コパンリシブ承認日本の現状と治療適応

コパンリシブ承認と日本の現状

コパンリシブは三次治療以降でも68%の奏効率を示すが日本では未承認です。

この記事の3つのポイント
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コパンリシブの承認状況

米国では2017年に濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認されたが、日本では2026年2月時点で未承認。日本人を対象とした第1b/2相試験では68%の奏効率を示した

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PI3K阻害薬の作用機序

B細胞性腫瘍で発現するPI3K-αおよびPI3K-δに対して阻害活性を持つ静脈内投与の分子標的薬。週1回60mgの点滴投与で治療を行う

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副作用管理の重要性

高血糖が54%の患者で発現し、5%で重篤化。投与前後の血糖値モニタリングと適切な対処が必須となる治療薬

コパンリシブの米国承認と日本の状況

2017年9月14日、ドイツのバイエル社が開発したPI3K阻害薬コパンリシブ(米国商品名Aliqopa)は、米国食品医薬局(FDA)により再発濾胞性リンパ腫の治療薬として承認されました。この承認は、二次治療後に再発した濾胞性リンパ腫の成人患者を対象としたもので、迅速承認制度に則って実現しています。

承認の根拠となったのは、第2相臨床試験CHRONOS-1試験(NCT01660451)のデータです。この試験では、二次治療後の再発濾胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫の被験者104人が対象となり、全奏効割合(ORR)は59%、完全奏効(CR)率は14%を達成しました。奏効期間の中央値は12.2カ月という結果が得られています。

日本では2026年2月時点で、コパンリシブは承認されていません。しかし、日本人を対象とした第1b/2相臨床試験(NCT02342665)が実施されており、低悪性度非ホジキンリンパ腫の三次治療以降としてコパンリシブ単剤療法の評価が行われました。この試験では、何らかの治療を受けたことがある日本人25名が参加し、68%の患者が治療に奏効し、奏効が10.8ヵ月持続したという結果が2022年9月に報告されています。

日本における承認が進まない理由として、グローバルな開発戦略の変更や市場性の評価などが考えられますが、臨床試験データからは日本人患者においても有効性が確認されているのは事実です。つまり日本人でも効果が期待できるということですね。

米国では三次治療以降の治療選択肢として位置づけられており、欧州でも2017年11月に条件付き承認を取得しています。日本では現在、同じPI3K阻害薬であるザンデリシブなど他の薬剤の開発が進められており、濾胞性リンパ腫の治療選択肢の拡大が期待されています。

再発濾胞性リンパ腫の治療におけるコパンリシブの米国承認に関する詳細情報(がん情報サイト「オンコロ」)

コパンリシブの作用機序とPI3K阻害薬の特徴

コパンリシブは、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)を阻害する分子標的薬です。PI3Kは細胞の増殖、生存、分化などに関与する重要なシグナル伝達経路を構成する酵素で、B細胞性腫瘍では特にPI3K-αとPI3K-δのアイソフォームが過剰に発現しています。

コパンリシブの最大の特徴は、主としてPI3K-αおよびPI3K-δの両方に対して阻害活性を持つ点にあります。多くのPI3K阻害薬がPI3K-δのみを標的とする中で、コパンリシブはデュアル阻害という独自の作用機序を持ちます。

これが原則です。

投与方法は静脈内投与で、通常は体重1kg当たり0.8mgまたは60mgを週1回、3週間連続投与した後1週間休薬するというサイクルで行います。経口薬が多いPI3K阻害薬の中で、静脈内投与という特殊な投与経路を持つのもコパンリシブの特徴の一つです。

点滴投与は約1時間かけて行われます。

B細胞性リンパ腫では、PI3K経路の異常な活性化が腫瘍細胞の増殖や生存を促進しています。コパンリシブはこの経路を遮断することで、腫瘍細胞の増殖を抑制し、アポトーシス(細胞死)を誘導します。臨床試験では、治療開始後早期から腫瘍縮小効果が認められることが報告されています。

