ファリシマブ添付文書の用法・副作用・注意事項まとめ
抗ファリシマブ抗体が陽性になると、眼内炎症の発現率が約8倍に跳ね上がります。
ファリシマブの基本情報:一般名・販売名・承認疾患
ファリシマブ(一般名:ファリシマブ〔遺伝子組換え〕、販売名:バビースモ硝子体内注射液120mg/mL)は、中外製薬が製造販売する眼科用の新規バイスペシフィック抗体製剤です。 2022年3月に「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性(nAMD)」および「糖尿病黄斑浮腫(DME)」を効能として承認され、2024年3月には「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫(RVO)」、さらに2025年5月には「脈絡膜新生血管を伴う網膜色素線条(AS)」が追加承認されました。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
承認された4つの効能が対象です。
- 中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性(nAMD)
- 糖尿病黄斑浮腫(DME)
- 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫(RVO)
- 脈絡膜新生血管を伴う網膜色素線条(AS)
本剤の特徴は、VEGF-Aだけを標的とする従来の抗VEGF薬と異なり、VEGF-AとAng-2(アンジオポエチン-2)を1分子で同時に阻害する点にあります。 Ang-2は血管安定化に関与するAng-1/Tie-2シグナルを阻害し、血管を不安定化させる物質です。これを同時に抑えることで、より広範な血管病態へのアプローチが可能になっています。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
再審査期間中(2030年3月27日まで)の薬剤です。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
ファリシマブ添付文書の用法・用量:疾患ごとの投与スケジュール
投与量はすべての適応疾患で共通して6.0mg(0.05mL)の硝子体内投与ですが、投与スケジュールは疾患によって異なります。 これが臨床現場で混乱しやすいポイントです。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
| 疾患 | 導入期 | 維持期 | 最短間隔 |
|---|---|---|---|
| nAMD | 4週ごとに4回(症状により3回も可) | 通常16週ごと(疾患活動性に応じて8・12・16週) | 8週以上 |
| DME | 4週ごとに4回 | 投与間隔を徐々に延長し通常16週ごと | 4週以上 |
| RVO | 4週以上あけて投与継続 | 治療反応性に応じて延長 | 4週以上 |
| AS | 4週以上あけて投与継続 | 治療反応性に応じて投与要否判断 | 4週以上 |
nAMDでは維持期に臨床試験で最大16週ごとに投与を継続した患者が45.7%(TENAYA試験)に達しました。 一般的な抗VEGF薬は8週間隔が標準的であることを考えると、患者の通院回数を大幅に減らせる可能性があります。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
用法関連の重要な注意が1点あります。初回治療における両眼同日投与は避け、片眼での安全性を十分に評価してから対側眼の治療を行う必要があります。 臨床試験で両眼同時治療は実施されていないため、このルールは厳守が原則です。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
ファリシマブ添付文書の禁忌・投与前に確認すべき重要事項
投与前に確認すべき禁忌は3項目あります。 この3項目のいずれかに該当した場合は即座に他の治療法を検討する必要があります。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
- 🚫 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 🚫 眼または眼周囲に感染のある患者、あるいは感染の疑いのある患者(眼内炎等の重篤な副作用が発現するおそれ)
- 🚫 眼内に重度の炎症のある患者(炎症が悪化するおそれ)
禁忌の3項目が基本です。
慎重投与が必要な患者として、緑内障・高眼圧症の患者(硝子体内注射により眼圧が一過性に上昇するおそれ)、脳卒中または一過性脳虚血発作の既往歴のある患者が挙げられます。 脳卒中既往患者への投与は、後述する動脈血栓塞栓事象リスクと関連するため、特に注意が必要です。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
投与前には必ず確認が必要です。硝子体内注射に使用される消毒薬・麻酔薬・抗菌点眼薬・散瞳薬への過敏症歴を事前に問診することが義務付けられています。 また、妊娠可能な女性には投与中および最終投与後少なくとも3ヵ月間の避妊指導が必要です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
参考リンク(PMDA公式添付文書情報)。
投与前チェックリストや最新添付文書はPMDAで確認できます。
PMDA 医療用医薬品情報 バビースモ添付文書(医療関係者向け)
ファリシマブ添付文書の重大な副作用:眼内炎症・脳卒中リスク
重大な副作用として添付文書に明記されているのは以下の2カテゴリです。 これは副作用の中でも特に注意深い観察と患者への事前説明が求められます。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
