シェーグレン症候群の症状と乾燥による生活への影響

シェーグレン症候群の症状と特徴

シェーグレン症候群の主な特徴
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自己免疫疾患

免疫システムが自分の唾液腺や涙腺を攻撃する自己免疫疾患の一種

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好発年齢と性別

中年女性に多く、男女比は1:18と女性に圧倒的に多い

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指定難病

日本では指定難病に認定されている慢性疾患

シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺などの外分泌腺に慢性的な炎症が起こり、涙や唾液の分泌が減少する自己免疫疾患です。この病気は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン博士によって発見され、その名前に由来しています。

現在では、ドライマウス(口の乾き)とドライアイ(目の乾き)を主な症状とする代表的な自己免疫疾患として世界中で認識されています。患者数は年々増加傾向にあり、病気に気づいていない潜在的な患者も多いと考えられています。

シェーグレン症候群は単独で発症する一次性(原発性)と、関節リウマチやSLEなどの他の膠原病に合併して発症する二次性(続発性)に分類されます。また、症状の範囲によって、涙腺・唾液腺に限局する腺型と、全身の臓器に及ぶ腺外型にも分けられます。

シェーグレン症候群の乾燥症状とドライアイの特徴

シェーグレン症候群の最も代表的な症状は「乾燥症状」です。特に目の乾燥(ドライアイ)は患者の90%以上に見られる主要症状です。涙の分泌量が減少することで、以下のような症状が現れます。

  • 目がショボショボする、ゴロゴロする感覚
  • 白目が赤くなり痛みを感じる
  • まぶしさを感じる(光線過敏)
  • 目に刺激やヒリヒリした感覚がある
  • 目が疲れやすい
  • 悲しくても涙が出ない

涙には目を潤す以外にも、異物を排出する、外部刺激から目の表面を守るなどの重要な役割があります。ドライアイが進行すると、角膜が傷つきやすくなり、視力低下につながることもあります。

重症の場合は、眼科医による涙点閉鎖術などの治療が必要になることもあります。日常的には人工涙液や精製ヒアルロン酸点眼薬、水分とムチン分泌を促進する点眼薬を1日に複数回使用することで症状を緩和します。

シェーグレン症候群のドライマウスと唾液腺の症状

口の乾燥(ドライマウス)もシェーグレン症候群の主要症状の一つです。唾液腺に炎症が起こり、唾液の分泌が減少することで以下のような症状が現れます。

  • 口の中が乾燥する、ネバネバする
  • パンやクッキーなどの乾いた食べ物が食べにくくなる
  • 水なしでは食事ができない
  • 会話がしづらい、声が枯れる
  • 虫歯や歯周病が増える
  • 舌や口角が荒れる
  • 夜間に水分補給のために起きる

また、唾液腺の一つである耳下腺に炎症が起こり、耳の下あたりが腫れることがあります。これは「耳下腺の有痛性腫脹」と呼ばれ、痛みを伴うこともあります。

唾液には食べ物を飲み込みやすくする、口腔内を清潔に保つ、虫歯を予防するなどの役割があるため、唾液分泌の減少は口腔内の健康に大きな影響を与えます。治療としては、唾液分泌を刺激するセビメリン塩酸塩やピロカルピン塩酸塩の内服が行われます。

シェーグレン症候群の関節痛やだるさなどの全身症状

シェーグレン症候群では、乾燥症状だけでなく、全身にさまざまな症状が現れることがあります。代表的な全身症状には以下のようなものがあります。

  1. 関節痛:関節が炎症を起こし、痛みを生じます。特に手指や手首、膝などの関節に痛みが出ることが多いです。
  2. 全身倦怠感:疲れやすさや体のだるさを感じることがあります。「何事にもあまりやる気が出ない」という症状も見られます。
  3. 筋肉痛:筋肉が痛む、こわばりを感じるなどの症状が現れることがあります。
  4. 微熱:37度前後の微熱が続くことがあります。
  5. リンパ節の腫れ:首やわき、鼠径部(そけいぶ)などのリンパ節が腫れることがあります。

これらの症状は、シェーグレン症候群の活動性や個人差によって症状の現れ方や程度が異なります。「乾き」「痛み」「だるさ」がシェーグレン症候群の3大症状と言われており、これらの症状が数カ月にわたって続く場合はシェーグレン症候群を疑う必要があります。

シェーグレン症候群の皮膚症状とレイノー現象

シェーグレン症候群では、皮膚にもさまざまな症状が現れることがあります。代表的な皮膚症状には以下のようなものがあります。

  • 皮膚の乾燥:汗腺の機能低下により、皮膚が乾燥しやすくなります。
  • 環状紅斑:輪の形をした紅い皮疹が体に出ることがあります。
  • 紫斑:皮膚の下で出血が起こり、紫色の斑点ができることがあります。
  • レイノー現象:寒さや精神的ストレスなどが引き金となり、指先の血管が一時的に収縮して血流が悪くなる症状です。指先が白く→青紫色→赤みを帯びるという特徴的な色の変化が見られ、しびれやこわばりを伴うことがあります。

レイノー現象は、シェーグレン症候群だけでなく他の膠原病でも見られる症状ですが、シェーグレン症候群患者の約30%に認められるとされています。寒い季節には特に注意が必要で、手袋の着用や保温を心がけることが大切です。

