エクリラとスピリーバの違い
エクリラの有効成分と作用機序
エクリラの有効成分はアクリジニウム臭化物です。これは長時間作用型抗コリン薬(LAMA)に分類される薬剤で、気道平滑筋に存在するムスカリン受容体に作用します。具体的には、迷走神経終末から放出されるアセチルコリンが気道平滑筋に対して持つ収縮作用を阻害することで、気管支を拡張させる効果があります。
アクリジニウム臭化物は、気道のムスカリン受容体(特にM3受容体)に選択的に結合し、アセチルコリンの作用を遮断します。これにより、気道平滑筋の収縮が抑制され、気道が拡張します。エクリラは主にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療に用いられ、呼吸困難や運動耐容能の改善、肺の過膨張の改善などの効果が期待できます。
エクリラの作用時間は比較的短く、そのため1日2回の吸入が必要です。これは他のLAMA製剤と比較した際の特徴の一つとなっています。2015年に日本で発売されたエクリラは、ジェヌエアという専用の吸入デバイスを使用します。
スピリーバの種類と特徴
スピリーバの有効成分はチオトロピウム臭化物水和物で、エクリラと同じく長時間作用型抗コリン薬(LAMA)に分類されます。スピリーバは2004年に日本で初めて発売された長時間作用型の抗コリン薬であり、COPDnochiryouyakyuunyuukusurijouhou/”>COPD治療の第一選択薬として広く使用されています。
スピリーバには主に2つのタイプがあります:
- スピリーバ レスピマット:スプレー式の吸入器で、吸入力が低下している患者さんでも使用しやすいという特徴があります。レスピマットには2.5μgと1.25μgの2種類の規格があり、2.5μgはCOPDと気管支喘息の両方に適応がありますが、1.25μgは気管支喘息のみに適応があります。
- スピリーバ ハンディヘラー:ドライパウダー式の吸入器で、カプセルを1回ごとにセットして使用します。1日1回の吸入で効果が持続するため、治療の継続性が高いという利点があります。
スピリーバの大きな特徴は、作用時間が長く1日1回の吸入で効果が24時間持続することです(ただしレスピマットは1日2回の吸入が必要)。また、スピリーバ レスピマットは2015年に重症喘息に対しても適応が認められ、2016年には「重症持続型の気管支喘息患者に限る」という制限も削除されました。これにより、喘息とCOPDを併発している患者さんにも使いやすい薬剤となっています。
エクリラとスピリーバのデバイス比較
エクリラとスピリーバでは、使用するデバイス(吸入器)が大きく異なります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
エクリラのデバイス(ジェヌエア)
- 形状:コンパクトなドライパウダー式吸入器
- 使用方法:ボタンを押すと薬がセットされ、表示が赤から緑に変わります
- 特徴:
- 吸入できたかどうかを視覚的に確認できる(正しく吸入すると表示が緑から赤に戻る)
- 残量が0になるとロックがかかり、空吸入を防止する機能がある
- 1回ごとのカプセル交換が不要(30吸入用と60吸入用がある)
- 吸入ミスや空吸入を防止する工夫がされている
スピリーバのデバイス
- レスピマット
- 形状:スプレー式吸入器
- 使用方法:ボタンを押すとミスト状の薬剤が噴霧される
- 特徴:
- 吸入力が低下している高齢者でも使用しやすい
- 細かいミスト状の薬剤が肺の奥まで到達しやすい
- 60吸入用のみ
- ハンディヘラー
- 形状:カプセル式ドライパウダー吸入器
- 使用方法:1回ごとにカプセルをセットして使用
- 特徴:
- 吸入時に自分のタイミングで吸える
- ある程度の吸入力が必要
- 1回分ずつカプセルを交換する必要がある
デバイスの選択は患者さんの吸入力や使いやすさ、ライフスタイルなどを考慮して行われます。例えば、吸入力が低下している高齢者にはスピリーバ レスピマットが適しており、吸入できたかどうかの確認が必要な患者さんにはエクリラのジェヌエアが適している場合があります。
エクリラとスピリーバの効果と副作用
エクリラとスピリーバはどちらも長時間作用型抗コリン薬(LAMA)ですが、効果や副作用に若干の違いがあります。
効果の比較
- 作用時間:
- エクリラ:作用時間が比較的短く、1日2回の吸入が必要
- スピリーバ:作用時間が長く、ハンディヘラーは1日1回の吸入で効果が24時間持続
- 効果発現速度:
- エクリラ:比較的早く効果が現れる
- スピリーバ:効果の発現はやや緩やか
- 適応症:
- エクリラ:主にCOPDの治療に使用
- スピリーバ:COPDだけでなく、スピリーバ レスピマット(特に1.25μg)は気管支喘息にも適応がある
- 臨床効果:
