるか
  • 定量的評価:必要に応じて肝臓からの排泄率や胆囊収縮率などの定量的指標を算出

特に注意すべき点として、胆囊が60分以内に描出されない場合や、腸管への排泄が見られない場合は、胆道閉塞や胆囊機能障害を疑う必要があります。また、肝臓からの排泄が遅延している場合は、肝細胞機能障害の可能性も考慮します。

胆道シンチグラフィと99mTc-GSAシンチグラフィの比較と臨床的意義

胆道シンチグラフィ(99mTc-PMT)と肝受容体シンチグラフィ(99mTc-GSA)は、どちらも肝胆道系の評価に用いられる核医学検査ですが、その原理と臨床的意義は大きく異なります。

99mTc-PMTシンチグラフィ(胆道シンチグラフィ)

  • 評価対象:主に胆道系の排泄機能と胆囊機能
  • 集積機序:肝細胞に取り込まれた後、胆汁中に排泄される
  • 臨床的意義:胆道閉塞、胆囊機能不全、胆汁漏などの評価

99mTc-GSAシンチグラフィ(肝受容体シンチグラフィ)

  • 評価対象:肝細胞の機能的量(肝予備能)
  • 集積機序:肝細胞表面のアシアロ糖タンパク受容体に特異的に結合
  • 臨床的意義肝硬変の重症度評価、肝切除術前の肝予備能評価

両者の比較研究によれば、胆道閉鎖症術後症例において、99mTc-GSAの肝クリアランスは肝予備能をより直接的に反映し、ビリルビン値の影響を受けにくいという特徴があります。一方、99mTc-PMTは胆汁排泄能を反映するため、高ビリルビン血症の影響を受けやすいことが報告されています。

山崎らの研究では、胆道閉鎖症術後症例において、99mTc-GSAと99mTc-PMTの肝クリアランスを比較し、両者の乖離が肝内胆汁うっ滞の早期発見に有用であることが示されています。特に黄疸を有する症例の一部で、両検査の所見が乖離することがあり、この乖離が病態の理解に重要であることが指摘されています。

このように、両検査を組み合わせることで、肝予備能と胆汁排泄能を別々に評価でき、肝胆道系疾患の病態をより詳細に把握することが可能になります。特に胆道閉鎖症術後のような複雑な病態では、両検査の併用が診療上有用とされています。

胆道閉鎖症術後症例における99mTc-GSAと99mTc-PMTの肝クリアランスの比較に関する詳細な研究論文

胆道シンチグラフィの臨床適応と疾患別診断ポイント

胆道シンチグラフィは様々な肝胆道系疾患の診断と評価に有用です。主な臨床適応と疾患別の診断ポイントを以下に示します。

1. 黄疸の鑑別診断

  • 閉塞性黄疸:肝臓への集積は保たれるが、胆道系への排泄が遅延または欠如
  • 肝細胞性黄疸:肝臓への集積が不均一で低下、胆道系への排泄も全体的に遅延
  • 診断ポイント:肝臓からの排泄パターンと胆道系の描出時間に注目

2. 新生児・乳児黄疸の鑑別

  • 先天性胆道閉鎖症:24時間後でも腸管への排泄が見られない
  • 乳児肝炎:遅延はあるが、最終的に腸管への排泄が確認できる
  • 診断ポイント:24時間後の腸管排泄の有無が決定的

3. 急性胆囊炎の診断

  • 典型的所見:胆囊が描出されない(RIM sign:胆囊周囲の集積増加が特徴的)
  • 診断ポイント:胆囊の非描出と胆囊周囲の異常集積

4. 胆汁漏出の検出

  • 特徴的所見:本来見られない部位に放射性医薬品の集積
  • 診断ポイント:異常集積部位と経時的変化

5. 体質性黄疸の鑑別

  • Dubin-Johnson症候群:肝臓への集積は正常だが、胆道系への排泄が遅延
  • Gilbert症候群:ほぼ正常パターン
  • Rotor症候群:肝臓からの排泄遅延と尿中排泄増加
  • 診断ポイント:肝臓からの排泄パターンと尿中排泄の程度

