タゼメトスタット作用機序とEZH2阻害の臨床的意義

タゼメトスタット作用機序とEZH2阻害

EZH2変異陰性でも35%の患者に効果がある

この記事の3つの重要ポイント
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エピジェネティック制御の特異性

タゼメトスタットはポリコーム抑制複合体2(PRC2)の活性サブユニットEZH2を選択的に阻害し、ヒストンH3K27のメチル化を抑制することで腫瘍増殖を抑制します

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変異型と野生型での異なる臨床効果

EZH2遺伝子変異陽性患者では奏効率69%、変異陰性患者でも35%の奏効率を示し、変異の有無で効果に明確な差があることが判明しています

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日本人特有の副作用プロファイル

日本人患者では味覚障害(52.9%)、リンパ球減少症(29.4%)、口内炎が特徴的な副作用として高頻度で発現することが報告されています

タゼメトスタットのEZH2選択的阻害メカニズム

タゼメトスタットは、ヒストンメチル基転移酵素であるEZH2の酵素活性に対する阻害作用を有する低分子化合物です。この薬剤は、変異型EZH2(Y646F等)のメチル化活性を阻害することで、ヒストンH3の27番目のリジン残基(H3K27)等のメチル化を阻害します。その結果、細胞周期停止及びアポトーシス誘導を生じさせ、腫瘍増殖抑制作用を示すと推測されています。

EZH2は、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)の活性サブユニットとして機能し、H3K27のモノメチル化、ジメチル化、トリメチル化を触媒します。H3K27のトリメチル化(H3K27me3)は、造血幹細胞など多くの幹細胞やがん細胞のクロマチンにおいて亢進し、細胞分化にかかわる遺伝子あるいはがん抑制遺伝子の発現制御に関与しているのです。

つまりH3K27me3が基本です。

無細胞系の実験において、タゼメトスタットは野生型EZH2および変異型EZH2の酵素活性をIC50値2~38 nmol/Lで阻害することが確認されています。野生型及び変異型EZH2に対する阻害は、EZH2と最も類縁のヒストンメチル基転移酵素であるEZH1に対する阻害と比較して36倍、またその他のヒストンメチル基転移酵素に対する阻害と比較して3000倍以上強いことが示されました。

これは非常に高い選択性です。

このような選択的阻害により、タゼメトスタットはEZH2依存性の腫瘍細胞に対して特異的に作用します。特に、EZH2のSETドメイン領域での遺伝子変異を有する濾胞性リンパ腫では、EZH2活性の亢進により高レベルのH3K27me3が生成されて、変異型EZH2に依存した腫瘍増殖が起こっています。タゼメトスタットはこの病態に直接介入する治療薬として開発されました。

エーザイ医療関係者向けサイトでは、タゼメトスタットの詳細な作用機序に関する情報が提供されています。

タゼメトスタットによるエピジェネティクス制御の変化

エピジェネティクスとは、DNA配列の変化を伴わずに遺伝子発現を制御する仕組みを指します。ヒストン修飾(メチル化、アセチル化、ユビキチン化、リン酸化等)は、クロマチンにおける遺伝子発現のエピジェネティクス制御において中心的な役割を果たし、様々ながんの発症や悪性化に関与しています。

濾胞性リンパ腫は、胚中心芽細胞及び胚中心細胞を起源としています。胚中心芽細胞が胚中心細胞になる過程で、免疫グロブリン遺伝子の可変領域は繰り返し体細胞突然変異を起こして多様性を獲得しますが、この中でEZH2による遺伝子発現のエピジェネティクス制御は、胚中心(芽)細胞の増殖と突然変異の厳密な制御及びがん化防止に重要な役割を担っています。どういうことでしょうか?

EZH2の発現レベルは、B細胞の活性化に伴って増加し、胚中心芽細胞で最大となります。EZH2によって生じるH3K27me3レベルの亢進は、細胞分化に関係する転写因子や細胞周期阻害因子等の遺伝子発現を抑制し、分化抑制・増殖促進の状態を保つのです。その後、胚中心細胞の成熟化に向けてEZH2発現は減少し、細胞分化が進捗します。

しかし、この過程におけるEZH2の制御が外れてH3K27me3が恒常的に高レベルになると、分化関連因子や細胞周期阻害因子の抑制が継続され、濾胞性リンパ腫発症の一因になると考えられています。変異型EZH2は組織適合性抗原クラスⅠとクラスⅡの発現を抑制し、宿主からの免疫攻撃を回避することによって腫瘍を悪性化するということも報告されています。

