薬機法改正の基礎知識と核心ガイド
薬機法改正とは何か、令和7年改正の全体像
薬機法は、正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といい、医薬品、医療機器、体外診断用医薬品、再生医療等製品などの品質、有効性、安全性を確保するための基本法です。承認制度、製造販売業の許可、販売方法、広告規制、副作用報告、回収などを定め、医療の安全と国民の健康を支える法的基盤になっています。
令和7年法律第37号として2025年5月21日に公布された今回の薬機法改正は、単一の販売ルール変更にとどまりません。不正事案や医薬品供給不足を踏まえた品質・安全性確保、医療用医薬品の安定供給、創薬環境の整備、薬局機能の見直し、一般用医薬品の適正販売を横断的に扱う改正です。厚生労働省は、品質が確保された医薬品等を迅速かつ適正に提供することを目的として、関連する政令、省令、告示、通知を段階的に整備しています。厚生労働省:令和7年薬機法等の一部改正について
医療従事者にとって重要なのは、「薬機法改正は薬局や製薬企業だけの問題ではない」という点です。病院、診療所、薬局、訪問看護事業所、介護施設などでは、医薬品の供給不足が治療継続に直結します。また、OTC医薬品の過量服用リスクを抱える患者の早期把握、処方薬と市販薬の重複回避、緊急避妊薬を含む要指導医薬品に関する相談対応など、臨床現場と地域薬局の連携品質が患者安全を左右します。
改正の施行は一斉ではありません。主な規定は2025年11月20日から施行され、一般用医薬品の販売制度、指定濫用防止医薬品、要指導医薬品、審査・承認制度に関する規定は2026年5月1日から施行されています。さらに、残る一部の規定は2027年5月施行となる予定であり、施設内のマニュアルや教育資料は「公布日」ではなく、各制度の「実際の施行日」を確認して更新することが必要です。厚生労働省:施行期日・関係通知の一覧
医薬品の安定供給で医療現場に求められる視点
今回の薬機法改正の大きな柱は、医薬品の安定供給体制の強化です。後発医薬品を含む医薬品の供給不足は、処方変更、代替薬の選定、患者説明、在庫調整、診療スケジュールの再構築を発生させます。とくに、抗菌薬、鎮痛薬、輸液、注射薬、精神神経用薬など、代替が容易でない医薬品の不足は、患者の治療選択肢や医療従事者の業務負担に大きな影響を及ぼします。
改正後は、製造販売業者が出荷停止または出荷制限を行うおそれがある場合に、必要な報告を行う仕組みが整えられました。報告事項には、対象品目、出荷停止または制限のおそれが生じた理由、実施または予想される時期、代替薬の製造販売業者や医療機関などとの調整状況が含まれます。実際に出荷停止・出荷制限を行った場合には、その理由や解除見込み時期などについて届出が求められます。厚生労働省:安定供給に関する政令・省令の主な内容
加えて、医療法の改正により「供給確保医薬品」および「重要供給確保医薬品」の制度が設けられました。指定に際しては、医療上の必要性だけでなく、医療現場での使用状況や対象患者数なども考慮されます。製造販売業者、製造業者、卸売販売業者などには、供給不足防止に関する計画や製造等の計画、供給状況などについて報告を求める枠組みが整備されています。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 出荷停止等のおそれ | 6か月以内に出荷停止または出荷制限を行うおそれがある場合、理由や見込み時期などを報告 | 製造販売業者の早期報告が制度化 |
| 出荷停止等の届出 | 実際に停止・制限する際は理由、調整状況、解除見込み時期などを届け出る | 供給情報の把握と対策に活用 |
| 供給確保医薬品 | 安定供給の確保が特に必要な医薬品を指定し、供給体制を強化する | 医療現場の使用状況も考慮 |
| 重要供給確保医薬品 | より重点的な供給確保が必要な品目について計画や報告の枠組みを整備 | 対象者数や用途も考慮される |
