気管支サーモプラスティ終了の理由と今後の重症喘息治療

気管支サーモプラスティ終了の理由と今後の喘息治療対応

重症喘息の治療選択肢が1つ減っても、代替を整備しないまま外来を続けている施設は、患者からのクレームリスクを抱えています。

📋 この記事の3つのポイント
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終了の直接原因は「部品切れ」

Alairシステムの製造に必要なパーツが供給不能となり、2023年末にカテーテル製造を終了。後継機・代替機は世界的に存在しない。

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日本での保守サービスは2025年4月末まで

コントローラの点検・レンタルは2025年4月末を目安に終了。在庫次第では前倒しになる可能性もある。

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代替は生物学的製剤へのシフト

3剤配合吸入薬や抗IL-5・抗IL-4Rα抗体製剤など薬物療法の進歩が、BTの「役割終了」を後押しした側面もある。

気管支サーモプラスティとは何か:BT治療の基本と対象患者

 

気管支サーモプラスティ(Bronchial Thermoplasty:BT)は、重症持続型喘息患者に対して気管支鏡を用いて気道壁に約65℃の熱エネルギーを加え、気道平滑筋量を物理的に減少させる治療法です。 気管支喘息では気道平滑筋の増加・過収縮が発作の根本的な原因の一つとされており、BTはその「量を減らす」というアプローチで症状の長期コントロールを目指します。 note(https://note.com/uenishi_naika/n/nd9bc6bcf7ddf)

日本では2014年9月に薬事承認を受け、2015年4月から保険適用が開始されました。 世界に先駆けた承認のスピードは注目に値します。これは評価できる点ですね。 note(https://note.com/uenishi_naika/n/nd9bc6bcf7ddf)

治療は3回に分けて行われます。右下葉・左下葉・両上葉をそれぞれ別セッションで処置するため、入院を3回繰り返す必要があります。 1回あたりの処置時間は約45〜60分が目安で、東京ドームのグラウンド(約13,000㎡)に例えると「3区画に分けて丁寧に熱処置を施す」イメージです。施行可能施設は全国でも限られた専門病院のみでした。 aetna(https://www.aetna.com/cpb/medical/data/700_799/0744.html)

対象患者は、既存の吸入薬・経口薬で十分にコントロールできない18歳以上の重症持続型喘息患者です。禁煙歴・感染状況・肺機能など厳格な適応基準があるため、実際に施術を受けられる患者数は国内でも決して多くはありませんでした。 jsre(https://www.jsre.org/uploads/files/medical/1508_alair.pdf)

気管支サーモプラスティ終了の理由:製造中止に至った経緯

終了の直接的な理由は「製造に必要なパーツの供給が世界的に不能になった」ことです。 開発元であるボストン・サイエンティフィック社(チェスト株式会社が国内販売)は、Alairシステムのコントローラおよびカテーテルの製造を以下のスケジュールで段階的に終了しました。 pulmonary.exblog(https://pulmonary.exblog.jp/30317380/)

項目 終了時期 対象
コントローラ 製造終了 2022年末 全世界共通
カテーテル 製造終了 2023年末 全世界共通
カテーテル 販売終了 2024年末(在庫次 全世界共通(日本は在庫売り切り次第)
コントローラ 保守点検・レンタル終了 2025年4月末 日本
コントローラ 保守点検終了 2025年12月末 全世界共通

後継機・代替機は世界中のどこにも存在しません。 つまり完全撤退です。 pulmonary.exblog(https://pulmonary.exblog.jp/30317380/)

「有効性が認められなかったから終了した」と誤解する医療従事者も少なくありませんが、それは正確ではありません。 BTは実施後5年間にわたり重度増悪の発生率・救急受診率の持続的な低減が4つの連続臨床試験で実証されており、有効性そのものは否定されていません。 問題は「部品が作れなくなった」という製造上の事情であり、治療の価値が否定されたわけではないのです。 bostonscientific(https://www.bostonscientific.com/jp-JP/news-releases/2013-news-releases/2013-05-21-news-release.html)

参考:呼吸器内科医ブログによる製造終了スケジュールの詳細(2023年5月公開)

気管支サーモプラスティ製造・販売終了 | 呼吸器内科医

気管支サーモプラスティが普及しなかった背景:施設・患者側の課題

BTが終了に至るもう一つの背景として、「普及しなかった」という現実があります。意外ですね。保険適用から約8年で施術を行える施設は全国でも数十施設にとどまり、症例数の絶対数が少ないまま終わりました。 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39810934/)

普及を妨げた要因は複数あります。

  • 🏥 施設要件が厳しい:専門の気管支鏡医・設備・入院体制が必要で、一般病院では対応不可
  • 🔁 3回入院が必要:患者の時間的・身体的負担が大きく、同意取得が容易ではない
  • ⚠️ 短期的な悪化リスク:処置後に一時的な喘息症状の増悪が約7件(15症例中4名)で発生したとの報告もある aetna(https://www.aetna.com/cpb/medical/data/700_799/0744.html)
  • 💴 コスト問題:機器のレンタル・消耗品・入院費が重なり、病院側の採算も課題