厳しいところですね。

タゼメトスタットがEZH2を阻害することで、過剰なH3K27me3の形成が抑制され、がん抑制遺伝子や細胞分化に関わる遺伝子の発現が回復します。これにより、腫瘍細胞の増殖が停止し、アポトーシスが誘導され、B細胞の正常な分化が促進されることになります。

現時点でタゼメトスタットの作用機序の全貌は完全には明らかになっていないとされていますが、エピジェネティック制御を標的とした新しい治療アプローチとして注目されています。

タゼメトスタット臨床試験における奏効率と有効性データ

タゼメトスタットの有効性を評価した主要な臨床試験として、206試験が実施されました。この国際共同第2相試験では、前治療後に再発・増悪したEZH2遺伝子変異を有するB細胞性非ホジキンリンパ腫患者が登録され、濾胞性リンパ腫(FL)患者を対象としたコホート1とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者を対象としたコホート2に分けられました。

主要評価項目である客観的奏効率(ORR)は、EZH2遺伝子変異陽性群で69%(95%信頼区間:53%–82%)、EZH2遺伝子変異陰性群で35%(95%信頼区間:23%–49%)でした。

変異陽性群での奏効率は約2倍です。

奏効期間中央値は、変異陽性群で10.9カ月、変異陰性群で13.0カ月、無増悪生存期間中央値は変異陽性群で13.8カ月、変異陰性群で11.1カ月という結果でした。

国内で実施された第2相臨床試験(国内206試験)では、日本人患者を対象に有効性と安全性が評価されました。コホート1に登録された17例の適格患者において、独立画像判定によるIWG-2007に基づく奏効率が主要評価項目として設定されました。この試験により、日本人患者においてもタゼメトスタットの有効性が確認されたのです。

EZH2遺伝子変異陽性は濾胞性リンパ腫患者の約20%で発現していると考えられています。つまり、適応となる患者は限定的ですが、変異陽性患者に対しては高い奏効率が期待できます。一方、変異陰性患者においても一定の有効性が認められたことは、EZH2阻害が変異の有無にかかわらず腫瘍増殖抑制に寄与する可能性を示唆しています。

意外ですね。

中国で実施された再発・難治性濾胞性リンパ腫患者を対象とした臨床試験でも、EZH2変異を有する患者では高い奏効率が得られ、EZH2野生型患者でも一定の有効性が確認されました。より大規模な試験の実施により、さらなるエビデンスの蓄積が期待されています。

タゼメトスタット用法用量と投与時の注意点

タゼメトスタット(商品名:タズベリク錠200mg)の用法用量は、通常、成人にはタゼメトスタットとして1回800mgを1日2回経口投与します。

1回量は200mg錠を4錠服用する形です。

なお、患者の状態により適宜減量することができます。

適応症は「再発又は難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」です。本剤による治療を開始する前に、EZH2遺伝子検査を実施し、変異の有無を確認する必要があります。

これが条件です。

投与開始前には、患者が少なくとも2つの前治療歴を有することを確認します。EZH2遺伝子変異陽性患者と比較して、変異陰性患者では有効性が低下する可能性があるため、適応判断は慎重に行う必要があります。

他の抗悪性腫瘍剤との併用については、有効性及び安全性は確立していません。

単剤療法として使用することが原則です。

中等度以上の肝機能障害のある患者では血中濃度が上昇するおそれがあるため、投与は推奨されません。また、腎機能障害患者では、腎機能の程度に応じて慎重な投与が必要です。

副作用発現時の対応として、Grade 1の副作用で忍容性がない場合は休薬を検討し、Grade 2以上の副作用が発現した場合は休薬または減量を行います。減量する場合は、1回600mg(1日1200mg)への減量が推奨されています。それでも忍容性が得られない場合は、さらに1回400mg(1日800mg)まで減量可能です。

PMDA適正使用ガイドには、副作用発現時の具体的な対応フローが記載されています。

タゼメトスタット副作用プロファイルと管理のポイント

タゼメトスタットの副作用として、骨髄抑制と感染症が重大な副作用として添付文書に記載されています。骨髄抑制があらわれることがあるため、本剤の投与開始前及び投与期間中は定期的に血液学的検査を行うなど、患者の状態を十分に観察する必要があります。

国内第2相臨床試験(国内206試験)コホート1において、17例中全例に副作用が認められました。

副作用発現頻度は100%です。

主なものは味覚障害52.9%(9例)、リンパ球減少症29.4%(5例)、口内炎23.5%(4例)、好中球減少症17.6%(3例)、血小板減少症17.6%(3例)でした。