PI3K阻害薬全体の課題として、免疫抑制作用による感染症リスクや、クラスエフェクトとしての代謝系への影響があります。コパンリシブにおいても高血糖や高血圧といった代謝性の副作用が高頻度で発現するため、投与前後のモニタリングが重要となります。

CHRONOS-3試験では、コパンリシブとリツキシマブの併用療法が評価され、リツキシマブ単剤と比較して無増悪生存期間の延長が示されました。併用療法により治療効果を高められる可能性があります。

日本人対象臨床試験の奏効率と安全性データ

2022年9月に発表された日本人を対象とした第1b/2相臨床試験の結果は、コパンリシブの日本人患者における有効性を明確に示すものでした。この試験では、低悪性度非ホジキンリンパ腫と診断され、何らかの治療を受けたことがある日本人25名が参加しています。

奏効率(ORR)は68%に達し、これは米国で承認の根拠となったCHRONOS-1試験の59%を上回る結果です。奏効期間の中央値は10.8カ月で、三次治療以降という治療困難な状況においても一定期間の病勢コントロールが可能であることが示されました。

これは使えそうです。

日本人試験における推奨用量は60mgと決定されました。用量漸増パートで評価可能な9例からは用量制限毒性(DLT)が報告されなかったため、この用量が採用されています。体重や体格の違いによる用量調整は必要なく、欧米と同じ60mgという用量が日本人にも適用可能であることが確認されています。

安全性については、治療に関連する死亡例は報告されませんでした。しかし、副作用の発現頻度は注目すべき点です。CHRONOS-1試験全体(168人のデータ)では、最も頻度の高い薬剤関連副作用として高血糖が54%、白血球減少が36%、下痢が36%、全身倦怠感が36%、高血圧が35%で認められています。

重篤な副作用は44人(26%)で報告され、その内訳は肺炎が8%、肺臓炎が5%、高血糖が5%でした。薬剤投与量の減量に至った副作用は21%に、薬剤投与中止に至った副作用は16%に見られています。

厳しいところですね。

特に高血糖については、投与開始直後から一過性に血糖値が上昇する特徴があります。この血糖上昇は投与後数時間でピークに達し、通常24~72時間で正常化しますが、糖尿病の既往がある患者では特に注意が必要です。投与前の空腹時血糖値測定と、投与後の血糖値モニタリングが推奨されています。

感染症リスクについても十分な注意が必要です。下気道感染が21%で認められ、肺炎が重篤な副作用として8%で発現しています。PI3K阻害薬はT細胞機能にも影響を与えるため、日和見感染症のリスクが高まります。ニューモシスチス肺炎の予防投与を検討する場合があります。

日本人を対象としたコパンリシブ臨床試験の詳細な結果データ(日本がん対策図鑑)

濾胞性リンパ腫における治療選択肢とコパンリシブの位置づけ

濾胞性リンパ腫は低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫の中で最も頻度の高い病型で、日本では悪性リンパ腫全体の約10~20%を占めます。進行が比較的緩やかで、初回治療では高い奏効率が得られますが、再発を繰り返す特徴があります。患者の多くは初回治療から3~6年の間に再発します。

初回治療としては、リツキシマブを含む免疫化学療法(R-CHOP療法、R-CVP療法、ベンダムスチン・リツキシマブ併用療法など)が標準的に用いられます。これらの治療により高い奏効率が得られ、完全奏効率は60~80%に達します。その後、リツキシマブ維持療法を2年間継続することで、無増悪生存期間の延長が期待できます。

再発時の治療選択肢は、前治療の内容や再発までの期間、患者の年齢や全身状態によって異なります。初回治療で良好な効果が得られ、再発までの期間が長い場合は、同じレジメンを再度使用することも選択肢となります。一方、治療抵抗性の場合や早期再発の場合は、作用機序の異なる薬剤への変更が必要です。

