グリチルリチン酸二カリウムの効果と副作用
グリチルリチン酸二カリウムとは何か:成分の特徴と由来
グリチルリチン酸二カリウムは、マメ科植物「甘草(カンゾウ)」の根や茎から抽出されるグリチルリチン酸に、水溶性を高めるためにカリウム塩を結合させた成分です。「グリチルリチン酸2K」や「グリチルリチン酸ジカリウム」とも表記されます。
この成分は4000年にわたって薬用植物として使用されてきた甘草に由来し、特徴的な甘味を持っています。甘草は漢方薬の約70%に配合されている重要な生薬の一つでもあります。
グリチルリチン酸二カリウムは水溶性が高く、様々な製剤に配合しやすいという特性があります。そのため、医薬品、医薬部外品、化粧品など幅広い製品に利用されています。
甘草に含まれるグリチルリチン酸は、砂糖の約50倍の甘さを持つと言われており、食品添加物としても利用されています。日常的に口にしている甘草が使用されているハーブティーやとろろ昆布、のり佃煮、ふりかけ、めんつゆ、お菓子やゼリーなどにも微量ながら含まれています。
グリチルリチン酸二カリウムの主要な効果:抗炎症作用のメカニズム
グリチルリチン酸二カリウムの最も重要な効果は、優れた抗炎症作用です。そのメカニズムは以下のように説明できます。
組織がダメージを受けると、体内では「プロスタグランジンE2」という物質が生成されます。この物質は炎症反応を引き起こし、痛みや赤み、腫れなどの症状を引き起こします。グリチルリチン酸二カリウムは、このプロスタグランジンE2の産生を強力に抑制することで、過剰な炎症反応を抑える働きをします。
具体的には、グリチルリチン酸二カリウムは以下のような抗炎症効果を発揮します。
- 赤みを伴う炎症の軽減
- ニキビや肌荒れの改善
- アトピー性皮膚炎の症状緩和
- 炎症後の色素沈着の予防
また、グリチルリチン酸二カリウムは、ステロイド剤のような副作用のリスクが低いため、長期的な使用が可能な抗炎症成分として重宝されています。
炎症を抑えることで、アトピー肌の方に多い色素沈着を防ぐ効果も期待できます。これは、炎症によって活性化されるメラノサイトの働きを間接的に抑制することで、シミやくすみの原因となる色素沈着を予防するメカニズムです。
グリチルリチン酸二カリウムの抗アレルギー作用と肌バリア機能への影響
グリチルリチン酸二カリウムは、抗炎症作用だけでなく、優れた抗アレルギー作用も持っています。そのメカニズムと肌のバリア機能への影響について詳しく見ていきましょう。
真皮には、肌の潤いを保つヒアルロン酸が存在しており、その量は「ヒアルロニダーゼ」という分解酵素によって適正に保たれています。しかし、肌にアレルゲンなどの刺激が加わると、このヒアルロニダーゼが活性化し、ヒアルロン酸のバランスが崩れてしまいます。その結果、肌は乾燥し、かゆみを引き起こすヒスタミンが放出されるようになります。
グリチルリチン酸二カリウムには、このヒアルロニダーゼの活性を抑制する作用があります。これにより。
- アレルギー反応の発生を防止
- かゆみや痛みの緩和
- 肌の乾燥防止
が期待できます。
さらに、グリチルリチン酸二カリウムは肌のバリア機能を高める効果も持っています。肌のバリア機能を維持するためには、角質層が成熟した状態であることが重要です。角質細胞はCE(コーニファイドエンベロープ)という膜で覆われており、これが肌の水分量やバリア機能を維持しています。
グリチルリチン酸二カリウムは、CEの形成に関わるインボルクリンとトランスグルタミナーゼ1の産生を促進する作用があります。これにより、敏感肌のバリア機能を改善し、外部刺激から肌を守る効果が期待できるのです。
実際に、グリチルリチン酸二カリウムを配合した製品を使用することで、ピリピリやチクチクといった皮膚の刺激や違和感を緩和させる効果が研究で報告されています。
グリチルリチン酸二カリウムの配合製品:医薬品から化粧品まで
グリチルリチン酸二カリウムは、その優れた効果から様々な製品に配合されています。医薬品から化粧品まで、その用途は多岐にわたります。
【医薬品での利用】
グリチルリチン酸二カリウムは、その消炎作用から以下のような医薬品に配合されています。
- うがい薬、口腔用殺菌トローチ(抗炎症成分として)
- 外用鎮痛薬、皮膚軟化薬(抗炎症成分として)
- 鼻炎内服薬、点鼻薬(抗炎症成分として)
- 非ステロイド性点眼薬(抗炎症成分として)
- 胃腸薬(粘膜修復成分として)
また、グリチルリチン酸二カリウムの甘味を利用して、医薬品添加物として甘味・矯味目的で内服薬、歯科外用剤、口腔用剤などに配合されることもあります。
【医薬部外品での利用】
グリチルリチン酸二カリウムは、医薬部外品の有効成分として厚生労働省に認められています。特に敏感肌やニキビに悩む方向けの製品に多く配合されています。
- 薬用石けん、シャンプー、リンス
- 薬用化粧水、乳液、美容液、パック
- 日焼け止め
- ひげそり用剤
【化粧品での利用】
一般的に「日本薬局方」に収載される医薬品成分は化粧品に配合できませんが、グリチルリチン酸二カリウムは例外的に化粧品への配合が認められています。ただし、安全性を考慮して以下のような配合上限が定められています。
