膵頭部がん 症状と黄疸・腹痛・背部痛の関係

膵頭部がん 症状と特徴

膵頭部がんの主な症状
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黄疸

膵頭部がんが胆管を圧迫することで発生する特徴的な症状

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腹痛・背部痛

がんの進行に伴い神経を侵すことで生じる痛み

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体重減少

食欲不振や消化機能低下により進行するにつれて顕著になる

膵頭部がんは膵臓がんの中でも特に膵臓の頭部(十二指腸に近い部位)に発生するがんを指します。膵臓がん全体の約60〜70%を占めており、その症状や進行の特徴には独自の特性があります。膵頭部がんは初期には無症状であることが多く、症状が現れた時にはすでに進行している場合が少なくありません。このため「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。

膵頭部がんの症状は、がんの大きさや進行度、周囲の組織への浸潤状況によって異なりますが、早期発見のためには典型的な症状を理解しておくことが重要です。

膵頭部がんと黄疸の関係性

膵頭部がんの最も特徴的な症状の一つが黄疸です。膵頭部は胆管のすぐ近くに位置しているため、この部位にがんが発生すると胆管を圧迫したり、浸潤したりすることで胆汁の流れが妨げられます。その結果、ビリルビン(赤血球の老廃物)が体内に蓄積し、黄疸として現れるのです。

黄疸の具体的な症状には以下のようなものがあります。

  • 皮膚や白目(強膜)が黄色く変色する
  • 尿の色が濃い褐色になる(ビリルビン尿)
  • 皮膚のかゆみ(胆汁酸が皮膚に沈着することによる)
  • 便の色が灰白色や粘土色になる(胆汁色素が便に含まれないため)

膵頭部がんによる黄疸は、通常、無痛性黄疸として現れることが多いのが特徴です。これは他の原因による黄疸(例えば胆石など)と区別する重要なポイントとなります。膵頭部がん患者の約56〜80%に黄疸が見られるという報告があり、多くの場合、この症状が診断の契機となっています。

膵頭部がんの腹痛と背部痛の特徴

膵頭部がんによる痛みは、患者の約72〜82%に見られる主要な症状です。特に特徴的なのは、上腹部の痛みと背中や腰への放散痛です。

膵臓は後腹膜臓器であり、その周囲には多くの神経叢が存在します。膵頭部がんが進行すると、これらの神経に浸潤することで強い痛みを引き起こします。この痛みの特徴として以下の点が挙げられます。

  • 食事とは無関係に発生する上腹部痛
  • 夜間に悪化する傾向がある持続的な痛み
  • 背中や腰への放散痛(背部痛は患者の約48%に見られる)
  • 鎮痛剤で緩和しにくい痛み

また、膵頭部がんが膵管を閉塞させることで膵炎を併発し、さらに痛みが増強することもあります。膵炎による痛みは急性で激しく、上腹部から背中に帯状に広がることが特徴です。

膵頭部がんの痛みは進行とともに増強する傾向があり、QOL(生活の質)を著しく低下させる要因となるため、適切な疼痛管理が重要です。

膵頭部がんによる消化器症状と体重減少

膵頭部がんは消化機能に直接影響を及ぼすため、様々な消化器症状を引き起こします。主な症状には以下のようなものがあります。

  1. 食欲不振:患者の約64%に見られる症状で、がんによる代謝変化や痛みなどが原因となります。
  2. 早期膨満感:少量の食事でもすぐにお腹がいっぱいになる感覚で、患者の約62%に見られます。これは胃の機能低下や腹水の貯留などが原因です。
  3. 体重減少:膵頭部がん患者の66〜84%に見られる顕著な症状です。以下の複合的な要因によって引き起こされます。
    • 食欲不振による摂取カロリーの減少
    • 膵酵素分泌低下による消化吸収障害
    • がん悪液質(がんによる代謝異常で栄養状態が悪化する状態)
    • 十二指腸への浸潤による消化管機能障害
  4. 下痢・便秘:膵酵素の分泌低下による消化不良や、がんの進行による腸管機能の変化で起こります。
  5. 吐き気・嘔吐:十二指腸への浸潤や腫瘍による消化管の圧迫で発生することがあります。