コパンリシブは、二次治療以降の再発濾胞性リンパ腫に対する選択肢として位置づけられています。米国での承認条件は「二次治療後の再発」であり、つまり三次治療以降での使用を想定しています。この段階では、従来の化学療法に対する反応性が低下していることが多く、新たな作用機序を持つ薬剤が求められます。

日本では、三次治療以降の選択肢として、二重特異性抗体製剤であるモスネツズマブ(ルンスミオ)が2024年12月に承認されました。この薬剤は、CD20とCD3の両方に結合することでT細胞を腫瘍細胞に誘導し、腫瘍細胞を攻撃させる新しい作用機序を持ちます。完全奏効率は60%を超え、治療選択肢として期待されています。

CAR-T細胞療法(キムリア)も、二次治療以降の濾胞性リンパ腫に対して承認されています。患者自身のT細胞を体外で遺伝子改変し、がん細胞を攻撃する能力を付与して体内に戻す治療法で、高い奏効率が報告されていますが、実施できる施設が限られているのが課題です。

レナリドミドとリツキシマブの併用療法(R2療法)も、再発濾胞性リンパ腫に対する治療選択肢の一つです。レナリドミドは免疫調節薬で、リツキシマブとの併用により相乗効果が期待できます。経口投与であるため外来治療が可能で、患者のQOL維持に貢献します。

これらの多様な治療選択肢の中で、コパンリシブのようなPI3K阻害薬は、分子標的という明確な作用機序を持ち、化学療法とは異なるアプローチで治療効果を発揮します。日本での承認がなされれば、治療困難な再発症例に対する新たな選択肢となる可能性があります。

コパンリシブ投与時の高血糖管理と対処法

コパンリシブ投与において最も頻度が高く、かつ管理が重要な副作用が高血糖です。CHRONOS-1試験では、高血糖が54%の患者で発現し、そのうち5%が重篤化しています。この高血糖の特徴を理解し、適切に管理することが、コパンリシブ治療を安全に継続するための鍵となります。

コパンリシブによる高血糖は、投与直後から一過性に発現するのが特徴です。PI3K経路の阻害により、インスリンシグナルが影響を受け、末梢組織での糖取り込みが低下することが原因と考えられています。血糖値は投与後2~4時間でピークに達し、通常24~72時間以内に正常化します。この時間的パターンを知っておくことが大切です。

投与前の評価として、空腹時血糖値の測定が推奨されます。既に糖尿病の診断を受けている患者や、空腹時血糖値が126mg/dL以上、またはHbA1cが6.5%以上の患者では、投与前に血糖コントロールを最適化しておく必要があります。血糖降下薬の調整や、必要に応じて内分泌専門医へのコンサルテーションを検討します。

投与当日は、朝食を摂らずに空腹状態で来院してもらうことが一般的です。投与前に血糖値を測定し、160mg/dL以下であることを確認してから投与を開始します。投与後は、1~2時間ごとに血糖値をモニタリングし、高血糖の程度を評価します。血糖値が250mg/dL以上に上昇した場合は、速効型インスリンの投与を検討します。

糖尿病の既往がある患者では、より頻回なモニタリングが必要となります。投与前から血糖降下薬を調整し、投与後の高血糖に備えます。経口血糖降下薬を内服している患者では、投与当日の内服タイミングを医師と相談しておくことが重要です。メトホルミンSGLT2阻害薬は、一時的な中止を検討する場合があります。

高血糖が重篤化すると、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態といった急性合併症を引き起こす可能性があります。のどの渇き、多尿、倦怠感意識障害などの症状が出現した場合は、直ちに医療機関に連絡するよう患者に指導することが必要です。

高血糖には期限があります。

複数回の投与を重ねると、高血糖の発現パターンが予測しやすくなります。初回投与時に著明な高血糖を認めた患者では、2回目以降の投与前に予防的なインスリン投与を検討する場合もあります。個々の患者の反応性に応じて、管理方法をカスタマイズしていくアプローチが効果的です。