医療機関では、薬剤部だけに対応を委ねず、医師、看護師、事務部門、地域連携室などが供給不足情報を共有できる体制を作ることが重要です。具体的には、採用品目ごとの代替候補を事前に整理し、処方オーダーの注意喚起、患者向け説明文書、院外処方時の連携薬局リスト、治療プロトコルの見直し手順を用意しておくと、急な供給変動への対応力が高まります。
指定濫用防止医薬品と要指導医薬品の変更点
2026年5月1日からは、一般用医薬品の販売ルールにも重要な変更が施行されました。従来「濫用等のおそれのある医薬品」として扱われてきた領域は、「指定濫用防止医薬品」として法律上に位置付けられ、販売時の確認と情報提供がより明確化されています。背景には、若年者を中心とした市販薬の過量服用、いわゆるオーバードーズの問題があります。
指定濫用防止医薬品は、濫用により中枢神経系の興奮や抑制、幻覚などが生じるおそれがあり、その防止を図る必要がある医薬品として指定されます。2026年5月1日時点では、外用剤を除き、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、ジフェンヒドラミン、デキストロメトルファン、プソイドエフェドリン、ブロモバレリル尿素、メチルエフェドリンを含有する医薬品が対象です。ジフェンヒドラミンとデキストロメトルファンが新たに加わったことは、医療者が患者の市販薬使用歴を確認する際の重要なポイントです。大分市:令和8年5月1日施行の医薬品販売ルール
薬剤師または登録販売者には、購入者の年齢、18歳未満の場合の氏名、他の薬剤や医薬品の使用状況、同一製品または他の指定濫用防止医薬品の購入・譲受け状況、複数購入の理由、使用目的や症状などを確認することが求められます。これは単なる形式的な問診ではなく、不眠、不安、咳、疼痛、抑うつ、自傷念慮、家庭環境の問題など、過量服用の背景にある健康課題や社会的課題に気付くための接点にもなります。
- 18歳未満への複数個または大容量製品の販売は原則として禁止されます
- 18歳未満に小容量製品を販売する場合は、対面または双方向の映像・音声によるオンライン対応が必要です
- 18歳以上であっても、複数個または大容量製品は対面または双方向オンラインでの対応が必要です
- 第2類・第3類医薬品であっても、対象製品には鍵付き陳列、手の届かない陳列、または専門家の目が届く範囲での陳列が求められます
- 薬局・店舗販売業者は、販売方法、情報提供、頻回購入者対応などを記した手順書を整備する必要があります
要指導医薬品については、一定の条件下で、薬剤師がビデオ通話などにより相手の状態を相互に認識できる方法で情報提供・指導を行う場合、インターネット販売が可能になりました。一方、対面による販売・授与が特に必要とされる「特定要指導医薬品」という新たな区分も設けられています。特定要指導医薬品はオンライン服薬指導の対象となり得ますが、特定販売、すなわちインターネットでの販売はできません。
たとえば、緊急避妊薬の有効成分であるレボノルゲストレルの内用剤は、特定要指導医薬品として扱われます。医療機関の医師、看護師、薬剤師は、相談者に対して「オンラインで購入できるか」という一点だけで回答を終えず、地域の対応薬局、受診の必要性、性交後の時間、妊娠可能性、性感染症対策、性暴力被害の可能性などを、本人の意思とプライバシーに十分に配慮しながら確認することが重要です。
承認制度と創薬支援の見直しを理解する
令和7年の薬機法改正は、販売制度や供給不足対策だけでなく、革新的医薬品・医療機器等を患者へ届けるための審査・承認制度にも影響します。少子高齢化、希少疾患、難治性疾患、感染症、医療ニーズの多様化が進むなか、開発を促進しつつ、承認後の安全性・有効性を継続的に確認する制度設計が重視されています。
具体的には、条件付承認制度の見直し、再審査期間に関する取扱いの整備、医薬品リスク管理計画の取扱いの改正、特定用途医薬品の指定制度の見直しなどが進められています。さらに、成人を対象とする医薬品の開発段階において、小児用医薬品の開発計画を検討する仕組みも強化されました。小児領域では、成人用製剤を年齢や体重に応じて調整して使用する場面が少なくないため、より早い段階から小児の医療ニーズを見据えた開発を促す意義があります。
