接触予防策と個人防護具の正しい選び方と着脱手順

接触予防策で使う個人防護具の基本と実践

手袋を二重にすれば感染リスクが半減すると信じているなら、それは危険な誤解です。

📋 この記事の3ポイント要約
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PPEの種類と使い分け

手袋・ガウン・マスク・ゴーグルの各PPEは感染経路に応じて選択基準が異なり、誤った選択が院内感染リスクを高める。

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着脱手順の遵守が最重要

PPEの着用より「脱ぎ方(ドフィング)」の誤りが感染事故の主因。手順を1ステップ間違えただけで自己汚染が起きる。

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エビデンスに基づく選択基準

CDCおよび日本環境感染学会のガイドラインに沿った最新の標準予防策と接触予防策の統合的な理解が求められる。

接触予防策における個人防護具の種類と選択基準

接触予防策(Contact Precautions)は、多剤耐性菌MRSA・VRE・CREなど)やノロウイルスをはじめとする接触感染リスクのある病原体から医療従事者と他の患者を守るための感染対策です。その核心を担うのが個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)です。

PPEは大きく4種類に分類されます。

  • 🧤 手袋(グローブ):患者や汚染された環境に直接触れる際に必須。ニトリルまたはラテックス素材が主流で、ラテックスアレルギーのある患者・職員にはニトリル製を使用する
  • 🥼 ガウン(エプロン):患者の体液・血液・分泌物が衣服に付着するリスクがある処置で使用。使い捨て不織布ガウンが推奨される
  • 😷 マスク(サージカルマスク):飛沫が発生する処置や、患者が咳・くしゃみをしている場合に着用。接触予防策単独ではN95は不要なケースが多い
  • 🥽 アイプロテクション(ゴーグル・フェイスシールド):粘膜への体液汚染リスクがある場合に追加装着する

選択の基準は「何に触れるか」「どんな処置をするか」によって異なります。たとえば採血と創傷処置では必要なPPEの組み合わせが違います。つまり「とりあえず全部つける」は正解ではありません。

適切なPPEの選択が原則です。

日本環境感染学会の「病院感染対策ガイドライン」では、接触予防策を必要とする疾患・病原体のリストが詳細に示されており、施設ごとのプロトコル策定の根拠となっています。

日本環境感染学会 病院感染対策ガイドライン(医療従事者向け公式資料)

接触予防策での個人防護具の正しい着用(ドニング)手順

PPEの着用手順(ドニング:Donning)は順番が決まっています。順番を守らないと、装着中に手や衣服を汚染してしまうリスクがあります。これは意外に思えますが、「正しく着る」ことよりも「正しい順で着る」ことが感染防護の前提条件です。

推奨されるドニングの順番は以下の通りです。

  1. 手指衛生(アルコール手指消毒または石けんと流水での手洗い)
  2. ガウンを着用し、背中をしっかり合わせて紐を結ぶ
  3. マスクを装着し、ノーズワイヤーを鼻の形に合わせてフィットさせる
  4. アイプロテクション(必要な場合)を装着する
  5. 手袋を着用し、ガウンの袖口を覆うように手首まで引き上げる

順番が重要です。

特に手袋は最後に着用することで、ガウンやマスク装着時に手が汚染される事態を防ぎます。また、手袋をガウンの袖口に被せることで、手首の皮膚露出をなくすことができます。これはICU(集中治療室)など高リスク環境では徹底されるべき手順です。

ガウンの背面が開いている構造上、完全な密閉は難しいですね。そのため、ガウン装着後は前面・側面を重点的に汚染から守る意識が必要です。処置の内容によっては、二枚重ねのガウン使用や長袖タイプの選択が推奨される施設もあります。