外来での投与を行う場合は、投与後少なくとも4~6時間は院内で経過観察を行い、血糖値の推移を確認してから帰宅させることが望ましいでしょう。帰宅後も血糖自己測定器を使用して、定期的に血糖値をチェックするよう指導します。

再発難治性リンパ腫におけるPI3K阻害薬開発の現状

PI3K阻害薬は、B細胞性悪性リンパ腫に対する有望な分子標的薬として、2010年代から積極的に開発が進められてきました。しかし、開発の過程では有効性と安全性のバランスをどう取るかという課題に直面しており、複数の薬剤が承認後に市場から撤退したり、開発が中止されたりしています。

最初にFDA承認を取得したPI3K阻害薬は、イデラリシブ(Zydelig)です。2014年に濾胞性リンパ腫や小リンパ球性リンパ腫に対して承認されましたが、その後の試験で重篤な感染症や肝毒性が問題となり、使用が制限されました。PI3K-δ選択的阻害薬であるイデラリシブの経験は、この薬剤クラスの安全性管理の重要性を示しています。

デュベリシブ(Copiktra)も、2018年に慢性リンパ性白血病と濾胞性リンパ腫に対して承認されたPI3K-δ阻害薬です。経口投与が可能で、奏効率も良好でしたが、下痢や大腸炎といった消化器系の副作用が高頻度で発現し、管理が困難なケースが報告されました。

副作用管理が課題となりました。

コパンリシブは、これらの経口PI3K阻害薬とは異なり、静脈内投与という特殊な投与経路を持ちます。週1回の投与という間欠的な投与スケジュールにより、連日経口投与よりも副作用の蓄積が少ないという利点があります。一方で、通院の負担や点滴のための時間確保が必要というデメリットもあります。

日本では、協和キリンがPI3K-δ阻害薬ザンデリシブの開発を進めていました。濾胞性リンパ腫を対象とした第1b相試験では、78%という高い奏効率が報告され、期待が高まっていました。しかし、2022年12月に、日本以外での開発中止が発表されています。FDAとの協議の結果、追加の臨床試験が必要と判断されたためです。

パルサクリシブという経口PI3K-δ阻害薬も、再発・難治性の濾胞性リンパ腫を対象として開発が進められました。2021年の米国血液学会(ASH)で発表された結果では、迅速かつ持続的な奏効と管理可能な安全性が示されましたが、その後の開発状況は明確ではありません。

PI3K阻害薬開発の課題として、クラスエフェクトとしての免疫抑制作用があります。PI3K経路はB細胞だけでなく、T細胞や制御性T細胞の機能にも重要な役割を果たしているため、その阻害により免疫系全体に影響が及びます。感染症リスクの増大は、この薬剤クラスに共通する問題です。

また、代謝系への影響も無視できません。PI3K経路はインスリンシグナルにも関与しているため、阻害により高血糖や脂質代謝異常が引き起こされます。長期投与による代謝性合併症のリスクを、どのように最小化するかが重要な検討課題となっています。

現在、より選択性の高いPI3K阻害薬や、特定のアイソフォームのみを標的とする薬剤の開発が進められています。また、PI3K阻害薬と他の治療薬との併用療法により、相乗効果を得つつ副作用を軽減する戦略も探索されています。リツキシマブやベンダムスチンとの併用は、理論的根拠のある組み合わせです。

日本においても、ドラッグ・ロス(海外で承認されているが日本では開発されない医薬品)の問題が指摘されています。2023年時点で、欧米で承認されているが日本では未承認の医薬品が143品目あり、そのうち国内開発未着手の医薬品も多数存在します。

コパンリシブもその一つと言えます。

再発・難治性の濾胞性リンパ腫に対する治療選択肢を増やすためには、有効性と安全性のバランスを慎重に評価しながら、新規薬剤の開発と承認を進めていく必要があります。医療従事者としては、海外の承認状況や臨床試験データを注視し、患者にとって最適な治療選択肢を提案できる準備をしておくことが求められます。