イデラリシブ日本承認状況と治療適応

イデラリシブ日本承認と治療

イデラリシブは日本で開発中止になっています。

この記事の3つのポイント
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日本での開発状況

イデラリシブは米国FDA承認薬だが、臨床試験で副作用が強く出たため日本を含め開発が中止されている

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PI3K阻害薬の作用機序

PI3Kδを選択的に阻害することで悪性Bリンパ球の増殖を抑制し、慢性リンパ性白血病や濾胞性リンパ腫に効果を示す

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重篤な副作用リスク

肝機能障害、重度の下痢、感染症(ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染など)の発現率が高く、死亡例も報告されている

イデラリシブの日本承認状況と開発中止理由

イデラリシブ(一般名:idelalisib、商品名:Zydelig)は、米国ギリアド・サイエンシズ社が開発したPI3Kδ(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼデルタ)選択的阻害薬です。2014年7月23日に米国食品医薬品局(FDA)から承認を受け、再発慢性リンパ性白血病(CLL)、濾胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫、小リンパ球性リンパ腫の治療薬として使用されています。

米国では迅速承認プログラムの対象となった薬剤です。

しかし、日本国内では承認されていない状況が続いています。当初は日本でも臨床試験が進行していましたが、その後の臨床試験において副作用が強く出ることが報告されたため、開発が止まっている状態です。日本血液学会や日本臨床腫瘍学会のガイドラインでも、イデラリシブは未承認薬として記載されており、実臨床での使用は困難な状況にあります。

国立がん研究センターが公開している「国内で薬機法上未承認・適応外である医薬品・適応のリスト」にもイデラリシブは掲載されており、日本での開発中止が明記されています。欧州医薬品庁(EMA)でも副作用に関する懸念が示されたことから、グローバルでの開発戦略が見直されました。

つまり未承認のままということですね。

医療従事者が患者さんからイデラリシブについて質問を受けた場合、米国では承認されているものの日本では未承認であり、副作用の懸念から開発が中止されている事実を正確に説明する必要があります。代替療法として、日本で承認されているBTK阻害薬(イブルチニブアカラブルチニブ、チラブルチニブ)やBcl-2阻害薬(ベネトクラクス)などの選択肢を提示することが適切です。

イデラリシブのPI3K阻害作用機序と適応疾患

イデラリシブは、B細胞受容体シグナル伝達経路において重要な役割を果たすPI3Kδを選択的に阻害する分子標的薬です。PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)は、クラスIA、IB、II、IIIの4つのサブクラスに分類されますが、その中でもPI3Kδは主にB細胞とT細胞で発現しており、リンパ球の増殖、生存、遊走に関与しています。

イデラリシブがPI3Kδの触媒活性をブロックすると、重要なセカンドメッセンジャーであるホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)の産生が抑制されます。これにより、下流のAkt/mTOR経路が遮断され、悪性Bリンパ球と原発腫瘍細胞の増殖が阻害されてアポトーシス(細胞死)へ導かれることが報告されています。

B細胞だけを狙うのが特徴です。

米国FDAでの承認適応は以下の3つです。再発慢性リンパ性白血病(CLL)で、他の健康上の問題によりリツキシマブ単剤での治療が適切な患者に対するリツキシマブとの併用療法。少なくとも2回の前治療歴がある再発濾胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫(FL)。少なくとも2回の前治療歴がある再発小リンパ球性リンパ腫(SLL)。

欧州では、17p欠失またはTP53変異を有するCLL患者に対する単剤療法も承認されています。これらの遺伝子異常は予後不良因子として知られており、従来の化学療法では効果が限定的でした。イデラリシブは、こうした難治性患者に対する新たな治療選択肢として期待されていました。

PI3Kδ阻害という作用機序により、細胞傷害性化学療法で見られる骨髄抑制や吐き気、脱毛などの全身的な副作用が軽減される可能性があります。しかし、後述するように免疫系への影響による重篤な副作用が問題となり、日本での開発が中止された経緯があります。

