トリアージ 待機的治療群の優先順位と分類基準

トリアージと待機的治療群の基本知識

トリアージの基本情報
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トリアージの定義

多数の傷病者が発生した際に、緊急度と重症度に基づいて治療の優先順位を決定するプロセス

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4つの分類

赤(最優先治療群)、黄(待機的治療群)、緑(保留群)、黒(無呼吸群・死亡群)

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待機的治療群の位置づけ

第2優先順位に位置し、生命に直ちに危険はないが治療が必要な状態

トリアージとは、フランス語の「trier(選別する、分ける)」を語源とする言葉で、災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合に、傷病の緊急度と重症度に基づいて治療の優先順位を決定するプロセスです。限られた医療資源を最大限に活用し、可能な限り多くの命を救うことを目的としています。

トリアージは災害医療における「CSCATTT」という原則の一部として位置づけられています。CSCATTTとは以下の頭文字を取ったものです:

  • Command and Control(指揮と連携)
  • Safety(安全確保)
  • Communication(情報収集伝達)
  • Assessment(評価)
  • Triage(トリアージ)
  • Transport(搬送)
  • Treatment(治療)

このうち、トリアージは医療資源を効率的に活用するために欠かせないプロセスとして重要視されています。

トリアージの4つのカテゴリーと待機的治療群の位置づけ

トリアージでは、傷病者を4つのカテゴリーに分類します。それぞれのカテゴリーはトリアージタグと呼ばれる識別カードの色で区別されます:

  1. 赤色(最優先治療群・第1順位):生命の危険が高く、直ちに治療が必要な状態
  2. 黄色(待機的治療群・第2順位):基本的にはバイタルサインが安定しており、治療の遅延が直ちに生命の危険につながらない状態
  3. 緑色(保留群・第3順位):軽症で専門的な治療が必要ない状態
  4. 黒色(無呼吸群・死亡群・第4順位):死亡もしくは心肺蘇生を施しても救命の可能性がない状態

待機的治療群(黄色タグ)は、この分類の中で第2優先順位に位置づけられています。生命に直ちに危険はないものの、適切な治療が必要な状態を指します。

待機的治療群の傷病状態と具体的な症例

待機的治療群(黄色タグ)に分類される傷病者は、以下のような特徴を持っています。

  • 基本的にはバイタルサインが安定している
  • 2〜3時間治療が遅れても生命に直接的な危険が及ばない
  • 歩行が不能であることが多い

具体的な症例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 大骨折
  • 脊髄損傷
  • 中等度熱傷
  • 意識のある頭部外傷
  • 腹部の鈍的外傷(バイタルサインが安定している場合)
  • 開放性骨折(大量出血がない場合)
  • 安定した胸部外傷

これらの傷病は、緊急性は赤タグほど高くないものの、適切な医療処置が必要であり、放置すれば状態が悪化する可能性があります。

トリアージ法における待機的治療群の評価方法

トリアージを行う際には、様々な評価方法が用いられますが、代表的なものにSTART法(Simple Triage and Rapid Treatment)があります。これは災害現場での一次トリアージに広く用いられている方法です。

START法では以下の手順で評価を行います:

  1. まず「歩行可能かどうか」を確認(歩行可能であれば緑タグ)
  2. 歩行不能な傷病者に対して、以下のABCDを評価:
    • A(Airway):気道
    • B(Breathing):呼吸
    • C(Circulation):循環
    • D(Dysfunction of CNS):中枢神経系の機能

START法における待機的治療群(黄色タグ)の判定基準は以下の通りです:

  • 歩行不能
  • 呼吸数が10〜29回/分
  • 橈骨動脈が触知可能(循環が保たれている)
  • 簡単な指示に応じることができる(意識がある)

これらの条件を満たす場合、黄色タグ(待機的治療群)に分類されます。

一方、病院内で行われる院内トリアージでは、JTAS法(Japan Triage and Acuity Scale)が用いられることが多く、この場合の待機的治療群は「レベル3 準緊急(Yellow)」に相当し、30分以内の診察が必要とされています。

待機的治療群の管理と再評価の重要性

待機的治療群(黄色タグ)に分類された傷病者は、治療の優先順位は赤タグより低いものの、定期的な再評価が重要です。特に災害時など医療資源が限られた状況では、状態の変化を見逃さないための継続的な観察が必要となります。

JTAS法では、待機的治療群に相当するレベル3(準緊急)の傷病者に対しては、30分ごとの再評価が推奨されています。これは、一見安定しているように見える傷病者でも、時間の経過とともに状態が悪化する可能性があるためです。

再評価の際には以下の点に注意する必要があります:

