静脈麻酔と全身麻酔の違いや鎮静薬の特徴

静脈麻酔と全身麻酔の違い

静脈麻酔と全身麻酔の基本的な違い
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投与経路の違い

静脈麻酔は静脈内に直接麻酔薬を注入し、全身麻酔は吸入麻酔と静脈麻酔を組み合わせて行います

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意識レベルの違い

静脈麻酔では意識が完全に消失しないケースもあるのに対し、全身麻酔では完全に意識を消失させます

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呼吸管理の違い

静脈麻酔では自発呼吸が維持されることが多いのに対し、全身麻酔では人工呼吸管理が必要です

 

静脈麻酔と全身麻酔の定義と基本概念

静脈麻酔とは、静脈内に直接麻酔薬を投与することで意識の消失や鎮痛効果を得る麻酔方法です。静脈麻酔薬は血液を通じて速やかに脳に到達し、中枢神経系に作用します。一方、全身麻酔は「痛み刺激によっても覚醒しない薬剤性の意識消失」と定義され、手術侵襲による精神的・身体的な有害作用を防ぎ、手術に適した状態を作り出します。

全身麻酔の3つの要素として、鎮静・鎮痛・筋弛緩があります。鎮静は意識を消失させ、患者の手術中の不快な思いや記憶をなくします。鎮痛は痛みを軽減し、適切な麻酔深度を保ちます。筋弛緩は骨格筋を弛緩させ、気管挿管を容易にし、良好な手術視野の確保を目的としています。

現代の麻酔実践では、純粋な静脈麻酔のみ、あるいは吸入麻酔のみというよりも、両者を組み合わせたバランス麻酔が主流となっています。これにより、それぞれの麻酔薬の長所を活かし、短所を補うことが可能になります。

静脈麻酔で使用される鎮静薬と作用機序

静脈麻酔で使用される主な鎮静薬には、プロポフォールミダゾラム、チオペンタール、レミマゾラムなどがあります。これらの薬剤は脳内のGABAA受容体に作用し、大脳皮質や覚醒中枢を抑制することで意識を消失させます。

プロポフォールは最も頻用される静脈麻酔薬で、鎮静作用のみを持ち、鎮痛や筋弛緩作用はありません。麻酔の導入や維持に用いられ、維持はシリンジポンプによる持続投与で行います。投与中止後は早い覚醒が得られるため、長時間手術であっても比較的短時間で覚醒します。また、制吐作用を持つため術後の悪心・嘔吐の発生率を低下させるという利点があります。投与時の血管痛が問題となることがありますが、太い静脈路の選択や投薬前のリドカインやフェンタニルなどの鎮痛薬投与が有効です。

ミダゾラムはベンゾジアゼピン系の鎮静薬で、健忘効果が強いという特徴があります。レミマゾラムは超短時間作用性のベンゾジアゼピン系麻酔薬で、日本で開発され2020年に発売が開始されました。麻酔導入と維持に使用され、投与中止後は早い覚醒が得られます。また、フルマゼニルという拮抗薬が存在するため、過剰投与時の対応が可能です。

バルビツール酸系のチオペンタールは、かつては麻酔導入薬として広く使用されていましたが、蓄積作用があるため現在では麻酔維持薬としては使用されません。

全身麻酔における吸入麻酔薬の特徴と選択基準

吸入麻酔薬は、気道を介して投与され、肺胞から血液中に取り込まれ、全身を循環して脳に作用します。主な吸入麻酔薬にはセボフルラン、デスフルラン、イソフルランなどがあります。これらは鎮静作用に加え、筋弛緩作用や気管支拡張作用を持ちますが、鎮痛効果はほとんどありません。

セボフルランは甘い匂いで気道への刺激性が弱いため、マスク吸入による麻酔導入も可能です。特に静脈ライン確保が困難な小児患者での使用に適しています。導入が迅速で覚醒も速やかという特徴があります。

デスフルランは気道刺激性が強く咳嗽や喉頭痙攣のリスクがあるため麻酔導入には用いず、麻酔の維持で使われます。覚醒が常に速やかなのが特徴で、高齢者や肥満患者、長時間手術など覚醒遅延や上気道閉塞のリスクが高い患者に頻用されます。

吸入麻酔薬の選択は、患者の年齢、体格、既往歴、手術の種類と予想される時間、術後の回復計画などを考慮して行われます。また、悪性高熱症のリスクがある患者では吸入麻酔薬の使用は避けるべきです。

静脈麻酔と全身麻酔の鎮痛薬と筋弛緩薬の役割

麻酔管理において、鎮静薬だけでなく鎮痛薬と筋弛緩薬も重要な役割を果たします。鎮痛薬には主にオピオイド系薬剤が使用され、レミフェンタニル、フェンタニル、モルヒネなどがあります。

レミフェンタニルは超短時間作用性のオピオイドで、単回投与では効果持続時間が極端に短いため持続投与でのみ使用されます。手術中は高濃度で持続投与可能ですが、投与中止後は急速に効果が消失するため、術後鎮痛には別の薬剤が必要です。

フェンタニルは麻酔導入時や手術中の鎮痛として用いるほか、術後鎮痛目的でも使用されます。作用持続時間は比較的短いですが、レミフェンタニルよりは長く、術後鎮痛の橋渡しとして有用です。
モルヒネは長時間の鎮痛効果があるため、主に術後鎮痛に使用されます。ただし、腎機能低下症例での作用遷延やヒスタミン遊離作用による喘息発作に注意が必要です。