イデラリシブ治療の副作用と感染症リスク管理

イデラリシブの最も重大な問題は、重篤な副作用の発現率が高いことです。米国FDAおよび欧州医薬品庁(EMA)は、イデラリシブの使用に関して複数回にわたり安全性警告を発出しています。2016年の医薬品安全性情報では、イデラリシブと他の抗癌薬との併用臨床試験において、死亡を含め有害事象の発現率が高いことが報告されました。

主な副作用としては、下痢、発熱、疲労、吐き気、咳、肺炎、腹痛、悪寒、発疹が挙げられます。検査所見の異常としては、好中球減少症、高トリグリセリド血症高血糖症、肝酵素レベルの上昇が報告されています。特に重篤なのは、肝機能障害、重度の下痢、感染症です。

感染症リスクが最大の懸念点です。

イデラリシブによる感染症リスクは極めて深刻で、ニューモシスチス・イロベチイ肺炎、サイトメガロウイルス感染症などの日和見感染症の発症率が高く、死亡例の多くがこれらの感染症に関連していました。PI3Kδ阻害により免疫機能が低下するため、通常では問題とならない微生物による感染症が重症化しやすくなります。

欧州医薬品庁は2016年4月にイデラリシブのレビューを実施し、イデラリシブ治療を開始する、もしくはイデラリシブで治療中の患者に対しては、感染の徴候を注意深く監視する必要があると勧告しました。具体的には、治療開始前に感染症のスクリーニングを行い、治療中は定期的に臨床症状と血液検査をモニタリングすることが推奨されています。

肝機能障害も高頻度で発現します。肝酵素(ASTやALT)の上昇が見られることが多く、定期的な肝機能検査が必要です。重度の肝機能障害が発現した場合は、休薬または減量、場合によっては投与中止の判断が求められます。

下痢は患者のQOL(生活の質)を著しく低下させる副作用です。重度の下痢により脱水症状や電解質異常を来すこともあり、適切な対症療法と水分・電解質補正が必要となります。イデラリシブの添付文書では、副作用発現時の休薬、減量、中止の基準が詳細に記載されており、医療従事者はこれに従って適切な管理を行う必要があります。

副作用管理には専門知識が不可欠です。

こうした重篤な副作用リスクを背景に、日本では臨床試験段階で開発が中止されました。医療従事者としては、イデラリシブに関する情報を求められた際、副作用リスクが高いため日本では承認されていないこと、より安全性の高い代替薬が日本では使用可能であることを説明することが重要です。

イデラリシブの臨床試験成績と他剤との比較評価

イデラリシブの有効性を示す主要な臨床試験として、第3相試験の結果が複数報告されています。再発慢性リンパ性白血病患者を対象とした試験では、イデラリシブ+リツキシマブ併用療法とプラセボ+リツキシマブを比較した結果、無増悪生存期間(PFS)の有意な延長が示されました。

具体的には、腎機能低下、前治療による骨髄抑制、重篤な合併症が見られる再発CLL患者において、イデラリシブ(150mg、1日2回経口投与)+リツキシマブ併用療法が検証されました。この試験では、併用療法群のPFS中央値が有意に延長し、疾患進行または死亡のリスクを大幅に低減する結果となりました。

海外では高い有効性が認められています。

濾胞性リンパ腫に対する試験では、少なくとも2回の前治療歴がある再発FL患者において、イデラリシブ単剤療法の奏効率が報告されています。また、イデラリシブとリツキシマブかつ/またはベンダムスチンの併用が、低悪性度非ホジキンリンパ腫に有効である可能性も示されました。

しかし、同じB細胞受容体シグナル伝達経路を標的とする他の薬剤との比較では、安全性プロファイルに大きな差が見られます。BTK阻害薬であるイブルチニブやアカラブルチニブは、イデラリシブと同様の作用機序を持ちながらも、感染症リスクや肝機能障害の発現率が相対的に低いことが報告されています。