海外臨床試験では、副作用発現頻度は84.4%(38/45例)でした。主な副作用は脱毛症22.2%(10/45例)、悪心17.8%(8/45例)、無力症15.6%(7/45例)、下痢、疲労、味覚異常各13.3%(各6/45例)でした。

日本人患者に特徴的な有害事象として味覚異常、リンパ球減少症、口内炎が挙げられています。味覚障害の処置については、厚生労働省より公開されている「重篤副作用疾患別対応マニュアル」を参考に対応することが推奨されます。

痛いですね。

骨髄抑制による副作用として、血小板減少11.3%、好中球減少9.7%、リンパ球減少症、貧血などが報告されています。これらの発現により、出血傾向や感染症リスクが高まる可能性があるため、定期的な血液検査によるモニタリングが必須です。

感染症のリスク管理においては、好中球減少のグレードと持続期間を評価し、必要に応じてG-CSF製剤の使用や予防的抗菌薬投与を検討します。患者への感染予防指導も重要で、手洗いの励行、人混みを避ける、発熱時の早期受診などを説明しておく必要があります。

味覚障害に対しては、亜鉛製剤の補充が有効な場合があります。また、食事の工夫として、温度の調整、調味料の変更、柑橘類の活用などを提案することで、患者のQOL維持につながります。

副作用発現時には、タゼメトスタットの休薬または減量を適切に行うことで、治療継続が可能となる場合が多くあります。患者の状態を総合的に評価し、ベネフィットとリスクのバランスを考慮した投与調整が求められます。

タゼメトスタットと他のEZH2阻害薬との比較と今後の展望

タゼメトスタットは日本初のEZH2阻害薬として承認されましたが、その後、EZH1とEZH2の両方を阻害するバレメトスタット(商品名:エザルミア)が成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)および末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)を適応として承認されています。

タゼメトスタットがEZH2選択的阻害薬であるのに対し、バレメトスタットはEZH1とEZH2を同時に阻害します。バレメトスタットのEZH1に対するIC50値は10 nmol/L、EZH2に対するIC50値は6.0 nmol/Lであり、両方の酵素を同程度の強度で阻害します。in vitro試験系において、バレメトスタットはATL細胞株に対してEZH2阻害薬と比較して強い増殖抑制活性を示しました。

これは使えそうです。

適応疾患の違いも重要なポイントです。タゼメトスタットの適応症は再発難治濾胞性リンパ腫であり、EZH2遺伝子変異をもつ患者を対象としています。一方、バレメトスタットは再発難治成人T細胞白血病リンパ腫を対象としており、EZH2変異の有無は適応判断の要件となっていません。疾患背景の違いが阻害薬の選択に影響しているのです。

2023年4月には、患者申出療養制度によるEZH2阻害薬の医師主導臨床研究が開始されました。この研究では、EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA世代(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)悪性固形腫瘍に対するタゼメトスタット療法の評価が行われています。

特に類上皮肉腫に対しては、海外の臨床試験において15%の患者で腫瘍の縮小が認められており、希少がんに対する新たな治療選択肢として期待されています。タゼメトスタットは野生型EZH2および変異型EZH2の両方を阻害するため、幅広いEZH2依存性腫瘍に対する応用可能性があるのです。

さらに、最近の研究では、タゼメトスタットによるEZH2阻害がHIVリザーバー形成を抑制し、免疫回避機構を阻害する可能性が示されています。EZH2阻害は、HIVのNefタンパク質によって引き起こされるMHCクラスI発現低下を回復させ、CD4陽性T細胞の免疫監視機能を向上させることが報告されました。がん治療以外の領域への応用も視野に入っています。

いいことですね。

PBRM1変異を有する胆管がんに対するタゼメトスタット投与で長期生存が確認された症例報告もあります。クロマチンリモデリングに関わるSWI/SNF複合体とポリコーム抑制複合体(PRC)の相互作用に着目した治療戦略として、今後の研究発展が期待されます。

乳がん治療においては、短期投与と長期投与で相反する効果が観察されることも報告されており、投与期間やタイミングによる治療効果の最適化が今後の課題となっています。

タゼメトスタットをはじめとするエピジェネティック治療薬は、従来の化学療法や分子標的治療とは異なる作用機序を持ち、難治性血液がんや固形がんに対する新しい治療選択肢を提供しています。今後、さらなる臨床研究の蓄積により、適応拡大や併用療法の開発が進むことが期待されます。

エザルミア(バレメトスタット)の作用機序については、別の記事で詳しく解説されています。