脾臓腫大の原因と症状及び診断方法

脾臓腫大の原因と診断

脾臓腫大(脾腫)の基本情報
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脾腫とは

脾臓が異常に腫大した状態を指し、それ自体は病名ではなく様々な疾患の二次的な症状です。

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診断基準

一般的に脾臓の長径×短径(spleen index)が40cm²を超える場合に脾腫と診断されます。

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主な症状

腹部左上部の膨満感や痛み、早期満腹感などが特徴的ですが、無症状のことも多いです。

脾臓腫大の主要な原因分類

脾臓腫大(脾腫)は様々な病態によって引き起こされる二次的な症状です。脾腫をきたす機序は大きく分けて以下の4つに分類されます:

  1. うっ血性機序 – 門脈圧亢進症などによる血液のうっ滞
  2. 浸潤性機序 – 脾臓構成細胞以外の細胞が浸潤
  3. 炎症性機序 – 感染症や自己免疫疾患による炎症と過形成
  4. 腫瘍性機序 – 脾臓構成細胞自体の悪性化

これらの機序を理解することで、脾腫の原因となる基礎疾患を特定しやすくなります。脾腫自体は病名ではなく、あくまでも他の疾患による二次的な症状であることを認識することが重要です。

脾臓は通常、成人では肋骨下に隠れており、触知できないのが正常です。しかし、脾腫の場合は左上腹部で触知可能となることがあり、これが診断の手がかりとなります。

脾臓腫大を引き起こす感染症の種類

感染症は脾臓腫大の重要な原因の一つです。特に注目すべき感染症には以下のようなものがあります:

急性感染症による脾腫

  • ウイルス性感染症
    • Epstein-Barr(EB)ウイルス感染(伝染性単核球症)
    • A型肝炎ウイルス
    • サイトメガロウイルス感染症
  • 細菌性感染症
    • 細菌性心内膜炎
    • 腸チフス
    • ブルセラ症
    • バルトネラ症(猫ひっかき病)

    慢性感染症による脾腫

    • マラリア
    • 内臓リーシュマニア症(カラアザール)
    • 結核(特に粟粒結核)
    • 梅毒

    特に伝染性単核球症(EBウイルス感染)は、温帯地域における脾腫の一般的な原因です。EBウイルス感染では、脾臓内のリンパ球が活性化し、脾臓が腫大します。稀ですが、EBウイルス感染に関連した脾臓破裂の症例も報告されています。

    2009年に報告された症例では、29歳女性がEBウイルス初感染の経過中に脾臓破裂を来たし、in situ hybridization法によって脾臓へのEBウイルス感染が直接証明されました。この症例は、感冒様症状の後に心窩部痛が出現し、最終的に脾臓破裂と診断されています。

    熱帯地域ではマラリアや内臓リーシュマニア症などの寄生虫感染症が脾腫の主要な原因となっています。これらの感染症では、原虫が脾臓内で増殖し、免疫反応を引き起こすことで脾腫が生じます。

    脾臓腫大と血液疾患の関連性

    血液疾患は脾臓腫大の主要な原因の一つであり、以下のような疾患が関連しています:

    白血病および骨髄増殖性疾患

    • 慢性リンパ性白血病
    • 慢性骨髄性白血病
    • 真性赤血球増加症
    • 骨髄線維症

    リンパ増殖性疾患

    • 悪性リンパ腫(特に脾臓辺縁帯リンパ腫)
    • 有毛細胞白血病
    • 大顆粒リンパ球性白血病

    溶血性貧血

    • 遺伝性球状赤血球症
    • サラセミア
    • 鎌状赤血球症
    • ピルビン酸キナーゼ欠損症などの赤血球酵素異常症

    血液疾患による脾腫では、脾機能亢進症を併発することが多く、これにより血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少)が引き起こされます。脾臓が腫大すると、正常な血球も過剰に捕捉・破壊されるようになり、これがさらなる脾腫を引き起こすという悪循環に陥ります。

    特に慢性リンパ性白血病や有毛細胞白血病では、腫瘍細胞が脾臓に浸潤することで著明な脾腫を引き起こすことがあります。また、溶血性貧血では、脾臓が異常赤血球を過剰に除去しようとすることで脾腫が生じます。

    血液疾患による脾腫の診断には、末梢血液検査、骨髄検査、フローサイトメトリー、遺伝子検査などが重要です。治療は原疾患の治療が基本となりますが、脾機能亢進症による血球減少が著しい場合には脾臓摘出術が検討されることもあります。

    脾臓腫大とうっ血性疾患の関係

    うっ血性機序による脾臓腫大は、門脈系の血流障害によって引き起こされます。この機序による脾腫の主な原因には以下のようなものがあります:

    肝硬変と門脈圧亢進症

    肝硬変は温帯地域における脾腫の最も一般的な原因の一つです。肝硬変では肝臓の線維化により門脈血流が阻害され、門脈圧が上昇します。この門脈圧亢進症により、脾静脈を通る血液の流れが妨げられ、脾臓内に血液がうっ滞することで脾腫が生じます。統計的には、門脈圧亢進症による脾腫の約80%が肝硬変に起因するとされています。

    門脈・脾静脈の閉塞や血栓症

    門脈や脾静脈の血栓症、閉塞も脾腫の重要な原因です。これらの血管に血栓が形成されると、脾臓からの血液の流出が妨げられ、脾臓内に血液がうっ滞して脾腫を引き起こします。原因としては、血液凝固異常、腹部手術後の合併症、腹部外傷などが挙げられます。

    外的圧迫による門脈系の閉塞

    腹部腫瘍や膵炎などにより、門脈系の血管が外部から圧迫されることでも脾腫が生じることがあります。特に膵臓の腫瘍や嚢胞が脾静脈を圧迫することで、脾静脈血栓症や脾腫を引き起こすことがあります。