2024年12月に発表された第3相BRUIN-CLL-321試験では、新規BTK阻害薬ピルトブルチニブが、イデラリシブ+リツキシマブまたはベンダムスチン+リツキシマブ併用療法に比べ、進行または死亡のリスクを46%低下させました。また、治療中止率も低い結果となり、ピルトブルチニブ群の方が安全性プロファイルが良好であることが示されました。

新薬の方が安全性に優れています。

前治療歴のない患者において、イデラリシブ+リツキシマブ併用療法で83%の3年PFS率が得られたという報告もありますが、副作用による治療中断や投与中止が問題となっています。重篤な副作用は患者さんの52%で報告され、最も多く報告された重篤な副作用(5%以上)は肺炎(9%)、発熱性好中球減少症(5%)、敗血症(5%)でした。

医療専門家向けの慢性リンパ性白血病治療ガイドラインでは、イデラリシブは一定の有効性を示すものの、副作用リスクを考慮すると第一選択薬とはならず、他の治療選択肢が限られた場合の選択肢として位置づけられています。日本国内では、より安全性の高いBTK阻害薬やBcl-2阻害薬ベネトクラクスが承認されており、これらが優先的に使用されています。

新規治療薬の開発で治療成績の改善が期待される慢性リンパ性白血病 – 日経メディカル

イデラリシブの開発中止に関する詳細な背景と、慢性リンパ性白血病の最新治療動向について解説されています。

イデラリシブの日本未承認と海外入手の実際

イデラリシブは日本国内で承認されていないため、保険診療として使用することはできません。しかし、米国FDAや欧州医薬品庁(EMA)では承認されているため、患者さんや医療機関から「海外で承認されている薬を日本で使えないか」という相談を受けることがあります。

日本で未承認薬を使用する場合、個人輸入による入手が理論上は可能ですが、医療機関での処方は原則として認められていません。個人輸入した未承認薬を使用した場合、その治療にかかるすべての費用(薬剤費だけでなく、診察料、検査料なども含む)が全額自己負担となります。保険診療と自由診療の混合診療は原則として認められていないためです。

全額自己負担になる点が重要です。

国立がん研究センターが公開している「国内で薬機法上未承認・適応外である医薬品・適応のリスト」によると、イデラリシブは「日本承認申請取下げ・開発中止」と記載されており、将来的に日本で承認される可能性は極めて低い状況です。このリストには、米国FDA承認、欧州EMA不承認という状況も記載されています。

医療従事者としては、患者さんから「米国で承認されているイデラリシブを使いたい」という要望があった場合、以下の点を説明する必要があります。日本では副作用の懸念から開発が中止されており、承認されていないこと。未承認薬を使用する場合、全額自己負担となり、医療費が極めて高額になること。副作用が発現した場合の救済制度(医薬品副作用被害救済制度)が適用されないこと。日本国内で承認されている代替療法(BTK阻害薬、Bcl-2阻害薬など)があること。

イデラリシブの推定治療費は、米国での薬価情報をもとにすると、月額約130万円程度とされています。これはあくまで薬剤費のみで、診察料や検査料は含まれていません。全額自己負担となると、年間1,500万円を超える医療費が必要となる可能性があります。

経済的負担が極めて大きいです。

また、SBI損保のがん保険などが提供する「自由診療により広がるがん治療の選択肢」という資料では、米国か欧州で承認され日本未承認の医薬品リストにイデラリシブが掲載されており、自由診療での使用が想定されています。しかし、医療機関が未承認薬による治療を提供する場合でも、安全性と有効性を十分に説明し、インフォームドコンセントを得ることが必須となります。

実際問題として、イデラリシブは副作用リスクが高く、日本国内で承認されているBTK阻害薬(イブルチニブ、アカラブルチニブ、チラブルチニブ)やベネトクラクスの方が安全性プロファイルが良好であるため、医学的にもイデラリシブを選択する理由は乏しいと言えます。医療従事者としては、患者さんに対して現在の標準治療を丁寧に説明し、適切な治療選択を支援することが求められます。

国内で薬機法上未承認・適応外である医薬品について – 国立がん研究センター

日本国内で未承認の医薬品リストと最新情報が公開されており、イデラリシブの開発状況も確認できます。