- 粘膜に使用されることがない洗い流す化粧品:100g中0.80gまで
- 粘膜に使用されることがない洗い流さない化粧品:100g中0.5gまで
- 粘膜に使用されることがある化粧品:100g中0.20gまで
グリチルリチン酸二カリウムは、過剰に分泌された皮脂による炎症を鎮める作用があるため、開き毛穴のケアにも効果的です。また、紫外線によるダメージを受けた肌の炎症を鎮める効果もあるため、日焼け後のアフターケアにも適しています。
グリチルリチン酸二カリウムの副作用と安全性:内服と外用の違い
グリチルリチン酸二カリウムの安全性と副作用については、内服と外用で大きく異なります。医療従事者として、患者さんに適切な情報提供ができるよう、その違いを理解しておくことが重要です。
【内服時の副作用と注意点】
グリチルリチン酸二カリウムを含む製品を内服する場合、過量または長期間の使用には注意が必要です。1日の摂取量がグリチルリチン酸として40mg(甘草として1.0g)を超えて長期に服用すると、「偽アルドステロン症」という副作用を引き起こす可能性があります。
偽アルドステロン症の症状には以下のようなものがあります。
初期症状としては、手足のだるさ、しびれ、筋肉痛、こむら返りなどが現れ、徐々に症状が悪化することが多いです。
特に注意が必要なのは以下の方々です。
- 高血圧の方
- 高齢者
- 心臓または腎臓に障害のある方
- むくみのある方
- 医師の治療を受けている方
甘草やグリチルリチン酸は多くの市販薬、医療用医薬品、漢方薬に配合されています。複数の医薬品の併用や長期内服でも副作用が引き起こされる場合があるため、注意が必要です。
【外用時の安全性】
一方、化粧品および医薬部外品による外用においては、20年以上の使用実績の中で重大な副作用は報告されていません。これは、外用の場合は内服と比較して皮膚からの吸収量が少ないためです。
また、グリチルリチン酸二カリウムは医薬品成分であることから、医薬部外品・化粧品共に配合上限量が定められています。そのため、基本的には副作用の心配なく使用できると考えられます。
ただし、個人の肌質や体質によってはアレルギー反応を起こす可能性もあるため、初めて使用する際にはパッチテストを行うことが推奨されます。
グリチルリチン酸二カリウムの抗ウイルス効果と新たな研究動向
グリチルリチン酸二カリウムには、あまり知られていない効果として抗ウイルス作用があります。この効果は近年の研究でさらに注目されるようになってきました。
甘草から抽出される成分「グリチルリチン」は、古くから肝炎の治療や呼吸器系疾患の治療に利用されてきました。特にC型肝炎ウイルスに対する効果が知られており、日本では強ミノC注射液(グリチルリチン酸モノアンモニウム)として医療現場で使用されています。
グリチルリチン酸二カリウムの抗ウイルス効果のメカニズムについては、以下のような作用が報告されています。
- ウイルスの細胞への吸着・侵入の阻害
- ウイルスの複製過程の阻害
- 宿主の免疫応答の調節
特に注目すべきは、グリチルリチン酸二カリウムがSARS-CoVに対して抗ウイルス活性を示したという2003年の研究結果です。これは、現在のCOVID-19パンデミックの中で再評価されている知見です。
最近の研究では、グリチルリチン酸二カリウムが以下のようなウイルスに対して効果を示す可能性が示唆されています。
- インフルエンザウイルス
- ヘルペスウイルス
- コロナウイルス
- RSウイルス
これらの抗ウイルス効果は、主に試験管内(in vitro)での研究結果に基づいており、臨床での有効性については更なる研究が必要です。しかし、長い使用歴と安全性プロファイルを考慮すると、将来的にはウイルス感染症の予防や治療の補助として活用される可能性があります。
また、グリチルリチン酸二カリウムの抗ウイルス効果と抗炎症効果の相乗作用により、ウイルス感染に伴う炎症反応を抑制する効果も期待されています。これは、重症化を防ぐ上で重要な要素となる可能性があります。
現在、グリチルリチン酸二カリウムの新たな医療応用に関する研究が世界中で進められており、今後さらなる効果や用途が明らかになることが期待されています。
グリチルリチン酸二カリウムの臨床応用:症例と使用上の注意点
グリチルリチン酸二カリウムは、その多様な効果から様々な臨床場面で応用されています。ここでは、実際の症例と使用上の注意点について解説します。
【臨床応用例】
- 皮膚科領域
- アトピー性皮膚炎:ステロイド外用薬との併用により、ステロイドの使用量を減らしながら炎症を抑制
- 尋常性ざ瘡(ニキビ):抗炎症作用により赤みを伴うニキビの改善
- 接触性皮膚炎:かゆみや炎症の軽減
- 日焼け後の皮膚炎:紫外線による炎症の緩和
- 口腔内科領域
- 口内炎:粘膜の炎症緩和
- 歯肉炎:歯周組織の炎症抑制
- 眼科領域
- 内科領域
- 慢性肝炎:肝機能の改善(注射剤として)
- 消化器系の炎症:胃粘膜の保護
【症例報告】
症例1:30代女性、ステロイド依存性のアトピー性皮膚炎