  • バイタルサインの変化(特に血圧低下や呼吸数の増加)
  • 意識レベルの変化
  • 痛みの増強
  • 新たな症状の出現

状態が悪化した場合は、トリアージカテゴリーを再評価し、必要に応じて最優先治療群(赤タグ)へ変更することも重要です。これをアップトリアージと呼びます。

また、待機的治療群の傷病者は一か所に集めて管理することが効率的です。これにより、限られた医療スタッフでも効果的な観察と再評価が可能になります。

トリアージにおける待機的治療群の心理的ケアの必要性

トリアージにおいては身体的な傷病の評価が優先されますが、待機的治療群(黄色タグ)の傷病者に対する心理的ケアも重要な側面です。この点は多くのトリアージマニュアルでは詳しく触れられていない独自の視点といえます。

待機的治療群の傷病者は、以下のような心理的状況に置かれていることが多いです:

  • 痛みや不安を感じているが、最優先で治療を受けられない状況
  • 自分より重症な患者を目の当たりにすることによる心理的ストレス
  • 災害などの状況下での情報不足による不安

これらの心理的ストレスは、身体状態にも影響を与える可能性があります。例えば、強い不安や恐怖は、血圧上昇や呼吸数増加などの生理的反応を引き起こし、状態を悪化させることがあります。

待機的治療群の傷病者に対する心理的ケアとしては、以下のような対応が有効です。

  • 簡潔で明確な情報提供(現在の状況や今後の見通しなど)
  • 定期的な声かけや状態確認(放置されているという不安の軽減)
  • 可能であれば、家族や知人との連絡手段の確保
  • 基本的なニーズ(水分、保温など)への対応

このような心理的ケアは、限られた人員で行うことが難しい場合もありますが、可能な範囲で実施することで、傷病者の全体的な状態安定に寄与します。また、軽症(緑タグ)の傷病者の協力を得て、待機的治療群の傷病者の見守りや簡単なケアを依頼することも一つの方法です。

トリアージ訓練における待機的治療群の扱いと課題

医療従事者向けのトリアージ訓練において、待機的治療群(黄色タグ)の判断と管理は重要なポイントとなります。実際の災害現場では、待機的治療群の傷病者が多数を占めることも少なくなく、その適切な管理が全体の医療活動の効率に大きく影響します。

トリアージ訓練における待機的治療群に関する主な課題には以下のようなものがあります。

  1. アンダートリアージのリスク
    待機的治療群と最優先治療群の境界線上にある傷病者の判断は難しく、重症度を過小評価(アンダートリアージ)するリスクがあります。特に以下のような状況では注意が必要です:

    • 体幹部の挟圧があった場合
    • 1肢以上の挟圧が4時間以上続いた場合
    • 爆発に巻き込まれた場合
    • 高所からの墜落事故
    • 異常温度環境に曝露した場合

    これらの受傷機転がある場合は、一見軽症のようであっても待機的治療群以上の分類を考慮する必要があります。

  2. リソース配分の判断
    限られた医療資源をどのように配分するかという判断は、トリアージの本質的な課題です。特に、最優先治療群(赤タグ)の傷病者が多数いる場合、待機的治療群(黄色タグ)の傷病者に対してどの程度のリソースを割くべきかの判断は難しいものです。

    訓練では、以下のような状況設定を行うことが有効です。

    • 医師1名の場合の優先順位判断
    • 医師6名の場合の役割分担と優先順位
    • 医療資材が限られた場合の代替手段の検討
  3. 時間経過に伴う再評価の訓練
    待機的治療群の傷病者は、時間経過とともに状態が変化する可能性があります。訓練では、時間経過をシミュレーションし、定期的な再評価と、それに基づくトリアージカテゴリーの変更(アップトリアージやダウントリアージ)の判断を練習することが重要です。
  4. 多職種連携の訓練
    実際の災害現場では、医師、看護師、救急救命士、消防士など多職種が連携してトリアージと医療活動を行います。訓練では、各職種の役割分担と情報共有の方法を確認し、特に待機的治療群の傷病者の管理における連携のあり方を検討することが重要です。

トリアージ訓練においては、机上訓練(テーブルトップエクササイズ)と実動訓練を組み合わせることで、より効果的な学習が可能になります。特に、待機的治療群の判断と管理については、様々なシナリオを想定した訓練を繰り返し行うことで、実際の災害時に適切な対応ができるようになります。

医療機関や地域の防災訓練では、トリアージポストの設置から傷病者の搬送、治療までの一連の流れを確認し、特に待機的治療群の傷病者の管理に関する課題を洗い出し、改善策を検討することが重要です。

和歌山県のトリアージに関する詳細資料(トリアージの実施方法や訓練のポイントについて解説)

災害時や緊急時に適切なトリアージを行い、限られた医療資源を最大限に活用するためには、待機的治療群の正確な判断と適切な管理が不可欠です。