- 👁️ 眼障害:眼内炎症(ぶどう膜炎・硝子体炎等)1.2%、網膜色素上皮裂孔0.2%、眼内炎(頻度不明)、裂孔原性網膜剥離・網膜裂孔(頻度不明)
- 🧠 脳卒中:0.3%の発現頻度
見落としやすいのが抗ファリシマブ抗体の問題です。nAMD対象の第Ⅲ相試験(TENAYA・LUCERNE試験)では、52週投与後に薬剤誘発性の抗ファリシマブ抗体が陽性となった患者が11.0%(77/697例)にのぼりました。 そして眼内炎症の発現割合は、抗体陽性患者では10.7%、抗体陰性患者では1.3%と約8倍の差がありました。これは臨床上、非常に重要な数字です。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
眼内炎症が一度起きた患者への再投与には特別な注意が必要です。再投与により眼内炎症が再発した症例が報告されているため、添付文書では再発リスクについて明示的に注意喚起されています。 つまり「副作用が軽快したから再開して良い」とは単純に言えない薬剤です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
動脈血栓塞栓事象は重要な潜在的リスクに分類されています。nAMD患者での発現率は2.6%、DME患者では5.2%、RVO患者では3.8%でした。 脳卒中既往のある患者では特に注意した管理が求められます。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
ファリシマブ硝子体内注射の手技上の注意点:投与量確認と無菌操作
投与手技に関して、添付文書と適正使用ガイドには複数の厳守事項があります。特に過量投与の防止は重点的に記載されています。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
本剤のバイアル製剤は1バイアルあたり0.24mL充填されていますが、実際の投与量は0.05mLです。 過量充填されているため、必ず投与前にシリンジの標線(0.05mL)で液量を確認してからでないと投与してはいけません。バイアル中の全量を投与するミスは眼圧上昇などの過量投与リスクに直結します。 gifu-upharm(https://www.gifu-upharm.jp/di/mdoc/iform/2g/i3620592505.pdf)
無菌操作の遵守が原則です。手術用手指消毒・滅菌手袋・ヨウ素系洗眼殺菌剤・滅菌ドレープ・滅菌開瞼器の使用が義務付けられています。 注射針は30ゲージ程度の眼科用針を使用し、バイアル製剤に添付の専用フィルター付き採液針は硝子体内注射には絶対に使用してはなりません。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
投与後も観察が必要です。硝子体内注射後は眼圧と視神経乳頭血流を適切に観察・管理し、抜針直後に患者の眼前で指数弁の有無を確認します。 光覚弁がない場合は完全な血流途絶の可能性があるため、前房穿刺などの眼圧管理を直ちに行う必要があります。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
抗菌薬点眼については、日本網膜硝子体学会の最新ガイダンスが重要です。従来は術前後3日ずつの抗菌薬点眼が一般的でしたが、現在のガイドラインでは通常の患者に対しては「注射前後の抗菌薬点眼を使用しなくてよい」と推奨が変わっています。 適切な消毒と注射手順を遵守していれば抗菌薬点眼は原則不要であり、耐性菌の問題から使用しないことが推奨されます。これは多くの医療従事者にとって意外な情報かもしれません。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
参考リンク(中外製薬 適正使用ガイド)。
硝子体内注射の手順・安全性データを包括的に確認できます。
ファリシマブ添付文書で見落としやすい独自視点:新剤形キットと保存条件の違い
2025年3月に新たにプレフィルドシリンジ製剤「バビースモ硝子体内注射用キット120mg/mL」が承認されました。 従来のバイアル製剤と操作手順や保存条件が異なるため、施設でキット製剤を導入した際は特に注意が必要です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
保存条件の差は見逃せません。バイアル製剤の有効期間は30ヵ月ですが、キット製剤(プレフィルドシリンジ)の有効期間は24ヵ月と短くなっています。 また、どちらも2~8℃での遮光保存が必要で、使用前は外箱のまま室温に戻し、室温保存時間が24時間を超えないよう管理することが求められます。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071651)
調製手順も異なります。バイアル製剤は添付の専用フィルター付き採液針でシリンジへ吸引し、別途30ゲージ眼科用針を装着して投与します。 一方キット製剤は、専用フィルター付き30ゲージ眼科用針が同梱されており、ブリスター包装は使用直前まで開封しないことが義務付けられています。いずれも1バイアル・1シリンジは片眼の1回のみの使用です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220406001/450045000_30400AMX00188_B101_1.pdf)
施設でどちらの製剤を採用しているかを事前に確認しておくことが大切です。手順を混同すると過量投与や無菌操作の破綻につながる可能性があります。製剤ごとの取扱説明書を個包装内で確認し、スタッフ全員が正確な手技を把握している状態を維持することが重要です。
参考リンク(JAPIC 添付文書情報)。
用法用量・副作用・薬物動態の詳細な数値を参照できます。