- エクリラ:ATTAIN試験でプラセボと比較してトラフFEV1(1秒量)の有意な改善効果が示されている
- スピリーバ:多数の臨床試験で有効性が証明されており、他のLAMA製剤の比較対照として使用されることが多い
副作用の比較
両剤とも抗コリン薬に共通する副作用がありますが、発現頻度や程度に若干の違いがあります:
- 共通する主な副作用:
- 口渇
- 便秘
- 排尿困難
- 緑内障の悪化
- 口腔咽頭刺激感
- 特徴的な副作用:
- エクリラ:比較的副作用が少ないとされるが、詳細な比較データは限られている
- スピリーバ:長期使用の実績があり、安全性プロファイルが確立されている
副作用の発現は個人差が大きく、患者さんの状態や合併症によっても異なります。例えば、前立腺肥大症のある患者さんでは排尿困難、緑内障患者では眼圧上昇のリスクがあるため、これらの疾患がある場合は注意が必要です。
エクリラとスピリーバの選択基準と患者適応
エクリラとスピリーバのどちらを選択するかは、患者さんの状態や特性によって異なります。以下に、それぞれの薬剤が適している患者層と選択基準を示します。
エクリラが適している患者さん
- 吸入の確認が必要な患者さん:
- ジェヌエアデバイスは吸入できたかどうかを視覚的に確認できるため、吸入手技に不安がある患者さんや、正しく吸入できているか確認したい患者さんに適しています。
- 残量確認が苦手な患者さん:
- 残量が0になるとロックがかかる機能があるため、残量管理が苦手な患者さんに向いています。
- 1日2回の服薬管理ができる患者さん:
- 朝と夕の1日2回の吸入が必要なため、規則正しい生活を送れる患者さんに適しています。
- COPDのみの患者さん:
- 主にCOPDの治療に使用されるため、COPDのみを持つ患者さんに適しています。
スピリーバが適している患者さん
- 吸入力が低下している患者さん:
- 特にスピリーバ レスピマット(スプレー式)は吸入力が低下している高齢者に適しています。
- 1日1回の服薬を希望する患者さん:
- スピリーバ ハンディヘラーは1日1回の吸入で効果が持続するため、服薬回数を減らしたい患者さんに適しています。
- 喘息とCOPDの併発患者:
- スピリーバ レスピマットは喘息にも適応があるため、喘息とCOPDを併発している患者さんに適しています。
- 長期間の使用実績を重視する患者さん:
- スピリーバは長期間の使用実績があり、安全性プロファイルが確立されているため、新薬よりも使用実績のある薬剤を希望する患者さんに適しています。
選択の際の考慮点
- 吸入デバイスの使いやすさ:
- 患者さんがどのデバイスを使いやすいと感じるかは個人差があります。実際に試してみることが重要です。
- 生活リズムとの適合性:
- 1日1回か2回かの吸入頻度が患者さんの生活リズムに合うかどうかを考慮します。
- 併存疾患:
- 喘息の有無、緑内障や前立腺肥大症などの併存疾患によって選択が変わることがあります。
- 費用と保険適用:
- 薬剤費や保険適用の状況も考慮する必要があります。
医師は患者さんの状態、ライフスタイル、好み、併存疾患などを総合的に評価し、最適な薬剤を選択します。また、一つの薬剤で効果が不十分な場合は、他の薬剤への切り替えや併用療法を検討することもあります。
エクリラとスピリーバ以外のLAMA製剤との比較
COPD治療に使用される長時間作用型抗コリン薬(LAMA)は、エクリラとスピリーバ以外にもいくつかあります。ここでは、他のLAMA製剤との比較を行い、それぞれの特徴を明らかにします。
主なLAMA製剤の比較
製品名 有効成分 デバイス 用法・用量 特徴 エクリラ アクリジニウム臭化物 ジェヌエア 1日2回 吸入確認機能、空吸入防止機能あり スピリーバ レスピマット チオトロピウム臭化物水和物 レスピマット 1日1回 スプレー式、喘息適応あり スピリーバ ハンディヘラー チオトロピウム臭化物水和物 ハンディヘラー 1日1回 カプセル式、最も使用実績が長い シーブリ グリコピロニウム臭化物 ブリーズヘラー 1日1回 効果発現が速い、吸入確認窓あり エンクラッセ ウメクリジニウム臭化物 エリプタ 1日1回 カプセル交換不要、操作が簡便 シーブリの特徴
- グリコピロニウム臭化物を有効成分とする
- ブリーズヘラーという吸入器を使用
- 1日1回の吸入で効果が持続
- 効果発現が速いとされ、朝から活動的な患者さんに適している
- 吸入時に薬剤が吸入できたか確認できる窓がある
- 1回ごとにカプセルをセットする必要がある
エンクラッセの特徴
- ウメクリジニウム臭化物を有効成分とする
- エリプタという吸入器を使用
- 1日1回の吸入で効果が持続
- カプセルの交換が不要で、30回分のお薬が最初から充填されている
- 操作が簡便で使いやすい
- トラフFE