オピオイドの副作用として、呼吸抑制(特に呼吸数低下)や術後悪心・嘔吐などがあるため、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなど非オピオイド鎮痛薬も併用し、オピオイドの必要量を減らす「マルチモーダル鎮痛」が推奨されています。

筋弛緩薬は主に非脱分極性筋弛緩薬であるロクロニウムが使用されます。神経筋接合部に作用して骨格筋を弛緩させ、気管挿管を容易にし、手術視野を確保します。麻酔覚醒時には筋弛緩効果を拮抗するためにスガマデクスなどの拮抗薬を用います。術後の筋弛緩効果遷延は誤嚥や呼吸抑制のリスクとなるため、筋弛緩モニタリングと適切な拮抗が重要です。

静脈麻酔と全身麻酔の適応症例と臨床的意思決定

静脈麻酔と全身麻酔の選択は、手術の内容、患者の状態、施設の設備などを考慮して行われます。一般的に、短時間の小手術や検査・処置では静脈麻酔が選択されることが多く、長時間の大手術や全身状態が不安定な患者では全身麻酔が選択されます。

静脈麻酔が適している症例:

  • 短時間の小手術や検査・処置(内視鏡検査、小さな皮膚腫瘍の切除など)
  • 局所麻酔との併用が可能な手術
  • 気道確保が容易で、呼吸・循環が安定している患者
  • 術後早期の回復が望ましい日帰り手術

全身麻酔が適している症例:

  • 長時間の大手術(開腹手術、開胸手術、脳神経外科手術など)
  • 気道確保が困難な手術(口腔内手術、頭頸部手術など)
  • 筋弛緩が必要な手術
  • 呼吸・循環の厳密な管理が必要な患者
  • 小児患者や協力が得られない患者

また、歯科領域では静脈内鎮静法と全身麻酔の選択基準として、患者の不安や恐怖の程度、治療内容、治療時間などが考慮されます。静脈内鎮静法ではウトウトした状態で自発呼吸が維持されますが、全身麻酔では完全に意識がなくなり人工呼吸管理が必要となります。歯科恐怖症が強い患者や長時間の処置が必要な場合は全身麻酔が選択されることがあります。

静脈麻酔と全身麻酔の副作用と合併症の比較

静脈麻酔と全身麻酔はともに安全性の高い麻酔法ですが、それぞれに特有の副作用や合併症があります。

静脈麻酔の主な副作用・合併症:

  • 呼吸抑制(特に高齢者や肥満患者で注意)
  • 血圧低下(特にプロポフォールで顕著)
  • 注射部位の痛み(プロポフォールで多い)
  • 逆説的興奮(特にミダゾラムで見られることがある)
  • アレルギー反応(まれ)

全身麻酔の主な副作用・合併症:

  • 術後悪心・嘔吐(PONV)
  • 咽頭痛(気管挿管による)
  • 歯牙損傷(喉頭鏡による)
  • 術後せん妄(特に高齢者で多い)
  • 悪性高熱症(まれだが致命的な合併症)
  • 術後認知機能障害(特に高齢者で懸念される)

悪性高熱症は吸入麻酔薬やサクシニルコリンがトリガーとなる遺伝性疾患で、急激な体温上昇、代謝性アシドーシス、筋強直などを特徴とします。発症した場合は直ちに原因薬剤の投与を中止し、ダントロレンの投与や全身冷却などの対応が必要です。

また、術後の合併症予防のために、適切な術前評価と準備、術中の慎重な麻酔管理、術後の綿密なモニタリングが重要です。特に高齢者や基礎疾患を持つ患者では、個々の状態に応じた麻酔計画の立案が求められます。

静脈麻酔における薬物動態と薬力学の最新知見

静脈麻酔薬の薬物動態(体内での薬物の吸収、分布、代謝、排泄)と薬力学(薬物の作用機序と効果)の理解は、安全で効果的な麻酔管理に不可欠です。近年、コンピュータ制御による目標濃度調節注入(Target Controlled Infusion: TCI)や脳波モニタリングを用いた麻酔深度の評価など、個別化された麻酔管理が進歩しています。

プロポフォールの薬物動態は3コンパートメントモデルで説明され、初期分布相(t1/2α)、再分布相(t1/2β)、消失相(t1/2γ)の3相に分けられます。投与後は速やかに効果部位(脳)に到達し、その後脂肪組織などに再分布し、最終的に肝臓で代謝されます。プロポフォールの代謝は主に肝臓で行われますが、肝外代謝も一部あるため、肝機能低下患者でも比較的安全に使用できます。
レミマゾラムは、血中と組織中のエステラーゼにより急速に加水分解される新しいベンゾジアゼピン系麻酔薬です。代謝が肝臓や腎臓に依存しないため、肝腎機能障害患者でも薬物動態が大きく変化しないという利点があります。

薬力学的には、静脈麻酔薬の効果と血中濃度の関係はシグモイド型の用量-反応曲線で表されます。個人差が大きいため、年齢、性別、体重、基礎疾患などを考慮した投与量の調整が必要です。特に高齢者では感受性が増大し、必要量が減少するため注意が必要です。

日本麻酔科学会の静脈麻酔薬使用ガイドラインでは、各薬剤の適応、用法・用量、禁忌、注意事項などが詳細に記載されており、臨床実践の指針となっています。

また、薬物相互作用も重要な考慮点です。例えば、ベンゾジアゼピン系薬剤とオピオイドの併用は相乗的な呼吸抑制をもたらすことがあります。また、プロポフォールとレミフェンタニルの併用は、それぞれの必要量を減らすことができる一方で、血圧低下のリスクが増大します。