    うっ血性脾腫では、脾臓が著しく腫大することがあり、長期間にわたる脾腫により脾機能亢進症を併発することも少なくありません。脾機能亢進症では、脾臓による血球の過剰な捕捉・破壊により、汎血球減少症(貧血、白血球減少、血小板減少)が引き起こされます。

    うっ血性脾腫の診断には、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像診断が重要です。特にドップラー超音波検査やMRIは、門脈系の血流状態を評価するのに有用です。治療は原疾患の治療が基本となりますが、脾機能亢進症による血球減少が著しい場合には脾臓摘出術が検討されることもあります。

    脾臓腫大の診断方法と画像検査

    脾臓腫大の診断には、身体診察と各種画像検査が重要な役割を果たします。診断プロセスは以下の通りです:

    身体診察

    脾腫の初期評価として、腹部の触診が行われます。通常、脾臓は肋骨下に隠れており触知できませんが、脾腫の場合は左上腹部で触知可能となることがあります。脾臓が肋骨下縁から8cm以上下方に触知できる場合は、著明な脾腫(massive splenomegaly)と判断されます。

    画像診断技術

    1. 超音波検査
      • 最も一般的かつ侵襲的な検査方法
      • 脾臓のサイズ測定が可能(長径×短径でspleen indexを算出)
      • ドップラー機能を用いて脾臓の血流評価も可能
      • 一般的に脾臓の長径×短径(spleen index)が40cm²を超える場合に脾腫と診断
    2. CT検査
      • 脾臓のサイズと形状を詳細に評価
      • 周囲臓器との関係性を把握
      • 造影剤を用いることで、血流異常や腫瘍性病変の検出が可能
    3. MRI検査
      • 軟部組織のコントラスト分解能に優れる
      • 脾臓内部の病変を詳細に描出
      • 造影剤を用いずとも、血流評価が可能
    4. 核医学検査
      • 弱い放射能をもつ粒子を用いた専用の画像撮影技術
      • 脾臓の機能評価が可能
      • 血球の蓄積や破壊の程度を評価できる

    血液検査

    脾腫の原因を特定するために、以下の血液検査が実施されます:

    • 完全血球計算(CBC):貧血、白血球減少、血小板減少の評価
    • 肝機能検査:肝疾患の評価
    • 感染症マーカー:EBウイルス、サイトメガロウイルスなどの感染症評価
    • 自己抗体検査:自己免疫疾患の評価
    • 血液凝固検査:血栓症のリスク評価

    画像検査と血液検査の結果を総合的に判断し、脾腫の原因となる基礎疾患を特定することが重要です。原因不明の脾腫の場合、骨髄検査や脾臓生検が必要となることもあります。

    脾臓腫大における脾機能亢進症のメカニズム

    脾臓腫大に伴う重要な合併症として、脾機能亢進症(hypersplenism)があります。これは脾臓の過剰な活動により、血球成分が過度に捕捉・破壊される病態です。このメカニズムを詳しく解説します。

    脾機能亢進症の病態生理

    脾臓は通常、老化した赤血球や異常な血球を捕捉・破壊する役割を担っています。しかし、脾臓が腫大すると以下のような悪循環が生じます:

    1. 血流パターンの変化

      脾腫により脾臓内の血管構造が変化し、血液がより長時間脾臓内に滞留するようになります。これにより、正常な血球も脾臓内で捕捉される確率が高まります。

    2. マクロファージ活性の亢進

      脾臓内のマクロファージ(食細胞)が活性化し、血球成分を過剰に貪食します。通常なら循環に戻るはずの正常な血球も破壊されるようになります。

    3. 悪循環の形成

      血球が過剰に破壊されることで、骨髄は代償的に血球産生を亢進させます。これにより脾臓への血流量がさらに増加し、脾腫が進行するという悪循環が形成されます。

    脾機能亢進症の臨床像

    脾機能亢進症では、以下のような血球減少が見られます:

    • 貧血:赤血球の過剰破壊により、疲労感や息切れなどの症状が現れます。
    • 白血球減少症:白血球(特に好中球)の減少により、感染症のリスクが高まります。
    • 血小板減少症:血小板の減少により、出血傾向(紫斑、歯肉出血など)が現れます。

    興味深いことに、脾機能亢進症では通常、骨髄は正形成または過形成の状態にあります。これは、血球の問題が産生障害ではなく、末梢での破壊亢進にあることを示しています。

    脾機能亢進症の診断

    脾機能亢進症の診断基準は以下の通りです:

    1. 脾腫の存在
    2. 一つ以上の血球系列の減少
    3. 骨髄の代償性過形成
    4. 血球寿命の短縮(特殊検査で確認)

    核医学検査では、放射性同位元素でラベルした血球を用いて、脾臓での血球の捕捉率や破壊率を評価することができます。これにより、脾機能亢進症の程度を客観的に評価することが可能です。

    脾機能亢進症の治療

    脾機能亢進症の治療は、原疾患の治療が基本となります。しかし、以下のような場合には脾臓摘出術(脾摘)が検討されます:

    • 重度の血小板減少による出血リスクが高い場合
    • 重度の白血球減少による感染リスクが高い場合
    • 輸血依存性の溶血性貧血がある場合
    • 薬物療法に反応しない場合

    脾摘後は、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌などの莢膜細菌による重篤な感染症(overwhelming post-splenectomy infection: OPSI)のリスクが高まるため、術前のワクチン接種と術後の抗生物質予防投与が重要です。

    脾機能亢進症は、脾腫の重要な合併症であり、その理解と適切な管理が患者の予後改善に不可欠です。

    https://www.jmedj.co.jp/journal/paper