これらの消化器症状は非特異的であるため、膵頭部がんの初期診断の手がかりとしては限界がありますが、原因不明の消化器症状と体重減少が持続する場合は、膵頭部がんの可能性を考慮する必要があります。

膵頭部がんと糖尿病の関連性

膵頭部がんと糖尿病には密接な関連があります。膵臓はインスリンを分泌する重要な臓器であるため、膵頭部がんによって膵臓の機能が障害されると、糖代謝に異常をきたし、糖尿病を発症したり、既存の糖尿病が急激に悪化したりすることがあります。

膵頭部がんに関連する糖尿病の特徴。

  • 心当たりのない急な血糖値の上昇
  • 従来の治療でコントロールできていた糖尿病の急激な悪化
  • 糖尿病の新規発症(特に50歳以上で危険因子がない場合)
  • 体重減少を伴う糖尿病(通常の2型糖尿病では肥満を伴うことが多い)

研究によれば、膵臓がん患者の約80%が糖尿病または耐糖能異常を示し、そのうち約45%は膵臓がん診断の2〜3年以内に発症しています。このため、50歳以上で原因不明の糖尿病を新たに発症した場合や、安定していた糖尿病が急に悪化した場合は、膵頭部がんのスクリーニングを検討する価値があります。

膵頭部がんの進行期特有の症状と合併症

膵頭部がんが進行すると、初期症状に加えて様々な合併症や全身症状が現れるようになります。これらの症状は患者のQOLを著しく低下させ、治療の選択肢も制限する要因となります。

進行期の膵頭部がんに見られる主な症状と合併症。

  1. 腹水の貯留:がんの腹膜播種や低アルブミン血症によって腹腔内に水が溜まり、腹部膨満感や呼吸困難を引き起こします。
  2. 門脈圧亢進症状:膵頭部がんが門脈を圧迫・浸潤することで、食道静脈瘤や脾腫、腹壁静脈の怒張などが生じることがあります。
  3. 胆管炎:胆管閉塞に細菌感染が加わると、発熱、黄疸、右上腹部痛を特徴とする胆管炎を発症します。
  4. 十二指腸閉塞:膵頭部がんが十二指腸に浸潤・圧迫すると、嘔吐や食事摂取困難などの消化管閉塞症状を引き起こします。
  5. 血栓症:膵臓がんは血液凝固能を亢進させるため、深部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクが高まります。
  6. うつ症状:慢性的な痛みや全身状態の悪化に伴い、うつ症状を呈することも少なくありません。

進行期の膵頭部がんでは、これらの症状に対する緩和ケアが治療の重要な柱となります。特に疼痛管理や栄養サポート、精神的ケアなど、多職種による包括的なアプローチが求められます。

日本消化器病学会による膵癌診療ガイドラインでは、進行期膵癌の症状管理について詳細に解説されています

膵頭部がんは発見が遅れがちな疾患ですが、その特徴的な症状を理解することで、早期発見の可能性を高めることができます。特に無痛性黄疸や原因不明の背部痛、急激な体重減少、新規発症の糖尿病などの症状が見られる場合は、膵頭部がんの可能性を考慮し、適切な検査を受けることが重要です。

また、膵頭部がんのリスク因子(喫煙、慢性膵炎、糖尿病、家族歴など)を持つ方は、定期的な健康診断を受け、少しでも気になる症状があれば早めに医療機関を受診することをお勧めします。

膵頭部がんは依然として予後の厳しいがんの一つですが、医学の進歩により治療法も徐々に改善されています。早期発見と適切な治療によって、生存率の向上が期待できるようになってきています。

国立がん研究センターがん情報サービスでは、膵臓がんに関する最新の情報が提供されています

膵頭部がんの症状は非特異的なものが多く、他の疾患でも同様の症状が見られることがあります。しかし、複数の症状が組み合わさって現れる場合や、症状が持続・悪化する場合は、専門医による精密検査を受けることが重要です。早期発見が難しい疾患だからこそ、症状に対する正しい知識と理解が求められるのです。