シェーグレン症候群の臓器病変と合併症の可能性

シェーグレン症候群は全身性の自己免疫疾患であるため、涙腺や唾液腺以外の臓器にも影響を及ぼすことがあります。これらは「腺外症状」と呼ばれ、以下のような臓器病変が見られることがあります。

  1. 肺病変:間質性肺炎などの肺病変が起こることがあります。空咳や息切れなどの症状が現れます。
  2. 腎病変:間質性腎炎などの腎病変が起こることがあります。尿検査で異常が見つかることがあります。
  3. 神経病変:中枢神経や末梢神経の障害が起こり、麻痺やしびれなどの症状が現れることがあります。
  4. 甲状腺病変:慢性甲状腺炎(橋本病)を合併することがあります。
  5. 膀胱病変:間質性膀胱炎を併発し、排尿障害などの症状が現れることがあります。

また、シェーグレン症候群患者では悪性リンパ腫の発症リスクが一般人口と比較して10〜44倍高いとされています。特に唾液腺のMALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織型リンパ腫)の発症リスクが高いため、定期的な検査と経過観察が重要です。

さらに、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)などの他の膠原病を合併することも少なくありません。このような場合は「二次性シェーグレン症候群」と呼ばれ、それぞれの疾患の症状も併せて現れます。

シェーグレン症候群の生活の質への影響と心理的側面

シェーグレン症候群は、一見すると命に関わるような重篤な症状が少ないように思われがちですが、患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与える疾患です。特に乾燥症状は日常生活のあらゆる場面で不便さや不快感をもたらします。

例えば、ドライアイによる目の不快感は読書やパソコン作業を困難にし、ドライマウスは食事や会話を楽しむことを妨げます。また、全身倦怠感やだるさは仕事や家事などの日常活動に支障をきたすことがあります。

さらに、シェーグレン症候群の症状は外見からは分かりにくいため、周囲の理解を得られにくいという問題もあります。「単なる疲れや加齢のせい」と誤解されることも少なくなく、そのことが患者の精神的負担をさらに増加させることがあります。

心理的側面では、慢性的な症状による不安やストレス、うつ状態になるリスクも指摘されています。特に診断までに時間がかかるケースでは、「原因不明の症状」に長期間悩まされることで精神的負担が大きくなることがあります。

このような生活の質への影響を考慮し、シェーグレン症候群の治療では症状の緩和だけでなく、患者の心理的サポートも重要とされています。患者会などのサポートグループへの参加や、必要に応じて心理カウンセリングを受けることも選択肢の一つです。

また、日常生活では以下のような工夫が役立つことがあります。

  • こまめな水分補給
  • 加湿器の使用
  • 保湿効果のある食品(オメガ3脂肪酸を含む食品など)の摂取
  • ストレス管理のためのリラクゼーション法の実践
  • 十分な睡眠と休息

シェーグレン症候群は完治が難しい慢性疾患ですが、適切な治療と生活管理によって症状をコントロールし、生活の質を維持・向上させることが可能です。早期診断と適切な治療開始が重要であるため、特徴的な症状が続く場合は専門医への相談をお勧めします。

シェーグレン症候群の診断基準と最新治療アプローチ

シェーグレン症候群の診断は、症状の評価、血液検査、唾液腺・涙腺の機能検査、病理検査などを組み合わせて総合的に行われます。日本では2022年に改訂された診断基準が用いられており、以下のような検査が実施されます。

  1. 血液検査:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、リウマトイド因子、抗核抗体などの自己抗体の有無を調べます。
  2. 唾液分泌量検査:ガムテストやサクソンテストなどで唾液の分泌量を測定します。
  3. 涙液分泌量検査:シルマーテストで涙の分泌量を測定します。
  4. 眼科的検査:ローズベンガル染色やフルオレセイン染色で角結膜上皮障害の有無を調べます。
  5. 唾液腺生検:下唇の小唾液腺を採取し、リンパ球浸潤の程度を調べます。

診断基準を満たした場合にシェーグレン症候群と診断されますが、症状が軽度の場合や典型的でない場合は診断が難しいこともあります。

治療に関しては、現在のところシェーグレン症候群を根本的に治癒させる方法はなく、症状を緩和する対症療法が中心となります。しかし、近年の研究の進展により、新たな治療アプローチも検討されています。

  • 生物学的製剤リツキシマブなどのB細胞を標的とする生物学的製剤が、一部の患者さんの症状改善に効果があるとの報告があります。
  • JAK阻害薬:関節リウマチなどで使用されるJAK阻害薬が、シェーグレン症候群の一部の症状に効果を示す可能性が研究されています。
  • 再生医療:唾液腺や涙腺の機能を回復させるための再生医療的アプローチも研究段階にあります。

最新の研究では、シェーグレン症候群の発症メカニズムに関する理解が深まっており、それに基づいた新たな治療法の開発が期待されています。例えば、インターフェロン経路を標的とした治療法や、自己免疫反応を制御する新たな免疫調節薬の開発が進められています。

シェーグレン症候群の治療においては、症状の重症度や臓器病変の有無によって治療方針が異なるため、リウマチ専門医、眼科医、歯科医などの多職種連携による総合的なアプローチが重要です。

日本リウマチ学会のシェーグレン症候群診療ガイドライン

https://www.ryumachi-jp.com/publication/pdf/guide/SS_guide.pdf