6. 肝内結石症の評価

  • 特徴的所見:結石部位に一致した欠損像と排泄遅延
  • 診断ポイント:局所的な排泄遅延と欠損像

7. 胆道再建術後の評価

  • 正常所見:適切な時間内に腸管への排泄が確認できる
  • 異常所見:吻合部狭窄による排泄遅延や胆汁うっ滞
  • 診断ポイント:吻合部の通過性と排泄時間

8. 肝腫瘍の鑑別診断

  • 限局性結節性過形成(FNH):早期相で集積増加、後期相で正常化
  • 肝細胞癌:集積低下または欠損像
  • 診断ポイント:腫瘍部の集積パターンと経時的変化

胆道シンチグラフィは、特に機能的情報が重要な疾患の評価に有用です。例えば、形態的には正常でも機能的に異常がある慢性胆囊炎や、術後の胆道再建の機能評価などに威力を発揮します。また、CTやMRIなどの形態学的検査と組み合わせることで、より詳細な病態評価が可能になります。

胆道シンチグラフィと他の画像診断法との比較:長所と短所

胆道シンチグラフィは、他の画像診断法と比較して独自の特徴を持っています。それぞれの検査法の長所と短所を理解することで、臨床現場での適切な検査選択が可能になります。

1. 胆道シンチグラフィ(99mTc-PMT)

  • 長所
    • 胆道系の機能的情報が得られる
    • 生理的な胆汁の流れを評価できる
    • 放射線被曝が比較的少ない
    • 造影剤アレルギーのリスクがない
    • 胆汁漏出の検出感度が高い
  • 短所
    • 空間分解能が低い(形態的詳細は不明瞭)
    • 検査時間が長い(最低60分、場合によっては24時間)
    • 肝機能障害がある場合、診断精度が低下する
    • 施設によっては利用できない場合がある

    2. 超音波検査(US)

    • 長所
      • 非侵襲的で被曝がない
      • リアルタイムに観察可能
      • 繰り返し検査が容易
      • 胆石の検出感度が高い
    • 短所
      • 検者依存性が高い
      • 肥満患者や腸管ガスの多い患者では観察困難
      • 深部の胆管評価が難しい場合がある
      • 機能的情報は限定的

      3. CT検査

      • 長所
        • 高い空間分解能
        • 短時間で広範囲の評価が可能
        • 3次元的な評価が可能
        • 周囲臓器との関係性が明瞭
      • 短所
        • 放射線被曝がある
        • 造影剤アレルギーのリスク
        • 機能的情報は限定的
        • 小さな胆石の検出感度が低い場合がある

        4. MRI/MRCP

        • 長所
          • 放射線被曝がない
          • 胆管の形態評価に優れる
          • 軟部組織のコントラスト分解能が高い
          • 造影剤なしでも胆管評価が可能
        • 短所
          • 検査時間が長い
          • 閉所恐怖症の患者には不向き
          • 金属インプラントがある患者には制限
          • 機能的情報は限定的(MRCPは静的画像)

          5. ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

          • 長所
            • 高い空間分解能
            • 診断と治療を同時に行える
            • 胆管内の直接観察と組織採取が可能
          • 短所
            • 侵襲的で合併症のリスクがある
            • 専門的技術が必要
            • 術後再建例などでは施行困難な場合がある
            • 機能的評価は限定的

            胆道シンチグラフィの最大の特徴は、他の検査法では得られない「機能的情報」を提供できる点です。特に以下のような臨床状況では、胆道シンチグラフィが他の検査法より優れています。

            1. 胆汁漏出の検出と部位同定
            2. 急性胆囊炎の診断(特に超音波所見が曖昧な場合)
            3. 新生児胆道閉鎖症と乳児肝炎の鑑別
            4. 胆道再建術後の機能評価
            5. 慢性胆囊炎など、形態的には正常で