接触予防策での個人防護具の脱ぎ方(ドフィング)と感染リスク

多くの医療従事者が見落としがちな事実があります。PPEによる感染事故の約70%は「脱ぐ時(ドフィング)」に起きるという調査データがあります。

つまり、着用が完璧でも外し方を間違えると感染します。

ドフィングの正しい順番は以下の通りです。

  1. 手袋を外す(外側が内側になるよう折り返して外し、そのまま丸めて廃棄)
  2. 即座に手指衛生を行う
  3. アイプロテクションを外す(外側の紐・フレームのみを持ち、顔面から離すように外す)
  4. ガウンを外す(前面・側面は汚染されているため、内側を外側にしながら丸めるように脱ぐ)
  5. マスクを外す(顔面前部には触れず、耳のゴム紐または後頭部の紐のみを持って外す)
  6. 最後に再度手指衛生を行う

特に手袋外しの直後に「無意識に顔や首に触れてしまう」行動が自己汚染の最大の原因です。これはウイルスがついた手で目や口元を触ることに直結し、粘膜感染を引き起こします。

手指衛生の徹底が条件です。

CDCのガイドラインでは、ドフィングは「可能な限り患者室を出る前に」行うことを推奨しています。病室の外廊下で脱ぐ場合は、専用のPPE廃棄容器を出口付近に設置することが理想的です。

CDC:Isolation Precautions Guidelines(接触予防策・PPEの国際標準ガイドライン)

接触予防策における個人防護具の手袋使用の誤解と正しい理解

「手袋をしていれば手指衛生は省略できる」という認識は、医療現場で依然として根強く残っています。これは大きな誤りです。

手袋には微細な孔(ピンホール)が製造段階で存在しており、使用中に破れることもあります。新品の未使用手袋でさえ、製品によっては1〜2%の割合でピンホールが確認されています。東京の複数の大学病院が実施した調査では、長時間の処置後の手袋の破損率が約15〜20%に達したという報告もあります。

手袋は「補助的バリア」です。

つまり、手袋を外した後の手指衛生は省略不可の必須ステップです。WHO(世界保健機関)が提唱する「手指衛生の5つのタイミング(My 5 Moments for Hand Hygiene)」においても、手袋着用の有無にかかわらず、患者接触前後の手指衛生は独立した義務として定義されています。

また、「手袋をしたまま複数の患者に触れる」行為は接触感染を拡大させる行動です。同一患者であっても清潔部位から汚染部位へ移る際には手袋を交換する必要があります。これも見落としやすい盲点です。

さらに、頻繁な手袋交換と手指衛生により医療従事者の手荒れが起きやすくなります。皮膚が荒れると細菌の定着・増殖が起きやすくなるため、ハンドクリームの使用も感染対策の一環として推奨されています。アルコール製剤との相性が良い保湿剤(セトリミド非含有のもの)を選ぶのが基本です。

医療従事者が知っておくべき個人防護具の廃棄と環境整備の関係

接触予防策では、個人防護具の使用後の廃棄方法と、患者周囲の環境整備も感染対策の一部です。ここが抜け落ちると、PPEを完璧に使いこなしても感染連鎖を断ち切れません。

使用済みPPEは感染性廃棄物として扱うことが原則です。

廃棄の際は以下の点を守ります。

  • 使用済み手袋・ガウン・マスクは、専用の感染性廃棄物容器(黄色のバイオハザードマーク付きバッグ)へ直接廃棄する
  • 使用済みPPEをポケットに入れたり、廊下の床や椅子に一時置きしない
  • 廃棄後は必ず手指衛生を行う

環境整備については、MRSAやVREのような接触感染菌は患者周囲の環境表面(ベッド柵・点滴スタンド・ナースコール・ドアノブなど)に数時間から数日間生存します。VREは乾燥環境で最長7日間生存するという研究データがあります。これはかなり長いですね。

そのため、接触予防策が適用されている患者の病室では、1日1回以上の環境清拭が必要です。使用する消毒薬はアルコール系または0.05〜0.1%次亜塩素酸ナトリウム液が推奨されます。ノロウイルスにはアルコールが効きにくいため、次亜塩素酸ナトリウムを選ぶのが原則です。

医療従事者が環境整備の役割を担う場合は、清拭クロスで拭いた後に乾燥させる時間を確保することが大切です。「拭いてすぐ触れる」は消毒効果が不十分になる可能性があります。

厚生労働省:医療機関における院内感染対策について(接触予防策・環境整備の指針)