臨床現場では、承認制度の改正を「企業や規制当局の話」と捉えず、条件付承認を受けた医薬品や新たな安全対策が導入された医薬品を使用する際に、添付文書、電子化された添付文書情報、医薬品リスク管理計画、適正使用ガイド、最適使用推進ガイドラインなどを確認する習慣が重要です。導入時の採用審査だけで終わらせず、改訂情報を定期的に確認し、院内・薬局内の説明資材やオーダー設定に反映させる必要があります。
また、医療機器、体外診断用医薬品、再生医療等製品についても、承認申請や条件付承認、供給不足時の優先審査に関する通知が整備されています。医療機器を扱う臨床工学技士、検査部門、放射線部門、手術室、医療安全管理部門などは、製品の供給・保守・代替機器の可否を含め、薬機法改正の関連情報を部門横断で確認することが望まれます。
医療者が押さえるべき実務上の原則は、「新しい制度だから安全性が担保されない」という誤解を避けることと、「承認されたから院内での確認が不要」という誤解を避けることです。制度上の承認と、個々の患者に対する適応判断・モニタリング・副作用対応は別の責務です。新規性の高い治療選択肢ほど、患者への説明、同意、フォローアップ、有害事象の把握、報告の流れを明確にしておくことが求められます。
医療機関・薬局が今から進める実務対応
薬機法改正への対応では、法律や通知を読んで終わりにするのではなく、自施設の患者導線と業務フローに落とし込むことが大切です。とくに病院と保険薬局、診療所と近隣薬局、救急部門と精神科・小児科・地域支援機関など、複数の職種・機関が関与する場面では、情報が分断されるほど患者安全上のリスクが上がります。
まず、医療機関は採用薬の供給リスクを見える化しましょう。重要な採用品目について、供給停止時の第一選択の代替薬、第二選択の代替薬、切替時に注意すべき用量換算、禁忌・相互作用、患者への説明事項を一覧化します。薬剤部が管理するだけでなく、処方する医師、投与を担う看護師、在庫を扱う事務部門が同じ情報にアクセスできるようにすると、緊急時の対応が円滑になります。
次に、市販薬の使用歴を問診・服薬情報提供書・薬剤情報提供の中で確認する仕組みを見直します。睡眠改善薬、鎮咳去痰薬、総合感冒薬、鼻炎用内服薬などは、患者自身が「処方薬ではないため伝えなくてよい」と考えやすい領域です。とくに若年者、精神疾患の治療中の患者、慢性疼痛患者、不眠を訴える患者、複数の医療機関を受診している患者では、OTC医薬品の重複や過量使用を確認する意義が高まります。
例えば、「最近、眠りや咳、鼻炎、痛みのために薬局やインターネットで購入した薬はありますか」「風邪薬や睡眠改善薬を、決められた量より多く使ったことはありませんか」と、責める印象を与えない具体的な聞き方を用意しておくと、相談につながりやすくなります。過量服用の疑いがある場合は、身体症状への対応だけでなく、自傷リスク、精神状態、家庭・学校・就労環境、支援者の有無を評価し、必要に応じて精神科、救急、地域の相談支援機関へ適切につなぐことが重要です。
薬局では、指定濫用防止医薬品販売等手順書を単に保管するだけでなく、スタッフが実際に使える運用に変える必要があります。確認項目、販売を見合わせる判断基準、管理薬剤師へのエスカレーション、記録の方法、頻回購入者への対応、トラブル時の連絡先を明確にし、ロールプレイを含む研修を行うとよいでしょう。オンライン対応を行う場合は、通信環境、本人確認、双方向性の確保、記録、プライバシー保護も同時に点検します。
最後に、薬機法改正は継続的な情報更新を前提とした制度改正です。告示で指定される成分や対象品目、通知による運用の詳細、Q&Aの追加・修正などは変わり得ます。医療従事者は、厚生労働省、PMDA、都道府県・保健所、職能団体が発出する公式情報を定期的に確認し、自施設の規程、説明文書、研修内容、Webサイトや院内掲示を更新してください。患者にとって分かりやすく、現場で実行できる形へ変換してこそ、薬機法改正は安全な医療と適正な医薬品使用に結び付きます。厚生労働省:薬機法改正の通知・Q&A・関連資料

カラー図解 よくわかる薬機法 再生医療等製品編