Aetna(米国大手保険会社)は2025年時点でもBTを「実験的・未証明(experimental, investigational, or unproven)」として保険対象外と判断しており、米国内での保険償還が進まなかったことも世界的な普及を阻んだ一因です。 日本では保険適用されていたにもかかわらず、米国では普及しない。このギャップが製造継続の判断に影響した可能性があります。 aetna(https://www.aetna.com/cpb/medical/data/700_799/0744.html)

参考:米国Aetnaによる気管支サーモプラスティの保険適用判断レポート

Bronchial Thermoplasty – Medical Clinical Policy Bulletins – Aetna

気管支サーモプラスティ終了後の重症喘息治療:生物学的製剤へのシフト

BTが終了する背景には、薬物療法の急速な進歩も大きく関係しています。結論は「代替手段が先に追いついた」ということです。

2020年以降、重症喘息に対する生物学的製剤の選択肢が大幅に拡充されました。

さらに2020年には、長時間作用性β2刺激薬(LABA)・吸入ステロイド(ICS)・長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の3剤配合吸入薬が日本で登場し、コントロール不良患者への薬物対応の幅が大きく広がりました。 erca.go(https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/58/medical/)

これは使えそうです。重症喘息でBT適応を検討していた層の多くが、生物学的製剤で十分なコントロールを得られるようになったことで、BTの「出番」自体が減少していったと考えられます。 BTが担っていた「薬で制御できない患者への最後の手段」という位置づけが、薬の進化によって相対化されたのです。 erca.go(https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/58/medical/)

参考:重症喘息の薬物療法の進歩についての詳細(環境再生保全機構)

重症ぜん息でも症状なしをめざせる時代に | すこやかライフ

気管支サーモプラスティ終了後の独自視点:「BT経験施設」の技術継承問題

ここはあまり語られていない視点です。BTを実施してきた数十施設の医師・看護師・臨床工学技士が積み上げてきた「熱エネルギーによる気道リモデリング介入」の実践知は、どこにも引き継がれないまま消えていく可能性があります。 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39810934/)

The Lancetに掲載された2024年12月の論文でも、「BTの撤退から学ぶべき教訓が多い」と明示されています。 論文は、FEV1(1秒量)などの従来型の肺機能指標ではBTの治療効果を捉えきれなかったこと、非標準的な診断ツールを使うことで初めて有効性が検出できたことを指摘しています。 これは重要ですね。 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39810934/)

この問題は、次世代の「気道平滑筋を標的とした治療法」開発においても教訓になります。具体的には以下の点が課題として残っています。

  • 📊 効果指標の見直し:FEV1に頼りすぎると治療価値を見誤る可能性がある
  • 🔬 RCTデザインの限界:BT試験で用いられたシャム手術対照は設計上の批判を受け続けた
  • 🧬 次世代ASM標的治療への橋渡し:気道平滑筋(ASM)リモデリングを標的とする新たなアプローチの研究は継続中 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39810934/)

BTの終了は「失敗」ではなく「実証実験の完了」として位置づけるべきだという見解もあります。実際にBTを受けた患者の長期予後データは今後の喘息治療研究にとって貴重な資産であり、BT施行施設はそのデータ管理と学術活用を継続する責任があります。

参考:The Lancet eClinicalMedicine掲載の気管支サーモプラスティ撤退後の展望論文(2024年)

気管支サーモプラスティ終了を受けた患者対応:現場の医療従事者が今すべきこと

終了のスケジュールを正確に把握できていない施設では、患者への説明が後手に回るリスクがあります。2025年4月末時点でコントローラの保守・レンタルサービスは日本では終了しており、新規施術は事実上不可能になっています。 pulmonary.exblog(https://pulmonary.exblog.jp/30317380/)

現場の医療従事者が今すべき対応を整理すると、以下のとおりです。

  • ✅ BT施術済み患者のフォローアップ継続:長期有効性は5年以上確認されているが、症状変化の定期モニタリングは必須 bostonscientific(https://www.bostonscientific.com/jp-JP/news-releases/2013-news-releases/2013-05-21-news-release.html)
  • 生物学的製剤の適応再評価:BT待機中または終了を告げられた患者に対し、抗IL-5・抗IL-4Rα製剤の適応を速やかに検討する
  • ✅ 患者への丁寧なインフォームド・コンセント:「治療が終了した理由は有効性の否定ではない」ことを明確に伝えることが重要
  • ✅ 院内マニュアルの更新:BT関連の手順書・説明文書を2025年中に改訂・廃止処理する

重症喘息患者の中には「BTしかない」と思い込んでいる方もいます。患者の誤解を解き、現在の薬物療法の選択肢を分かりやすく伝えることが、今の医療従事者に求められる最も実践的なアクションです。

また、他施設への紹介・転院対応が必要なケースでは、日本呼吸器学会や日本アレルギー学会が公開している重症喘息の診療ガイドラインを参照することで、根拠ある意思決定が可能です。

参考:日本呼吸器内視鏡学会によるAlair気管支サーモプラスティシステムの適正使用指針

Alair気管支サーモプラスティシステムの適正使用指針 | 日本呼吸器内視鏡学会



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